
【温泉ファンタジー】Sa・Ga3 温泉の覇者 第29話 雪女は見た
スパ子
「いつも3分待たなきゃダメなんでしょ?」
スパロウは、氷の秘湯に足首まで浸かったまま、ゆっくりとスパ子を見た。
スパロウ
「……冗談だよな?」
スパ子
「冗談に見える?」
スパロウは一度だけ水面を見た。
青白い水が、静かに揺れている。
スパロウ
「足首で十分だろ。」
スパ子
「足湯じゃないのよ。」
スパロウ
「撤退する。」
スパ子
「その前に、防寒服を脱ぎなさい。」
スパロウ
「撤退するって言ったよな?」
スパ子
「濡らしたら本当に死ぬでしょ。」
スパロウ
「急に正しいこと言うな。」
数分後。
スパロウは防寒服を脱ぎ、腰にタオルだけ巻いた状態で、氷の秘湯の縁に立たされていた。
白い息が震えている。
スパロウ
「なあ。」
スパ子
「何?」
スパロウ
「俺は今、南極でほぼ裸なんだが。」
スパ子
「だから早く入りなさい。」
スパロウ
「正気か?」
スパ子
「パー美。」
パー美
「はいは〜い。」
スパロウ
「待て。」
待たなかった。
パー美が指を軽く曲げる。
スパロウの身体が、ぴたりと止まった。
スパロウ
「おい。」
パー美
「動くと危ないよ〜。」
スパロウ
「今から危ないことするんだろ!」
スパ子はニコニコしながら、スパロウに右手を突き出した。
親指を、ぐっと立てる。
次の瞬間。
その親指を、くいっと下へ向けた。

パー美
「はーい、それじゃいっくよ〜!」
スパロウ
「待て待て待て。」
どっぽーん。
パー美の念動力が、容赦なくスパロウを落とした。
スパロウ
「っっっっっ!!」
声にならない声が、白い息になって漏れた。
メカ
「肩部マデノ入水ヲ確認。3分計測ヲ開始シマス。」
スパロウ
「今からか!?」
スパ子
「いつもそうでしょ。」
スパロウは何か言おうとした。
だが、言葉より先に歯が鳴った。
かち。
かち。
かち。
スパ子は腕を組んだまま、動かなかった。
スパ子
「いつもは私たちだけど、今回はあんたが耐えるのよ?」
スパ子の冷たい視線が刺さる。
それきり、スパロウは黙った。
青白い水面が、肩の周りで細かく震えている。白い息だけが、何度も何度も漏れた。
メカ
「1分経過。太郎ノ体温急低下。コレ以上ハ危険デス。」
スパ子
「パー美!」
パー美
「わっとっと!」
ざばぁっ!
スパロウの身体が、氷の秘湯から引き上げられた。
青白い水滴が飛び散る。
岩場へ戻されたスパロウは、冷凍食品の一歩手前だった。
スパ子はすぐに毛布を取り、スパロウへ乱暴にかぶせる。
スパロウ
「……雑だな。」
スパ子
「文句言えるなら大丈夫ね。」
スパロウ
「大丈夫じゃ……ねぇ……。」
パー美
「太郎くん、カチカチになるとこだったね〜。」
スパロウ
「笑うな……。」
メカ
「初回耐寒試験、失敗。」
スパロウ
「試験だったのかよ……。」
スパロウは毛布の中で震えたまま、氷の秘湯を見た。
青白い水面は、何事もなかったように静かだった。
大会まで、あと二日。
・・・・・・
少し離れた寒冷地作業ユニットの陰で、白い影が震えていた。
がくがく。
ぶるぶる。
お雪さんだった。
顔は青ざめ、もこもこの袖口を両手で握りしめている。
雪
「はわわわ……。」
いつもの寒さではない。
恐怖からくる震えだった。
白い大陸の片隅で、雪女は見た。
