
「くさりかたびら、忘れてたよ」(四百字のスケッチ)
くさりかたびらを忘れているじゃないか。
轟課長は部下である元くのいちの九鬼に、毎日過剰な量の仕事を押し付けていた。終電ギリギリまで仕事をする九鬼が帰社するのを確認してから、轟は会社を出るのを日課にしていた。仕事を終わらせて終電ダッシュへ向かう九鬼は、会社の戸締りのことなど考えないからだ。
「あいつは忍者の頭領となれる器なのです」九鬼の親から頼まれていた。
「それなのに、少し体力が落ちたといって早々に引退してしまった」
器であることと、本人がやりたいかは別問題じゃないか、と轟課長は思いつつ「仕事を辞める方向に向けてくれないか」という依頼を断れなかった。轟自身が抜け忍であるという負い目もあった。
くさりかたびらを携えて九鬼を追いかける。終電は発車した後だったが、轟の嗅覚は九鬼のつけている香水の匂いを捕らえていた。線路沿いの道を走ると、まきびしを踏んでしまった。道の先から殺気を感じた。
「くさりキャタピラ、忘れてたよ!」闇に向かって言い間違えた。
こちらの話の続編、というか別視点の話となります。