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『感情の提出はお済みですか?~3つのたからものと王国のひみつ~』第4章:王国の過去と真実(2)

    前回のお話
    https://note.com/easy_dahlia3386/n/nb1762bfe9266

    140号室を出たエマは、チリ一つ落ちていない居住地区の路地を城に向かって走り出していた。

    路地を抜けた先。

    何もない広大な空間がエマを出迎えた。

    先ほど見たヴェリタの記憶で、人々が集まっていた場所。

    驚くほど遮るものがなかった。

    誰一人、出歩いている人はいなかった。

    それは、エマがこの空間では孤独だということを否が応でも認めなければならなかった。


    教会の塔からみた、遠くに見えたお城がいま間近にある。

    城をぐるりと囲む池の水が濁っている。

    見上げると、重い灰色の空と城がエマを覆い隠すようにそびえていた。

    どこか不気味で、物悲しく、何かが起きる前触れのように。

    ちっぽけなエマの気持ちを握りつぶすことなど容易いと言わんばかりだ。

    エマは今すぐ泣きたい気持ちになった。

    本当はものすごく怖かった。

    一人で城の内部に潜入するなんて。

    自分でも信じられない。

    祖父と母が託したバトンを、どうしても成し遂げなければならないという精神力がエマを突き動かしている。

    エマは城の裏手へ回り込んだ。

    茂みに入って地図を見る。

    城の北の壁に作られた鉄格子の扉に「→」とある。
    その場所は水路だった。

    湿った水の匂い。

    エマは暗くひんやりとした水路の中へ片足を踏み入れた。

    水路はひざを覆う高さ。
    水をかき分けながら、底にあるドロで滑りそうなるのを必死で堪えた。

    重い扉をぐーっと押し開け、水門をくぐった。

    水門の先は、地下の貯蔵庫になっていた。

    カビと濡れた石の匂いが混ざった重い空気に、エマは息苦しさを覚えた。

    あたり一面真っ暗。

    エマは魔石を取り出し、魔石の光を地図に当て、次の指示を追った。

    石床のスロープ「→」
    エマは城の内部へと進んでいった。

    矢印と魔石の光が頼り。
    エマははしごを登り、重い木の扉を上部へ押し開けた。

    埃がエマの鼻を刺激した。

    点検用通路「→」
    本当にこの通路で合っているのか疑いそうになるほどの狭い石段だった。
    おまけに長い。

    エマは教会の塔の階段を思い出した。

    石段は古さのせいで、途中崩れた場所もあり、エマは何度も悲鳴を上げそうになった。

    それでも上へ上へと、地図を信じてその通りに上がった。

    水路の水臭さが消え、古い紙の匂いになった。

    この匂いは本が沢山ある証拠だ。

    石段を上がってきた甲斐があったと嬉しさがこみ上げた。

    二重扉「→」
    グルグルとまるで示された「保管庫」となっている。
    ゴールだ。

    (着いた!)

    エマは重い木製の扉を開くと、奥の頑丈な扉を力いっぱいゆっくりスライドさせた。

    壁一面の無数のモニターが、一斉にエマの目の前に飛び込んだ。

    エマはどこにいるのか検討もつかなった。

    町中の監視カメラの映像が映っている。

    工場、広場、列車、居住地区…

    そこはセンサーや異常を検出する情報を管理している、データ管理室だった。

    「コツン…コツン……」

    壁に写る人影がこちらに向かってくる。

    エマは慌てて動いた拍子に、下に撒いてあった砂に足がもつれ、派手に転んでしまった。

    一日中走った足がもうすでに限界。

    エマは後ろの扉を開けようと手を伸ばすが、手元に光があたった。

    「何をしている。」

    エマはぱっと振り向くと同時に、床にあった砂を人影めがけて投げつけた。

    よろめく人影の横を這って通り抜け、エマは部屋の出口を求めてモニターだらけの薄暗い空間を闇雲に這いつくばる。

    がむしゃらな抵抗も虚しく、フードを掴まれてしまった。

    エマは抹消されるかもしれないという恐怖が、思考を麻痺させた。

    「ここで何をしている。」

    聞き覚えのある冷静な声。

    エマの心臓は口まで飛び出そうになっていたが、元の位置に戻っていく。

    恐る恐る振り返ると、膝が布で巻かれている。
    この布はエマのものだ。

    声の主は、列車で会ったデータ管理人だった。

    「ーあなたがなぜここにいるの」
    「ーきみがなぜここにいる」

    二人の声がほぼ同時に重なった。

    先に沈黙を破ったのは、データ管理人だった。

    「そこの扉を知っている人間は限られている。」

    データ管理人の声は、エマを非難しているかのよう。

    「私はやることがあってここに来たの。このまま見逃してちょうだい。」

    エマも負けじと言い放った。

    沈黙が続いた。

    「私の体にエラーが起きている。これと、これだ。君に接触したことが原因だと考えられる。」

    データ管理人は、右手をエマに見せるように挙げ、赤く染まった布を指さした。

    膝の出血が酷かったようだ。なんとも痛々しい。

    「まだ…痛むの?」

    エマの心は緊張感と心配する気持ちでせめぎ合っていた。

    足を引きずっているような足音は、このせいだったのだと腑に落ちた。

    「医療センターに行けば、混乱が起こる。」

    エマはこのデータ管理人の話し方が、生気を帯びているように感じた。

    薄暗がりでわかりにくかったが、全体的に肌が灰色より薄くなっている。

    このデータ管理人は、エマを連行する気はない感じがした。

    エマはリュックから薬草ペーストが入った入れ物を取り出すと、昼間より丁寧に、痛々しい膝の処置をした。

    データ管理人は初めて見るような表情で一連の流れを凝視し、驚くほど素直にエマに従っていた。

    「君のやることとは?」

    「私は、エマ。王様を止めに来たの。」

    薬草ペーストをリュックにしまいながら、エマはきっぱりとした口調で、毅然と言った。

    「止める?」

    データ管理人の左の眉が釣り上がった。

    「王様は自分の命を削って、この国を存続してる。だからそれを止めるの。」

    エマは言葉に出したことで、宣言した自分に勇気が湧いた。

    データ管理人が淡々と事実を述べた。

    「この国は、感情を提出したことにより出生率が0だ。
    よって14歳以下の子どもはいない。計算上あと50年で終わる。
    しかし王が死ねば、50年もたずに滅亡する。」

    エマはびっくりした。

    なぜそれを知っているのかという疑問と、知っているのになぜ何もしないのかという非難と批判。

    エマは軽蔑の目を向けた。

    同時に、知っていても「どうしたいか」という意思や判断がなければ、何もできないのだと気がついた。

    エマは視線を落とし、リュックの紐をぎゅっと閉めた。

    「王のもとに行くなら、この地図が必要じゃないか?」

    ヴェリタから預かった地図が、データ管理人の手にあるではないか。

    エマはポケットを探った。

    ここに入れたはずの地図がない。
    逃げる時に落としたのだ。

    エマは自分の不甲斐なさを感じた。

    「返して!!」

    祖父の大事な命の地図だ。絶対に返してもらわなければならない。

    地図に手を伸ばすものの、データ管理人はひょいとエマが届かないように持ち上げた。

    「出口を教える。このまま見逃す。
    これを持ってる理由を話してくれ。」

    エマはイライラしたが、交換条件なのだと理解した。
    態度が気にいらないが、応じるほうが早い。

    「王様を止めてほしいと、その地図を預かったの。
    私の祖父のものなの。だから返してちょうだい!」

    データ管理人はしばらく黙っていた。
    エマにはその無言が思案しているように見えた。

    違和感があるのは、このデータ管理人が「考えている」ということだ。

    そしてようやく口を開いた。

    「ヴェリタは私の祖父だ。あの扉を知っているのは祖父と私だけだ。」

    二人の目が一瞬合わさった。

    「信じられない」という空気感の共有をエマは感じた。

    従兄がエマの前にいる。
    エマには祖父も従兄もいる。

    胸の奥から湧き上がる高揚感が抑えきれなかった。


    「ピピピッ ピピピッ ピピピッ」

    「君の居場所が知られた。私の異常も検知された。」

    レインは重大なことをさらっと述べた。

    「あなたも追われるってこと?」

    「レインだ。」

    エマにはその言葉の響きが「私を追うなんてことがあってはならない」という風に聞こえた。

    レインはあらゆるコードを引き抜いて、センサーが作動しないように停止させた。

    「一時的に解除出来るだけだ。」

    インプットされてるデータ通りに動く管理人に捕まれば終わり、ということだ。

    その前に一刻も早く王様のもとへたどり着かなければならない。

    「私はこれから君を王のもとへ案内する。」

    レインは凛とした声で宣言した。

    『感情の提出はお済みですか?~3つのたからものと王国のひみつ~』第5章:虹色の光 へ続く
    https://note.com/easy_dahlia3386/n/n9bf8efea20eb


     
     

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    49歳主婦。HSPで他人軸だった私が、個性教育学に出会いイライラ激減!中3不登校、発達グレーの息子と迷いながら笑顔で過ごす日々を綴ります。 個性教育学インストラクター 不登校で悩むママや、生き辛さを感じる方の心が軽くなりますように。

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