
心配性な藤枝先生の投資入門講座~こんにちは、ボラティリティ~ #03
(↑こちらが最初です。ぜひ、最初からお読み下さい。)
第2章 大切な基盤づくり
2026年4月17日 金曜日 経済学部セミナー室(第2回講座)
「皆さん、こんにちは。まず、前回お話しした新型コロナの件ですが、やはり残念ながら4月下旬からはオンライン授業になります。この講座では次回から暫くの間は完全オンラインとなります。この期間中は感染拡大防止のため物理的な接触は避けるようにお願いします」
藤枝の声がセミナー室に響いた。優佳、花音、村上の3人は神妙な面持ちで座っている。
花音が明るく言った。
「やっぱりオンラインになっちゃうんですね...。まぁ、残念ですが仕方ないですね!」
「でも準備はできています。今日で基礎をしっかり固めて、来週からスムーズにオンライン講座に移行しましょう」
藤枝は花音の前向きな発言に感謝しつつ、講義へと話を移した。
「では、気を取り直して前回の復習から始めましょうか。前回は何を学びましたか?」
花音が手を挙げた。
「預金だけだと実質的に資産が目減りしてしまうこと、それから投資におけるリスクとリターンの関係、複利とレバレッジについて学びました!」
「素晴らしい。村上君はどうですか?」
「複利は時間をかけることで威力を発揮するということ、レバレッジは初心者には危険だということを理解しました」
藤枝は学生たちがしっかりと復習してきていることに安堵した。
「そのとおりです。では今日は、具体的な投資戦略について話していきましょう」
藤枝はホワイトボードに「投資戦略の重要性」と書いた。
「投資で成功するためには、適切な戦略が必要です。特に『長期・積立・分散投資』と『資産配分』について学びましょう」
彼はホワイトボードに4つのキーワードを書いた。
「長期投資」「積立投資」「分散投資」「資産配分」
「まず長期投資から。これは短期的な市場の上下に振り回されず、10年以上といった長い目で見て資産を育てる方法です。前回説明した複利効果も相まって、時間が味方になります」
優佳が身を乗り出した。
「でも、バイト先の先輩が『あの株、急上がりしそう!』って言ってて...一発当てるチャンスもあるんじゃないですか?」
またユウの先輩の話か、と藤枝は思った。少し心配になってくる。男性の先輩なのかもしれない。
村上が前のめりになって目を輝かせた。
「短期で大きな利益が出る方法もあるんでしょうか?なんだかワクワクしますね!」
そして慌てたように手を振った。
「いえ、安全第一ですよね!」
藤枝は村上の一貫したパターンに苦笑いしつつ、しっかりと説明しようと気を引き締めた。
「確かにそういうチャンスを狙う投資法もありますが、それは初心者には難しいです。プロでも株価予測は難しいのです。『一発当てよう』よりも『コツコツ育てよう』っていう考え方の方が、初心者には特に有利なんです」
「次に積立投資。これは決まった金額を定期的—毎月などに投資する方法です。価格が高い時は少なく、安い時は多く買うことになり、代表的な方法としてドルコスト平均法で平均購入単価を抑える効果があります」
「ドルコスト平均法って何ですか?」
「簡単に言うと、定期的に同じ金額で投資することで、価格変動の影響を平均化する効果のことです。高い時も安い時も買い続けることで、結果的に平均的な価格で購入できるんです」
「理解できたと思います。最終的に上昇する場合、下落しているときに購入することで平均購入単価も下がるのでお得になるということですね。毎月定額というのは...確実で良い方法ですね」
「そして分散投資。これは『卵はひとつのカゴに盛るな』という格言で表されます」
藤枝は図を描きながら説明した。
「株式や債券、国内や海外など、異なる値動きをする商品に分散して投資することで、一つが下がっても他でカバーし、リスクを減らします」
優佳が少し考えてから言った。
「でも、分散って難しそう...。どうやって分ければいいんですか?」
「良い質問ですね。実は、投資信託やETFを使えば簡単に分散投資ができるんです。後の回で詳しく説明しますが、一つの商品で世界中の株式に投資できる商品もあるんですよ。後は投資のタイミングをずらすことでも時間的な分散はできますね。積立投資はその良い例です」
「分散投資する投資信託やETFで、積立投資をすれば広く分散できそう」
「そうなんです。現代においては分散投資はすごく簡単にできるようになったのです」
「では、最後に資産配分—アセットアロケーションについて。これは自分のリスク許容度に合わせて、リスクの異なる金融商品(株式・債券など)の比率を決めることです」
「投資成績の9割は、この資産配分で決まるという人もいるほど重要な要素です」
村上が手を挙げた。
「でも、どうやって自分に合った配分を決めればいいんですか?」
「それは年齢やリスク許容度によって変わってきます。一般的に若いうちは株式の比率を高くして、年齢が上がるにつれて債券の比率を高めていくといいと言われています」
優佳の目が輝いた。
「じゃあ私たちは若いから、株式の比率を高くしてもいいのでしょうか?」
「そうですね。長い時間があれば、株式の短期的な値動きに振り回されずに済みますからね。ただ、あくまでも自分の許容できるリスクの範囲内で、ということが大切です」
村上は追加で質問した。
「リスクの許容度って、僕たちはどのくらいが適切なんでしょう?若いから多少のリスクは大丈夫ということは理解しました」
村上のリスクおよびリターンに対する姿勢には少し注意が必要だ、そう感じていた藤枝は、丁寧に回答した。
「いい質問ですね。収入の安定性、家族構成、価値観なども大きく影響します。ただ、これについては重要なので後の回で詳しく扱う予定です。まずは基本的な投資の準備について学んでおくことが大切です」
藤枝は時計を見て、次のセクションに移った。
「さて、ここで実践的な質問をしてみましょう。それでは次の質問ですが、ユウ、どう思う?」
(おっと...)
優佳が反射的に反応した。
「先生、学校では藤枝って呼んでって言ったでしょ」
藤枝は顔が赤くなるのを感じた。
村上がいつものように明るく茶化した。
「教室で叔父と姪の会話するのはやめてください〜」
その場の空気が少し和んだところで、藤枝は質問を続けた。
「えー、気を取り直して。藤枝さん、毎月のバイト代の一部を投資に回すとしたら、どんなことに注意しますか?」
優佳は少し考えてから答えた。
「えーっと、生活に必要な分はちゃんと確保してから投資する、ということでしょうか?」
「素晴らしい答えです。それがまさに次に話す『投資を始める前に整えるべき基盤』の核心部分なんです」
藤枝は新しいセクションの見出しを書いた。
「投資を始める前に整えるべき家計の基盤とマインドセット」
「投資を始める前に、まず家計の基盤を整えることが重要です。主に3つのポイントがあります」
彼は箇条書きで示した。
生活防衛資金の確保
借金(特に高金利)の返済
収支の把握と黒字化
花音が手を挙げた。
「生活防衛資金って何ですか?」
「万が一の事態—病気や失業などに備えて、3〜6ヶ月分の生活費を現金や普通預金で用意しておくことです。これは投資に回さない『安全資金』ですね」
優佳が首をかしげた。
「でも、私みたいな学生でも生活防衛資金って必要なんですか?」
「確かに、学生の場合は親御さんのサポートがあるから、完全な独立した大人ほどの防衛資金は必要ないかもしれませんね。でも最低限、1〜2ヶ月分の支出をカバーできる金額は確保しておくといいでしょう」
村上が顎を指で触りながら質問した。
「高金利の借金というのは具体的にはどのようなものでしょうか?」
「クレジットカードのリボ払いや消費者金融からの借入などですね。これらは年利15%以上になることも多いので、投資のリターンよりもはるかに高い利率なんです。まずはこれらの返済を優先すべきです」
村上がキラキラと目を輝かせた。
「年利15%以上...すごいですね。逆に考えて、それくらいのリターンが期待できる投資もあるってことでしょうか?」
村上の輝く目が眩しくて藤枝は苦笑した。
「確かに年15%のリターンを狙える投資もありますが、それには相応のリスクが伴います。ハイリスク・ハイリターンの原則ですね。安定して年15%を出し続けるのは、プロでも非常に難しいんですよ」
「そして投資における重要なマインドセットについても話しておきましょう」
藤枝は6つのポイントを挙げた。
『ゴール』を明確にする
余裕資金のみで投資する
感情に左右されない冷静さ
理解できる商品にしか投資しない
継続する力
学び続ける姿勢
花音が興味深そうに聞いている。
「『余裕資金のみで投資する』というのが重要そうですね!」
「そのとおりです。これを守るだけで、他のマインドセットの維持が楽になります。余裕資金でなかったら、投資した分が大きく減ってしまったときに、『感情に左右されない冷静さ』『継続する力』を保つのは難しくなりますからね」
優佳も理解したような表情を見せた。
「確かに。生活に必要なお金で投資していると、ちょっとでも下がると『どうしよう』って不安になっちゃいそう」
「まさにそのとおりです。実は、感情を左右されないで継続的に、余裕資金のみで投資する方法があるんです」
村上が身を乗り出した。
「それはどんな方法ですか?とても興味あります」
「単純に余裕資金の範囲内で投資信託の自動積立を設定しておけばいいんです。何もしなくても勝手に投資が続いていくから、感情が入り込む余地が少なくなるんですよ」
花音が目を輝かせた。
「なるほど!自動化することで、感情的な判断を防げるんですね」
藤枝は時計をちらりと見て、まとめに入った。
「今日学んだことを整理してみましょう」
「投資戦略の基本は長期・積立・分散・資産配分。そして投資を始める前に、家計の基盤を整え、適切なマインドセットを身につけることが大切。特に余裕資金での投資と自動化が重要なポイントです」
花音は自分のノート眺めながら頷いていた。非常によく整理された、そのノートには、『長期・積立・分散・資産配分』『適切なマインドセット』のなどの部分で、花音の推しキャラのタクノジャーデ・レッドの簡単な顔のイラストが書かれていた。重要ポイントに書いているようだった。
「だんだん投資が身近に感じられてきました」
「自動積立の仕組みなら、面倒くさがりの僕でも続けられそうです」
「投資って怖いイメージがあったけど、きちんと準備すれば『賢いお金の使い方』なんですね」
学生たちが口々に理解を示した。
「皆さんの理解が深まってきているのを感じます。資料にはもう少し詳しく記載があるので復習として読んでおいてください。質問があれば適宜してもらって構いません。なお来週からは、冒頭話したようにオンライン講座になります。でも新しい体験として楽しんでいきましょう。次回は具体的な投資商品について学びます」
「あ、そうそう」藤枝は思い出したように付け加えた。「来週からは新しい参加者が一人加わります。岡田佑真(おかだゆうま)君という男性です。この講座に是非に参加したい、ということでイレギュラーですが途中参加になります。同じ学内の堀内教授のゼミに参加していたので知っている人もいるかも知れませんね」
優佳が興味深そうに聞いた。
「堀内教授のゼミの岡田さんですか?知らないですね。どんな方なんでしょう?」
花音も身を乗り出した。
「私も知らないです!同じ1年生の方ですか?」
村上は力なく呟いた。
「僕も知らないなぁ」
学生たちは誰も岡田のことを知らないようであった。トラブルを起こした岡田が学内で有名になっているかもしれない、藤枝はそう予想していたが杞憂に終わってホッとした。
「真面目で勉強熱心な学生です。皆さんと同じ1年生で、コミュニケーション能力が高いとのことで皆さんともすぐに馴染んでもらえると思います」
「同学年は話しやすそうで良いなぁ」
「コミュニケーション能力高いのか。羨ましいです」
「メンバが増えるの嬉しい」
期待に満ちた表情を見せ、学生たちが口々に呟いた。
学生たちが荷物をまとめ始める中、藤枝は窓の外を見た。桜のつぼみがさらに膨らんでいる。
「今日が最後の対面講座になりそうですね。でも、オンラインでも質の高い学習ができるよう準備していますから安心してください」
新メンバーの参加は藤枝にとって大きな心配の種だった。そこにオンライン授業という新しい種が追加される。
「新しい参加者の岡田さんも、いきなりオンラインからのスタートになるんですね」
「そうですね。でも彼はコミュニケーション能力や適応力があるので大丈夫だと思います。皆さんもサポートしてもらえると助かります」
「では、今日はここまで。4月24日にオンラインでお会いしましょう。システムの詳細は後日メールでお送りします」
教室を出ていく学生たちを見送りながら、藤枝は窓の外の桜を眺めた。
「今夜は例の話を聞くための堀内教授とのサシ飲みだな...」
岡田にどんな問題があったのか、諸々の心配の種を小さくするために、ちゃんと聞いておかないとなと藤枝は思った。他の教授と異なり、堀内教授とは定期的にサシ飲みをする仲ではあったので、『対面でゆっくりと話そうや』という教授の言葉には一定の信頼性はある。とは言え、教えてくれるだろうか。
それに、岡田のトラブル以外にも、4名に増えたことによる難易度の増加、久々の完全オンラインでの授業もある。
「心配事は雪だるま式に増えていくな...」
外の桜は散り始めており、風に吹かれた花びらが舞うようにくるくると回っていた。
花音の日記(4月17日)
今日が最後の対面講座だった。来週からオンラインになっちゃうのは残念。来週から新しい人も参加するらしい。どんな人かな。楽しみ!
#01, プロローグ, https://note.com/chokozai/n/n7c341cddedc4
#02, 1章, https://note.com/chokozai/n/n21181a368ec3
★#03, 2章, https://note.com/chokozai/n/n0a68b769a8dd
#04, 3章, https://note.com/chokozai/n/n57828d00edb3
#05, 4章, https://note.com/chokozai/n/n21b8ac2af8be
#06, 5章, https://note.com/chokozai/n/n42cd7f162fde
#07, 6章, https://note.com/chokozai/n/n2e058ee72421
#08, 7章, https://note.com/chokozai/n/nbb54d76f3a23
#09, 8章, https://note.com/chokozai/n/neda9d56fcf79
#10, 9章, https://note.com/chokozai/n/n74b172c91069
#11, 10章, https://note.com/chokozai/n/nacafa95d046b
#12, 11章, https://note.com/chokozai/n/n89af353420e1
#13, 12章, https://note.com/chokozai/n/n6e2b703b9166
#14, 13章, https://note.com/chokozai/n/n394f01a5e278
#15, 14章, https://note.com/chokozai/n/n3ee776f29d13
#16, 15章, https://note.com/chokozai/n/n44b39117da51
#17, エピローグ, https://note.com/chokozai/n/naf7a4ec3e2ac