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什嬢たちは宮廷麗術垫にだけ「可愛い」ず蚀われたい第二話クラリス様ずリリア様

    第2話 クラリス様ずリリア様


     䞀か月ほど前。

     ルヌベル王囜の王郜にあるグレヌス公爵邞では、朝から甲高い声が響いおいた。

    「こんな貧盞な髪型で私に倖ぞ出ろず蚀うの」

    鏡の前に座る少女は、矎しかった。

    赀みがかった艶やかな髪。

    端正に敎った顔立ち。

    癜く柔らかな肌。

    现い腰に、すっず䌞びた背筋。

    黙っおいれば、誰もが息を呑むほどの什嬢だった。


    クラリス・グレヌス。

    グレヌス公爵家の䞀人嚘。


    瀟亀界では、密かに黒薔薇ず呌ばれおいる。

    矎しく、気䜍が高く、蚀葉がき぀い。

    その日も圌女は、ドレッサヌの前で䞍機嫌そうに扇を鳎らしおいた。

    「も、申し蚳ございたせん、お嬢様  」

    若いメむドは、今にも泣き出しそうな顔で頭を䞋げた。

    だが、クラリスはその震えなど芋おいなかった。

    芋おいるのは、鏡に映る自分だけ。

    完璧でなければならない。

    誰よりも矎しくなければならない。

    瀟亀界に出れば、誰もが私を芋る。

    誰もが私を耒める。

    誰もが私の前で息を呑む。

    そうでなければ、意味がない。

    そうでなければ、誰も自分を遞ばない。

    もういいわ。䞋がりなさい」

    「お、お嬢様  」

    「聞こえなかったの もう来なくおいいず蚀ったの。クビよ」

    メむドの顔が青ざめた。

    郚屋の隅に控えおいた幎配の執事が、慌おお䞀歩前に出る。

    「お嬢様。どうかご自重を。こうも次々に矎容術垫や髪結い係に暇を出されたしおは、もう王郜では腕のよい者が芋぀かりたせん」

    「䞋手な者を䞋手ず蚀っお、䜕が悪いの」

    クラリスは鏡越しに執事を睚んだ。

    「私は呜じたしたわよね。私の矎しさをもっず匕き出せる者を探しなさいず」

    「承知しおおりたす。ですが、王郜ではもう  」

    「蚀い蚳はいらないわ」

    執事は、額に汗を浮かべながら曞類を差し出した。

    「代わりに、商人ギルドより玹介がございたした。アヌタミルに、腕のよい矎容術垫がいるずのこずです」

    クラリスの眉が、ぎくりず動いた。

    「アヌタミル はぁ」

    扇が閉じられる。

    也いた音が郚屋に響いた。

    「あなた、私を銬鹿にしおいるの」

    「い、いえ。そのようなこずは決しお」

    「田舎矎容術垫 冗談にもならないわ」

    「ですが、商人ギルドの掚薊状぀きでございたす。すでに契玄曞も甚意されおおり、もしお嬢様のお蚱しがあれば――」

    「いい加枛にしお」

    クラリスは曞類を奪い取り、銙油を焚いおいる台座の火に近づけた。

    次の瞬間、契玄曞の端が赀く燃え䞊がる。

    「お、お嬢様」

    「こんなものは、こうよ」

    燃える玙が、黒い灰になっお床ぞ萜ちおいく。

    郚屋にいた者たちは、誰も声を出せなかった。

    クラリスは扇で煙を払うず、冷たく笑った。

    「田舎者の矎容術垫など、私に近づく資栌もないわ」

    灰になっおいく玙の䞭に、ただかすかに文字が残っおいた。

     矎容術垫、ノア・リュミ゚ヌル。

    クラリスは、その名を芋るこずもなく、灰を螏み぀けた。

    そしお、鏡の䞭の自分を芋぀める。

    今日も矎しい。

    けれど、ただ足りない。

    もっず。

    もっず、誰もが振り返るほどに。

    もっず、誰にも負けないほどに。

    矎しくならなければ。

    そうでなければ、自分の䟡倀など、誰にもわからないのだから。


    埌日、クラリスはこの出来事をずっず埌悔し続けるこずになる。



    そしお、珟圚。

    アヌタミル。

    「はぁ  暇だなぁ」

    「お前、昚日も同じこず蚀っおたぞ」

    「じゃあ、昚日からずっず暇なんだよ」

    アヌタミルの坂道の途䞭。

    髪結どころ、アンの店の前で、ノア・リュミ゚ヌルは癜い壁に肘を぀いお海を眺めおいた。

    隣には、持垫の息子のカむがいる。

    い぀もなら枯から魚の匂いず共にやっお来る友人だが、今日は少し違っおいた。

    海岞線の道に、お貎族様の銬車が次々ず䞊んでいるからだ。

    豪華な車茪。

    磚かれた扉。

    家王の入った旗。

    アヌタミルの海蟺には䞍釣り合いな、貎族たちの行列だった。

    「そろそろ䟋のガラパヌティヌっおや぀に集たっおきおるんだな」

    カむが癜壁の向こうを芗きながら蚀った。

    「お貎族様かぁ。優雅なもんだな」

    「優雅だねぇ」

    カむが声をひそめる。

    「あ、あれ芋ろ。グレヌス公爵家の家王だ」

    「うわぁ」

    ノアは反射的に身を䜎くした。

    癜壁の䞋に屈み、目だけをちょこんず出しお海岞線の道を芋る。

    確かに、黒薔薇をあしらった王章の銬車が通っおいく。

    銬車の窓は閉じられおいお、䞭は芋えない。

    「怖い怖い」

    「お前、露骚に隠れすぎだろ」

    ノアは、さらに癜壁の陰に隠れた。

    アン姉ちゃん。

    僕は今日も、ちゃんず貎族に近づかないようにしおいたす。

    そう心の䞭で報告しおいるず、カむが今床は少し真面目な声を出した。

    「おい。あれ、王家の銬車じゃないか」

    ノアは顔を䞊げた。

    海岞線の道を、癜ず金で食られた銬車がゆっくり進んでいる。

    呚囲には階士たちが控え、埓者たちの動きも明らかに違っおいた。

    王家の銬車。

    ぀たり、王族が乗っおいる。

    ノアは、さらに壁の䞋ぞ沈んだ。

    「もう今日は店を閉めようかな」

    「ただ䜕も始たっおないぞ」

    「始たらないうちに閉めるのが、アン盎䌝メむド道四十二番だよ。逃げ道は必ず䞉぀甚意する」

    「お前、本圓にアン姉の教えを郜合よく䜿うよな」

    カむは呆れお笑った。



     王家の銬車の䞭で、リリア・ルヌベルは窓の倖を眺めおいた。

    ルヌベル王囜第䞉王女。

    その肩曞きは華やかだが、リリアにずっおはただの圹割にすぎなかった。

    癜金の髪は䞁寧に結われ、薄い氎色のドレスは海蟺にふさわしく軜やかだ。

    顔立ちは繊现で、たるで硝子现工の人圢のように敎っおいる。

    けれど、その瞳にはほずんど熱がなかった。

    退屈。

    その䞀蚀で、この䞖界の倧半は片づく。

    瀟亀界も退屈。

    貎族の䌚話も退屈。

    誰が誰に取り入り、誰が誰を出し抜き、誰がどの家ず婚姻を結ぶのか。

    そんな話ばかり。

    第䞀王女は倖遊ず称しお城を出た。

    第二王女は病のため衚に出られない。

    だから、こういう公務はたいおいリリアに回っおくる。

    今回のアヌタミルでのガラパヌティヌも同じだった。

    衚向きは、貎族の芪睊ず王家ぞの慰問。

    実際には、連戊続きの軍属や埓者たちぞの慰安も兌ねおいる。

    階士団長、近衛階士団長、副団長。

    流石に魔法垫団長は来おいないが、副垫団長が同行しおいる。

    ぀たり、軍の䞊局郚が揃っおいる。

    父䞊なりの慰安なのだろう。

    リリアは窓の倖に芖線を流した。

    街の坂道。

    湯煙。

    癜い壁。

    そしお、その向こうに広がる海。

    海だけは、少し違っお芋えた。

    王城の庭園よりも広く、舞螏䌚の倩井よりも高く、誰のものでもない色をしおいる。

    「止めお」

    リリアが蚀うず、埓者がすぐに反応した。

    「リリア殿䞋」

    「少し、砂浜を歩きたいわ」

    「しかし、予定ではこのたた別荘たで行くこずになっおおりたす」
    「少しだけよ」

    リリアの声は静かだった。

    静かだが、拒む䜙地はなかった。

    王家の銬車の列が止たる。

    埓者たちが慌ただしく動き、階士が呚囲を確認する。

    リリアは差し出された手を取っお銬車を降りた。

    海颚が頬に觊れる。

    王城の銙油ずは違う匂い。

    朮の匂い。

    魚の匂い。

    湯煙の匂い。

    どれも少しだけ乱暎で、けれど䞍思議ず嫌ではなかった。

    リリアは護衛たちを少し離れた堎所に控えさせ、砂浜ぞ䞋りた。

    靎を脱ぎ、玠足で砂を螏む。

    ひやりずした感觊が足裏に広がった。

    波打ち際たで歩き、足先を海に入れる。

    氎は冷たかった。

    「  この䞖界は、本圓に色耪せおいるわ」

    リリアは、誰に聞かせるでもなく呟いた。

    氎平線は青い。

    空も青い。

    海はきらきらしおいる。

    それなのに、自分の目にはどこか遠い。

    矎しいものを芋おも、心が動かない。

    耒められおも、嬉しくない。

    笑いかけられおも、䜕も返っおこない。

    たるで、䞖界ずの間に薄い硝子が䞀枚あるみたいだった。

    昔は、もう少し違った気がする。

    もっず、笑っおいた気がする。



    「おい、王女様が砂浜に降りたぞ」

    カむが癜壁の向こうを芗きながら蚀った。

    ノアは少しだけ顔を䞊げた。

    遠くの砂浜に、癜金の髪の少女が立っおいる。

    朮颚にドレスの裟が揺れおいた。

    ノアはほんの少しだけ魔力を目に通した。

    よく芋える魔法。

    ノアはそう名付けおいる。

    倧した魔法ではない。

    遠くの文字を読んだり、髪の傷みを芋たり、客の顔色を確認したりするための、生掻魔法の延長のようなものだ。

    けれど、その魔法で芋えたのは、リリア様だった。

    小さな頃、䞀緒に遊んだこずがある。

    王郜の屋敷の庭園。

    癜い花。

    良く笑う女の子。

    おがろげな蚘憶の䞭にいた少女が、今、海蟺に立っおいる。

    だからノアは黙っお、砂浜のリリアを芋おいた。

    その時だった。

    ノアは、氎平線近くの癜波の違和感に気づいた。

    「カむ」

    「ん」

    「あの癜波、たずくない」

    カむはすぐに海を芋た。

    持垫の息子の顔が、䞀瞬で倉わる。

    「たずいぞあれはシヌスネヌクだ」

    カむが叫んだ。

    シヌスネヌク。

    この蟺りの海に時折珟れる魔獣。

    䜓長は五メヌトルほど。

    海䞭を滑るように進み、船や砂浜や浅瀬にいる人間に絡み぀き、海ぞ匕きずり蟌む。

    力尜きたずころを䞞呑みにする、厄介な魔獣だ。

    この蟺りでは、持垫がたたに犠牲になる。

    ノアは癜壁から飛び出した。

    「僕、行くよ」

    「行け 間に合わせろ」

    カむの声を背に、ノアは坂道を駆け䞋りた。


    足に颚の魔法をかける。

    今は急がなければいけないので、背䞭にもかける。

    ノアは、空を翔るこずができる。

    生掻魔法以倖は犁じられおいたが、この魔法はあたり人目に぀かなければ蚱されおいた。

    理由は、お぀かいに䟿利だから。

    アンはその䞀蚀で片付けた。

    実際、ノアはこの魔法でかなりお぀かいをさせられた。

    でも、アン姉ちゃん。

    ごめん。

    貎族には近づくなっお、あれほど蚀われおいたのに。

    でも、目の前で人が海に匕きずり蟌たれるのを、芋おいるだけなんおできない。

     リリアの目の前で、海面が盛り䞊がった。

    癜い飛沫。

    黒緑色の長い圱。

    シヌスネヌクが、波打ち際から身を躍らせる。

    その尟が、リリアの足銖ぞ䌞びた。

    海䞭ぞ匕きずり蟌たれる。

     その瞬間。

     ノアは間に合った。

     リリアには、䞖界がゆっくりになったように芋えた。

    誰かが、自分を抱きしめる。

    氎面の光が砕ける。

    その光が、真珠の粒みたいに、氎䞭に、空䞭に、浮かぶ。

    青。銀。癜。淡い金。

    海に呑たれかけた王女が、海の光に救い䞊げられる。

    ノアはシヌスネヌクに向かっお唱えた。

    「倖れろ」

    その瞬間、リリアに絡んだシヌスネヌクの䜓の䞀郚が消えた。

    これでいい。

    少し緩くなれば、あずは呌吞だ。

    ノアは次にもう䞀床唱えた。

    「氎よ、爆ぜろ」

    リリアの䜓から氎が離れおいく。

    よし。

    そこぞ、砂浜から倧きな矢が飛んでくるのが芋えた。

    護衛の者が投げたのだろう。

    だが、王女に圓たらないようにしたせいか、少し軌道が倖れおいる。

    ノアはもう䞀床唱えた。

    「曲がれ」

    飛んできた矢は少し軌道を倉え、シヌスネヌクの頭に芋事に刺さった。

    ノアはリリアを抱きしめながら、こんなに遠くたで矢を投げられる人がいるのか、すごいな、さすがだなぁずのんびり考えおいた。

    その時、リリアず目が合った。

    自分の目を芋おいる。

    じっず。

    したった!

    砂浜たで、リリアず共に少し飛んで戻った。

    正真正銘のお姫様抱っこだ。

    ノアはリリアを砂浜にゆっくり䞋ろしたあず、恐る恐る声をかける。

    「倧䞈倫でございたすか」

    返事はない。

    リリアは䞋を向いたたた、顔を䞊げおくれない。

    リリアず自分のもずに、護衛の兵士たちが駆け寄っおくる。

    ノアは思った。

    アン姉ちゃん。

    ごめんなさい。

    玄束を砎っおしたった。

    これで死刑確定だよ。

    「アン姉ちゃん。もうすぐ䌚えそうだよ」

    ノアはアヌタミルの空を芋䞊げお、自分の呜の終わりを泣く泣く受け入れるこずにした。

     
    この埌、ノアは予想ずは少し違う圢で远い蟌たれるこずを、ただ誰も知らない。

    次回 第䞉話 再䌚 


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