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Photo bydorobe56

「哲人強盗団はロケットランチャーを発射できないでいる」#5「列車強盗編」

    あらすじ
    ソクラテスとプラトンとゴルギアスの乗る車は自転車に追い付かれる。

    第四話「列車強盗」

     ギターのソフトケースにロケットランチャーが入りきらなかった。電車の中でソクラテスは車掌に問い質されてしまっている。

    「お客様から通報がありましてね。そちらに見えているのはロケットランチャーではありませんか?」

    「ロケットランチャー型のギターです」ソクラテスはごまかそうとした。

    「ちょっと拝見します」

     切符でも確認するような気軽さで、車掌はギターケースのジッパーを開いていく。ロケットランチャーの形をしたロケットランチャーがその姿を徐々に表していく。

    「失礼ですがお客様、私はギターという楽器のことを知っています。ギターには弦があり、フレットがあります。エレキとアコースティックで違いはありますが、これはどちらに属しているようにも見えません。はっきりいえば、ギターにはとても見えません」

     ソクラテスはこの窮地に一人で立ち向かっている。同じ車両に乗り込んでいるプラトンとゴルギアスはぐっすりと眠り込んでいる。プラトンは危なっかしい運転をしなくていいものだから安心しきって。ゴルギアスはようやく腹痛から解放された安心感から。

     強盗に向かう際にいつも乗り込んでいたフォルクスワーゲンはとうとう壊れてしまった。プラトンは次の逃亡車用に中古のフォルクスワーゲンバスを購入したが、大量にロケットランチャーを積み込んだところで動かなくなってしまった。

    「押しがけっていうのがあるらしい」映画で観た知識をプラトンはひけらかした。強盗の後で三人で小型バスを押しがけして逃げる、なんてことはソクラテスは許せなかった。

     だから今回は車移動を諦めて電車に乗り込んだのだ。ギターケースには何を詰めても怪しまれない、という風潮を利用して。しかしロケットランチャーはギターケースには収まらなかったのだ。電車に乗り込む前、改札の時点でもうごまかせていなかった。見知らぬおっさんが「あんたそれ何ね」と言って付いてきた。車掌に通報したのも同じおっさんだろう。

    「しかし砲弾は装填されていません」

     ソクラテスは車掌に反論した。毎度のことだが、ゴルギアスがロケランの砲弾を売り払ってしまって、実際には兵器としては役に立たなくなっていた。

    「砲弾の装填されていないロケットランチャーは、砲弾の装填されているギターよりも安全といえるのではないですか」

    「『砲弾の装填されているギター』とは何ですか」

    「見かけはギターでありながら、ロケットランチャーの砲弾を発射できる性能を持つギターのことです」

    「存在しない物を持ち出して逃げないでください」

    「存在しないという証明はできない」

     ようやく目を覚ましたプラトンとゴルギアスは瞬時に状況を理解した。ゴルギアスは複雑な計算を繰り返して結論付けた。

    「だめだ、どうしても箱の中の猫を救えない」

    「量子力学の問題で悩む前に、早く良識を身に付けてくれ」もちろんソクラテスの言葉はゴルギアスに届いていない。

    「まあとにかく兵器として使えないというなら、どうでもいいです」車掌はやけくそ気味に手を振った。

    「そんなことより」と車掌は一人のおっさんの手を取った。ソクラテスの背負うロケットランチャーを咎めたおっさんだった。

    「あんた、無賃乗車しているな」車掌はおっさんの手を捻り上げる。苦痛で顔を歪めたおっさんが目を見開く。

    「いや、始めから二匹の猫を用意していればいいのでは?」ゴルギアスはまだシュレディンガーの猫と戦っている。

    「ギターケース型のロケットランチャーを買えばよかった」また映画からの知識でプラトンが話し出す。関係ない話をしている間におっさんは車両の床に這いつくばっていた。

     そして窓の外では駅のホームが後方に遠ざかっていく。

    「各駅停車じゃなかったっけ」ソクラテスは気付き、他の乗客も騒ぎ始めた。

    「そりゃ、私が運転を放棄してここにいるからね」

     車掌はこのところ頻発していた列車強盗を捕まえるために、日々筋トレに励んでいたことを話し始めた。こうした機会に取り押さえることを夢見て、今その夢を達成できたことを喜んで語り始めた。おっさんの懐からは本当に拳銃が転がり出てきた。さりげなく無賃乗車して車掌を脅し、乗客から有り金を巻き上げるタイプの列車強盗だった。たまたまソクラテスたちと鉢合わせしたことにより、各駅停車は特急へと変貌してしまった。

    「あなたは今すぐ列車を通常運行に戻して!」ソクラテスはおっさんを取り押さえる役を車掌から引き継ぎ、迅速に事態を収拾させるための段取りに動いた。ゴルギアスも協力して量子力学の新しい法則を発見し、プラトンもギターケース型ロケットランチャーを予約した。

     だが、そこまでだった。

     おっさんは百戦錬磨の達人らしく、ソクラテスの腕から抜け出し、後ろの車両へと逃げていった。ゴルギアスの発見した新しい法則はネットに発表後二分で矛盾を指摘された。ギターケース型ロケットランチャーは在庫切れだった。

     列車が次の駅に着いた途端、車掌は列車から飛び降りて、線路に降りた列車強盗のおっさんを追いかけていった。仕方なくプラトンが次の駅まで運転した。ちょうどそこが目的の駅なのでソクラテスたちは降りた。

    「脱線できなくてつまらなかった」とプラトンは無免許鉄道運転の感想を呟いた。ソクラテスは心身ともに疲れ果てていた。

    「カラオケでも行こうぜ」とゴルギアスが提案した。ソクラテスはそうした。混んでいたので待たされた。部屋に入る前にソクラテスは「ジャンジャージャ」と歌い始めた。

    (続く)

     
     
    ドロベ・ゴロウ。二児の父。脳脊髄液減少症。何かしら書いてます。旧名「名無しさ」「村野」「楢山孝介」「新都社モラトリアム新書」「山下チンイツ」など。「みんなのフォトギャラリー」で画像を使用していただいた記事にスキをつけることがあります。見知らぬ人からのスキだと怖がらないでください。

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