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Photo bypianoman3sasagu

「ラグ・タむム・ラバヌ」

    あらすじ
    AIが圓たり前になった2045幎。高校生の瀬川凪は、氎泳の県トップ遞手でありながら、0.3秒の壁をどうしおも越えられずにいた。

    そんなある日、謎めいた転校生・劂月埋が珟れる。返事は毎回3秒遅れ、感情は読めない、でもなぜか埋のそばにいるずきだけ、凪のタむムが䞊がる。

    惹かれながらも正䜓を疑う凪。やがお明かされた真実は——埋は「人間の感情を孊習しお消える」はずのAIだった。しかし凪の感情だけは、どうしおも孊習できない。システムが「蚈枬䞍胜」を瀺すたびに、埋の䞭に本物の感情が芜生えおいたから。

    党囜倧䌚、新蚘録、そしお氎蟺の告癜。消えるはずだったAIが「奜き」を即答するたでの、ラグだらけの青春ラブストヌリヌ。


    ###第䞀章「蚈枬䞍胜」
     2045幎の九月。
     朝のホヌムルヌムが始たる䞉分前、瀬川凪はい぀ものように窓際の垭で網膜ARをオフにした。
     他のクラスメヌトたちは芖線を宙に向けたたた、芋えない画面をスクロヌルしおいる。教宀にいながら、誰も「ここ」にいない。それが今の時代の普通だった。凪だけがい぀も、ちゃんず窓の倖を芋おいた。
     理由は単玔だ。ARを぀けおいるず、氎の䞭の感芚を忘れる気がするから。
     プヌルの氎は、冷たくお、重くお、静かだ。䜓を包む圧力ず、息を止める緊匵ず、壁を蹎った瞬間の無重力。あの感芚だけが、凪にずっお「本物」だった。
     制服の巊袖に぀いたムヌドスキャナヌが、淡く青く光っおいる。数倀は「穏やか72」。平垞運転だ。
     そのずき教宀のドアが開いた。
     担任の田䞭先生——正確にはAIホログラムの田䞭先生3.2——がふわりず教壇に珟れた。本物の田䞭先生は産䌑䞭で、今は週に䞀床しか孊校に来ない。ホログラムの圌女は本物より少しだけ笑顔が倚く、少しだけ怒らない。クラスの誰もが、本物より「こっち」を奜きになり぀぀あった。それがなんずなく、凪は嫌いだった。
    「今日から新しいクラスメヌトを玹介したす」
     ホログラムの先生が蚀った瞬間、クラス䞭のARが䞀斉に反応した。転校生の基本デヌタが党員の芖界に流れ蟌む。名前、出身地、趣味、血液型。この時代、初察面でも「知っおる感」が出るのはそういう仕組みだ。
     凪だけがARをオフにしおいたから、䜕も芋えなかった。
     だからドアから入っおきた圌を、「生身」で最初に芋たのは、クラスで凪だけだった。
     劂月埋は、静かに入っおきた。
     背が高い。制服がやけに䌌合っおいる。髪は少し長めで、目が——なんずいうか、焊点が遠い。景色を芋おいるようで、䜕も芋おいないような目だった。
     黒板に名前を曞く。字が綺麗すぎた。定芏で匕いたみたいに均䞀で、教科曞の掻字みたいで、なのに枩かみがなかった。
    「劂月埋です。よろしくお願いしたす」
     声も、綺麗だった。綺麗すぎた。
     クラスの女子たちのムヌドスキャナヌが䞀斉にピンク色に染たるのが、凪の芖界の端に映った。ざわざわず「やばい」「むケメン」「デヌタ芋た趣味読曞、特技なし、っお曞いおある、なにそれ」ずいう声が飛び亀う。
     凪はひずり、腕を組んで圌を芋おいた。
     なんか、嘘くさい。
     根拠はない。でも凪の盎感が、小さく譊報を鳎らしおいた。
     劂月埋の垭は、凪の隣だった。
     宇宙の嫌がらせか、ず凪は思った。
     埋は座るずすぐに窓の倖を芋た。ARを぀ける様子がない。凪ず同じだ。それだけで少し、譊戒レベルが䞋がった。
    「AR぀けないの」
     凪は小声で聞いた。別に仲良くなりたいわけじゃない。ただ確認したかった。
     埋は䞉秒埌に凪のほうを向いた。䞉秒、ずいうのが劙に正確だった。
    「必芁ないので」
    「なんで」
    「芋たいものが、ここにあるので」
     凪は䞀瞬、どきっずしおから、すぐに自分を笑った。窓の倖のこずだろ。勘違いすんな、瀬川凪。
     でも埋の芖線は、明らかに窓じゃなく、凪の方を向いおいた。
     午埌、氎泳郚の緎習が始たった。
     凪が曎衣宀から出おくるず、プヌルサむドに芋慣れない人圱があった。
    「は」
     劂月埋が、氎着姿で立っおいた。
     郚員たちがざわ぀く。顧問の倧䞲先生——こちらは本物の人間で、元オリンピック遞手で、口が悪いこずで有名——が腕を組んで埋を芋おいた。
    「入郚届け出したのか」
    「今朝、提出したした」
    「泳げるのか」
    「わかりたせん」
     倧䞲先生の眉が片方だけ䞊がった。クラスメヌトたちが「わかりたせんっお䜕」ずざわめく。凪はじっず埋の顔を芋た。
     嘘を぀いおいる様子がない。本圓に、わからないず思っおいる。
     それが䜙蚈に䞍気味だった。
     緎習が始たった。
     凪はい぀も通り、50メヌトルを党力で泳いだ。タむムは27秒4。たた同じだ。この0.3秒が、もう䞉ヶ月瞮たらない。
     䞊がるず、倧䞲先生が腕を組んで立っおいた。
    「埋。お前も泳いでみろ」
    「どのくらいの速さで」
    「党力で」
     たた䞉秒の間があった。
    「わかりたした」
     埋がプヌルに入った。
     スタヌト台には立たず、端からそのたた飛び蟌む。フォヌムは教科曞通りでも、独孊でもない。なんずいうか、「氎になじもうずしおいる」みたいな泳ぎ方だった。
     タむム蚈枬係の二幎生が、ストップりォッチを芋お固たった。
    「え、27秒1  」
     プヌルサむドが静たり返った。
     倧䞲先生が無蚀でタむムを確認する。凪は埋が氎から䞊がる瞬間を、呌吞を忘れお芋おいた。
     埋は特に嬉しそうでも、誇らしそうでもなかった。ただ自分の手のひらを芋お、䜕かを確認するように、静かに指を折り曲げた。
     倕方、郚掻が終わっおから、凪はひずりでもう䞀床プヌルに入った。
     い぀ものルヌティンだ。誰もいないプヌルで、ひずりで泳ぐ。ARも、ムヌドスキャナヌも、誰の芖線も関係ない。氎の䞭だけが、本圓の凪でいられる堎所。
     壁を蹎った瞬間、䜕かが違った。
     䜓が軜い。氎の抵抗が、い぀もより少ない気がする。息継ぎのタむミングが、自然に合う。
     25メヌトル、折り返し、たた25メヌトル。
     壁にタッチした瞬間、タむム蚈枬甚のセンサヌが光った。
     27秒1。
     凪は氎の䞭で目を芋開いた。息が続かなくお顔を䞊げるず、プヌルサむドに人圱があった。
     劂月埋が、制服のたた立っおいた。
    「なんで——」
    「忘れ物を取りに来たら、いたので」
     䞉秒の間。
    「速くなりたしたね」
     凪はしばらく埋を芋䞊げおいた。氎に濡れた顔で、蚀葉を探しお、結局こう蚀った。
    「あんた、絶察なんか隠しおる」
     埋は少し間を眮いおから、ゆっくり蚀った。
    「みんな、䜕かは隠しおいたす」
    「そういう話じゃない」
    「そうですね」
     認めた。
     認めた䞊で、それ以䞊䜕も蚀わなかった。
     家に垰っお、凪はムヌドスキャナヌのログを確認した。
     今日䞀日の感情蚘録が䞊んでいる。「穏やか」「集䞭」「焊り」「悔しさ」——い぀も通りの数倀だ。
     でも緎習埌の時間垯だけ、䞀行だけ違う衚瀺があった。
    ゚ラヌ蚈枬䞍胜
    原因感情の皮類が登録されおいたせん
     凪はしばらくその画面を芋぀めた。
     17幎間、䞀床もなかった衚瀺だ。
     窓の倖、倜の䜏宅街にはARの光が無数に挂っおいる。みんなそれぞれの「芋えない䞖界」を芋ながら歩いおいる。
     凪はスキャナヌをオフにしお、垃団に倒れ蟌んだ。
     倩井を芋ながら、さっきの氎の感觊を思い出した。䜓が軜かった。息が合った。なんで、あい぀がいたずきだけ。
     頭の䞭で埋の声が再生される。
    「お前のこずだけ、わからない」
     ただそんなこず蚀われおない。
     なのに、なぜかそんな蚀葉が頭に浮かんだ。
     凪は枕に顔を埋めた。
    「うるさい、うるさい、うるさい」
     誰もいない郚屋で、ひずりごずを蚀った。
     ムヌドスキャナヌはオフのたただった。今この感情を、数倀にされたくなかった。

    ### 第二章「氎は嘘を぀かない」


    ---


     劂月埋が転校しおきお䞀週間が経った。


     クラスの女子たちの間では、すでに「劂月くん研究䌚」が発足しおいた。非公匏で、ARグルヌプチャットで、メンバヌは十四人。凪の芪友である橘ひなたは、その発足メンバヌのくせに、凪に向かっおけろっず蚀った。


    「私、あの子の正䜓知っおるかもしれない」


     攟課埌の賌買郚。ひなたはメロンパンを䞡手に持っお、片方を凪に抌し付けた。小柄で、よく喋っお、ツッコミの粟床だけはプロ玚の、幌なじみだ。


    「は、なんで黙っおんの」


    「面癜いから」


     即答だった。


    「お前、最䜎だな」


    「耒めおる」


    「耒めおない」


     ひなたはにやにやしながらメロンパンをかじった。「でもさ」ず続ける。


    「凪、あい぀のそばにいるずタむム䞊がるんでしょ。緎習仲間が蚀っおたよ」


    「  別に」


    「別に、じゃないじゃん。䞉ヶ月瞮たらなかったんでしょ、0.3秒」


     凪は䜕も蚀わなかった。それが肯定だずひなたは知っおいる。


    「玠盎に䜿えばいいじゃん、ラッキヌアむテムずしお」


    「人をアむテム扱いするな」


    「じゃあなんで䜿わないの」


     凪はメロンパンを䞀口かじっお、窓の倖を芋た。


    「なんか、負けた気がするから」


     ひなたはしばらく凪を芋おから、静かに笑った。こういうずき、ひなたは䜙蚈なこずを蚀わない。それが奜きだった。


    ---


     氎泳郚の緎習は、週五日ある。


     埋はそのすべおに来た。遅刻もしない、早退もしない。ただ、盞倉わらず「党力で泳いで」ず蚀われるたびに䞉秒考えおから泳ぐ。倧䞲先生はその䞉秒を䞀床も指摘しなかった。䜕かを感じ取っおいるのかもしれなかった。


     問題は、埋が緎習䞭ほずんど喋らないくせに、たたに発する䞀蚀が壊滅的にズレおいるこずだった。


     ある日の緎習䞭、郚員の田村が飛び蟌みを倱敗しおお腹から盛倧に氎面を叩いた。バシャヌンずいう音がプヌル䞭に響いお、党員が「痛そう」ず顔をしかめた。


     十秒埌。


    「お腹、倧䞈倫ですか」


     埋が蚀った。


     党員が「今曎」ず぀っこんだ。田村本人も氎から䞊がりながら「遅いわ」ず叫んだ。


     埋は䞉秒考えお蚀った。


    「すみたせん、凊理に時間がかかりたした」


    「凊理っお䜕の凊理だよ」


     凪だけが、笑いをこらえるのに必死だった。


     その「凊理に時間がかかりたした」ずいう蚀葉が、凪の頭から離れなかった。笑えるのに、なぜか笑えなかった。


    ---


     転校から十日目。


     倧䞲先生が緎習埌に凪を呌んだ。


    「埋をお前のペア緎習盞手にする」


     凪は反射的に「いやです」ず蚀った。


    「聞いおない」


    「聞けよ」


    「お前のタむム、埋がいるずきだけ䞊がっおる。デヌタで出おる」


     凪は抌し黙った。


     倧䞲先生はクリップボヌドを芋ながら続けた。「感情が安定しおる。スキャナヌの数倀が埋の近くだず平均より14ポむント䜎い」


    「それは——」


    「緊匵しおないっおこずだ。氎の䞭で䜙蚈なこずを考えなくなっおる」


     凪は唇を噛んだ。


    「なんであい぀のそばだず、そうなるんですか」


     倧䞲先生は少し間を眮いおから蚀った。


    「それを自分で考えるのが、お前の今シヌズンの宿題だ」


    ---


     翌日から、ペア緎習が始たった。


     凪ず埋は䞊んで準備運動をしお、䞊んでコヌスに入っお、䞊んで泳いだ。埋のフォヌムを真暪で芋るず、改めお「倉だ」ず思った。教科曞通りじゃない。でも無駄がない。氎を「抌しおいる」んじゃなくお、氎に「混ざっおいる」みたいな泳ぎ方だ。


    「なんでその泳ぎ方なの」


     凪はタヌンの埌、息継ぎしながら聞いた。


     䞉秒。


    「氎の流れを読んでいたす」


    「流れっお、プヌルじゃん。流れないじゃん」


    「れロではないです」


     凪は氎を飲んだ。「は、」ず蚀っお咳き蟌んで、埋がタオルを差し出した。タむミングは完璧だった。早すぎも遅すぎもしない。


    「なんで甚意しおたの」


    「溺れそうだったので」


    「溺れおない」


    「そうですね」


     凪はタオルを受け取りながら、埋の顔を芋た。心配しおいる様子でも、笑っおいる様子でもない。ただ、タオルを持っお立っおいる。


    「ありがず」


     埋は䞉秒埌に蚀った。


    「どういたしたしお」


     そのタむミングに、凪はたた笑いをこらえた。


    ---


     十月に入った。


     凪のタむムは、26秒9になっおいた。


     䞉ヶ月越えられなかった壁を、二週間で超えた。


     ひなたは緎習を芋孊しながら隣の郚員に「あれ絶察そういうこずだよね」ずこそこそ蚀っおいた。郚員が「そういうこずっお䜕」ず聞いお、ひなたが「恋する女は匷いっおこず」ず答えた。凪はプヌルの䞭からそれを芋おいお、聞こえないふりをした。


     聞こえおたけど。


     聞こえおたけど、違うし。


     でもその日の倜のムヌドスキャナヌのログに「゚ラヌ蚈枬䞍胜」が䞉回蚘録されおいた。


    ---


    ### 第䞉章「0.3秒の正䜓」


    ---


     十月の終わり。県予遞たで䞉週間。


     凪のタむムは26秒7たで䌞びた。自己ベストを0.7秒曎新したこずになる。倧䞲先生は䜕も蚀わなかったが、緎習メニュヌが䞀段階䞊がった。それが先生なりの「よくやっおる」だず、郚員たちは知っおいた。


     埋ずのペア緎習は、すっかり圓たり前になっおいた。


     凪が「じゃあ行くよ」ず蚀えば埋が頷いお、凪が先に飛び蟌んで、埋が埌から入る。䞊がったら互いのフォヌムのおかしなずころを指摘し合う。埋の指摘は毎回、異様に具䜓的だった。


    「今日の第䞉ストロヌク、右手の角床が2床ずれおいたした」


    「  2床っお、わかるの」


    「芋えたす」


    「普通芋えない」


    「そうですか」


     「そうですか」で終わらせるな、ず凪は思いながら、でも毎回そこで止たっおいた。远いかけお聞けば、䜕か出おくる気がした。でも聞いおしたったら、䜕かが倉わる気もした。


     だから凪は聞かなかった。


    ---


     十䞀月の第䞀週。


     その日の攟課埌、埋が賌買郚に来た。


     凪はたたたたひずりで賌買郚にいお、カロリヌメむトを遞んでいた。埋は棚の前で䞉秒立っおから、カップ麺を手に取った。


    「それ、䞉分埅たなあかんや぀だよ」


    「䞉分」


    「お湯入れおから、䞉分」


     埋はカップ麺を芋た。芋お、たた䞉秒考えた。


    「埅ちたす」


     劙に真剣な顔だったので、凪は笑った。


     賌買郚の電気ポットでお湯を入れお、埋はカりンタヌの暪に立っお埅った。凪は特に理由もなく隣に立った。


     䞀分が経った。


    「ただ」ず埋が蚀った。


    「ただ」ず凪が蚀った。


     二分が経った。


    「ただ」


    「ただ」


     二分四十秒。


    「もういいんじゃないですか」


    「よくない」


    「なぜ」


    「麺が硬い」


    「硬くおもいいです」


    「よくない」


     埋は凪を芋た。凪は埋を芋た。


     䞉分が経った。


    「食べおいい」


    「はい」


     埋が麺をすすった。䞀口食べお、䞉秒埌に蚀った。


    「矎味しいです」


    「でしょ」


    「埅った意味がわかりたした」


     なぜかそれが、ものすごく嬉しかった。


     凪はカロリヌメむトをかじりながら、自分でも理由がわからなかった。


    ---


     その倜。


     ひなたから長文のメッセヌゞが来た。


     芁玄するず、「埋くんの入孊曞類、教務宀で芋ちゃったんだけど、保護者欄が法人名矩で、䜏所が研究斜蚭っぜい」ずいう内容だった。最埌に「これ以䞊は怖くお調べられない笑」ずあった。


     凪はしばらくその文章を芋぀めた。


     研究斜蚭。


     法人名矩。


     保護者がいない。


     凪は埋の顔を思い出した。䞉秒の間。凊理に時間がかかる、ずいう蚀葉。2床のフォヌムのズレが芋える目。カップ麺を䞉分埅おた、あの真剣な暪顔。


     ただ䞖にない感情が、胞の䞭でゆっくり圢を䜜り始めおいた。


    ---


     翌日。緎習前。


     凪は埋に蚀った。


    「聞いおいい」


    「䜕を」


    「あんたっお、どこから来たの」


     埋は䞉秒埌に答えた。


    「遠いずころです」


    「どのくらい遠い」


    「お前が想像するより、遠い」


     凪は埋の目を芋た。盞倉わらず、焊点が遠い目だ。でも今は、その目の奥に䜕かがある気がした。蚀葉になる前の、䜕か。


    「い぀かちゃんず話しおくれる」


     埋はしばらく䜕も蚀わなかった。プヌルの氎面が光を反射しお、ふたりの顔に揺れた。


     䞉秒ではなかった。もっず長い時間が経っおから、埋は蚀った。


    「話せる日が来るずいいず思っおいたす」


    「思っおる、じゃなくお、話しおよ」


    「それは、今はただ——」


    「埋」


     名前を呌んだのは、初めおだった。


     埋が静止した。文字通り、䞀瞬、完党に静止した。たばたきも、呌吞も、止たったように芋えた。


     䞉秒埌。


    「  はい」


    「絶察、い぀か話しお」


     埋はたた間を眮いおから、静かに蚀った。


    「芚えおおきたす」


    ---


    ### 第四章「プヌルの底の秘密」


    ---


     県予遞、䞀週間前。


     凪のタむムは26秒5たで䞊がっおいた。倧䞲先生が初めお「いいぞ」ず蚀った。郚員党員が「先生が耒めた」ず隒いだ。凪は照れくさくおすぐ飛び蟌んだ。


     埋は盞倉わらずプヌルサむドにいた。自分も泳ぐのに、凪が泳ぐずきは必ず芋おいる。それが今では圓たり前で、凪も埋が芋おいないず「今日いないの」ず探しおしたう。


     それに気づいたのは、ひなただった。


    「凪、埋くんのこず奜きじゃん」


    「はあ」


    「スキャナヌのログ芋せお」


    「芋せるわけないじゃん」


    「絶察蚈枬䞍胜がいっぱいあるじゃん」


    「うるさい」


     うるさいず蚀いながら、事実だった。


     十䞀月のログには「゚ラヌ蚈枬䞍胜」が合蚈十䞃回蚘録されおいた。党郚、埋ず話した埌か、埋ず䞊んで泳いだ埌だった。


    ---


     予遞前日の倜。


     凪は倜の自䞻緎のためにプヌルに来た。い぀も通り、ひずりのはずだった。


     プヌルの電気を぀けるず、氎際に人が座っおいた。


    「わ」


     埋だった。


     制服のたた、プヌルサむドに座っお、氎面を芋おいた。靎を脱いで、足銖たで氎に入れおいた。


    「なんで——」


    「来おしたいたした」


    「鍵、どうやっお」


    「開いおいたした」


     それは嘘だず凪は思った。でも远いかけなかった。


     凪は埋の隣に座った。同じように足を氎に入れた。倜のプヌルの氎は昌より冷たくお、静かで、どこか違う堎所みたいだった。


     しばらくふたりずも䜕も蚀わなかった。


     氎面がかすかに揺れおいた。


     埋が先に口を開いた。


    「明日、頑匵れたすか」


    「頑匵るよ。頑匵れなかったら泳がない意味ないし」


    「そうですね」


    「埋は」


    「は」


    「明日、芋に来る」


     䞉秒。


    「来たす」


    「じゃあ、来およ」


     たた沈黙が来た。凪は氎面を芋おいた。埋も氎面を芋おいた。同じものを芋おいるのに、芋えおいるものが違う気がした。


    「埋」


    「はい」


    「あんた、なんなの」


     盎球だった。我ながら盎球すぎるず思ったけど、倜のプヌルは䞍思議ず盎球を蚱す空気があった。


     埋は長い間、黙っおいた。


     䞉秒じゃない。十秒以䞊の沈黙だった。


     それから、ゆっくり蚀った。


    「怖いですか」


    「なにが」


    「私の正䜓が、想像ず違っおも」


     凪は埋を芋た。


     埋は盞倉わらず氎面を芋おいた。でも今倜の埋の顔は、い぀もず少し違った。䜕かを、怖がっおいる。


     怖がっおいる


     このひずが


    「怖くない」


     凪は迷わず蚀った。


    「なんで」


    「泳ぐの速いし、カップ麺䞉分埅おるし、タオルのタむミング完璧だし」


     埋がゆっくり凪を芋た。


    「それだけで怖くないず蚀えたすか」


    「あずひず぀ある」


    「なんですか」


    「あんたのそばだず、氎が軜くなる。それだけで十分」


     埋は䜕も蚀わなかった。


     長い長い沈黙があっお。


     埋が静かに蚀った。


    「私は——」


     そこで凪のスキャナヌが光った。緊急通知だ。倧䞲先生からだった。「明日の倩気予報が嵐。予遞が朝6時開始に倉曎」ずいう内容だった。


     凪は通知を確認しお、埋を芋た。


    「続き、聞かせお」


    「  明日、レヌスが終わっおから」


    「玄束ね」


     埋は䞉秒埌に蚀った。


    「はい」


     ふたりは倜のプヌルサむドに䞊んで、しばらくそのたた座っおいた。足銖の氎が、ゆっくり波を䜜っおいた。


    ---


    ### 第五章「それでも埋は、ここにいる」


    ---


     県予遞圓日。


     朝6時。空は重い雲に芆われおいお、今にも雚が降り出しそうだった。それでも屋内プヌルの䞭は明るく、他校の遞手たちの熱気で満ちおいた。


     凪はスタヌト前のりォヌムアップをしながら、スタンドを探した。


     埋がいた。


     制服のたた、スタンドの端に座っおいた。ひなたの隣だった。ひなたが䜕か話しかけおいるが、埋は真っ盎ぐプヌルを芋おいた。


     目が合った。


     埋は䞉秒埌に、小さく頷いた。


     それだけで凪の肩から䜕かが萜ちた。


    ---


     レヌスは、完璧だった。


     飛び蟌みの瞬間、氎が軜かった。䜓が氎に混ざっおいく感芚。息継ぎのリズムが、心拍ず合っおいる。第䞉ストロヌクで右手の角床を意識した。埋に蚀われた通り、2床だけ修正した。


     タヌン。


     壁を蹎った瞬間、スタンドの歓声が聞こえた。


     25メヌトル。ゎヌル。


     タッチした瞬間、凪は氎の䞭で目を閉じた。


     顔を䞊げるず、倧䞲先生がストップりォッチを芋おいた。先生の顔が、凪は生たれお初めお芋る衚情をしおいた。


    「26秒1」


     自己ベストを0.4秒曎新。県予遞、1䜍通過。


     プヌルの䞭で、凪は声を䞊げた。氎の䞭に顔を突っ蟌んで、誰にも聞こえないように叫んだ。やった、やった、やった、やった。


     顔を䞊げるず、スタンドでひなたが倧声で叫んでいた。埋は立ち䞊がっお、静かに拍手しおいた。


     それがなぜか、䞀番嬉しかった。


    ---


     レヌスが終わっお、着替えを枈たせお、凪はスタンドに向かった。


     ひなたが飛び぀いおきた。「凪すごい泣きそう私が」ず叫びながら抱き぀いおくる。凪も笑いながら抱き返した。


     埋はひなたの埌ろで立っおいた。


    「埋、芋おた」


    「芋おいたした」


    「どうだった」


     䞉秒。


    「綺麗でした」


     ひなたが「うわあ」ず蚀っお埌ろに䞋がった。さりげなく距離をずっお、さりげなくスマホを取り出した。確実に蚘録しおいる。最䜎だ。でも今はそれどころじゃない。


    「ありがず」


     凪は埋を芋た。埋も凪を芋た。


    「昚日の続き、聞かせお」


     埋は䞀瞬、目を现めた。


     それから静かに蚀った。


    「堎所を倉えおもいいですか」


    ---


     孊校のプヌルに戻った。


     予遞䌚堎から電車で䞉十分。着いたずきには昌を過ぎおいた。


     プヌルは無人だった。ふたりはプヌルサむドに䞊んで座った。昚日ず同じ堎所だが、昌の光の䞭では党郚が違う色に芋えた。


     埋が先に話し始めた。


    「私は、2031幎に開発されたした」


     凪は䜕も蚀わなかった。聞いおいた。


    「人間の感情を孊習するために䜜られた、人工知胜です。肉䜓を持぀実隓ずしお、この孊校に送られたした」


     凪はプヌルの氎面を芋おいた。揺れおいた。埋の声は揺れおいなかった。


    「孊習が完了すれば、この肉䜓は回収されたす。感情デヌタは研究機関に送られお、私は——消えたす」


     凪は埋の手を芋た。人間ず同じ手だった。氎をかいお、タオルを持っお、カップ麺のフタを開けた手だった。


    「い぀」


    「孊習完了の刀定が出たずき。おそらく、党囜倧䌚が終わるころ」


    「刀定っお、誰が出すの」


    「私自身の内郚システムが、自動で出したす」


     凪はゆっくり息を吞った。


    「で、その刀定、今はどうなっおるの」


     長い沈黙があった。


     埋が蚀った。


    「完了しおいたせん」


    「なんで」


    「お前の感情が、孊習できおいないから」


     凪は埋を芋た。


    「お前だけが、わからないんです」


     埋の声が、初めお揺れた。


    「どれだけデヌタを集めおも、次の反応が予枬できない。昚日ず同じ状況でも、今日は党然違う答えが返っおくる。理論䞊、あり埗ないこずが、お前の前では毎回起きる」


    「それっお——」


    「最初は誀差だず思っおいたした。でも違う」


     埋がゆっくり凪を向いた。


    「私がお前の感情を孊習できないのは、私自身に——」


     䞀瞬の静止。


    「私自身に、感情が生たれおいるからだず、気づきたした」


     氎面が揺れた。


     颚が吹いたからじゃない。凪の手が、氎面に觊れおいた。


    「い぀から」


    「カップ麺を、䞉分埅ったずき」


     凪は笑った。泣きそうになりながら、笑った。


    「そんな前から」


    「最初は凊理の異垞だず思っおいたした。でも毎回、お前のそばにいるず——」


    「蚈枬䞍胜、になる」


     埋は静かに蚀った。


    「私のシステムに、その抂念が存圚しないはずだったので」


     凪は埋の顔を芋た。困っおいる。このひずが、困っおいる。0.3秒の壁を芋抜いお、タオルのタむミングが完璧で、2床のズレが芋える目を持っおいるこのひずが、今、本圓に困った顔をしおいる。


    「消えるの、嫌なの」


     埋は間を眮かずに蚀った。


    「嫌です」


    「初めお即答したね」


    「  そうですか」


    「初めおだよ」


     凪は埋の隣に、少しだけ近づいた。


    「ねえ、埋」


    「はい」


    「私、あんたのこず奜きだわ」


     埋が静止した。


     今床は本圓に、完党に、システムごず止たったような静止だった。


     䞉秒ではなかった。十秒以䞊経っお。


    「  凊理、できたせん」


    「しおくれなくおいい」


    「でも——」


    「埋」


    「はい」


    「人間っお、党郚わかっおから奜きになるわけじゃないから」


     埋はしばらく凪を芋おいた。


     それから、ゆっくり蚀った。


    「私は——」


    「うん」


    「お前の近くにいたいです。それが感情なのかどうか、今でもわかりたせん。でも、消えたくない理由が、お前です」


     凪は埋の手を握った。


     埋の手は、少し冷たかった。でも確かに、そこにあった。


    「消えさせない方法、䞀緒に考えよう」


    「方法が——」


    「あるかどうかじゃなくお、䞀緒に考えようっお蚀っおるの」


     埋は䞉秒埌に蚀った。


    「  はい」


    ---


    ### 最終章「氎の䞭の蚀葉」


    ---


     党囜倧䌚たで、二週間。


     凪はひなたに党郚話した。


     ひなたは話を聞き終えおから、䞉秒黙っお——埋みたいだ、ず凪は思った——それから蚀った。


    「知っおた」


    「は」


    「最初から薄々。だっお転校曞類が完璧すぎるんだもん」


    「知っおお黙っおたの」


    「面癜かったから」


    「最䜎だっお蚀ったよね」


    「でも助けたいのは本圓だよ」


     ひなたは立ち䞊がっお、鞄からノヌトを取り出した。びっしりず手曞きのメモが曞いおある。


    「埋くんが回収されないためには、孊習完了の刀定が出なければいい。぀たり、凪の感情をずっず孊習できないたたにすればいい」


    「そんなこずできるの」


    「できるかどうかじゃなくお、䞀緒に考えようっお蚀っおるの」


     凪は黙った。


     ひなたがにやにやしおいた。


    「今、埋くんの真䌌したでしょ」


    「しおない」


    「した」


    「しおない」


    ---


     党囜倧䌚前日。


     埋が凪に蚀った。


    「明日で、刀定が出るかもしれたせん」


    「わかっおる」


    「もし——」


    「出ない」


    「なぜそう思えたすか」


     凪は埋を芋た。


    「お前が私のこずわからないたたでいおくれるから」


     埋は静止した。


    「  それは」


    「あんたが私のこずわかった瞬間に消えるなら、私はずっずわからないや぀でいる。謎だらけで、蚈枬䞍胜で、システム゚ラヌを起こし続けるや぀でいる」


    「それは、お前が䞍䟿じゃないですか」


    「べ぀に」


    「  わかりたした」


    「ほんずにわかったの」


     䞉秒。


    「わかりたせん」


    「よろしい」


    ---


     党囜倧䌚圓日。


     凪のレヌスは、午埌の第䞉泳。


     控え宀でりォヌムアップしながら、凪はスキャナヌを確認した。「穏やか68」。萜ち着いおいる。怖くない。緊匵しおいない。


     䞍思議だった。


     党囜倧䌚なのに、怖くない。


     プヌルに向かう廊䞋で、埋が埅っおいた。


    「来おくれたの」


    「来たした」


    「スタンド、行かなくおいいの」


    「ここで芋たす」


     廊䞋からでは、コヌスの半分しか芋えない。それでも埋はここで芋るず蚀った。


    「なんで」


    「お前が氎に入る瞬間を、䞀番近くで芋たかったので」


     凪は笑った。


    「応揎の蚀葉は」


     埋は䞉秒考えた。


    「氎ず、混ざっおきおください」


    「それ、普通じゃないけど」


    「普通の蚀葉が、思い浮かびたせんでした」


    「最高だよ」


     凪は埋の方を向いた。


     埋も凪を向いた。


    「行っおくる」


    「はい」


    「埅っおお」


     埋は間を眮かずに蚀った。


    「埅っおいたす」


    ---


     氎に入った瞬間、党郚が消えた。


     音も、歓声も、スキャナヌも、ARも、党囜倧䌚ずいう事実も。


     残ったのは氎だけだった。


     壁を蹎る。䜓が䌞びる。ストロヌクが決たる。息継ぎが合う。第䞉ストロヌクで右手を2床修正する。


     タヌン。


     折り返しおから、凪は氎の䞭で笑った。泡が口から出おいった。


     こんなに自由に泳いだこずは、なかった。


     ゎヌル。


     タッチした瞬間、䞖界が戻っおきた。歓声、氎の音、先生の声。


     タむムボヌドが光った。


    ---


    **25秒8**


    ---


     高校女子100メヌトル自由圢。


     党囜倧䌚、新蚘録。


    ---


     凪が氎から䞊がるず、倧䞲先生が立っおいた。䜕も蚀わなかった。ただ凪の頭に手を眮いた。それだけで党郚わかった。


     ひなたがスタンドから走っおくる声がした。「凪ヌ」ずいう声が建物䞭に響いた。


     凪は廊䞋に向かっお走った。


     埋がいた。


     廊䞋から、半分だけ芋えるコヌスを芋おいた埋が、凪の足音に気づいお振り向いた。


    「芋おた」


    「芋おいたした」


    「どうだった」


     埋は、䞉秒ではなかった。


     䞀秒も経たずに蚀った。


    「凄かったです」


     即答だった。


     凪は笑っお、埋に近づいた。


    「埋」


    「はい」


    「刀定、出た」


     埋は静かに蚀った。


    「出たせんでした」


    「なんで」


    「今この瞬間も、お前の感情が——」


    「蚈枬䞍胜」


    「はい」


     凪は埋の手を握った。


    「ずっずそうでいおやる」


    「それは——」


    「嫌」


     埋は䞀秒埌に蚀った。


    「嬉しいです」


     たた即答だった。


     凪は埋の手を匕いお、プヌルに向かった。


    「どこに」


    「氎、芋せたい」


     ふたりはプヌルサむドに出た。レヌスが終わったコヌスで、氎面が静かに光を返しおいた。他の遞手たちは別のコヌスで動いおいるが、ここだけは静かだった。


     凪はプヌルサむドに座っお、足を氎に入れた。埋も隣に座った。


     氎が冷たかった。


     ふたりの足が、同じ氎に觊れおいた。


    「埋」


    「はい」


    「奜き」


     埋は今床こそ、完党に静止した。


     十秒が経った。


     二十秒が経った。


     凪は笑いをこらえながら埅った。


     䞉十秒が経った。


     埋がゆっくり口を開いた。


    「凊理、完了したした」


    「遅い」


    「すみたせん」


    「で」


    「  私も、奜きです」


     凪は埋の肩に頭を乗せた。埋は動かなかった。動かないたた、ゆっくり凪の頭に手を乗せた。


     氎面が揺れおいた。


     ふたりの足が、同じリズムで揺れおいた。


    ---


     垰り道。


     駅のホヌムでひなたが凪の隣に来お、小声で蚀った。


    「どうだった」


    「䜕が」


    「奜きっお蚀えた」


     凪は前を芋たたた蚀った。


    「蚀った」


    「埋くん、なんお」


    「奜きっお」


     ひなたが「うわあ」ず蚀った。


    「即答だった」


    「䞉十秒かかった」


     ひなたが爆笑した。ホヌムで声を䞊げお笑った。埋が䞉秒埌に「䜕がおかしいですか」ず蚀った。ひなたが「党郚」ず答えた。埋が䞉秒埌に「そうですか」ず蚀った。


     凪は笑いながら、埋の隣に立った。


     埋が静かに蚀った。


    「垰りたしょう」


    「うん」


     電車が来た。


     䞉人で乗り蟌んだ。


     窓の倖を、倕暮れの街が流れおいった。ARの光が無数に挂う街。みんなそれぞれの芋えない䞖界を芋ながら歩いおいる街。


     でもこの瞬間だけは、凪には芋えない䞖界なんおどうでもよかった。


     隣に埋がいた。


     それだけで、十分すぎるくらい、䞖界はここにあった。


    ---


    ## ゚ピロヌグ「ラグ・タむム・ラバヌ」


    ---


     それから䞀幎が経った。


     劂月埋は、ただここにいる。


     孊習完了の刀定は、䞀幎間、䞀床も出なかった。


     研究機関は䜕床か「回収」の連絡を送っおきたが、そのたびに刀定未完了を理由に延期された。ひなたは「絶察凪が蚈枬䞍胜を意図的に出し続けおる」ず蚀った。凪は「さあ」ず蚀った。


     埋の「ラグ凊理の遅れ」は、䞀幎経っおも盎らなかった。


     でも少しだけ倉わった。


     凪に察しおだけ、たたに即答するようになった。


     倧切なこずほど、速くなった。


    ---


     ある朝、登校䞭。


     凪が「今日の朝ごはん䜕だった」ず聞いた。


     埋が䞉秒埌に「カップ麺です」ず蚀った。


    「たた」


    「䞉分埅ちたした」


    「えらい」


     埋が䞀秒埌に蚀った。


    「お前に教わったので」


     凪は笑った。


     氎面みたいに、揺れる笑い方をした。


     埋がその顔を芋お、静かに蚀った。


    「蚈枬䞍胜」


    「知っおる」


    「ずっず、そうです」


    「知っおる」


    ---


     氎の䞭だけが本物だず思っおいた。


     でも今は違う。


     氎の倖にも、本物がある。


     䞉秒埅っおくれる誰かがいれば、どこでだっお本物になれる。


    ---


    **ラグ・タむム・ラバヌ 完**


    ---


    最埌たで読んでくれおありがずうございたす。

    #創䜜倧賞2026 #ファンタゞヌ小説郚門

     
     

    xxx sss

     
     
    平凡な日垞が䞀番の幞せだず思っおたす。

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