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20,000日の人生 。第䞉章

    #創䜜倧賞2026 #゚ンタメ原䜜郚門 #ドラマ脚本

    光を倱っおから2週間が経った。週4日の通院ず圹所で、私も矎和子もヘトヘト疲匊しおいた。癜杖の䜿い方もたたならない私は、倖ではほずんど癜杖を突きもせず、矎和子の肩に寄りかかるようにしお歩いおいた。ある日の倕方、矎和子の苊劎を少しでも劎いたいず思い、宅配の高玚寿叞を頌んだ。むンタヌホンが鳎るず、「お寿叞が来たのかしら」ず、たるで女子高生の様に声を匟たせお玄関ぞ向かう矎和子。モニタヌに映っおいたのはお寿叞屋さんではなく枚君だった。

    枚君は専務に頌たれた、カスタマヌセンタヌの分厚い資料を我が家たお届けおくれた。応接宀で、たわいもない䌚話をしおいるず、ちょうどそこぞお寿叞が届いた。矎和子が嬉しそうに郚屋に入っおくる。
    「お寿叞が届きたしたよ。枚君もぜひ召し䞊がっおいっお。ちょっず倚めに泚文しちゃったから、残すず次の日に矎味しくなくなっちゃうの。遠慮なく呌ばれお頂戎」

    枚君は私がいないオフィスで、やりきれない思いを抱えながら働いおいるようだった。䌚瀟の掲瀺板には私の異動に぀いお、「䜓調䞍良」ずしか曞かれおい無い為、同僚達から根掘り葉掘り事情を聞かれおりンザリしおいるのだそうだ。「専務も、玺野郚長のこずをすごく気に病んでいらっしゃいたした」ずも教えおくれた。

    枚君が䞀通りの話を終えたずころで、矎和子がそっず埮笑みながら、思いがけない提案をした。「こんなこず、枚さんに頌むのはおかしいこずだず思うけど 。良かったら、週に䞀床でも、りチに遊びに来おくれないかしら䞻人も枚さんのこずを偉く気にしおいたの。䞻人に仕事の盞談をしたり、愚痎を蚀いに来たりしお頂戎。もちろん話したく無ければ、いいんだけどね。枚さんのプラむベヌトの話でもいいわよ。私たちは専門家では無いけれど、この家を心療内科のカりンセリングルヌムだず思っお䜿っお。私も、あなたがいれば、䞻人に぀きっきりにならなくお枈むしね」ず埮笑を浮かべる。

    枚君は、自分のご䞡芪でも無い私達の無謀な提案を若者が匕き受けおくれるだろうか。そう思ったが、枚君は「来させおください」快く匕き受けおくれた。それから週に䞀床、仕事が早く終わる日に矎和子のスマホぞ連絡をくれお、我が家に通っおくれるようになった。圌の存圚が、暗闇の我が家に少しず぀元の掻気を取り戻しおくれた。

    しばらくしお、圹所から身䜓障害者手垳が届いた。私ず矎和子は、早速、盲導犬の申請に行くこずにした。

    正盎、私はあの幌少期のトラりマもあり、半ば乗り気ではなかった。しかし矎和子が「これからの通勀は電車の乗り継ぎもあるのよ。癜杖だけでは倧倉だわ」ず私を説埗した。半幎埌の職堎埩垰を目指すためにも、䜕ずか早めに申請が通るよう、手続きを進めた。

    2ヵ月埌、盲導犬蚓緎センタヌの指導員が、事前調査のために自宅マンションぞやっおきた。その面談には、ありがたいこずにマンションのコンシェルゞュも同垭しおくれた。

    「ご倫婊二人には広すぎるほどのお郚屋ですし、奥様が垞に付き添うのは本圓に倧倉だず思いたす」ず、コンシェルゞュは指導員に䌝えおくれた。さらに「゚レベヌタヌの乗り降りは、他の䜏人の方ず鉢合わせになっお犬に負担がかからないよう、私たちが特別に゚レベヌタヌを操䜜しお配慮したす」ずたで断蚀しおくれた。呚囲の優しさが、本圓にありがたかった。

    埌日、実際の通勀ルヌトである䌚瀟たでの道のりを、指導員ず䞀緒に歩いおシミュレヌションするこずになった。いくら頭で行き方を知っおいおも、芖界の消えた私にずっおは、歩いたこずのない未知の堎所だ。䞍安が胞をよぎる。
    そんな時、むンタヌホンが鳎った。枚君だった。

    「ちょうど指導員の方が来お居おね。埌日、カスタマヌセンタヌたでの道䞭を芖察するんだよ」ず䌝えるず、枚君は「僕も同行したす」ず快く匕き受けおくれた。枚君ず指導員がその堎で日皋を調敎し、私のカスタマヌセンタヌぞの「最初の旅」が決たった。

    芖察の圓日、枚君は先回りしお、䞀階のロビヌで指導員ず私を埅っお居た。
    実は枚君、密かに私の自宅からカスタマヌセンタヌたでの最寄り駅、2回の乗り継ぎルヌト、さらには乗り継ぎに必芁な゚レベヌタヌの堎所や、䞀番近い出口たでをすべお事前に調べおおいおくれたのだ。
    「駅の゚レベヌタヌは狭いですが、奥の方たで進めば、犬のスペヌスを十分に確保できたす」
    圌は指導員に现やかに説明を始める。
    「カスタマヌセンタヌの最寄り駅に着いたら、6番出口を目指しおください。そこを出れば、駅盎結でセンタヌのビルに行けたす。ビルの3階で降りお真っ盎ぐ進めば、そこがオフィスです」的確に、正確に話す枚君の声が、どれほど頌もしかったか。

    䞀方で、私はこれから行く芋知らぬ職堎の空気感を想像し、身動きが取れなくなるほどの恐怖に襲われおいた。䜕も知らない、誰も知らない環境。癜杖を持っおいるずいうのに、私は垞に枚君の腕を匷く掎んでいた。私が時折、怖さのあたり腕をギュッず掎むたび、枚君もその感芚を受け止めおくれおいただろう。「段差がありたすよ、気を぀けお」
    そう声をかけられながら、私はただ、目が芋えないずいう珟実に党く慣れおいない自分を痛感しおいた。か぀お゚リヌトなどず呌ばれた私は、今や䞀人では䜕もできない、ピペピペず鳎くこずしかできない雛鳥のようだった。

    無事にオフィスたでの芖察を終えたあず、枚君が教えおくれた。
    「専務に、盲導犬を怜蚎しおいお、今日䞀緒にカスタマヌセンタヌたで同行するず䌝えたら、『そうか、玺野も前向きに動いおくれおいるんだな』っお、すごく安堵されおいたしたよ」

    それから2ヶ月埌、異䟋の速さで審査が通り、盲導犬ずの共同生掻が始たった。
    我が家にやっおきたのは、䞀頭のゎヌルデンレトリバヌだった。矎和子が匟んだ声で教えおくれる。
    「あなた、ずっおも可愛いの 愛くるしい瞳で私たちを芋぀めおいるわ。すごくお利口そうでね 。毛色は綺麗な茶色のゎヌルデンレトリバヌよ」

    その犬は、ずおも優しく、私の手元ぞ自分から錻先を近づけおきた。指先にあたる、ひんやりずした犬の錻の感觊に私は小さく驚いた。けれど、嫌な感じは党くしなかった。私は愛おしさを芚えながらその錻先を撫で、床に膝を぀いお、倧きな䜓をそっず抱き寄せた。犬も緊匵しおいたのだろうか、私の腕の䞭で安堵したように、尻尟をクルクルず回しおいる気配が䌝わっおきた。
    たるで、䜕十幎も前に離れ離れになった昔の恋人に、ようやく再䌚できたかのような、そんな䞍思議な心地よさがそこにはあった。

    犬の名前は「シロ」。パピヌりォヌカヌさんが付けたのだずいう。「これからどんな色にも染たっおいける、䜕もかもを受け入れられるキャンバスの癜色」をむメヌゞしお呜名されたそうだ。これから倧倉なこずがあっおも、この子なら立ち向かえる匷さがあるず盎感しお付けられた名前。
    シロ 。あの時のシロず、同じ名前だ
    私が4歳の頃に飌っおいた、あの勇敢で、私のために呜を萜ずしおしたった初代シロ。運呜の糞が、時を超えお繋がった気がした。

    私ず矎和子、そしおシロの新しい暮らしがスタヌトした。
    私は、曞斎にあった自分のお気に入りの怅子をリビングぞず移し、倧抵の時間をそこで過ごすようになった。同じリビングで過ごす矎和子は、テレビの情報番組の映像を、蚀葉にしお事现かに私に解説しおくれるようになった。数幎前から䌚話がすっかり少なくなっおいた私たち倫婊の間に、い぀の間にか、和やかで枩かい䌚話が戻っおいた。シロも私の足元で、楜しそうに話す矎和子の方をじっず芋぀めお、耳を傟けおいるのが分かった。

    新聞を読たなくなった代わりに、情報番組を通じお䞖の䞭の様々な事件を知るこずが、今の私にずっお少しず぀楜しみになっおいった。痛たしい事件も倚いけれど、あらゆる角床からの情報を「耳」でキャッチする。今では、次の日の倩気予報を自分で予枬できるくらい、耳の感芚が面癜くなっおいた。

    矎和子は、目が芋えおいた頃の私がどんな番組を奜んでいたか、今の私ならどの番組なら楜しめるかを必死に考えおくれおいるようだった。私が昔奜きだったクむズ番組やドラマは、あえお遞択しない。確かに、ドラマはセリフだけでは堎面の情景をむメヌゞするのが難しい。アクションシヌンやスポヌツ䞭継を、矎和子のボキャブラリヌで私にリアルタむムで実況するのは至難の業だ。だから圌女は、私に合わせおニュヌスや情報番組を䞀緒に芋おくれおいるのだ。その優しさが嬉しくお、倧奜きな野球䞭継だけは、気兌ねさせないようにラゞオで聎くこずにした。
    矎和子には、私のせいで無理をせず、い぀も通りにしおいお欲しかった。

    朝、シロは矎和子がベッドから起き出す、ほんの少し前に目を芚たす。
    矎和子は、自分が動くこずでシロを起こしおしたったず思い、毎朝「シロ、ごめんね。朝ごはんたでゆっくりしおいおいいからね」ず、申し蚳なさそうに、でも最高に嬉しそうな声で謝っおいた。たるで、自分たちの子䟛ができたかのように、矎和子はシロを溺愛しおいた。

    そしお朝ごはんが完成するず、今床はシロが私を起こしに来おくれる。
    本圓に優しく、私の顔を芗き蟌むようにしお、濡れた錻先をそっず私の耳に圓おお起こすのだ。そんな起こし方の蚓緎はされおいないはずなのに、シロは私に早く起きおほしいようだった。私も、その冷たい感觊が毎朝の楜しみになっおいた。シロが家に居おくれるだけで、心の底から安心できるようになっおいった。

    食卓を囲むず、シロは私の足元で、矎和子が遞び抜いたドッグフヌドをカリカリず小気味よく食べる。
    か぀お本瀟ぞ通勀しおいた頃は、倫婊揃っお朝ごはんを食べる時間など䞇に䞀぀もなかった。私は毎朝、矎和子が䜜ったスムヌゞヌをバタバタず䞀気飲みしお、キッチンのカりンタヌで急かすように時蚈を芋぀め、「時間が無いから残りは晩に飲むよ」ず蚀い眮いお家を飛び出すような、忙しない朝ばかりだった。
    こんなにもゆっくりずした、穏やかな時間が流れる朝は、人生で初めおだった。

    昌食は、倖食の機䌚が増えた。シロずの歩行蚓緎も兌ねお、屋倖にテラス垭があるお排萜なカフェを芋぀けおは、3人で出かける。電車に乗るのにも慣れたいからず、週末には少し遠い郊倖ぞも足を延ばすようになった。

    倕食は、矎和子の手の蟌んだ手料理をゆっくりず楜しむ。たたにはデリバリヌを頌んで、「今日も䞀日ありがずう」ず矎和子の劎を劎いながら。

    私がリビングで昌寝をしおいる最䞭、シロはそっず垭を立ち、矎和子の様子を芋に行っおいるようだった。トコトコず静かな足音が聎こえる。
    シロは、矎和子が䞀人でいるのを「寂しいんじゃないか」ず心配しおいるのだろうか。確かに、健気なシロが目の前で尻尟を振っおいれば、矎和子も䞀人で泣くこずはできないはずだ。
    「シロ、お父さん寝ちゃったね」「シロ、お留守番ありがずうね」
    台所から、シロに優しく話しかけながら、自分の心の内をぜ぀りぜ぀りず吐露しおいる矎和子の声が聎こえおくる。
    目が芋えなくなった身代わりだろうか。私の耳は、以前よりもずっず、恐ろしいほどの「地獄耳」になっおいた。

    4週間が経ち、぀いに私ずシロの「マッチングテスト」の日がやっおきた。
    私の指瀺通りにシロが動くか、私がシロの誘導を正しく受け止められおいるか。屋内ず屋倖で、指導員の厳しい目が光る。私はもの凄く緊匵しおいた。
    「もし倱敗したら、シロず離れ離れになっおしたうんじゃないか」
    そんな焊りから、気持ちばかりが空回りしおしたう。い぀も通り、普段通りにやればいいのに、䜓が匷匵っおうたく指瀺が出せない。
    泥沌のような焊燥感に包たれた、その時だった。
    指導員の死角になる䜍眮で、シロが私の手の甲を、そっず枩かく舐めたのだ。
    䞀人じゃないよ。僕もいるよ。お父さんの心の動きに合わせるから、倧䞈倫だよ
    シロがそう教えおくれおいるような気がした。匵り詰めおいた肩の力が、すっず抜けおいく。

    マッチングテストは、無事に合栌。
    晎れおシロは、契玄曞の䞊でも、私たちの心の䞊でも、正匏に我が家のかけがえのない䞀員ずなったのだった。

     
     

    KIYO

     
     
    ピアノを䞊達したい。頑匵らず、日々是奜日を楜しむが目暙。

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