
「便利」を入れる前に、AIに全権限を渡していませんか。──Claude Code/Codex、導入初日に決める3つの線引き
AIの導入で事故が起きるのは、使い方が下手だからではなく、初期設定のまま使い始めるからです。「使わせたい」と「怖い」の間で判断が止まったまま、半年が過ぎていませんか。多くの社長が止まっているのも、知識不足ではなく、「どこまで任せるか」を決めていないからです。決めることは3つだけ。範囲を区切る、禁止を名指す、実行前に止める。この3つを導入初日に決めてしまえば、あとは安心して現場に渡せます。

なぜこのテーマか──「使わせたい」と「怖い」の間で止まる社長たち
顧問先で生成AIの話をすると、経営者の反応はだいたい同じところで止まります。「使わせたい」と「怖い」が同じ強さで並んでいて、どちらにも倒せない。この一年で何度も聞いた本音を、そのまま並べます。
- 顧客名簿まで読まれたら、と思うと踏み出せない
- 若手が勝手に入れていて、何をさせているか分からない
- 便利そうだが、うちに何が起きるのかを説明できない
- 事故が起きたとき、誰の責任になるのかを決めていない
四つを並べてみると、技術の話は一つも出てきません。全部「任せる範囲を決めていない」ところから来ている不安です。裏を返せば、範囲が決まった瞬間に、この四つは同時に軽くなります。
この四つは、根っこでつながっています。範囲を決めていないから何を読まれるか分からず、何をさせているか把握できず、社内に説明できず、事故が起きたときの責任も置き場所がない。順番に片付けようとすると手が止まりますが、上流の一つ──任せる範囲──を決めると、下の三つは自然に決まっていきます。

その手前で、よく聞く誤解も三つ片付けておきます。
一つめ、「AIは勝手なことはしないだろう」。頼まれれば、ファイルの削除も外部への送信もできます。止められるのは設定だけです。
二つめ、「詳しい人が見てくれているはず」。初期設定は"作業しやすさ"が優先されています。開発した側からすれば当然で、どの会社にとっても安全な初期設定というものは作れません。会社ごとに守るものが違うからです。安全は、各社が後から足すものです。
三つめ、「うちには盗まれて困るものはない」。見積、原価、顧客名簿、パスワード。商売の中身は、全部そのPCの中にあります。盗まれて困るのは技術やアイデアだけだと思われがちですが、実務でいちばん痛いのは、取引先の一覧と原価の数字です。
三つの誤解に共通しているのは、「うちは特別に安全だろう」という前提です。特別なのは、決めたかどうかだけです。危ないのはAIそのものではなく、何も決めていない状態です。
実体験──共有ドライブの直下で、若手がAIを全自動で回していた
ここからは、私が実際に呼ばれた現場の話です。なお、以下は複数の支援先で起きたことを1社のモデルケースとして再構成しています。数字も一例として読んでください。
業務用食材の卸売会社、社員は38名ほど。N社長は60歳を目の前にした方で、AIについては「若い連中が使っているらしい」という程度の距離感でした。実際に使っていたのは、営業事務の2年目の若手です。誰に言われたわけでもなく、自分でClaude Codeを入れて、見積書の下書きに使い始めていました。熱心で、悪気はまったくない。会社としては、むしろありがたい話です。
きっかけも、よくある話でした。見積の作成に一件30分ほどかかっていて、繁忙期には日に十数件。定時で終わるはずがありません。何かないかと自分で調べて、たどり着いたのがClaude Codeだった。上長には「便利なツールを試しています」と伝えていて、上長も「いいね、やってみて」と返していました。誰も嘘をついていないし、誰もサボっていません。ただ、どこまで任せるかを、誰も決めていなかった。
問題は、立ち上げていた場所でした。共有ドライブの直下。つまり、飲食店1,200件ほどの顧客名簿と、仕入原価表が同じ階層に並んでいる場所です。しかも「速いから」という理由で、確認なしの全自動で回していました。
ある日、その若手が青い顔で相談に来ました。見積テンプレートを直させたはずなのに、共有ドライブの奥にあった原価表の写しの数字が書き換わっていて、しかも誰がいつ何を指示したのかを追える記録もなく、若手本人にも「たぶんこう頼んだと思います」しか言えない状態だったのです。
幸い原価表の原本は別の場所にあって無事でした。ただ、話が社長のところに上がった瞬間に空気が変わりました。「何をさせているか分からない」「顧客名簿まで読まれていたんじゃないか」。その日のうちに、全面禁止の方向で話が進みかけました。
N社長から電話をいただいたとき、最初の一言は「うちは、もうAIは無理かもしれません」でした。声の感じで、本気で全面禁止に振ろうとしているのが伝わってきました。ただ、禁止に振ったところで、この若手が抱えている月末の見積の山は消えません。消えないから、また別のやり方でどこかに手を出します。禁止は、問題を見えないところへ移すだけです。
私が呼ばれたのはその翌日です。最初にお願いしたのは、実際に使っているPCを1台、その場で開いてもらうことでした。禁止するかどうかを机の上で議論しても、社長の手元には判断の材料が一つもないからです。

画面を開いてもらって最初に見たのは、若手がどのフォルダで作業を始めているか。次に、AIが何かを実行する前に確認を求めているか。この二点を見るだけで、危ないかどうかはだいたい分かります。この会社は、一つめが共有ドライブの直下で、二つめは何も確認していませんでした。危ないのが確定した瞬間ではありましたが、同時に、直すのは設定を三か所いじるだけだということも見えました。
社長と若手と私の三人で画面を見ながら、決めたのは60分で三つだけです。
一つめ、見積案件ごとにフォルダを作り、その中でだけ立ち上げる。若手に渡した一言は「作業するフォルダの中で立ち上げて。上の階層では立ち上げないで」。これだけです。
二つめ、名簿・原価表・パスワードの保管場所は、AIから「読めない」設定にする。原本は別の場所へ隔離し、必要な写しだけを案件フォルダに置く。
三つめ、消す・送る・公開するは人が押す設定を既定にして、最初の1か月は「提案だけさせる」段階から始める。
設定を変える実作業は、20分ほどで終わりました。残りの40分は、社長が「どこまでなら任せていいか」を口に出して確かめる時間に使いました。「見積の下書きは?」「いいと思います」「送信は?」「それは私か上長が押します」。こういうやり取りを十往復ほどしただけで、社長の顔つきが変わりました。分からないものは怖い。中身が見えて線が引けると、途端に扱える対象になります。
その日のうちに、あとで紹介する5項目の1枚ルールを、社長の言葉に直して配りました。面白かったのは若手の反応です。「禁止されると思っていました」と言って、翌週から堂々と使い始めました。線が引かれていなかったから、本人もどこまでやっていいのか分からず、こわごわ全自動で回していたわけです。
帰り際に社長が言った一言が、いまも耳に残っています。「怖かったのはAIじゃなくて、何も決めていない自分だった」。
三か月後にうかがったら、見積の作業時間は一件あたり30分から10分ほどに縮んでいました。ただ、社長がうれしそうに話していたのはその数字ではなく、若手が別の業務でも「これ、AIに下書きさせていいですか」と聞きに来るようになったことでした。聞きに来られる状態は、線が引けている証拠です。
私自身の環境も、同じ考え方で組んでいます。案件ごとにフォルダを分けて、「案件フォルダの中でしか立ち上げない」というルールを設定に書いています。上の階層から立ち上げてしまうと、一つの作業が別の案件のファイルまで読み書きできてしまうからです。
パスワードや接続キーの置き場所は、AIが「読めない」設定にしてあります。「見ないでね」で運用するつもりは、最初からありません。そして「消す・送る・公開する」の三つは、どれだけ急いでいても必ず私が押します。記事の公開ボタンも、メールの送信も、ファイルの削除も、AIは下書きと提案までで止まる設定です。いや、正確に言うと、止まる設定にしてあるから急いでいても私が押せている、という順番だと思います。
3つの線引き①──範囲を区切る:AIに見せてよい場所を1つに絞る
三つの線引きを、順番に説明します。
一つめは、範囲を区切ること。やることは単純で、「AIに見せてよい場所」を1つに絞ります。
船は、船体の中がいくつもの区画に仕切られています。防水隔壁と呼ばれるものです。だから、どこか1か所に穴が空いて水が入っても、船全体が沈むことはありません。仕切りのない一枚箱の船なら、小さな穴で全部が終わります。案件フォルダで区切るのは、これと同じ理屈です。操作を間違えても、被害はそのフォルダの中で止まります。
具体的に決めるのは四つです。
1. 案件ごとにフォルダを分け、その中で立ち上げる
2. デスクトップ全体・Cドライブ直下では立ち上げない
3. 共有ドライブは、必要な1フォルダだけをつなぐ
4. 私物PC・私物アカウントでは、仕事のデータを扱わせない
現場に渡す一言は、これで足ります。「作業するフォルダの中で立ち上げて。上の階層では立ち上げないで」。
ここで多いのが「共有ドライブを全部つながないと仕事にならない」という反論です。実際に一週間の作業を書き出してもらうと、必要なのは一つか二つのフォルダに収まります。全部つないでいるのは、必要だからではなく、切り分けたことが一度もないからです。
技術の話は、ここにも一つも出てきません。どこで立ち上げるかを決めるだけで、事故が起きたときの大きさが変わります。逆に言えば、ここを決めずに他をいくら固めても、水が入ってきたときに仕切る壁がないままです。

3つの線引き②──禁止を名指す:「見ないでね」はルールではない
二つめは、触らせないものを名前で書いて塞ぐことです。「重要なデータには気をつける」という書き方では、現場は動けません。何を、なぜ、どうやって塞ぐのかを、表にして貼ります。
| 触らせないもの | なぜ危ないか | どう塞ぐか |
|---|---|---|
| パスワード・接続キーの類 | 漏れた瞬間に被害。取り返しがつかない | 保管場所ごと「読めない」設定にする |
| 顧客名簿・人事・給与データ | 個人情報。事故なら報告義務が発生する | 別の場所へ隔離し、作業場所につながない |
| 会計・原価・見積の原本 | 価格が外に出れば商売そのものが崩れる | 原本は渡さず、必要な写しだけを置く |
| 本番システムの接続情報 | 誤操作ひとつで業務が止まる | 同じPCに置かない。試す場所と分ける |
現場に渡す一言は、少しきつめに言ったほうが伝わります。「"見ないでね"はルールではありません。設定で塞いでください」。
表を作るときのコツは、部署名や分類名ではなく、実在するファイル名・フォルダ名・システム名で書くことです。「顧客情報」と書いた表は、誰も使いません。「営業共有>得意先マスタ.xlsx」と書いた表は、その場で手が動きます。
注意の呼びかけは、忙しい日にいちばん先に忘れられます。設定は忘れません。ですから、口約束で守らせようとしている項目が一つでも残っていたら、その項目はまだ未対応だと考えてください。
3つの線引き③──実行前に止める:消す・送る・公開するは人が押す
三つめは、実行の前に人を挟むことです。「消す・送る・公開する」は、必ず人が押します。
任せ方は、三段階で考えると迷いません。
LEVEL1 提案だけさせる。 AIは案を書くだけで、実行は一切しない。導入して最初の1か月は、ここから始めるのが安全です。
LEVEL2 承認してから実行。 やることを先に提示させ、人がOKを出したものだけ実行する。通常運転は、ここを既定にします。
LEVEL3 確認なしの全自動。 削除も外部送信も止まりません。壊れても困らない練習用の場所だけに限ります。
経営者に覚えていただきたいのは、一行だけです。全自動は「速い」のではなく、失敗まで自動になるということ。
うまく回っている会社は、例外なくLEVEL2で普段の仕事を回しています。そしてLEVEL3を使う場所を、あらかじめ「ここだけ」と決めています。
段階を上げるタイミングも、先に決めておくと迷いません。LEVEL1で1か月回して、AIが出した案を大きく直した回数を数える。ほとんど直さずに済むようになったら、LEVEL2へ上げる。基準を先に決めておかないと、忙しい日に感覚で上げてしまいます。

三つの線引きは、3枚の壁だと思ってください。1枚でも抜けていれば、残りの2枚がどれだけ堅くても事故は起きます。範囲を区切っただけで承認を挟んでいない会社、承認は挟んでいるのに名簿が同じ場所に置いてある会社。どちらも、抜けている1枚から水が入ります。
実際に肝を冷やしている失敗5つ
私が現場で肝を冷やしたものを、五つ挙げます。
1. 「速いから」と全自動を常用する。 気づいたら、別のファイルまで書き換わっている
2. 出どころの分からない拡張・連携を足す。 その連携先が、作業中の中身を丸ごと読める
3. 拾ったURL・PDFの中身をそのまま処理させる。 文章に紛れ込んだ指示に、AIが従ってしまう
4. パスワードを会話欄に貼って渡す。 履歴やログに残り続け、あとから消せない
5. 退職者のアカウントと鍵が生きたまま。 誰も気づかないまま、入り口が開いている
五つとも、「詳しくないから」ではなく、線引きの一つが決まっていないだけで起きています。
最初の一歩──社長が60分で決める3つの線引き
では、何から始めるか。社長ご自身が、60分で三つを決めてしまうのがいちばん早いです。現場に「考えておいて」と振ると、たいてい半年戻ってきません。
最初に使うのは、社長が一人で壁打ちするためのプロンプトです。移動中の車の中で、音声入力で話しかけて構いません。うちの仕事とデータの置き場所を思い出しながら話せば、三つの表が返ってきます。
あなたは中小企業の情報管理を支援するコンサルタントです。
私は社員【 】名の会社の経営者です。これから、うちの仕事の内容と、
データがどこに置いてあるかを、思い出しながら話します。
【ここに話す/貼る:主な業務、日々扱う書類、データの保存場所(PC・共有ドライブ・
クラウド)、使っている業務システム、誰がどの端末を使っているか】
上の話をもとに、次の3つの表を作ってください。
表1「AIに見せてよい場所」:候補と選定理由。最後に1つだけに絞り、絞った理由を書く
表2「触らせないもの」:具体的な名前/なぜ危ないか/どう塞ぐか
表3「人が押す操作」:操作名/なぜ人が押すのか/代わりにAIにやらせること
最後に「明日、現場に渡す一言」を1行だけ、社員がそのまま覚えられる話し言葉で
書いてください。専門用語は使わず、中学生でも分かる言葉に直してください。出てきた三つの表は、そのまま完成品として扱わないでください。社長が「うちの言葉」に直したところから、現場で使える線引きになります。N社長の場合も、AIが出した表を一度ご自身で書き直してから配りました。
実践プロンプト集──現場と社員に配る4本
ここからは、現場と社員に渡す4本です。上から順に使えば、範囲・禁止・承認・点検の四つが埋まります。
まず範囲です。フォルダ構成を決める作業は、情報システムの担当者がいない会社ほど後回しになります。業務の種類とデータの置き場所を貼れば、設計案が返ってきます。
あなたは中小企業の業務フォルダ設計を担当する実務家です。
以下の情報から「AIに作業させる場所」の設計案を作ってください。
【ここに貼る:①主な業務の種類(例:見積作成、請求、採用、日報)
②データの保存場所(PC内・共有ドライブ・クラウドの構成)
③共有ドライブのフォルダ構成(分かる範囲で階層をそのまま)】
出力は次の4点。
1. 案件フォルダ構成案:階層をツリーで示し、各フォルダに「何を置くか」を1行
2. 共有ドライブでつなぐフォルダ:1つだけ選び、選んだ理由と、残りの扱い
3. 立ち上げてはいけない場所リスト:場所/もし立ち上げたら何が起きるか
4. 現場に渡す一言:20字以内の話し言葉で1行
前提:作業は必ず案件フォルダの中で始める。上の階層では始めない。出てきたツリーは、そのまま作らずに一度紙に書き写して、実際の業務の流れと合っているかを確認してください。流れと合っていないフォルダは、必ず使われなくなります。
次に禁止です。ここを推測で書くと、必ず漏れます。業種と使っているシステムの名前を入れて、具体名で洗い出させます。
あなたは中小企業の情報セキュリティを担当する実務家です。
私の会社で「AIに触らせないもの」を、推測ではなく具体的な名前で洗い出してください。
【ここに貼る:①業種と主な取引先の種類 ②使っている業務システム名(会計・販売管理・
給与など) ③データの保管場所(サーバー名・共有ドライブ名・クラウド名)
④社員数と担当者(役割だけでも可)】
出力は表1つ。列は次の5つ。
|触らせないもの(具体名)|なぜ危ないか|どう塞ぐか(設定・隔離・写しの作り方)
|担当者|期限|
並び順は「漏れたときの被害が大きい順」。
最後に、表のうち今週すぐ手を付けるべき3行を選び、理由を1行ずつ添えてください。
「見ないように注意する」といった、運用任せの対策は書かないでください。返ってきた表は、担当者と期限の列を埋めるまでが仕事です。埋まっていない行は、来月も同じ状態で残っています。
三つめは、社員に配る1枚です。難しい説明はいりません。5項目のチェックだけで、社内の合意はだいたい取れます。
■ AIを使うときの5つの約束( 株式会社)
作成日: 年 月 日 / 決めた人:
- [ ] 1. 起動する場所:案件フォルダの中だけで立ち上げる
うちの会社では:
- [ ] 2. 見せない物:鍵・名簿・会計データは、設定で塞いである
うちの会社では:
- [ ] 3. 承認のしかた:消す・送る・公開するは、人が押す
うちの会社では:
- [ ] 4. 足す連携・拡張:誰がいつ入れたか分かるものだけにする
うちの会社では:
- [ ] 5. 記録と見直し:使った記録を残し、月に1回見直す
うちの会社では:
困ったとき・迷ったときの連絡先: (内線 )
「これは触っていいのか」で迷ったら、押す前に必ず上に相談する。この雛形は、必ず自社の言葉に直してから配ってください。「うちの会社では」の行が空欄のまま配られた1枚は、読まれません。
最後は、月に1回の点検です。線引きは、引いた日から緩みます。さきほどの失敗5つを、そのまま点検項目にしてあります。
■ AI設定の月次点検シート( 年 月 日/記入者: )
1. 全自動のまま使っている作業はあるか □なし □ある →( )
2. 先月から足した連携・拡張はあるか □なし □ある →(誰が/いつ/何を)
3. 外から拾ったURL・PDFをそのまま処理させたか □なし □ある →( )
4. 会話欄にパスワードを貼った人はいるか □なし □ある →(対応: )
5. 退職者・異動者のアカウントと鍵は止めたか □済 □未 →(対象: )
--- ここまで記入したら、下の依頼文と一緒にAIへ渡す ---
あなたは中小企業のリスク管理を支援する実務家です。
上の点検結果を読み、直す順番を決めてください。
出力は表1つ。列は「直すこと/放置したときに起きること/作業量の目安/
今月やる・来月でよい」の4つ。
並び順は「放置したときの被害が大きい順」。
最後に、今月やる3件を1行ずつでまとめてください。点検そのものは、朝礼の5分でも回ります。大事なのは、点検結果をAIに渡して「直す順」まで出させることです。順番が決まっていない改善リストは、そのまま放置されます。
変化──「何も決めていない状態」から「5つの設定」へ
線引きの前と後で、何が変わるか。N社長の会社で起きた変化は、この1枚に集約されます。
| # | 決めること | 「はい」と言える状態 |
|---|---|---|
| 1 | 起動する場所 | 案件フォルダの中だけで立ち上げている |
| 2 | 見せない物 | 鍵・名簿・会計データは、設定で塞いである |
| 3 | 承認のしかた | 消す・送る・公開するは、人が押している |
| 4 | 足す連携・拡張 | 誰がいつ入れたか分かるものだけにしている |
| 5 | 記録と見直し | 使った記録が残り、月に1回、見直している |
五つとも「はい」と言えれば、まず大きな事故は起きません。この1枚をそのまま配れば、社内の合意はだいたい取れます。
前は、社長が「何をさせているか分からない」と言い、若手が「禁止されるかもしれない」と思いながら隠れて使っていました。今は、社長が線を引いて、若手が堂々と使っています。同じ道具、同じ社員で、変わったのは決めたかどうかだけです。
変わったのは、社内の会話の質でもありました。以前は「AIって危ないんでしょ」で終わっていた話が、「この作業はLEVEL2でいいと思います」という具体的なやり取りになりました。共通の言葉ができると、社長が全部を見なくても、現場が自分で線の内側かどうかを判断できます。
もう一つの変化は、AIの話が経営会議の議題に上がるようになったことでした。禁止か解禁かの二択で議論していたときは、結論が出ないから議題にすらならなかったのです。
逆に、変わらなかったこともあります。若手のやる気も、社長の慎重さも、そのままでした。変えたのは、設定の三か所と、決め方だけです。

経営者へのメッセージ──危ないのはAIではなく、決めていない状態
技術に詳しくなる必要はありません。詳しい社員がいなくても構いません。社長が決めなければならないのは、どこで作業させるか、何を触らせないか、どのボタンを人が押すか。この三つだけで、事故が起きたときの大きさが変わります。
よく「うちの規模でそこまでやる必要があるのか」と聞かれます。むしろ、規模が小さいほど一人が触れる範囲が広いので、線を引く効果は大きくなります。社員数百名の会社なら部署ごとに壁がありますが、38名の会社では、営業事務の一人が全社のデータに手が届いてしまう。壁がない分、線引きがそのまま効きます。
そして、この三つは今日決められます。導入の前でも、もう使い始めていても、遅くはありません。
逆に、線を引かないまま「様子を見る」判断を続けている間も、若手はどこかで使い続けています。禁止という結論は、いちばん見えないところで使われ始める合図でもあります。だから私は、顧問先で「まず線を引きましょう」とお願いしています。禁止も解禁も、線がないままでは決められないからです。
締め
防水隔壁を持つ船は、穴が空くことを前提に設計されています。空かない船を目指すのではなく、空いても沈まない船を作る。AIを仕事に入れるときの考え方も、それでいいと思っています。
余談ですが、私はこの隔壁の話を造船の本で読んで以来、フォルダを一つ切るたびにあの絵を思い出しています。
三つの線引きを引いたところから、AIは「怖いもの」から「任せられる道具」に変わります。範囲を区切って、禁止を名指して、最後のボタンを人が押す。これだけ決めて、あとは現場に任せてください。

朝、出社した若手が、何も気にせずAIを立ち上げる。社長は、その様子を見て何も心配しない。そういう朝は、三つの線を引いた翌週から来ます。若手はきっと、その日を待っています。
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AIが戦争を始めて、負けた。権限を渡す前に経営者が決めておくこと
https://note.com/comix_ceo162230/n/nc174c150ee5b
「全部私が確認する」が、いちばん危ない。
https://note.com/comix_ceo162230/n/n4b9ccca9dacf
AIを採用したのに、机も就業規則も渡していなかった。──Claude Codeの性能を最大化する10の設定
https://note.com/comix_ceo162230/n/n3a2ebe2a97bd
鈴木章裕
株式会社コミクス 代表取締役