
「プラスチック・パルプ」
※マガジン化してみました(連作はなんでもまとめてみよう運動)
デズモンドは遺跡から掘り起こされた書物に記されていた小説を読んでいた。それは「パルプ」と呼ばれるジャンルのもので、犯罪者とか賭博とか酔っ払いとか探偵とかがたくさん出てくる類のものだった。今はプラスチック・プラネットとなっているこの地球で、かつて繁栄していた人類というものは、常に醜く争い、悪態をつき、犯罪に巻き込まれたり、自ら犯罪を行ったり、酔っぱらっては賭博で金を無駄にしていたらしい。
プラスチック生命体は賭博をしない。賭け事に興奮できる細胞を持っていないからだ。プラスチック生命体はアルコールで酔うこともない。摂取できないからだ。相手を壊すことはよくある。叩き潰してばらばらにして粉々にして、再生することもよくある。リサイクルというやつだ。プラスチック生命体は何度でも蘇り、叩き壊される前より綺麗になり、新機能もついたりする。
休暇明けの同僚がデズモンドの家を訪ねてきた。
「何で本なんて読んでるんだ」と同僚はそこらに転がっているパルプ小説本を手に取り、すぐに投げだした。
「おい、人の本を放り投げるな」同僚にデズモンドは呼びかける。少しパルプ小説からの影響を受けている。
「お前の本だって? プラスチックは本なんて書かないはずだがな」
「俺が拾ってきたから俺の本だ。俺が書いたわけじゃない」
「ここに落ちていた本を俺が拾った、だからさっきは俺の本だった」
「屁理屈を言ってると叩き潰すぞ」
「ついこないだやられたところだからな。休暇はもういい。働きたいんだ。新しく恋人ができてな」
そういうことを言い出す奴は大体その後すぐに死ぬもんだ、とデズモンドはパルプに侵された頭でそう思ったが、口には出さなかった。死ぬことなどないからだ。
「で、何しに来たんだ」
「金のかかる恋人でな、つまり少々貸してくれないかと思って」
手前にやる金なんざびた一文ねえ! とか言ってマシンガンを撃ちたくなったデズモンドだが、「びた一文」てそもそもいくらか分からなかったので言わなかった。
プラスチック貨幣をじゃりじゃりとばら撒いた。
「今落としたそれを拾えば、お前の物だ」
皮肉も通じず、同僚は貨幣をかき集めて、礼を言って帰っていった。
パルプ小説の余白に、デズモンドなりのパルプ小説を書いてみようかと考えた。また遺跡に立ち寄って書ける物を拾ってこなければ。本や手帳を掘り出して積み上げていた、プラスチック生命体の顔を思い浮かべてみる。酒癖の悪い名探偵みたいな風貌をしていた。耽溺するあまり、自らの形を好きな作品の形に寄せていったのだろう。デズモンドは鏡を見てみた。まだまだプラスチックとしての無機物っぷりが際立っていた。本当はあの同僚をもう一度叩き潰すこともできた。しかしそういった話はパルプ小説の中に収めておけばいい。物語の外に出す必要はないじゃないか。そう思って行動には移さないでおいた。
しかし二週間後、いつまでも帰ってこない小銭の代償として、同僚はデズモンドの手により粉々になる。
※もはや全然400文字じゃないこのマガジン、これで百本目でした。