
リハビリはゲーム感覚で!27:ゲームスタート《第四部A開始 脳梗塞(脳卒中)の前向き闘病記》
これは、奇跡の回復を描いた、世界一面白い闘病記です(自称)
なぜなら――
この物語では、リハビリが“ゲーム”になるからです。
飲み込む。座る。我慢する。
それだけの行為が、ミッションになり、扉になり、時にカードになります。
笑ってしまうのに、なぜか胸が詰まる。
ふざけているのに、なぜか真剣。
読んでいるはずなのに、何か食べたくなっている。
味のない世界から、たった一口の衝撃へ。
その一口が、どれだけ重く、どれだけ面白く、どれだけ切実か。
読んで確かめてください。
第四部Side A 魅惑のシークァーサー味
Quest 1:ゲームスタート
2025年3月19日(発症24日。転院 初日)
回復期病院へ向かう車が、ゆっくりと走り出した。
窓の外に、街が流れていく。
久しぶりに見る、いつもの景色だった。
信号で止まった時、
ふと目に飛び込んできた赤い看板・・・
ラーメン!
そのすぐ先に、
白い煙を上げる焼き肉屋!
(・・・あ)
昔のことが思い出される。
夜遅くにすすったスープの熱。
鉄板の上で跳ねる肉の音。
口いっぱいに広がる、脂と塩気。
自然とよだれが出てきた。
(・・・食べたい)
腹が減っている、という感覚とは違った。
もっと深いところ。
味を思い出してしまったがゆえの、どうしようもない衝動。
ラーメン屋も、焼き肉屋も、
今の俺には、やけに残酷に見えた。
(俺、当たり前に食ってたんやな・・・)
それが突然、
とてつもなく遠い世界の出来事のように感じた。
心の奥で、何かが暴れ出す。
(・・・戻りたい、あの世界に!)
どうすればいいのかも、
まだ知らない。
(回復期病院に着きさえすれば・・・)
気が付けば、
車が早く着いてほしいと願っていた。
早く行きたい。
早く、始めたい。
一分でも、一秒でも。
この胸を支配している衝動が、
ただの夢で終わらないように。
回復期リハビリ病院に着くと、空気が少し違っていた。
急性期病院にあった、張りつめた緊張感とはどこか違う活気がある。
「ここからが、リハビリの本番ですよ」
その言葉に、気が引き締まる。
(本番。つまり、ここから先は、
俺がどこまで回復するか、はっきりと結果が出るということや。)
途中で、花菜の顔が視界に入った。
「大輝!」
(ここは見舞いできる病院やったな。これからは花菜に毎日会えるんか!)
期待で心と体が熱くなった。
病室に入ると、すぐに説明が始まった。
リハビリの流れ、スケジュール、担当者。
淡々とした説明の中で、ひときわ強く耳に残った言葉がある。
「言語聴覚士が、嚥下リハビリを担当します」
嚥下。
飲み込む、ということ。
急性期病院には言語聴覚士がおらず、
俺は一度も、ちゃんとした嚥下リハビリを受けられないまま、ここに来た。
(やっと、始まるんや)
小さな期待が芽を出した。
(これで、食べられるようになるかもしれん。
口から、飲めるようになるかもしれん。)
これまでの食事は、すべて処理だった。
時間になると、栄養が鼻のチューブを通って、勝手に体へ流れ込んでくる。
味はない。
匂いもない。
噛むことも、飲み込むこともない。
ただ、生きるためだけの処理。
食べるという幸福感から、切り離された世界だった。
ここに転院してきても、
もし、
検査で「無理です」と言われたら。
「もう遅い」と突きつけられたら。
ふと浮かぶ不安を、振り払おうとしても、できなかった。
嚥下リハビリが始まるということは、
希望への入口であると同時に、
不安への答えがはっきりするということでもある。
期待と同じくらい、
怖かった。
午後、病室で花菜と雑談していると、一人の女性が入ってきた。
「はじめまして。言語聴覚士の飯山です」
穏やかな声だった。
しかし、どこか厳しさもある表情。
「今日は、まず飲み込みの様子を見てみましょう」
そう言って差し出されたのは、小さなカップ。
中には、とろみのついたジュースが入っているらしい。
「少量だけ、口に含んでみましょう」
スプーンが、ゆっくりと唇に触れた。
そのまま、口の中へ・・・
(・・・!!!!)
甘い。
爽やかで、少し青くて・・・。
(これ、なんの味や・・・?)
白黒だった風景に、
突然、眩しい光が差し込んできたような感覚だった。
「・・・っ」
声にならない息が漏れる。
発症以来、初めての味。
俺は必死に飲み込んだ。
「うまい! これ、何の味ですか?」
「シークァーサーですよ」
「やばい・・・
泣くほど旨いわ」
「大輝、念願の飲み物だね!おめでと」
花菜も自分のことのように喜んでくれる。
「発症以来、飲み込みがほとんどないと聞いていたので、
少量とはいえ、きちんと飲み込めるか、少し心配していたんです。
でも、思っていたよりかなりいい状態ですね」
飯山さんも、ほっとしたように笑った。
さっきまでの不安が薄れていく。
飯山さんは、落ち着いた声で説明してくれた。
・とろみ付きの飲み物での飲み込み練習
・その後、ゼリーでの練習
・問題がなければ、実際のご飯を使った検査
・その検査をクリアできれば、食事の再開
一本道のように、順序立てて示された道筋。
(ちゃんと、ゴールあるんや)
その事実が、小さな、
しかし確かな安心を俺にもたらした。
「ただ、無理はしません。
安全第一で、少しずつですね」
飯山さんの言葉は、
これからの道のりの険しさを、
静かに教えてくれた。
(・・・辿り着けへん可能性も、あるんやろな)
喉の奥に、小さな不安が引っかかったまま、花菜を見つめていた。
それでも、
今日、俺は知った。
食事につながる道が、確かにあるということを。
そう自覚したとき・・・
景色がひっくり返った!!
静かながらも様々なものが置いてあった病室が、一瞬で、光の面が連なり、音や風が存在しない、無機質で非現実的な空間に塗り替えられる。

(……なんやこれ)
腹の底に響くような、でかい声が響いた。
「ゲームスタート」
低くて、やたらテンションの高い声や。
「クリア条件を提示します」
「すべての必須ミッションを、最終難易度まで突破してください」
「現在、挑戦可能なミッションはこちらです」
------------------------------
嚥下ミッション(必須。難易度:EASY)
とろみ水をコップ1杯分飲む
------------------------------
(コップ1杯飲むだけ?なめてんの?
今日の感じやったら、余裕やん。)
さらに声は続く。
「おめでとうございます。
今日のリハビリで、
スキルカードを獲得しました」
その瞬間、空中にきらりと光るものが現れた。
それは、ひらひらと降ってきて、手元に収まった。
銀縁のきれいなカードだった。
------------------------------
スキルカード《飲み込み》
レア
• 嚥下ミッション中、一度だけ確実に飲み込め、その扉を通過できる。
------------------------------
(扉?何の扉なんやろ?)
「スキルカードは、あなたの行動によって、様々な場面で獲得できます」
(なるほど、カードをゲットして、ミッションをクリアしていけってことね。
扉ってのも、その内、何のことか分かるやろ。)
俺は、初めて手にしたカードを見ながら、ゆっくり息を吸った。
(よっしゃ、ええやろ!
食べられるようになるかは、分からんけど、
そんなこと今考えてもしゃあないもんな。
どうせやったらこのゲーム、
楽しみつくして、クリアしたろやないか!)
「どうしたの?」
花菜の声が聞こえた時、いつの間にかまた病室に戻っていた。
「いや、嚥下がんばろ!思ってな」
「うん、大輝の好きなご飯のためにも、頑張ってね」
花菜の応援に応えるためにも、まずは最初のミッションを絶対にクリアしてみせる。
転院初日、俺は、そう誓った。
その頃の花菜
9時間が
ずっと病院にいたと思えないくらい
あっとゆーまに過ぎたよ
今日はお熱がでて
少ししんどそうだったかな
気合い入るとお熱でちゃう癖……
困ったね
私が帰るねって言った時
寂しそうだったね
なんとなく
そんな雰囲気感じた
毎日そばに居るからね
4.5ヶ月くらいだっけ回復期病院
夏だね!!
きっとあっとゆーまに過ぎちゃうよ
頑張ろね
📖 続きはこちら