
正くんごっこ
幼少期の兄弟関係において、弟は兄への絶対的な従属を強いられる存在である。幼少期の年齢差は、そのまま体格の差につながり、兄弟喧嘩でも兄の圧倒的な優勢は動かしがたいのである。
そんな兄が、ごっこ遊びをしようと言えば、弟に拒否権などはない。これは、兄こと正くん(私)と、弟こと翔くんの遠い日の光景である。
あの頃、私たち兄弟には好きな遊びがあった。「正くんごっこ」という遊びである。これは、私が主人公のごっこ遊びであり、正くん主導のもと、架空の冒険に出かけたり、スポーツ大会をやったりするものである。
一説には、弟の翔くんは乗り気ではなかったとも言われるが、一度、兄がやろうと言えば、不参加は許されないのである。
その日の正くんごっこでは、アニメ・ドラゴンボールに影響を受けた天下一武道会が開かれることになったのだ。
天下一武道会とは、一対一の戦いをトーナメント方式で行い優勝者を決定する大会である。
兄弟二人では、トーナメントにならないのではないかと思われるだろうが、心配には及ばない。以下が出場選手8名である。
①スーパー正くん
齢7つにして、スーパーサイヤ人へと目覚めた正くん。優勝候補筆頭。
②ファイヤー正くん
炎属性をもつ正くん。エース(ワンピース)や煉獄さん(鬼滅の刃)の登場よりも早くから存在した炎界のパイオニアである。ただし、当時から存在した飛影(幽☆遊☆白書)の技は使える。
③ニンジャ正くん
忍道を極めし正くん。手裏剣や多彩な忍術を駆使して戦うニンジャ。後のNARUTOにも影響を与えたとか、与えてないとか。
④未来からやってきた正くん
未来からタイムマシーンでやってきた正くん。ドラゴンボールのトランクス(同じく未来からやってきた)に影響を受けたものと思われる。
⑤スーパー翔くん
齢5つにして、スーパーサイヤ人へと目覚めた翔くん。
⑥しゅんしゅん翔くん
凄まじいスピードをもつ翔くん。パワー不足が玉にキズ。
⑦ウルトラ翔くん
ウルトラな翔くん。何がウルトラなのかは、本人もよくわかっていない。とにかくすごいのだ。
⑧未来からやってきた翔くん
こちらも、未来からやってきた。現実世界の翔くんは、ボクシングに傾倒していったため、本来であれば優勝候補であった。
以上の8名による激闘が繰り広げられたのである。ごっこ遊びとはいえ、その勝敗は本当に戦って決めることになる。このため、一回戦は全て、正くんVS翔くんの構図となったのである。
ちなみに、本当に戦うのではあるが、もちろん互いに本気では殴らないし、適度なところで、審判(正くん)の厳正なる判定が言い渡されるのである。
第一試合は、①スーパー正くんと⑥しゅんしゅん翔くんの戦いである。しかし、優勝候補のスーパー正くんによる、正くんパンチやかめはめ波が炸裂し、しゅんしゅん翔くんは一瞬で撃破されたのである。しゅんしゅんは、瞬殺の瞬となったのだ。
つづく、②ファイヤー正くんと⑦ウルトラ翔くんの戦いも、前カードと同様の展開であった。ファイヤーパンチと、邪王炎殺黒龍波で、ウルトラ翔くんが敗れたのである。なお、正くんパンチとファイヤーパンチは、見た目上はほぼ同様のパンチとなる。
つづいて、③ニンジャ正くんと⑤スーパー翔くんの戦いである。
しかし、この戦いの直前、幼い頃から聡明だった私は、一回戦で全ての正くんを勝たせると、二回戦(準決勝)が全て正くん同士の戦いとなることに気づいたのである。
このため、この戦いは、ニンジャ正くんが試合を優位に進めるなかで、急な任務発生のため、勝ちをスーパー翔くんに譲る形で退場することとなったのである。
一回戦最後は、④未来からやってきた正くんと、⑧未来からやってきた翔くんの未来対決となった。現実世界で、仮に17歳の二人が戦っていたとすると、方や図書委員長、方やボクシング部部長なので、勝つのは後者であったであろう。
が、当時、そんなことは夢にも思わないのだ。未来からやってきた正くんの華麗なる剣技が炸裂したのである。
このような塩梅で戦いは進んでいき、決勝は①スーパー正くんと、④未来からやってきた正くんとなった。
既に準決勝でスーパー翔くんが敗れたことにより、翔くんはこの遊びから解放されており、彼は、一人でスーパーファミコンに興じていた。
このため、決勝戦は、私の右手と左手で行われることになったのである。
しかし、未来の正くんの強さは本物であり、スーパー正くんは苦戦を強いられていた。そこで劣勢を挽回すべく、スーパー正くんは最後に元気玉という大技を繰り出すことにしたのである。
ドラゴンボールファンにはお馴染みのこの技は、生きとし生けるものから元気を少しずつ分けてもらうことで成立する大技である。
このとき、協力するものは手を挙げなければならないのであるが、当然、翔くんも手を挙げさせられることとなった。
彼が操作してたスーパーマリオは、コントローラーを離した隙に敵にやられてしまったが、そんなことは地球の未来の前には取るに足らないことなのである。
炸裂した元気玉の粉塵が空を覆った後、ゆっくりと晴れ上がる会場の中心で、一人立ち上がっていたのは右手ことスーパー正くんであったのである。
おめでとう、スーパー正くん。
優勝は君のものだ。
これにて、この日の正くんごっこは大団円となったのである。
⋯現在。
時折、三十を越えた弟に、「正くんごっこ、やろうぜ」と冗談で言ってみるが、何の返事もかえってこないのが常である。
きっと楽しかった兄弟の思い出が蘇って、言葉にならないのだろう。
私には兄がいなくて、本当に良かった。
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