見出し画像

新種発見の現場ってどんな感じなんだろうね、と|||シン小説 no.123

何を言っているのか、よくわからない。

ただ、よくしゃべる。

それに、よく食べる。

トイレも、ちゃんと決まったところでする。

話しかけると、なんとなくこちらの言っていることを理解しているような気もする。

ずっと一緒にいると、向こうの言っていることも、なんとなくわかるような気がしてくる。

こいつが何歳なのかは、わからない。

何年生きるのかも、わからない。

これ以上、成長するのかしないのか。

それすら、さっぱりわからない。

前から『いるいる』とは言われていた。

だが、誰も見つけることはできなかった。

たまに目撃談が出る。

足跡らしきものが見つかる。

写真らしきものも出る。

そのたびに話題になり、やがて消える。

何年かすると、また誰かが見たと言い出す。

そんなことを、もう百年くらい繰り返している。

捕まえたら賞金。

そんな話まであった。

もちろん、俺も知っていた。

だが、まさか本当に見つかるとは思っていなかった。

それは、みんなも同じ。

見つかったのは、一匹だけだった。

発見された周辺は、いまも探索チームが相当入念に探し続けている。

周辺だけでなく、さらに範囲も拡げて。

だが、いまのところまだ他には見つかっていない。

なにしろ、生きた個体が見つかったこと自体、これが初めてってことになる。

そんな、なにもわからないものが、俺のところにやってきた。

俺は、これでも一応、こいつの近縁種であろう生物については、それなりの専門家として扱われている。

だから、ここへ連れてこられた。

もっとも、近縁種であろう、というだけである。

こいつについては、当たり前だが、俺もなにも知らない。

見つかってみれば、世間は大騒ぎ。

幻の生物。

世紀の発見。

一匹だけ?
なら、絶滅危惧種では?

そもそも、あのまま逃がしてやれればよかったのかもしれない。

捕まえた人が、よろこび勇んで、大々的に発表してしまった。

捕まえたというか、クマ用に仕掛けたドラム缶型の罠に、たまたま入っていたらしい。

SNSの段階では「よくできたフェイク動画だろ?」だったが。

メディアも取材して、これはホンマちゃうか、と。

慌てて、うちの研究センターに連れてこられた。

そもそも、これが本物かどうか、どうやって証明したらいいのか。

それをこれから、新種の生物なのか、なにかの亜種なのか、調べていく。

ちなみに、捕獲されたのは夜だった。

そのまま檻に移して、普通に昼間に運んだらしいので、陽の光は大丈夫らしい、たぶん。

そうやって、ひとつずつ解明していくしかない。

まずは、この状態で元気なのかどうか。

なにを食べるのか。

近縁種が食べるものを何種類か置いてみた。

だいたい食べた。

というか、かなり食べる。

そういや、よく食べる感のある形状はしてる。

排泄もする。
しかも決まった場所でする。

何を言ってるのかよくわからんが、よくしゃべる……この場合、鳴く、なのか。

なぜ、しゃべる、と言うかというと、なんとなく言語っぽいのだ。

今のところ、元気そうに見える。

それだけでも、だいぶ安心した。

本当なら、体の中も調べたい。

CTとか、レントゲンとか。

血液検査も。

できるなら、もっといろいろ。

だが、磁気に耐性があるのかもわからない。

放射線がどんな影響を与えるのかもわからない。

麻酔だって、効くのかどうか。

生きている以上、解剖するわけにもいかない。

だから、しばらくは食わせて、寝かせて、様子をみる。

いまのところ、まだ別の個体を探す探索チームが動いている。

つがいが見つかればいいが……って、そんな簡単でもない。

こいつが雄なのか雌なのかすら、まだわからない。

つがいで、繁殖するのかもわからない。

仮につがいが見つかったとして、それが、つがいなのかどうか。

うまく進んで、子が生まれたとして、その次はどうする。

兄弟姉妹で繁殖させるのか。

親子で増やすのか。

それでちゃんと劣化せず、種として存続できるのか。

そもそも、こいつらが二匹で繁殖する生き物なのか。

結論からいうと、いまのところ、なにもわかっていない。

「悪かったな」

餌を置きながら、たまに言う。

「俺らのせいで、おまえら、こんなことになったのかもしれんな」

話しかけると、また言語っぽいなにかで返してくる。

相変わらず、よくわからない。

これも、録音して言語学者にでも調べてもらうか。

「俺は独り身なんだが、まあ、おかげさまで俺らの種は、たくさんいるんでな」

こっちを見ている。

「俺は独りでも、誰も構やしない」

意味が通じたのかどうかは、わからない。

ただ、なんとなく、こっちが言ってることをわかっているような気もする。

「しかし、なんで出てきたんだ、お前は」

そのうち、なぜいままで見つからなかったのか、その理由もわかるのだろうか。

そうそう、世間では、こいつのことを『ツチノコ』と呼んでいる。



続きみたいなもの👇️



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集