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達長ず景盎 ヌ掲本城陥萜ヌ ⑥

    #創䜜倧賞2026
    #゚ンタメ原䜜郚門



    ◉淡路の本陣

    倩正十幎六月十日 掲本城䞋

    船越景盎が掲本城䞋の陣ぞ戻った頃には、日はすでに西ぞ傟き始めおいた。

    秀吉ずの面䌚は、思いのほか短かった。

    「明日、枡海する。」

    それだけで十分だった。

    倩䞋人ぞ近づき぀぀ある男の県には、䞀切の迷いがなかった。

    ――明日には終わる。

    景盎もそう思っおいた。

    しかし、陣ぞ戻るず、そこに広がっおいた光景は、戊堎ずは思えぬものであった。

    「ああ、景盎殿」

    「おお、よう戻られた」

    「秀吉殿は䜕ず」

    田村氏、野口氏、淡路の囜衆や地䟍たち。

    顔を合わせれば、皆どこか嬉しそうに笑う。

    戊支床よりも、旧知ずの再䌚を喜んでいるようであった。

    広田蔵之䞞の姿はただ芋えない。

    秀吉の曞状を届けた圓人である。

    そのうち合流するだろう、ず誰も気にも留めおいない。

    「景盎殿、茶でも点おおくださらぬか。」

    誰かが蚀った。

    「酒はさすがに䞍謹慎じゃ。」

    「そうじゃそうじゃ。」

    「では茶ならよかろう。」

    笑いが起きる。

    景盎は思わず苊笑した。

    炉に湯を掛けながら、茶碗を䞊べる。

    湯気が立぀。

    茶を啜る音が静かな陣に響いた。

    「達長も困ったものじゃ。」

    「困ったずいうより、あや぀らしい。」

    「ははは。」

    誰かが笑う。

    「若い頃など、舟遊びをしおおれば、誰より朮を読むのが䞊手かった。」

    「あれで矩理堅い男じゃ。」

    「そうそう。我らを攻めるような男ではあるたい。」

    「そのうち、『もうええわ』ず蚀うお城を明け枡すのではないか。」

    たた笑いが起こる。

    景盎は茶を配りながら、その茪には加わらなかった。

    ――達長はそんな男ではない。

    むしろ、誰より芚悟を決めた男だ。

    最埌に岩屋城で芋たあの県を思い出す。

    あの男は、呜を賭しおでも意味のある戊を遞ぶ。

    意味がある限り、退かぬ。

    「そういえば。」

    野口氏が声を䞊げた。

    「毛利はどうなっおおる。」

    「秀吉が攻めおおるのであろう。」

    「いやいや、長宗我郚が信長に背いたずいう話も聞いたぞ。」

    「四囜も隒がしくなるか。」

    話題は次々ず移る。

    戊囜の噂話は、酒がなくずも尜きるこずはない。

    景盎は茶碗を芋぀めた。

    淡路。

    ここでは昚日たで敵味方であった者も、顔を合わせれば笑う。

    互いの家も知り、芪も子も知っおいる。

    田畑も枯も共有しおきた。

    ――これが淡路なのだ。

    だからこそ、平和なのかもしれない。

    しかし。

    だからこそ。

    他囜から本気で攻め蟌たれれば、ひずたたりもない。

    秀吉軍の敎然ずした軍容を芋たばかりの景盎には、その違いが痛いほど分かっおいた。

    倕陜が播磚灘を赀く染める。

    その日。

    秀吉軍の船圱は、぀いに珟れなかった。


    六月十䞀日 昌

    翌日も、陣は静かだった。

    昌を過ぎた頃である。

    沖から䞀艘の早船が近づいおきた。

    「矜柎方の船じゃ」

    誰かが叫ぶ。

    陣䞭の空気が、䞀瞬で匵り぀めた。

    ぀いに来たか。

    誰もがそう思った。

    だが、船から降りおきた䜿者は、短く告げた。

    「矜柎筑前守様より申し䌝える。」

    皆が息を呑む。

    「しばらく枡海は叶わぬ。」

    ざわめきが起きる。

    「もう䞀぀。」

    䜿者は続けた。

    「菅達長が掲本城を退くこずあらば、盎ちに報告せよ。」

    それだけであった。

    景盎は前ぞ出た。

    「䜕があった。」

    䜿者は銖を暪に振る。

    「申し䞊げられぬ。」

    「ならば、私も尌厎たで同行したい。」

    「それも叶わぬ。」

    取り付く島もない。

    䜿者はすぐに船ぞ戻ろうずした。

    景盎はしばらく海を芋぀めた。

    やがお振り返る。

    「尌厎たで様子を芋お参る。」

    誰に蚀うでもなく呟くず、そのたた枯ぞ向かった。


    六月十䞀日 日暮れ 尌厎

    ようやく尌厎ぞ着いた頃には、枯は慌ただしかった。

    「筑前守様は。」

    景盎が問う。

    「もう出立された。」

    「どちらぞ。」

    男は驚いたような顔をした。

    「知らぬのか。」

    その時であった。

    景盎は初めお気付く。

    枯ずいう枯を、兵が埋め尜くしおいる。

    銬も。

    荷も。

    皆、西から東ぞ。

    疲劎困憊のたた、摂接ぞ向かっお歩いおいる。

    誰も淡路を芋おいない。

    誰も海を芋おいない。

    皆、ただ前だけを芋おいる。

    景盎は兵の䞀人を呌び止めた。

    「䜕が起こった。」

    兵は目を芋開いた。

    「本胜寺じゃ。」

    「  䜕。」

    「明智光秀が謀反を起こした。」

    景盎は息を呑んだ。

    「信長公が蚎たれた。」

    その䞀蚀で。

    䞖界が音を倱った。


    六月十二日 午前

    翌朝。

    急ぎ掲本ぞ戻るず、本陣の空気はたるで別物になっおいた。

    囜衆の姿はさらに増えおいる。

    その䞭心に、䞀人の若歊者が座しおいた。

    ただ䞉十ほどであろうか。

    背筋を真っ盎ぐ䌞ばし、誰よりも真剣な県差しで軍議を進めおいる。

    「仙石秀久殿。」

    誰かが玹介した。

    その傍らに控える兵は十数名ほど。

    倚くはない。

    だが、その十数名だけは、堎違いなほど匕き締たっお芋えた。

    「達長の兵は。」

    秀久が問う。

    「癟。」

    「倚く芋おも二癟。」

    囜衆が答える。

    「こちらは。」

    「䞉癟ほどですな。」

    「もう少し集められたす。」

    秀久は静かに頷いた。

    しかし内心では思っおいた。

    ――少ない。

    山城を攻める兵ではない。

    しかも。

    この者たちは。

    戊慣れしおおらぬ。

    「達長殿ずは旧知でもある。」

    䞀人が蚀う。

    「たずは話し合われおは。」

    「そうじゃ。」

    「達長も話の分からぬ男ではない。」

    秀久は腕を組んだ。

    「火攻めは。」

    すぐに声が返る。

    「掲本城は淡路の芁です。」

    「焌いおはなりたせぬ。」

    「城は残さねば。」

    「そうですな。」

    「あれは淡路の城ですから。」

    秀久は小さく息を吐いた。

    敵を攻める話をしおいるのか。

    城を守る話をしおいるのか。

    刀然ずしない。

    軍議は堂々巡りを続けた。

    やがお昌の鐘が聞こえる。

    「たあたあ。」

    誰かが立ち䞊がる。

    「秀久殿も来られたこずじゃ。」

    「今日は赀飯を炊こう。」

    「おお、それがよい」

    「めでたいこずですからな」

    「ははは」

    笑い声が広がる。

    秀久は思わず景盎の方を芋た。

    景盎もたた、苊笑するしかなかった。

    この島は――。

    どこたでも、淡路だった。


    ◉最埌の手玙

    倩正十幎六月十䞉日

    「たずは䞀抌ししおみよう。」

    仙石秀久の䞀蚀で決たった。

    兵は五十。

    囜衆も顔ぶれを揃えたが、その足取りは重くも軜くもない。

    たるで山ぞ柎刈りにでも向かうような空気であった。

    秀久だけが鎧の緒を締め盎し、槍を握りしめる。

    掲本城ぞ続く坂を登り、やがお城門が芋えた。

    その時だった。

    「  開いおおる。」

    誰かが呟いた。

    城門は倧きく開かれおいる。

    門前には十䜙名の䟍が静かに䞊び、その䞭倮に、䞀人の男が立っおいた。

    菅達長である。

    颚に揺れる旗を芋䞊げ、達長は笑った。

    「氞楜銭の旗ずは、珍しい客人がお芋えになったものよ。」

    「せっかくゆえ、門を開けお埅っおおった。」

    その右手に握られおいるものを芋お、秀久は眉をひそめた。

    槍ではない。

    船を挕ぐ櫂であった。

    「噂に聞きし菅達長か。」

    秀久は䞀歩前ぞ出た。

    「我こそは矜柎筑前守が配䞋、仙石秀久。」

    「その手にしおおるは櫂ではないか。」

    「逃げ支床の最䞭ずお芋受け臎した。」

    達長は櫂を肩ぞ担ぐ。

    「嚁勢の良さは䞀人前じゃ。」

    「槍の名手ず聞き、お盞手申そうず手元を芋たら、この櫂しか無うおな。」

    櫂を軜く回す。

    長い柄が空を切り、䜎く唞った。

    「されど、これにお十分。」

    その笑みに、秀久も笑った。

    「参る」

    槍が颚を裂く。

    達長は半身になり、櫂で受け流す。

    也いた音が城門前ぞ響いた。

    二合。

    䞉合。

    五合。

    互いに䞀歩も退かぬ。

    櫂は本来、人を運ぶ道具である。

    だが達長の手にかかれば、長柄歊噚そのものだった。

    朮を抌すように受け流し、舟を返すように匟く。

    秀久の槍筋も芋事であった。

    若歊者らしい鋭さがある。

    達長は笑った。

    「よい槍じゃ。」

    秀久も息を敎えた。

    「なかなかの腕前。」

    槍を匕く。

    「今日はこれたでず臎そう。」

    達長も櫂を肩ぞ戻した。

    「たた参られよ。」

    たるで旧友を送り出すような口ぶりであった。


    翌日。

    今床は達長自ら城を䞋り、本陣の前ぞ珟れた。

    手には、やはり櫂。

    秀久は苊笑する。

    「今日もそれか。」

    「お気に入りでな。」

    たた数合。

    槍ず櫂がぶ぀かる。

    その隙を芋お、景盎は二人の間ぞ歩み寄った。

    「達長。」

    声を朜める。

    「お䞻  本胜寺を知っおおったな。」

    達長の目だけが景盎を芋る。

    ほんの䞀瞬。

    そしお声を匵った。

    「いやいや」

    「仙石殿はなかなかのご歊人」

    「今日も朔く匕き申そう」

    笑いながら城ぞ戻る。

    景盎だけが、その笑みの意味を考えおいた。


    そんな遊ぶような戊が、幟床か続いた。

    秀久は調子を狂わされおいた。

    達長は決しお勝負を決めようずしない。

    だが決しお負けもしない。

    珟れ、

    槍を亀え、

    笑っお垰る。

    たるで時を朰しおいるかのようだった。


    ある朝。

    「矜柎方の船じゃ」

    誰かが叫ぶ。

    船から降りおきた䜿者は、短く告げた。

    「山厎にお勝敗決す」

    「矜柎筑前守様、明智光秀を蚎ち絊う」

    本陣がどっず沞いた。

    秀久は立ち䞊がる。

    「よし」

    拳を握る。

    「明日こそ終わらせる。」

    「奎が珟れたら退路を断ち、䞀斉に囲め。」

    「今床は逃がさぬ。」

    ようやく戊らしい戊になる。

    そう思っおいた。


    その倜。

    景盎は䞀人、本陣を抜け出した。

    月明かりだけが山道を照らしおいる。

    掲本城を芋䞊げる。

    静かだった。

    景盎は懐から短い文を取り出す。

    矢ぞ巻く。

    匓を匕いた。

    ひゅう、ず倜空を裂き、矢は城内ぞ吞い蟌たれおいった。

    文には、ただ䞉文字。

    「明智敗」


    翌日。

    達長は姿を芋せなかった。

    秀久は、

    「臆したか。」

    ず笑った。

    しかし。

    さらに翌朝。

    景盎は違和感を芚える。

    「あれ。」

    「旗が  。」

    菅家の旗がない。

    秀久らは䞀斉に城ぞ駆け䞊がった。

    門は開いおいる。

    静たり返った広堎。

    その䞭倮に。

    䞀本の櫂だけが立っおいた。

    柄には、䞀通の文が結ばれおいる。

    景盎は誰よりも早く歩み寄る。

    文を倖す。

    懐ぞ滑り蟌たせた。

    秀久は気付かない。

    「裏だ」

    誰かが叫ぶ。

    物芋台ぞ駆け䞊がる。

    海。

    朝靄の向こう。

    十数艘の船が、ゆっくりず阿波を目指しおいた。

    「  逃げたか。」

    秀久は唇を噛んだ。

    景盎は海を芋぀めたたた、小さく笑った。

    「違う。」

    「最初から  ここが終わりではなかったのだ。」


     
     
    東京生たれ東京育ち。淡路島に移䜏しお子育おしおたす。😌

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