
リハビリはゲーム感覚で!28:俺には体幹がない《第四部B開始 脳梗塞(脳卒中)の前向き闘病記》
夫婦関係は、静かに壊れかけていた。
原因は、病気じゃない。
自分だけが大変だと思い込んでいた俺だ。
そして、支えてもらうばかりで、
支えることを忘れてしまっていた俺だ。
その不均衡は、
ゆっくりと二人の距離を離していく。
これは、回復の過程と同じくらいリアルな、
夫婦の物語です。
揺れ動いていく心の動きにご注目!
脳梗塞の前向き闘病記
第四部 Side B 涙の塩味
STEP1.俺は基本動作ができない
2025年3月19日(発症24日。転院 初日)
回復期リハビリ病院の病室は、思っていたよりも明るかった。
ベッドに移されると、花菜がすぐ横に来る。
「気分はどう?」
「どうやろ。病院変わったら、急に元気になった気はするけど」
「そうかな?ちょっとしんどそうな顔してるよ。体は熱いし。」
そういいながら、花菜はタオルで優しく汗を拭いてくれた。
「うん、なんかね。きっと熱意が溢れてるねん」
「おおー、いいねー。やる気十分」
しばらくして、医師が病室に入ってきた。
「はじめまして。担当医の長門です。
転院、お疲れさまでした。疲れてないですか?」
白衣姿の長門先生は、はきはきとした声で、
一日の流れや、リハビリの考え方について説明をする。
俺は相づちを打ちながら聞いていた。
「回復期ではですね、
まずはベッド上の基本動作の獲得から目指していきましょう」
「ベッド上、ですか?」
思わず聞き返していた。
「はい。寝返り、起き上がり、座位保持。
体幹がついて、これらが安定してくると、その先の動きにつながっていきます」
「まずは基本動作が出来ないと、何も出来ないということですね」
「そうです。でも焦らなくて大丈夫ですよ」
長門先生は、付け加えた。
「私、プロなので。
必要なところから、きちんとやります」
「体幹・・・分かりました」
「焦る必要はないので、ゆっくり一緒に進めていきましょう」
長門先生はそう言って、病室を出ていった。
花菜が、俺の方を見る。
「前の病院で進歩してきたんだし、出来るようになるよ」
「・・・そうかなあ」
「うん、前を向いて頑張りましょ」
「そうやな」
3月20日
午後、女性の作業療法士が病室に入ってきた。
「作業療法を担当します、作田です。よろしくお願いします。
今日は、体の状態を確認しますね」
柔らかな話し方だった。
「まずは起こしますね」
抱き起こされて、ベッドの端に座る。
「はい、そのままキープしてみましょう」
数秒後、体が勝手に傾いた。
「大丈夫です。今はそれで十分ですよ」
「・・・十分、ですか」
「はい」
それ以上、説明はなかった。
次に寝返りをしようとしたが、
頭では分かっていても、体は全く動かない。
左腕も、言うことを聞かなかった。
「グーパーは、できていますね。
腕を上げるのは難しいですか?」
「はい」
作田さんはカルテに何かを書き込む。
「今日はここまでにしましょう」
「もう終わりですか?」
「はい。無理しないのが大事なので」
リハビリは、あっけなく終わった。
⸻
作田さんが出ていったあと、
花菜がそばに座り、少し気遣うように声をかける。
「どう思った?」
「・・・全然できへんかった」
「そっか」
「・・・先は長いな」
「私は毎日来るからね。一緒に頑張ろ」
「ありがとう」

夜、
天井を見ながら、昼間のことを思い返す。
歩けたと思っていた。
回復してきているつもりだった。
でも、
寝返れない。
起き上がれない。
座っていられない。
これができない限り、
自分一人では、何もできないのと同じだった。
(結構レベル上がったと思ってたのに、
結局、寝たきりやんけ!
寝返りできへんって、体幹ないってなんやねん!)
回復までの道のりは、
思っていたより、ずっとずっと遠い。
そのことを、
この日、ようやく理解した。
花菜の「一緒に頑張ろ」という声が、
頭の中で、何度も響いた。
【ステータス:2025年3月19日】
• 首:LV5(左右には動く/上下は少し動く)
• 右手:LV5(バンザイ出来る)
• 左手:LV2(肘から先が動く)
• 右足:LV3(体重を支えつつ、足が前に出る)
• 左足:LV1(わずかに力が入る)
• 体幹:LV1(基本動作が出来ない)
【スキル】
習得済み
見る、聞く
習得度(中)
話す、メール、嚥下呪文パタカラ
習得度(低)
車椅子、うがい、
【その他状態】
• 熱
【装備】
• リハビリシューズ
その頃の花菜
1人では
ベッドの上でしか時を刻むことが出来ない大輝
1日長いのか、短いのか……
明日はお熱、下がってるといいな
本格的に動き出したいよね
もどかしいよね
今日も来てくれてありがとうと言ってたね
毎日来るよと言ったら
目が赤くなった気がした
急性期病院にいたときは大丈夫だった?
会わなければ大丈夫なのかな
わたしは寂しかったよ
毎日会いたかった
これからは毎日会えるから
寂しくないよ
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