
The Offspring🇺🇸【全20作レビュー】:怒る理由を失ったパンクスたち
筆者とThe Offspringの出会いは高校時代だった。
中学時代の親友がWinMXで落としてきた「All I Want」がきっかけである。
当時の筆者はX JAPANやスラッシュメタルに夢中だった。だからこそ、その異様に尖ったハードコアサウンドは妙に新鮮だった。一方で、当時量産されていた青春パンクには強烈な拒否感があった。その先祖にあたるバンドを聴くなど本来ならあり得ない話だった。
1~2年後、気づけば教習所の空き時間にイトーヨーカドーで「The Noose」を聴いて『Splinter』を買い、そのまま他のアルバムを揃えていた。助手席の教官から「いや、Megadeth聴けよ」と真顔で言われたのも今では笑い話だ。
その後、筆者は何度も来日公演へ足を運んだ。旅ログでおなじみの相棒と共に見た回数は5〜6回になるだろう。名曲「Self Esteem」の代わりに毎度のように「One Fine Day」を演奏する日本独特のファンサービスに呆れながらも、The Offspringは青春の風景の一部として深く刻み込まれている。
だが彼らのキャリアは決して順風満帆ではなかった。
90年代にパンクの枠を飛び越えることに成功した彼らは、その成功体験から現在まで抜け出せていない。海外のファンコミュニティでもしばしば指摘されるのは、Bob Rockとの長期的な協業によるサウンドの固定化、『Americana』以降のセルフパロディ化、そしてDexter Holland自身がもはや怒れる若者ではなくなったという事実だ。
皮肉なことに、The Offspringは売れることで自由を手に入れた。しかし同時に、「The Offspringらしさ」という檻の中へ自ら閉じ込められてしまったのである。
そして売れた結果、「怒る理由」を失った。
郊外の不満を歌っていた若者は、博士号を持ち、自家用機を操縦し、世界中のアリーナを埋める存在になった。
それでも彼らはパンクバンドであり続けようとした。
The Offspringの長い停滞は、インスピレーションの枯渇であるとともに、そういった矛盾との格闘の歴史だったのかもしれない。
今回はそんなThe Offspringの全作品を、青春補正も失望も全部込みで振り返ってみたい。
🔰 The Offspringのオススメ5曲
The Kids Aren’t Alright ― “How can one little street swallow so many lives?” (どうしてこんな小さな通りが、こんなにも多くの人生を飲み込んでしまうんだ?
Self Esteem ― “The more you suffer, the more it shows you really care, right?” (苦しめば苦しむほど、本当に気にかけてるってことになるんだろ? なあ?)
Come Out and Play ― “You gotta keep ’em separated.” (あいつらとは距離を置け。)
All I Want ― “I’m sick of not living to stay alive.” (生き延びるためだけに生きるなんて、もううんざりだ。)
Want You Bad ― “Your one vice is you’re too nice.” (お前の唯一の欠点は――優しすぎることだ。)
📼 6 Songs (1986年7月、デモ)
⭐ 3.0/5.0
📝 彼らのキャリアの中でも最も純粋に「ハードコア」な瞬間。収録曲6曲のうち、1989年のセルフタイトルデビュー作に引き継がれた「Blackball」と「Fire And Ice」(改題「I’ll Be Waiting」)は後のOffspring的なメロディックな感覚をすでに備えている。対して「Call It Religion」や「Halloween」は、よりダークでハードコア寄りの作風であり、当時のバンドが目指した方向性から外れている。
💿 The Offspring (1989年6月15日リリース、1stアルバム)
⭐️ 3.0/5.0
📝 本作を聴けば、The Offspringが「元々は社会派パンクバンドだった」という事実は誰の目にも明らかだ。後の「Pretty Fly (For a White Guy)」で軽薄なラッパーを演じるDexter Hollandの姿を思い浮かべながら聴くと、一種のカルチャーショックすら覚えるだろう。Dead Kennedysからの影響なくして、当時の彼らは語れない。
💿 Baghdad (1991年5月15日リリース、EP)
⭐️ 3.0/5.0
📝 湾岸戦争が開戦した当時のパンクシーンは、ハードコアからメロディック・パンクへの過渡期にあった。Bad Religionの『Against the Grain』は商業的成功を収め、NOFXやRancidといったバンドが台頭しつつあった。本作はそうした流れの中で「まだメロディックに振り切れていない」バンドの姿をとらえている。ハードコアの攻撃性を遺す形で、Epitaphへの切符を勝ち取った。
💿 Ignition (1992年10月20日リリース、2ndアルバム)
⭐️ 3.5/5.0
📝 デビュー作から継承されたハードコアな攻撃性に加え、より洗練されたメロディ・ラインとプロダクションを基調とする。そこには、Nirvanaを起爆源とするオルタナの波に乗るか、純粋さを守るかという岐路に佇んだパンクバンドがいた。全体的なクオリティのムラは否めないが、冒頭から"Fuck"を連呼する怒りは文字通りキャリアの「着火点」になった。
💿 Smash (1994年4月19日リリース、3rdアルバム) ⭐名盤 🔰入門編
⭐️ 4.0/5.0
📝 本作の真価は従来のハードコア/スケート・パンクの骨格を維持しつつ、よりメロディックでキャッチーなフックを全面に押し出した点にある。同時にグランジの影響——特にNirvana——を強く感じさせるコードワークやダイナミクスも随所に見られる。パンクは長い間「若者の怒りの音楽」とされてきたが、ここでは28歳の男が自分の不安や絶望を率直に投げかける。そこにはGreen Dayにはない「渋さ」と「経験値」があった。
💿 Club Me (1997年1月1日リリース、EP)
⭐️ 3.0/5.0
📝 『Smash』のメガヒットを受け、メジャーレーベルのColumbia Recordsに移籍。そして『Ixnay on the Hombre』のリリースを目前に控えていた。バンドは「次の一手」を考えていた。その一つが「The Offspring Fan Club」の活性化であり、本作は「年賀状」として、年明け早々に発送された。カバー曲に挟まれて収録されたNoodles作曲の「D.U.I.」。後の「The Worst Hangover Ever」にも通じる"学習しないバカ"を謳った曲だ。
💿 Ixnay on the Hombre (1997年2月7日リリース、4thアルバム)
⭐️ 3.5/5.0
📝 スケート・パンク/ハードコアの疾走感を幾分抑え、より重厚でプロダクションの凝ったサウンドに変化している。特にDave Jerdenの影響で、Alice in ChainsやJane‘s Addiction的なオルタナティヴ・メタルのテイストが随所に現れている。バラードの増加はそれまでにはなかった「シリアスな抒情性」を付加させた。移籍を「商業志向」と批判される中、「ポスト・グランジ」の波に乗るか否かの葛藤が作風に顕れた。
💿 Americana (1998年11月17日リリース、5thアルバム)
⭐️ 3.5/5.0
📝 「アメリカという国の強烈な違和感」を扱ったコンセプト作。シリアスなバラード、ハードコアパンク、スカ、ラテン、サイケ、ジョークソングがごった煮の作風はアメリカの素顔をシニカルに映し出す。何もかもが混ざり合い、何が本当か分からない時代。マルチカルチャーでありながら分断され、豊かでありながら空洞化した社会。リスナーを選ぶ悪ノリを含めて、まじめにふざけて、真剣に皮肉る。それがThe Offspringの本質だ。
🎞️ Americana (1998年12月8日リリース、ホームビデオ)
⭐️ 1.5/5.0
📝 バンドがMVを「ビデオアルバム」という形でパッケージしていたMTV絶頂期に、The Offspringは『Jackass』を先取りしたような悪趣味なVHSを制作した。ここには『Americana』由来のコンテンツはほぼ含まれていない。代わりに「エクストリームスポーツ映像」と「スタント」と「バンドの青写真」、そして自作自演の「万引きの試み」を寄せ集めた実験的な作風だった。お粗末すぎる構成に、62分はとにかく長い。
🎞️ Huck It (2000年7月21日リリース、ホームビデオ)
⭐️ 2.5/5.0
📝 ちゃんとしたディレクター(Paul Cobb)がおり、編集もプロフェッショナルだ。しかし、映像の半分以上はメンバーやプロのアスリートたちによるスケートボード、BMX、スカイダイビングなどの映像で占められている。ライヴ映像も安っぽい特殊効果やホラーメイクが逆効果になっていて、あまり楽しくない。「自分たちを笑いものにする勇気」と「体を張る覚悟」を示した結果、「何がしたいのか分からない」だけだった。
💿 Conspiracy of One (2000年11月14日リリース、6thアルバム)
⭐️ 3.0/5.0
📝 Brendan O’Brienのプロダクションにより、より洗練され、時にヘヴィで、時にメロウなサウンドを獲得。本作最大の特徴は「バラバラ感」だろう。アップテンポのパンクナンバー、哀愁のバラード、ラテン風味のジョークソング、不気味なストーカーソング、過去曲の焼き増し——これらが脈絡なく並んでいる。インスピレーションに詰まったバンドが試行錯誤している過程がそのままムラの激しい内容になっている。
💿 Splinter (2003年12月9日リリース、7thアルバム)
⭐️ 2.5/5.0
📝 Ron Weltyの解雇はバンドの落ち目を象徴していた。反体制扇動のシグナル、人間関係、ブラックジョーク、ショッピングモール文化のネタといった、バンドの持てる要素を33分にすべてぶち込んだ結果、楽曲の方向性に加えて出来までバラバラになってきた。"ストレートに、実験もせず、アゲアゲで"をやるには既にキャリアを重ね過ぎた。曲よりも"流れ"で聴かせる作品。
🏆 Greatest Hits (2005年6月20日リリース、ベスト盤)
⭐️ 3.5/5.0
📝 タイトル通り、バンドの「売れる前」と「地味だった時期」をきれいに無視した、徹底的に「売れた頃だけ」の選曲。ドラマーも安定しないこのタイミングでベスト盤を出すのは、レーベルColumbiaによる「契約満了前に最後の一稼ぎ」というわけだ。リード新曲「Can’t Repeat」は、「The Kids Aren't Alright」の前ではかなり弱い。「過去は終わった。明日はただの願望だ。いい思い出は繰り返せない」━その真意は次作が物語る。
🎞 Complete Music Video Collection (2005年7月5日リリース、MV集) ⭐名盤
⭐️ 4.0/5.0
📝 ほぼ全てのMVを年表順に収録しており、バンドの歴史を映像でトレースできる。94年の長髪&トレードマークのメッシュキャップ時代から、00年代のショートヘアへの変化を一気に追える。DexterとNoodlesのオーディオコメンタリーも聴き応えあり。「Hit That」はノーコメントということか?ライヴ映像は他のライヴ盤を圧倒する品質。
💿 Rise and Fall, Rage and Grace (2008年6月21日リリース、8thアルバム)
⭐️ 2.5/5.0
📝 Bob Rockの起用について、Noodlesは「変わりたかった」と語った。「O'Brienは曲から余計なものを削るのが上手い。Rockは逆に、何かを足すのが上手い」と。結果として本作はより多様でクリアな音色を持ち、従来のパンクサウンドに加えてバラードやオルタナ要素も取り入れてラジオ向けに仕上げた。しかし挑戦枠は悉く失速し、最後はGreen Dayに着地。The Offspring, Are You Doing Okay?
💎 Happy Hour! (2010年8月4日リリース、レア音源集)
⭐️ 3.5/5.0
📝 "飲み放題のキャンペーン"のようなタイトルの来日10回記念盤。(音質は及第点の)ライブ音源8曲、レアトラック・カバー曲が7曲、そして……リミックスが4曲。そう、あの「なぜこれを入れた?」と首をかしげたくなる誰得なリミックス群が、しっかり収録されている。Buzzcocksのカバー「Autonomy」は一聴の価値あり。
💿 Days Go By (2012年6月26日リリース、9thアルバム)
⭐️ 2.5/5.0
📝 パンクロック、ポップロック、レゲエ、マリアッチ、シンセポップ、パワーバラード……いい曲もあれば、「Cruising California」のように聴くに堪えない駄曲もある。Bob Rockの「足し算」プロデュースで、アルバム全体としての統一感は著しく損なわれている。そこに「シリアスなアーティスト」と「バカなパンクロッカー」の間で引き裂かれた40代のリアルを感じないでもない。
💿 Summer Nationals (2014年8月5日リリース、EP)
⭐️ 2.5/5.0
📝 Bad Religion、Pennywise、The Vandalsらと共に回った全米ツアーを記念してリリースされたファンサービス商品。『Smash』以来実に20年ぶりの非メジャーリリース。ただ突っ走るだけの「猛スピードのカバー集」になってしまっているのは残念だが、彼らなりにルーツを再確認する機会となった?
💿 Let the Bad Times Roll (2021年4月16日リリース、10thアルバム)
⭐️ 1.5/5.0
📝 Greg K.解雇という内部崩壊と、コロナ禍の社会的混乱が作風に出た。本作でもスケイトパンクを一応基調としており、ホーンセクションを取り入れたスウィングナンバー、クラシック曲のカバー、パワーバラードなどバラエティ路線。しかし、散漫でどれも弱い。また、ミックスが歪み、オートチューンが過剰で、全体として「聴きにくい」サウンドに仕上がっている。
💿 Supercharged (2024年10月11日リリース、11thアルバム)
⭐️ 2.0/5.0
📝 従来のハードコアパンクに近いトラックと、よりポップでキャッチーなトラックのバランスが取れているものの、目新しさはない。Bob Rockのクリアなプロダクションは前作より緩和されているものの、ヴォーカルのエフェクトとコーラスの過剰な重ね付けは曲によっては気色悪い。そして、同じようなテンポで同じようなギターリフが続くとこんなに短いのに飽きが来る。音楽もジャケットのようにメタリ化していた方がまだ面白かったかも。
🔥 まとめ
ここまで読んでくれた方は、The Offspringに対して何らかの感情を持っているはずだ。
最高のパンクバンドだったと思う人もいるだろう。途中から迷走したと思う人もいるだろう。あるいは『Americana』しか知らない人もいるかもしれない。
だが一つだけ確かなのは、The Offspringほど「大衆性」と「反抗精神」の両立に腐心したバンドはそう多くないということだ。
彼らは売れすぎた。
そして、自分たちが何者なのかを問い続ける羽目になった。
その答えが見つかったのかどうかは、正直今でもわからない。Bob Rockが伴侶で見つかるのかどうかも。
彼らのディスコグラフィーは面白い。成功の記録であると同時に、成功に振り回された記録でもあるからだ。
みなさんの好きなアルバムや思い出の曲があれば、ぜひコメント欄で教えてほしい。筆者もまたThe Offspringについて語り足りていない。