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団地綺譚 葬送と再生の境界 第9話 大人の社工場

    #創作大賞2026  
    #ファンタジー小説部門

    ◇小説の紹介
     昭和40年代、子供の頃に過ごした団地とその周辺を舞台に、猫や車、時代のガジェットたちの記憶を織り交ぜながら、ファンタジー小説として紡いでいきます。どうぞお付き合いください。

    あらすじ、目次、登場人物紹介はこちら

    歓迎会は大人の社工場という店らしい。
    団地の中の商店街にそんな店あったのか?

    そういえばトラックの宣伝カーに、大人の社工場で稼いでみませんかというラッピングの車とすれ違うことがあった。

    社交場ではなく、社工場・・・
    JDL地方の大企業の二次、三次の下請け工場が無数にあるが、関係あるのかな。

    「課長、我々二人だけですか?」

    「ほだほだ」

    富江は留守番らしい。
    何しろまだ業務時間内だ。

    団地の商店街の入り口の角に大人の社工場がある。
    昔は集会場だったその場所でやってた英語の塾に通ったっけなあ。無意識に先生に舌打ちしてしまってこっぴどく叱られたっけ。

    うーむ。なんとも若気の至りだ・・・

    入り口は集会場らしくガラス扉だったが、今では中が全く見えないように派手なポスターだらけとなった扉を開ける。するとギシギシ、ガシャンと機械が唸る音が飛び込んでくる。

    何?工場じゃないか・・・

    みると工作機械に埋もれて長いカウンターがあり、機械の間で飲んでいる異邦人たちがいる。

    「これが社工場ですか?」

    「ほだほだ、これが大人の社工場じゃん。」

    うーむ、機械オイルの匂いの中で酒が飲めるの?か

    「課長サン!」

    みると、カウンターに座って富江が手招きしてる。あれ!?留守番はどうした。

    「飲も飲も」

    富江は汗ひとつかかず、涼しい顔だ。どうやって先回りしていたのか?彼女だけが知る近道でもあるのか?

    手招きされて店の中へ進む。

    それにしても不思議なインテリアだ。工作機械が所狭しとセットされて、その間で飲む格好だ。

    なぜか富江が工作機械の一部としか思えないタンクから生ビール注いでくる。飲めるのか?エンジンオイルじゃないのか。

    課長は嬉しそうに生ビールを受け取る。
    本当に富江が大好きなんだな。

    「はいどうぞ」

    富江が生ビール渡してくる。

    「あれ、手袋が手袋が黒く汚れている。」

    「あ、機械に触っちゃった!」

    と笑いながら、富江が手袋のまま人差し指で腕をすーっと引っ掻いた。

    「いた!」

    「意地悪」

    虚を突かれて、まじまじと富江をみる。
    富江はイタズラっぽく笑って

    「ささ、乾杯しよ!」

    「ようこそ池鯉団地へ!かんぱーい!」

    課長と富江は、駆けつけ三杯なのか、グイグイ飲んでいる。これは課長の行きつけの店だな。

    課長と飲んでる富江は、なんだかいつもの富江と違う。あ、課長に、しなだれかかってる・・・ぐいっと生ビールを飲み干す富江。飲むと人格が変わるタイプなのか。

    こちらも負けじと呑む。ちょっと抱いた疑問が酒とともに溶けて行く。さっきのレースの興奮で、高ぶっていた気持ちも一気にフラットになる。

    「それにしてもお前の車」

    「え、銀狼ですか」

    「あの大型ダンプを振り切るんだから、大したものじゃん」

    「いやいや、あれぐらい」

    「いやあ、あれなら十分駆け抜けられる・・・」

    「え、なんですか」

    課長はそれには答えず、ぐいっとビールを飲み干した。
    確かに今日の銀狼は、絶好調だった。
    うなりをあげて迫る大型ダンプに全く怯みもしない。これなら銀狼と思う存分に走れそうだ。単身赴任も楽しいな。

    店内には昼間なのに、かなりの異邦人が飲んでいて、その間を何人かの黄色いツナギの女性が飲み物を持って廻っている。

    「え、ガラ子!」

    あのガラ子がツナギのまま、廻っていると思ったが、ツナギの女性が皆、ガラ子に見える。だがよく見ると微妙に違う。正直、異邦人の顔は見分けがつかない。

    実家で会ったのもガラ子じゃないのか。

    ガラ子と造成地で、遊んだ頃を思い出す。
    そう土まみれで遊んだ日々。
    ガラ子は命じる。子分の子供たちは走り回る。

    かき集めてきたダンボールで秘密基地ができると、戦争ごっこが始まる。ガラ子の号令で走り回る子分たち、全くガラ子はボスとして頼もしかった。

    昔の思い出に浸りながら杯を開けるたびに、全てのモヤモヤが溶けて行くようだ。
    工作機械に囲まれて、機械オイルくさいところで呑むのは、男臭いハードボイルド風で一興だ・・・・

    ーーーかなり調子に乗って杯を空けてしまった・・・

    気づくと、辺りが暗い。
    いつのまにか、店の外に出たようだ。

    店の前には商店に囲まれた公園があって、昔は植栽が植わっていたが、今では土がむき出しとなってしまっている。その土の感触が、なんとも生暖かい。

    「え」

    思わず起き上がる。
    なんとガラ子に膝枕されていた。

    どうしてガラ子に!
    気が動転して立ち上がる。

    「おーい、どうした」

    見ると真っ赤な顔の課長が、黒猫を抱いて立っている。

    「今、ガラ子に・・・」

    「何を言っとる」

    見るとガラ子はいない。
    膝枕だと思ったのは土饅頭だった。
    膝のように二つに盛り上がっている。

    「寝ぼけとる
     意外に酒が弱いな」

    「週末のコンペまでに酒抜いとけよ」

    「週末、あ、明後日?」

    「男の命を賭けた勝負だぞ!」

    思い出した。週末は課長とゴルフコンペだった!

    課長はいい気分で暗闇に消えていった。
    酔いと共に、後頭部に、土の、というより指のような温もりが残っていた。

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