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箴言INDEX115 裏長屋の呑んだくれ大工

    大阪によく路地というのがある。つまり裏長屋というやつだ。
    横丁の狭い所を入ってゆくと、両方に九尺二間の裏店がずっと並んでいて、大体最後は袋小路になっているものだが、そういう裏長屋の行き止まりの 所に貧乏大工の呑んだくれがしけこんでいた。

    これは非常に腕がいいんだけれども、なにさま酒癖が悪い無精者で、朝から酒ばかり飲んで働かない。そのためにだんだん人に見放されて、情けない路地奥の九尺二間にくすぶっていた。

    それをもったいないというので、家主がある日、長屋を訪れたら、その大工は、酔っぱらっていて「何しに来た。家賃の催促か」と、もう目に角を立てている。
    「いや今日は催促に来たんじゃないんだ」「じゃあ、何しに来たんだ」
    「まあそういうな。いい相談があって来たんだ。お前は元来非常にいい腕を持っておる」「余計なことをいうな」と一々からむ。

    「わしがこれからお前に毎日一本ずつつけてやる。お前の飲むに事欠かんようにしてやる。家賃もまけてやる。その代わりおれのいうことを聞かんか」「それは何だ」
    「お前も一日そう只酒を食らっておっても面白くなかろう。夕方になったら気持ちよく飲ましてやるから、 朝起きたら道具をかついで、この長屋中を一軒一軒訪ねて歩いて、どこか板が外れておらんか、台所の流しが壊れておらんか、戸ががたがたしておらんか、屋根が傷んでおらんか、床が抜けておらんかと聞いて歩いて、悪い所を修繕してくれ。もちろん料金をもらっちゃ いかん。その代わりにわしが家賃をまけて、夕方になったら一本飲めるだけの手当をやる」

    「そんなことは何でもない」「そんならやれ」というので、ヤッコさんさっそくやり出した。
    するとたちまち長屋中のおかみやらおやじやらが、「野郎えらい感心だ。おれの所へ来て台所を直してくれた。床を直してくれた」という。
    しかも礼を取らないものだから皆気の毒になって、昼になったらなにかお菜を持ってきてくれる。お八つになるとなにか出してくれる。晩になるとやはりお菜を持ってきたり、一本持ってきたりする。

    ヤッコさん、 家主からもらうばかりじゃなしに飲みきれないくらい酒が集まったり、食物も豊かになった。家主のくれる手当が残るようになった。

    そうするといつの間にかそれが隣の路地にも 聞こえ、向こうの横丁にも聞こえて、そんな腕のいい、気心のいい大工さんがおるなら、こちらにも来てもらえんか、こっちにも来てもらえんかと引っぱりだこになって、そうすると張り合いがあるものだから、あんまり酒も飲まないようになった。

    あっちこっちで人気がいいものだからすっかり気持ちをよくして精出した。一人では足らんようになっ て、弟子が二人も三人もできるようになって、

    そのうちに堂々たる大工の棟梁になったという話を聞いて、私(安岡先生)は非常に面白いと思った。

    安岡正篤先生著 知命と立命 81頁

    箴言INDEX112「命」は運命であって宿命でない…の三つ目の逸話。

    例えとしては不適切かもしれないが…

    その昔、法科出の秀逸な女性を部下に頂いたことが有った。
    聞けば、色々の部署や拠点を転々と…巡り巡って私の所へだったそうな。

    愛想は無いが頭脳明晰。
    時丁度、ソフトウェアライセンスビジネスなるものが始まりかけた頃。
    たった1枚の紙切れ(使用許諾書)が億の売り上げになったり。驚

    但し、まさに法律ドキュメントそのものが商品故にフツーのオツムではなかなか扱いが難しい。正直、私(三流法科卒)も難しくて…よくわからなかった。笑

    で、日本有数の法科出の彼女にその事業推進を任せてみた。
    黙々こつこつ真面目に取り組んでくれて…結果、大当たり!全国に多くの”ライセンス製品を販売できる営業”を育成してくれた。
    所属事業部も会社も大きな売上と利益を得た。
    難しい仕組みの新しい商品故、理解してる競合会社も少なかったため、
    超大手企業との取引開拓にもつながった。

    更に、供給元の世界有数のソフトウェア会社から彼女の作成したソフトウェアライセンスビジネスを展開するための販売促進資料が高い評価を得て、
    解説小冊子や解説漫画にされ、その筋では一目置かれる存在となった。

    これまさに宿命が運命へ…といったところか。

    それまでの上司が活かし方を見つけられなかった故の部署拠点異動の日々。そりゃそうだ。私を含め箱売りセールス視点(脳みそ筋肉)の上司ばかりだったのだからこれ致し方なし。

    その後、噂で聞いた話だが同業ライバル会社各社も同じ波に乗らんと、こぞって”女性ソフトウェアライセンス販売チーム”を作っただとさ。笑

    彼女も得るものは大きかったのだろう、私が退職する際には熱く厚く感謝の言葉を頂いた。

    さて私はと言えば、ず~っと後の事だが、当時の貢献がベースとなりインターネット経由でソフトウェアライセンスを販売する会社のAdviser名刺を持たせて頂くことになったり。

    これぞまさに安岡先生の教えである縁尋機妙多逢聖因そのもの。
    楽しいもんだ、人生は。そういうもんさ、人生は。

     
     
    年が明ければ数えで古希。冨士と星と野鳥と猫を愛で、欅並木を通り過ぎる季節の風と彩と共に、往聖のために絶学を継ぐ。一灯照隅萬灯照國の心で、ハイタッチコンタクト、パートナー開拓・シナジー創出の縁尋機妙多逢聖因に役立てれば幸いかと。