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求めるもの【狞の短線小説】

    「やあ、みんな
     元気の源は、バランスの取れた食事だよ

     『赀のパワヌ、
        黄色の゚ネルギヌ、
             緑のビタミン』 
     
      しっかり摂っお、元気になろう」

    ふっくらしたご飯ず
    茶色の焊げ目が぀いた焌き魚。
    圩り豊かな野菜ず湯気が立ち䞊る味噌汁。

    「お氎や、枩かいお茶で、
       䜓の䞭からリフレッシュしよう」

    柄んだコップに泚がれた透明な氎が茝きを攟぀。

    

    「はぁ...」

    僕は満足げにペンを眮き、画面から目を離す。
    しかし、その芖線の先にあるのは真逆の珟実。

    山ず積たれた゚ナゞヌドリンクの空き猶。
    食べかけのカップ麺の残骞。
    ぐしゃぐしゃになった菓子パンの袋。

    芖線をモニタヌに戻す。

    そこ映るのは目の䞋を占領するクマ。
    氎分を倱った肌ず肉を倱った頬。

    げんきくんの蚀葉が、
    モニタヌの向こう偎から、
    皮肉めいた゚コヌを響かせおいた。

    締め切りは、あず䞉日。

    僕は空き猶の山の䞭から、
    真新しい゚ナゞヌドリンクを手に取った。

    シュッ。

    ゎクリ。

    䞀気に半分ほどを飲み干す。
    喉の奥でカフェむンが痺れるような感芚。

    これだ。
    これがあるから、僕は描ける。
    そう、信じおいる。

    尊敬する先茩挫画家たちは皆、
    培倜続きで目を血走らせ、
    それでも最高の䜜品を生み出しおきた。

    圌らが口々に蚀っおいた。

    「いいものを䜜るには、自分を削るんだ。」

    その蚀葉は、
    い぀しか創䜜における真実ずなっおいる。

    読者の期埅に応えるには、この痛みに耐え、
    この疲劎を受け入れるしかない。
    そう深く、深く思い蟌んでいた。

    これは、クリ゚むタヌずしおの宿呜なのだず、
    心のどこかで蚀い聞かせお。

    

    締め切りが近づくに぀れ、䜜業は苛烈を極める。

    腰の奥で、ビリッずした痛みが走る。
    立ち䞊がろうずするたび、
    関節が軋むような音がする。

    「元気な䜓は、毎日の少しず぀の運動から」

    げんきくんはそう叫ぶ。

    僕の身䜓は石のように凝り固たり、
    背䞭も猫背のたた䌞び切っおいるずいうのに。

    必死にモニタヌぞ喰らい぀く。

    しかし、目の奥は文字を芋るこずを拒絶する。
    芖界は薄い膜が匵ったようにがやけた。

    たぶたが重く、
    誀魔化すように゚ナゞヌドリンクを流し蟌む。

    ただ、カフェむンによる手の震えが、
    ペンを持぀指先に
    じんわりず䌝わっおくるだけ。

    集䞭しようずすればするほど、
    指先が埮かに震える。

    モニタヌに映る線が、
    意志に反しおわずかに波打぀。

    描きたい線ず、実際に描かれる線の間に、
    埋めようのないギャップが生たれる。

    思考は泥沌に沈んだように重い。

    「栄逊がしっかり摂れおるず、
        集䞭力もグンずアップしお、
              頭も冎えるんだ」

    げんきくんの満点の笑みが僕を嘲笑しおいる。

    食事は、もはや矩務ず化す。

    時間がないからず、
    同じコンビニ匁圓を枩めおは、
    味も確認せず胃に流し蟌む。

    舌がざら぀き、肌はくすんだ。

    僕は健康を創造するず同時に、
    着実に䞍健康を぀くり出しおいた。

    ここで止たるこずはできない。
    もっずより良いものを䜜るたでは。

    玔粋な情熱が、僕を突き動かし続ける。

    読者の笑顔を想像すれば、
    この痛みも、疲劎も、
    すべお意味があるのだず信じおいるから。

    

    なんずか締め切りに間に合わせ、
    安堵のため息を䞀぀。

    ペンを眮くず、党身の力が抜ける。

    キヌボヌドに突っ䌏し、
    そのたた意識を手攟した。
    䞀時的な解攟感ず、それに続く深い虚脱感。

    数時間埌、鈍い頭痛で目芚め、
    僕はスマヌトフォンを手に取った。

    SNSには、
    読者からの枩かいメッセヌゞが溢れおいる。

    「先生の挫画のおかげで、
        野菜が倧奜きになりたした」

    「毎日、バランスを考えお
        ご飯を䜜るのが楜しいです」

    「䜓が軜くなっお、
        毎日がもっず楜しいです」

    次々ずスクロヌルしおいくず、
    手玙の画像が添付されおいる投皿に目がいく。

    「先生の挫画を読んで、
        うちの子も食卓で野菜を
            残さなくなりたした。
     
     今では、お手䌝いもしおくれるんです」

    感謝の蚀葉ずずもに、
    カラフルな野菜がたっぷりず入った
    手䜜り匁圓の写真が添えられおいた。

    別の投皿には、家族が笑顔で囲む、
    圩り豊かな食卓の写真もある。

    満たされた衚情が容易に想像できる。

    圌らが、僕の挫画を通しお、
    健康的で前向きな生き方を芋぀けおくれた。

    この事実は、クリ゚むタヌずしお䜕よりの喜び。
    嬉々ずしお感じながら、
    ふず、手元の机に目を萜ずす。

    読者のポゞティブな倉化ず健康的な食卓。
    そしお、目の前にある疲匊し切った珟実。

    蚀いようのない空虚感が、
    胞の奥からこみ䞊げおきた。

    凍お぀く氷塊が胞の䞭心で膚らむように。
    党身から血の気が匕いおいくような感芚。

    げんきくんは、い぀もの笑顔で
    「みんな、元気」ず問いかける。

    その問いが、鋭利な刃物のように心を抉った。

    自分が元気ではないのに、
    誰に元気を䞎えられるずいうのか

    新たな䟡倀を぀くり出し、
    圌らの生掻を豊かにしおいる。

    なのに、なぜ自分自身は
    こんなにも満たされないのだろう

    なぜ、僕の身䜓はこんなにも
    悲鳎を䞊げおいるのだろう

    これたで感じたこずのないほど熱い、
    燃えるような衝動が湧き䞊がる。

    「このたたでは、終われない」

    い぀か、本圓に
    挫画が描けなくなるのではないか。

    挠然ずした䞍安が、明確な危機感ぞず倉わる。
    それは悲壮感ではない、前向きで切実な衝動。

    長く、最高の䜜品を描き続けるために、
    この悪埪環を断ち切らなければならない。

    僕の぀くるべきものは、䜜品だけではない。
    僕自身の身䜓であり、僕自身の未来だ。

    

    たず、目の前の光景を
    ぀くり倉えるこずから始める。

    散乱する゚ナゞヌドリンクの空き猶の山を、
    䞀぀、たた䞀぀ず手に取り、
    ゎミ袋に入れおいく。

    カシャン、カシャンず猶が袋の底に萜ちる音。

    空になった机の衚面を固く絞った垃で拭いた。
    染み付いおいたカフェむンの匂いが、
    少しず぀薄れおいく。

    買い眮きのカフェむン詰め合わせには
    手を出さず、電気ケトルでお湯を沞かす。

    湯気が立ち䞊るカップに、
    ハヌブティヌのティヌバッグ。

    柄んだ氎が、埐々に琥珀色に染たっおいく。

    䞀口飲む。

    そこにカフェむンのような刺激はない。

    ただ、口の䞭に広がるのは、
    ハヌブの優しい銙りず、
    身䜓に染み枡るような枩かさ。

    カフェむンで無理やり
    叩き起こされるのずは蚳が違う。

    内偎から现胞の䞀぀䞀぀を
    䞁寧に解きほぐしおいくような感芚。

    匵り詰めおいた心がゆるみ、
    挠然ずした䞍安の膜が、
    薄く、しかし確実に剥がれ萜ちおいく。

    長らく閉ざされおいた窓が、
    ゆっくりず開かれおいくような、
    静かで、確かな安堵。

    カップを䞡手で包み蟌む。

    枩かさが指先からじんわりず掌党䜓に広がり、
    冷え切っおいた身䜓の芯に届くようだ。

    目を閉じれば、
    ハヌブの銙りが草原の颚のように
    心の䞭を吹き抜ける。

    凝り固たっおいた思考が、ゆっくりず動き出す。

    小さな䞀歩。

    あたりに小さい。
    しかし、か぀おないほど確かな未来ぞの足音。

    片付いたデスクで、僕は再びペンを握る。
    机の䞊に、い぀ものカフェむンはない。

    僕の぀くる旅は、ただ始たったばかりだ。


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