
「プラスチック・プラネット」#3「プラスチック・マイン」
あらすじ
かつて地球と呼ばれていた惑星は、現在プラスチック生命体ばかりが過ごす星となっていた。人類の記憶を移されたプラスチック生命体たちは、再生産を繰り返すうちに人類の記憶も薄れ、新たなるプラスチック生命体としての自我も生まれかけている。そんな過渡期の日常風景を綴る話。
第三話「プラスチック・マイン」
プラスチック爆薬はかつて人類が使用していた爆発物の一種で、プラスチックの名称を冠されてはいるがプラスチック製というわけではない。プラスチックというよりは粘土状であり、伸ばしたり縮めたり、形を変えて設置できる可塑性からプラスチックの名前がつけられたものである。だから現在のプラスチック・プラネットに直接関係のあるものではない。
それでも敢えてテロリストたちはプラスチック・マインと称して自らを爆散させた。爆発の火力を用いて四方八方に猛スピードで爆散することで、同じ生命体としてリサイクルされることを拒んだ。無数に散ったミクロの意識は大気中や水中に漂うプラスチック・プランクトンと混ざり合い、人類の真似事を続ける永遠の徒労から解放される、というわけだった。
プラスチック・マイン・テロリズムなどと言ったところで、発作的な自殺に過ぎないじゃないか、とデズモンドは思う。爆散したくらいで己を消すことなどできるものか。どこぞの見知らぬプランクトンたちと混ざり合い、固まり、以前とは少し違う個性のプラスチック生命体としていつの間にか形成されるだけじゃないか、と。
デズモンドの勤めるプラスチック猫生産工場の従業員の一人が昼休み前に爆散した。数百体のプラスチック猫といくつかの機械が壊れたが、午後の仕事が一時間中断されただけだった。
「あいつ、テロリストだったのかな」
爆散したプラスチック生命体とは、オデイドも何度か話したことがあったという。
「『死』について語っていたのを聞いたことがあるんだ。でも誰だって考えはするだろう。すぐに馬鹿馬鹿しくなるだけで」
「再生経過が少し違うだけで、リサイクルされることに替わりはないのにな」
爆散した誰かの欠片は自分の中にも入っているかもしれない、とデズモンドは思う。誰かしらが誰かの欠片を少しずつ持ち合わせて、否応もなく混じり合ってしまっている。砕かれたりすり潰されたり爆散したりしなくても、数十年経てばあちこち壊れていく。割れて落ちた小さな欠片の一つ一つにも自分は宿っていた。プラスチック・プランクトンに吸収されてしまえば、誰もが誰かであり、誰もが誰かでないともいえる。
「コンベアの前に戻れよ、オデイド」
「俺たちの誰かが爆散したところで、仕事に大した影響なんてない。だから仕事なんてしなくたっていいともいえる。俺がプラスチック猫の不良品を一つや二つ見落としたくらいで、誰かが困るか?」
「お前が見落とした一匹が、ネズミと結託して俺たちを襲うかもしれない」
「大昔のSF映画の観過ぎなんだよお前は」
デズモンドはもうオデイドに「仕事に戻れ」とは言わず、叩き潰してすり潰す。プラスチック猫を一匹呼んで回収させる。どうせすぐにリサイクルされて戻ってくる次のオデイドは、少しプラスチック猫を怖がるようになっているかもしれない。
終業間際にまた一人爆散したが、もうオデイドのように騒ぐ者もいなかったので、後片付けは翌日に回して仕事を終わりにした。翌日少し早めに職場についたデズモンドは、前日の爆散で散らかったままのプラスチック猫たちが、まだ少し動いているのを見た。壊さずに集めて外に捨てると、すぐにネズミたちにかじられて、粉々になっていった。
(続く)