
おじさん、コンタクトをつける
私はメガネをかけている。視力が悪くなり始めたのは高校生の時からで、黒板の文字を読むのにも難儀するほどとなったのである。
当時は、授業を真面目にきいていなかったので、何ら支障はなかった。教師から「この問題解いてみろ」と言われた際も、「黒板が見えないのでわかりません」と返していたくらいなのだ。もちろん、見えたところで、問題もわからないのであるが。
だが、大学生になってそれでは困るので、コンタクトをつけるようになり、社会人になってからは、装着が楽なメガネをかけるようになっていたのである。
その後は、長らくメガネ時代が続いていたのであるが、私に香水やパーマをもたらしたおじさん変身願望は、あるとき、ここにも注目してしまったのである。
先述の通り、大学時代はコンタクトをつけていたので、コンタクト化自体はさして困難ではなかった。
問題はその値段である。消耗品として、日々、我が家の家計を蝕むこととなるソフトコンタクトレンズに躊躇してしまったのである。
私は、大学時代、ハードコンタクトレンズをつけていたので、評判の悪いその装着感にも抵抗はなかった。このため、今回も、一度購入すれば保存液くらいの費用で継続することができるハードコンタクトレンズをつけることに決めたのである。
早速、コンタクトをつける生活が始まった。意気揚々と職場に向かった私であるが、周囲は全くの無反応であった。
それはそうである。
私だって、いつもメガネのおじさんがコンタクトに変わったからといって、特に声はかけない。
「今日は、メガネじゃないんだ」以外の感想は、生まれようがないのである。
しかし、それはそれとして、私には一つささやかな楽しみができたのである。それは、一日の仕事を終えて、コンタクトを外すときにおとずれるのだ。
ハードのコンタクトは、目尻を引っ張って目を強く閉じると、勢いよくポーンっと飛んでいくのである。これが面白いのである。
コンタクトおじさんのコンタクト飛ばしの日々が続いた数ヶ月後、私は、突如、目の違和感を覚えた。激痛というほどではないが、若干の痛みがあるのである。
慌てて眼科に行ったところ、眼科医から次のようなことを言われた。
「眼球はきれいなのですが、やや傷ついている箇所があります。例えば、コンタクトを外すとき、強く外したりしてないですか?」
図星である。
こうして、私のコンタクト飛ばし生活は幕を閉じることとなった。同時に、私のメガネライフも再開したのである。