メインコンテンツへスキップ
見出し画像

プロポーズ大作戦 〜準備編〜

     25歳で結婚する。

     これは、なんとなく10代の頃から私が決めていた人生の予定である。

     もちろん、結婚するには相手が必要である。しかし、この点も私にはぬかりなかった。17歳のときにできた彼女と、そのまま結婚するつもりで付き合い続けていたからである。

     当時大好きだったYUKIの歌で、「歓びの種」という歌があった。

     あの人を誘って どこへ行こう
     未来を射す 明日へ渡す 手紙をかくよ

    YUKI「歓びの種」

     この歌詞に影響を受けた私は、17歳のときから未来の彼女へ渡す手紙を書き始めていたのである。途中、長い空白期間がありながらも、それは完成し、およそ7年後の結婚式の日に妻へと渡されたのである。

     そんな私であるがゆえに、プロポーズというのは一大イベントであった。7年も付き合っていたため、明確なキッカケというものがなかったのである。

     同棲したはいいものの、中々、結婚に至らないというカップルは同じ理由だろう。

     結婚には、どこかで、エイっと跳躍する瞬間が必要なのである。長らく続いた関係だからこそ、劇的に変化させなければならないのだ。

     そこで、私は考えたのだ。

     サプライズ・プロポーズしかない。

     では、いつやるかということになる。

     彼女の誕生日だと勘付かれてしまうだろうし、かといって、何の意味もない日に行うのもつまらないのである。

     私は、8月10日をその日に選ぶこととした。この日は、彼女と二人でカラオケと夏祭りに行った初めてのデート記念日だったのだ。

     なお、その時のカラオケの模様は前に書いたので、もしよければこちらを参照いただきたい。

     さて、プロポーズに向けて、様々な準備が開始された。

     まずは、何と言っても当日渡す指輪である。
     私は、どうしても指輪が入った箱をパカッとやる、あのベタなプロポーズをしたかったのである。

     そして、指輪はティファニーしか考えられなかった。知識無き者は、迷うことを知らないのである。

     こうして、仕事帰りに何度となくティファニーを訪れる日々が始まったのである。

     こう書くと、何度も店内で説明を受けながら、時間をかけてじっくり選んだように思われるだろうが、そうではない。

     ティファニーの洗練された雰囲気に圧倒された私は、店内に入ることすらできず、遠目に店の中を窺うかがう日々が続いたということである。そもそも、ティファニーの店舗がある婦人向けフロアすら、私には居心地が悪いのである。

     私は、ドキドキしながら、ティファニーの周りをうろついては、

     「くそ、今日もガードが固いな…。
      また、明日にしよう。」

     と、自分に言い訳をし、まるでジュエリー泥棒のような心境で、ティファニーをあとにしたのである。

     そんなことが何日か続いたある日、ようやく警戒心が薄れた小動物のように、私は、ティファニーへと入店することとなったのだ。

     今ではほとんど覚えていないが、ダイヤモンドの4Cとやらと、指輪の金額とを天秤にかけながら、一つのダイヤとそれを収める指輪を選んだのである。

     その指輪は、当時発売間もなかったティファニーハーモニーという指輪であった。結局、指輪を見る目も持ち合わせていないので、「新発売」という言葉にやられたのだ。

     なお、このとき、店員さんから一つだけ注意を受けた。

     「指輪はしっかりと相手の指のサイズを測ることが重要です。後日、指輪を切断して、サイズ調整をすることもできますが、婚約指輪なので「切る」のはあまり縁起がよくないです。」

     私は、彼女の指のサイズなど知らなかったが、自分の左薬指を、右手の親指と人差し指でつまむように触りながら、「まあ、これより少し小さいくらいだろう」と思ってサイズを指定した。

     後日、この指輪はあっさり切断されることとなった。

     指輪が決まれば、次は場所である。
     これは、先の理由から非日常的な場所である必要があった。

     私は、当初、地元では有名な展望台にしようと思っていた。しかし、いざ一人で下見へ行ってみると、とてもプロポーズできる場所ではなかったのだ。

     展望台には、大して何もないにもかかわらず、人が大勢いるのである。こんな空間でプロポーズでも始めようものなら、格好の暇つぶし対象となる。

     ここはダメだ。
     私は、展望台のカフェで一人アイスコーヒーを飲みながら、次なる候補を検討し始めた。

     やはり、静かに思いを告げられる場所がいい。それなら、夜景が美しい静かな個室だろう。

     この私の思いに「待ってました」とばかりに見つかったのが、有名ホテルの高層階にあるレストランである。ホームページをみると、ご丁寧に「プロポーズプラン」というものが用意されていたのである。

     私は、このプランにかけることとし、早速予約の電話をしたのである。

     「8月10日に、プロポーズプランを予約したいです。」

     という、私の純なる願いを伝えたところ、あまり、このプランを利用する者がいなかったためだろうか、

     「えっ、あっ、プ、プロポーズプランですか?」

     と、若干の戸惑いと、間の抜けたトーンの返事がかえってきた。

     別に小馬鹿にしたわけではないだろうが、私はとても恥ずかしくなった。

     よく考えれば、この予約をした瞬間、私がプロポーズをするつもりであることが、従業員には筒抜けとなるのである。

     もし、ラーメン屋だったら、「プロポーズ、一丁!!」と元気よく、厨房に知らされているところである。

     しかし、電話を終えて冷静になってくると、先ほどの従業員への怒りがふつふつと湧いてきたのである。

     「そもそも、お前の店が用意したプランだろ!」

     なにはともあれ、これにより、高層レストランでティファニーをパカッとやるという、あまりにベタなプロポーズ大作戦の準備が整ったのである。

     あとは、決行あるのみなのだ。

     ―決行編へと続く。


     
     
     
    40歳前後の国家公務員。小役人の日常や子どもの頃の出来事など、実話をもとにしたエッセイを書いています。

    あなたへのおすすめ