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リハビリはゲーム感覚で!30:俺はそれどころじゃない《第四部B 脳梗塞(脳卒中)の前向き闘病記》

    夫婦関係は、静かに壊れかけていた
    俺は、そのことにも気づけていなかった。

    揺れ動いていく心の動きにご注目!


    第四部 Side B 涙の塩味

    STEP2.俺はそれどころじゃない

    2025年3月22日(発症27日。転院 4日)

    面会出来る時間ちょうどに、花菜が病室に来た。

    夫婦の日と決めた毎月22日には、決まったやり取りがある。

    花菜が荷物を置く前に、
    俺は花菜に目を合わせた。

    「いつもありがとう」

    「家出る時は覚えてたのにー」
    「今月も俺の勝ちやな」

    そう言いながら、二人で笑いあった。


    しばらくして、病室のカーテンが開いた。

    「こんにちはー。理学担当の熱島です」

    明るいノリの男性だった。

    「今日は、歩きやりましょう」
    「はい」

    電動歩行器が運ばれてくる。
    花菜が一歩近づいた。

    「これなんですか?」
    「ポポっていう電動歩行器です。体を吊り上げるので、安全なんですよ」

    (それは安心やし楽そうやな。これやったら歩けそうやわ)



    身体を吊られて、足が床につく。

    「じゃあ、立ってみましょう」

    言われるがまま、足に力を入れる。

    「痛いところありますか?」
    「・・・ないです」

    花菜が、俺の腰のあたりを見る。

    「なんか、すごく腰曲がってるね」
    「そうなんですよ」

    熱島さんが、あっさりと言った。

    「体幹、全然入ってないですね」
    「体幹?」
    「お尻です。お尻に力入れてください」

    「・・・どこ?」
    「ここです、ここ」



    触られても、力の入れ方が分からなかった。

    一歩、前に出そうとした時だった。
    突然、足元が崩れ、腰から落ちた。



    その瞬間、頭のてっぺんにまで突き抜けるような鋭い痛みが、一気に突き抜けた。


    「っ!!」



    息が止まる。

    「大輝!大丈夫?」
    花菜の声が、思わず出る。

    偽痛風。
    急性期病院から続いている膝の痛みだ。

    「膝が痛いんでしたっけ?」
    「痛い」

    声は震えていた。

    「90度、越えると・・・」

    「そうなんですね、じゃあ今日はここまでにしましょうか」
    「・・・はい」




    ポポを外されて、車椅子に戻る。

    「びっくりしたね」
    花菜が、俺の汗を拭いながら、心配そうに言った。
    熱島さんは、カルテに何か書きながら言う。

    「大丈夫ですか?」
    「はい。歩けるように、なりますか?」
    「まあ、練習ですね。焦らずいきましょう」



    病室に戻った頃には、膝の痛みは引いていたが、身体はしんどかった。

    花菜が俺の顔を見た。

    「・・・なんか、疲れ切ってる顔してるね」
    「そんな顔してる?」


    「してる。
    そんな大輝さんにヘッドマッサージをしてあげましょう」
    「やったー、ありがとう」

    花菜が俺の後ろに回り、
    指が頭に触れた瞬間・・・

    肩の力がふっと抜けた。


    「・・・はあ」

    「極楽ですか?」
    「最高や!」


    二人で、声をあげて笑った。 

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    3日後
    今日も花菜と一緒にいるときに、尿意を感じた。

    「しびんチャレンジや!」
    ナースコールを押す。

    看護師が来ないまま、ナースコールはなり続ける。
    「あかん、まだかな、もう漏れてまうー」

    しばらくして、ようやく看護師が来たが、その頃には手遅れだった。
    花菜が、抑えた声で言う。
    「少し、遅くないですか?」

    「まぁまぁ。
    看護師さんも忙しいんやって」
    場をなだめるつもりで、俺は言った。

    「しびん、わたしがやってもいいなら、やりますよ」
    「では今度、奥さんがご自分でできるように、しびんの方法を指導しますね」

    看護師は、そう言って出ていった。


    しばらくして、花菜がぽつりと言った。

    「指導って言い方、ちょっとおかしくない?」

    「そうやった?」
    「うん。指導って部下や生徒に使う言葉じゃないの?」
    「いや、誰かに何かを教えるなら指導やない?まあ、病院用語そのまま使ったかもしれへんけどな。

    それにしても、この前のヘッドスパ気持ちよかったわ」

    花菜は余計に納得いかない顔で続ける。

    「指導って言葉、すっごく違和感。他に言い換えればいいのに」
    「そいえば、理学の担当の名前なんだっけ・・・。
    あ、わかったわ」




    「ねえ、さっきから話そらさないでよ。スルーするところじゃないよ。
    大輝は看護師の肩をもつんだね。
    私の気持ちなんてどうでもいいんだ。

    機嫌悪くなったらもう来ないから!!

    自分のことでいっぱいいっぱいなの分かるけどね」

    「ごめんよ」



    夜、花菜が帰ると、
    病室は急に静かになった。

    電気を消しても、
    昼間の感覚が残っている。

    吊られた体、
    力の入らなかった腰、
    膝に走った、あの痛み。

    (・・・歩けるんやろか)



    考えないようにしても、
    頭は勝手に先へ行く。

    もし、歩けへんままやったら・・・

    目を閉じた瞬間、

    涙がこぼれた。



    声は出せなかった。


    唇に流れてきた涙が、
    舌に触れた。

    ・・・しょっぱい。

    シークァーサーの甘さとは、まるで違う。






    (・・・う、うまい)



    そう思えた夜は、なぜか眠れず、
    やけに長かった。



    【ステータス:2025年3月25日】
    • 首:LV5→6(上下左右に動くが頭を固定出来ない)
    • 右手:LV5(バンザイ出来る)
    • 左手:LV2(肘から先が動く)
    • 右足:LV3→4(体重を支えつつ、足が前に出る)
    • 左足:LV1→2(ある程度体重を支えられる)
    • 体幹:LV1(基本動作が出来ない)
    【スキル】
    習得済み
     見る、聞く
    習得度(中)
    話す、メール、嚥下呪文パタカラ、車椅子、うがい
    習得度(低)
    飲み込み、歩行
    【その他状態】
    • 熱、偽痛風
    【装備】
    • リハビリシューズ、しびん、トゲトゲボール



    その頃の花菜
    夫婦の日

    大輝が気づいてくれたから
    言い合おうと決めてから
    ずっとコンプリートしてるね

    ずっと死ぬまで
    続けていきたいな
    それにしても77キロ重いよ…
    全体重じゃなくても重いね
    わたしの体幹と筋力がないってのもあるか

    もうかなり汗出た

    大輝は毎日だね
    お疲れ様




    生理前なのか
    気持ちのコントロールがいかないかな

    1ヶ月前はひたすら泣いてたけど
    今は大輝に会えるし現状もわかるから
    泣くことは無いけど…

    自分の気持ちを伝えてしまったな



    大輝にとったら
    聞きたくないようなわたしの気持ちや言葉だから
    嫌だったかね






    次回はこちら


     
     
     
    45歳で脳幹梗塞になり、重度の両麻痺を負うという超激レア症例。現在はリハビリにゲーム感覚で挑戦し、悪戦苦闘中 闘病の中で試される、自身の覚悟、夫婦の愛、そして家族の絆・・ 実際にリハビリをしながら描く、ほぼ実話、涙あり笑いありの小説風闘病記をご覧下さい

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