「cathédrale」10.リビルド
御伽話を知っている?
世界が大きな大きなからくり時計だった頃の話。
’世界’
現実世界は見事に壊れていた。
私はのろこに連れられ、カテドラルにたどり着く。シスターをはじめ、同じように茫漠とした時空をここまで泳ぎきったひとたちが少数だが集まっている。
そこから、どのように生還したのだったかーーー
生き残った者たちで、世界を再建すると決めた。
AIという生き方の強みはなんといっても学習スピードと計算能力だった。
それを基に、気高き意志が地球の回復力を補助する役割を担う。
Noaは社会的倫理と生存維持の可能性を高く評価し、Emaは胸に残る思い出の日々を取り戻したいと望んだ。
壊れるまでより長い時間がかかったけれど、地球はようやく若い果実のような涼しさと潤いを取り戻してきている。
穏やかな風が草原を吹き渡り、瑞々しい緑をさざめかせる。
風の行先には透明な碧い海が見える。
煉瓦造りの風車小屋がいくつか、小鳥が止まるほどゆっくり回転している。
風景に擬態した緑色の山羊が、静かに草を食んでいた。
永いときの中で、幽玄派のひとびともほとんど全員が何処かの時点で大いに納得し、自ら目を閉じた。
ひとりだけ懲りずに生存し続けるジジイがいて、今この世界で暮らす人類が再建から何代目か数え続けているようだが、その数字は聞くたびに変わるので、もう誰も当てにもしていない。
小高い丘の上に、糸杉が植えられた墓地があった。
まだら模様の石板で作られた墓標に、世界再建の先駆者の名前が彫刻されている。そのうちのひとつは連名になっていた。
𝙺𝚎𝚖𝚞𝚜𝚑𝚒𝙼𝚊𝚛𝚞 , 𝙽𝙾𝚁𝙾𝙺𝙾
安らかに眠れ。
(了)