
おじさん、パーマをかける
私は、若いときからオシャレというものにとんと無縁であった。特に、髪の毛へのこだわりは薄く、一度も染めたことすらないのである。直毛の髪を伸びるがままにまかせ、邪魔になったら短く切るのが、私の髪の毛への向き合い方である。
ところが、おじさんというものは、意外にも自身の変化を好む生き物なのである。それを「老いへの抵抗」と呼ぶか、「若さへの憧れ」と呼ぶかは、同じ意味なので好きに選択いただきたいのであるが、とにかく変身願望が生じてしまうものなのだ。
ここで立派なおじさんの場合は、筋トレなどの有意義な変身に進むことになる。一方で、私のような怠惰なおじさんともなると、自身は何の努力をする必要もない、髪型や服装の変化に活路を見出すことになるのである。
というわけで、私は生まれて初めてパーマなるものをすることに決めたのである。
実は、以前、セットがしやすくなるからと勧められ、ポイントパーマをやったことはあった。だが、そもそもセットをしないほうが楽であるという宇宙の真理に気づいたため、すぐにやめてしまったのである。今回は、フル(?)のパーマにワクワクがとまらなかった。
まずは、臭いの強い薬品をたっぷり髪に染み込まされ、無数のカーラーが取り付けられる。その上からラップのようなもので密封され、最後にはタオルを巻かれた。このときの私の姿は、まるでアラブの人のようであった。
待っている間に飲み物を勧められた。パーマをしている人は、日々、このようなサービスを受けているのだろう。私は、アイスコーヒーを頼みそうになったが、ここで尿意が発生したら終わると思い直し、烏龍茶を頼んだ。
そして待つこと数十分。いよいよ完成のときである。今までは普通のおじさんであったが、このタオルが取り払われたら、アンニュイなおじさんが爆誕するはずなのである。
タオルが取り払われたあと、鏡に写っていたのは、私があまり好きではないタイプの中年男性であった。こういうやつは、大抵いい加減で調子がよくて、大事なときにはいつもいないのだ。
私は、見た目が自分に追いついてしまったと思ったが、変身したことには違いないので、とりあえず良しとして自宅へ帰ったのである。
妻からの評判はそれほど悪いものではなかったのであるが、問題は7歳の娘の意見であった。
娘は、私が髪を切ったあとに生じる後頭部のジョリジョリ(刈り上げ)を大層好んでおり、今回それが失われたことを深く嘆いていた。
さらに、その日の夜である。娘を寝かしつけるため隣に寝そべったところまではよかったが、薬品の臭いに耐えかねた娘からの「パパ、髪がくさい。」という決定的な一言が発せられたのである。
これにより、私のパーマライフは次の散髪までと余命宣告されたのであった。