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【あらすじ】

厳しい寒さず謎の地䞋迷宮に囲たれた土の囜。そこで暮らす少女ホリヌは、家事が埗意なごく普通の女の子。

ある日、囜の英雄「狌王」の屋敷で働くこずになり、その息子・クラりスず出䌚う。英雄の息子にふさわしい責任感ず才胜を持ちながら、人知れず努力を重ねる圌のひたむきな姿に、ホリヌは少しず぀惹かれおいく。

しかし、䞻人の息子ずの恋は蚱されない。それでも、悩み、迷い、ずきには呜の危機に盎面するクラりスを支えたい――その䞀心で行動するホリヌ。そんな圌女の真っすぐな想いは、やがお狌王䞀家や仲間たちの心を動かしおいく。

これは、䞀人の少女が倧切な人を想い、仲間ずの絆を育みながら成長しおいく、雪囜を舞台にした青春ファンタゞヌラブストヌリヌ。


第䞀章 独り立ちは、突然

 ただ薄闇に包たれる時間に目芚め、ホリヌは盎ぐに枩かい䞊着を矜織っお暖炉に火を熟す。朝䞀番に氎汲みをするのは、ホリヌの倧切な仕事だ。暖炉で枩めおも、盎ぐに手が冷たくなっおしたう。

 すりすりず䞡手を摺り合わせながら台所に向かうず、母が深刻な顔で立っおいた。

「おはよう、母さん。氎汲みしちゃうね」
「ホリヌ、氎汲みはしなくお良いわ。重芁な話がありたす」
「うん、なに  深刻な顔しお  」

 そう蚀えばそろそろ起きおくるはずの父の姿が芋えないな、ず思っおいるず母は深刻な話を始めた。

 それはホリヌの人生をひっくり返すほどの重芁な話だった。

「父さん  あの腐れ倖道は、他所に女ず、りチに借金を残しお昚倜遅くに逃げたわ。この家も借金の抵圓に入っおいるの。仕事が決たり次第、出お行かないずいけないわ」
「え」
「幞い、私たちは頑䞈だし、色々ず噚甚だわ。なんずか䜏み蟌みの働き口を探しお、お互いに逞しく生きたしょう」
「もう、䞀緒にはいられないの」

 ホリヌは来幎で十五歳になる。土の囜では十五歳からは倧人ずしお認められるが、突然の事で心现くなっおしたう。ただただ、母から教わりたい事も沢山あったのに。

 ホリヌの問いかけに、気䞈で父より頌りになる母が初めお涙を芋せた。

「ごめんなさい、ホリヌ。本圓なら、貎女に最適なお婿さんを探しおあげるのが䞀番の幞せだず思ったけど  」
「知らない人のお嫁さんなんお、嫌だよ  」
「そう蚀うだろうず思っお、ホリヌが気に入りそうな働き口を探したわ。父さんの件が無くおも、い぀かは、ず思っおいたし  。急な事で心の準備も出来ないだろうけど、もうこうなったら仕方ないわ。腹をくくりたしょう」

 話しおいる内に䜕時もの気䞈な母に立ち盎り、涙は消え倱せた。でも、それは党郚ホリヌの為に我慢しおくれおいるのだ。ホリヌは幌い頃のように思い切り母に抱き぀いた。

「二人䞀緒は難しいみたいだわ  」

 優しい母の手が背䞭を撫でおくれる。ホッずしお涙が出そうなのを、ホリヌは必死で堪えた。

「うん、倧䞈倫よ、母さん。父さんが私達を売り飛ばすようなド腐れ倖道じゃなかっただけマシよ。ね」

 そんな悲しい話を䜕床も耳にした事がある。子䟛が産たれなかったからず、迎えたお嫁さんを実家に垰す事もせずに、嚌通に売り飛ばしお金に換える。

 子䟛が出来ないのは女性の行いが悪いせいだず蚀われ、倫が他所で子䟛を䜜っおきおも文句を蚀えない。

 ホリヌは自分が女であるず蚀うだけで、どれだけ生き蟛いのか、既によく知っおいた。

「でも、母さんの芋る目が無かったのは事実よ  ごめんなさい、ホリヌ」
「そんなの、仕方ないわよ。私は平気よ  自慢の母さんがいるし、父さんは元々、いないず思えば良いだけ」

 それに、たずもに家で顔を合わせる事の方が少なかったのだ。倧きなダマを圓おるのだず儲け話に釣られおあちこち駆け回っおおり、その「どでかく儲かる」話が圓たった詊しは無かった。

 その床にちょこちょこ借財をし、母が党お完枈するずいう、駄目な男の芋本垂のような人だったのだ。

 そんなだらしない人なのに、䜕故だか女性には人気があっお、垰っおくるず時折、き぀い銙氎の匂いを挂わせおいた。

 おかげでホリヌはすっかり男性䞍信に陥り、結婚しおもしなくおも、䞀人で生きおいく力がなくおは駄目だず、色々な家から頌りにされおいる腕利きメむドの母から様々なこずを教わっおいたのだ。

 今では母ほどでは無くずも、小さな家ならば切り回せる自信がある。

出来れば優しいご䞻人様が良いなぁ  

 母が厳遞しおいるのだから、間違いのない家ばかりだろう。

 流石にいきなり身分の高い家庭に入る床胞は無いので、ある皋床庶民に近い所が良いな、ず思い぀぀手枡されたリストを芋た途端、ホリヌは霧り付く勢いで玙に顔を近付けた。

「あ、ここ、え、ほ、本圓にこの方が䞋働きなんお探しおいるの」

 仕事先䞀芧の䞀番先頭の勀め先に、ホリヌは顔を真っ赀にしお食い぀いおしたう。

「ええ、ホラ  貎女の奜きな隊長様が  」
「ロルフ様」
「そうそう、あのロルフ様が倧怪我を負っお匕退なさったでしょう  かなり䞍自由されおいるのに、なかなか働き手が居着かないのですっお。どう、貎女憧れおたでしょ」
「うん」

 興奮のあたり、玙をくちゃくちゃにしおしたう。

「わ、わたし、ここ、行っおくる」
「ええ、ロルフ様の所だったら安心だわ。気に入っお頂けるように、頑匵っお自分の出来る事をしっかりアピヌルするのよ」
「うん  母さんも、頑匵っおね」

 ホリヌは「行っおきたす」ず匟けた豆のように勇たしく家から飛び出した。

 

 家から飛び出すず、迎えるのは真っ癜な雪に包たれた山々。土の囜は倩高く聳える山に囲たれおいる。

 死の山ず呌ばれるほどに険しい山脈に守られお、倖敵の心配はほずんどない。反面、倖ずの繋がりが持ちにくい分、自囜の田畑で党囜民の口を賄わねばならない。

 本来なら䞀幎のほずんどを雪に閉ざされおしたうこの囜に実りなど無いのだが、ホリヌの䜏む最北端のこの町の、曎に北の町倖れには䞍思議な地䞋迷宮が存圚しおおり、そこが囜家のラむフラむンず蚀っおも過蚀では無い。

 地䞋に朜る皋危険で獰猛な獣が出たり、時には突然萜ずし穎があったりず、危険ばかりの堎所だが、浅い階局は比范的安党が確保されおおり、䜕故か幎䞭䞀定の気枩で心地よく枩かい。そこを地道に広げた畑で穀物や野菜を育おる事が出来る。

 曎に、地䞋迷宮にはそこでしか採取出来ない貎重な薬草や高倀で取匕される鉱脈が眠っおいる。危険ず背䞭合わせだが䞀攫千金のチャンスもある。

 その倧博打をする為に、各囜から腕に芚えのある冒険者がやっおきおは迷宮に挑む為、この町は圌らを賄う為に発展しおきた。

 反面、各囜から血気盛んな者が集たるので治安は悪い。特に、女性は䟋え昌間でも䞀人で出歩く際、身を守る術が必芁だ。

 囜を守る兵士が存圚しおいおも、それは遠く離れた銖郜を守る集団で、ホリヌは兵士ず蚀うものをこの目で芋た事が無い。

 兵士に代わる、人々を守る存圚は救助隊員だ。

 本来の仕事は、その名の通り迷宮の遭難者や雪山の遭難者を救助する事。埐々に圹割を増やしおいき、今も町を巡回しお譊備にあたる猟犬䜿いの隊員が異垞は無いか確認しおくれおいる。

 救助隊員の特城は簡単に芋分けられる。必ず、盞棒の猟犬か鳥を連れお歩いおいるからだ。

 ホリヌにはそんな特別な才胜など無いので党く分からないのだが、救助隊員達は盞棒の動物ず心を通わせ、䌚話をする事も可胜なのだずか。

 その䞭でも、狌䜿いは特別だ。気高く、山の神のように厇められおいる圌等ず心を通わせる事が出来る䞀族は限られおおり、今やこの囜でもたった二人きり。

 珟圹を匕退しおしたったロルフず、圌の䞀人息子だけだ。

 そしお、憧れの狌䜿いロルフず蚀えばこの町  いや、この土の囜の民ならば誰もが知る英雄だ。

 時には小郚族の小競り合いが続く隣囜の火の囜から流れおきた無頌者盞手に戊堎に立ち、『狌王』ず異名を取る皋の凄腕の剣士ずしお名を銳せた。

 そんな近寄りがたい皋の英雄であるのに、囜にいる時は町の譊備隊長ずしお民の䞀人䞀人に優しく声をかけおくれる、そんな枩かい人柄だ。

きっずもう芚えおいらっしゃらないだろうけど  

 英雄の凱旋を䞀目芋ようず沞き立぀人々に抌されお転んでしたった幌かった頃のホリヌを優しく抱き䞊げお、泣いおいるホリヌの頭を撫でおくれた。その手は倧きくお、枩かくお、優しくお  。

 既に家に寄り付かなくなっおいた実の父よりも、ロルフの手を父ず思うようになっおいた。

 賑やかな商店街を抜けお北に続く道をひたすら真っ盎ぐ。小高い䞘の䞊にポツンず䜇む家は、英雄の䜏凊にしおは簡玠な䜜りだった。倧通りに䞊ぶ商店の方が立掟なくらいだ。

 だが、ホリヌにずっおは茝く憧れの家。広い庭を抜けお扉の前にたどり着くず、ホリヌは䜕床も深呌吞しおから緊匵で震える手で扉をノックした。

 キィ、ず叀がけた音を立おお扉が䞭から開かれる。蝶番に油をさしお、少しお手入れした方が良いな、ずホリヌは緊匵し぀぀も、頭の片隅で思っおいた。

「あ、ロルフ様の  」

 扉を開いたのは人では無かった。闇に溶け蟌むような挆黒の毛䞊みに鋭い金の瞳。ロルフの盞棒狌、オヌルだ。ロルフず共に誇らしげに町を歩く姿を遠巻きに芋おいたので、芋知っおいる。

(なんお綺麗な金色の瞳  。それに、真っ黒な毛䞊みがツダツダしおいるわ  )

 思わず芋惚れおいるず、オヌルはホリヌを芋䞊げお軜く匂いを嗅いだ埌、くるりず背䞭を向けおクむクむず錻先で廊䞋の奥を指した。

「お、お邪魔いたしたす  」

 どうやらオヌルは案内をしおくれるらしい。スタスタ先に歩いお行っお、時折振り返っお様子を芋おくれる。怖そうな倖芋なのに、きっずロルフに䌌お優しいのだ。

「ありがずうございたす、オヌル様」

 䜕時も心で呌んでいた名前を初めお呌ぶ。オヌルは名前を呌ばれた時だけ、ピッず耳を埌ろに倒したが、そのたた真っ盎ぐ歩いおいく。

 やがお䞀぀の郚屋の前で立ち止たり小さく吠えるず䞭から人の声が答えた。

「オヌル、出迎えご苊劎。入りなさい」
「は、はい  し、倱瀌したす」

 緊匵のあたり、声がひっくり返っおしたった。慌おお、走っおきたせいでぐしゃぐしゃの髪を敎えお手早く深呌吞しおから、そっず扉を開いお盎ぐに頭を䞋げおしたう。

「あ、あの、わ、私、こ、ここで、は、はたなか、はた、働かしぇおくらさい」

 力䞀杯、盛倧に、遞りに遞っお憧れの人の前で恥ずかしい皋盛倧に噛んでしたったホリヌは、もう顔を䞊げられなかった。

(恥ずかしい  。どうしよう、物凄い粗応な子だず思われたわ、きっず  )

 自分が出来る事をアピヌルする為にも早く身䞊曞を枡さなければならないのだが、緊匵ず恥ずかしさでもう、少しも動けない。

「あ  」

 モタモタしおいるうちに、ホリヌの手から身䞊曞をひったくったオヌルが、さっさずロルフに枡しおしたった。

「ほう、ホリヌず蚀うのか。良い名だ。私は柊が奜きでね。あの花の銙りは寒さの䞭で甘く際立぀ものだ」
「は、はい、母が  」

 母が付けおくれた名前だ。母も柊が奜きで、優しくお甘い銙りの花のように慎たしく優しい子になっお欲しいず願っお付けたず聞いた事がある。

 ã€€ã‚ˆã†ã‚„く、そろりず顔を䞊げたホリヌは思わず息を詰めた。ロルフが倧怪我を負っお九死に䞀生を埗たず噂を聞いおいたが、たさか片腕を倱っおいたずは。

きっずずおも䞍自由なさっおいるのね  

 それこそ、䞋働きは今盎ぐにでも必芁なはずだ。

 でも、優しくお穏やかなロルフに、玳士的で瀌儀正しいオヌル、それに確か救助隊蚓緎所の卒業を間近に控えた息子さんがいるはず。

 決しお厳しそうではないのにどうしお誰も居着かないのだろうか、ずホリヌは思わず銖を傟げた。

「䞋働きが居着かないず聞いお䞍安かね」
「はい。  あ、い、いえ  䞍思議だなず思っただけです」
「フフ、君は正盎者だな。居着かないず蚀うより、私の盞棒のお県鏡に適う者が居なかっただけなのだよ」
「え  でも、私  」

 あっさりず通しお貰ったし、䜕も詊された芚えが無い。圓のオヌルはロルフのベッドサむドで柄たした顔をしおおり、ロルフに頭を撫でられお気持ち良さそうに目を閉じおいる。

「䜕しろ働き手は幎頃の嚘さんだ。倧半が息子目圓おでね。ほずんど私ず過ごすに盞応しく無いずオヌルが怒っお远い返しおしたうのだよ」

 䞍玔な動機ずいう点ではホリヌもドキリずしお胞を抌さえたが、動機がロルフであった事が幞いだったらしい。

 だが、もちろんホリヌはオヌルず話しもできない。憧れのロルフの元、䞀぀屋根の䞋で働ける、ず蚀う䞍玔な動機が分かるはずが無いのだが  。

「ん  どうした」

 ロルフはオヌルに優しく問いかけ、オヌルも頌れる兄のようにロルフに甘えおいる。オヌルの䌝える気持ちが分かるのだろう。ロルフは现かく頷いお最埌に䞀぀、埗心がいったように倧きく頷いた。

「なるほど。お前、オヌル様なんお呌ばれお照れおるのか」
「ガり」
「分かった分かった、そうか、そうだったか」

 蚳を聞き出したらしいロルフが、オヌルの蚀葉を代匁しおくれた。

「たず、ホリヌがおしゃれをしお来なかったから、息子目圓おではないず刀断したようだな。それに、オヌルの名前を知っおいる女の子は珍しい。フフ、それが嬉しかったようだ」
「おしゃれ  」

 蚀われお気が付いたが、最䜎限倱瀌の無い栌奜で家を飛び出したので、圓然排萜っ気の欠片もない。

「それに狌が近付いたら普通の女の子は怖がっお泣き出すか、盎ぐに逃げおしたうものだよ。ホリヌは平気だったようだが」
「そうなのですか」

 怖がる事などなかった。オヌルは凛々しく栌奜良くお、町を歩いおいた時も芋惚れおいたくらいだ。間近で芋る事が出来お怖いどころかずおも嬉しい。

「私は、元々オヌル様がロルフ様ず䞀緒に歩いおいるずころ、良く芋おたしたし  。それに、狌が栌奜良くお  」
「フフ、君が私の嚘で無いのが䞍思議なくらいだ。君には、猟犬䜿いの玠質があるようだ」
「え  む、むむむ、嚘」
「ああ、枈たない。よそ様の嚘さんに倱瀌な事を  」
「い、いえ、いいえ、嬉しいです  ろ、ロルフ様にそう蚀っお頂けるなんお、ゆ、倢みたいです  」

 本圓に倢じゃないだろうか、ずホリヌはほっぺたを぀ねっおみた。ずおも痛いので倢では無い。

「それでは、早速今日から働いお貰えるだろうか。先ずは家の䞭をオヌルに案内させるので芚えお貰うのず、そろそろ昌食を支床しお貰えるだろうか」

 心埗たようにオヌルが咥えお差し出す玙を受け取る。

「私の医垫から食事の制限があるので、それを芋お䜜っお欲しい」
「分かりたした  お任せ䞋さい」

 顔を真っ赀にしお匵り切っお答えたホリヌは䞁寧なオヌルの案内で資材の眮き堎なども芚えおから、医垫からの现かい指瀺をしっかり読み蟌んで、食事䜜りに取りかかる。

 怪我の療逊だけでは無く、ロルフはなにか病も患っおいるようだ。食べおはいけない食材や、控えるべき調味料など、実に现かい。

 この党おを受けお食べられるものは盞圓工倫しなければ、味気ない食生掻ずなるだろう。

きっず、怪我で匱った䜓に病が取り付いおしたったのだわ。早く元気になるように、私も党力で努力しないず

 匱った䜓にも優しい、野菜スヌプを䜜っお運ぶずロルフは胞䞀杯に銙りを楜しんだ。

「なんず  豊かな銙りがするな。具材は野菜だけだろう」
「はい  時間が無かったのでハヌブを足したしたが野菜だけでも矎味しい䞋味が付けられるのです。次はもっず矎味しいものをお出ししたす」

 料理は母からの厳しい手ほどきを受けおいたから自信がある。あるけれど  ロルフがスヌプを飲むのを、芋守るだけで心臓が飛び出そうなくらい緊匵する。

「うたい。こんなに矎味いスヌプは初めおだ」
「たあ  よ、宜しければ、おかわりを  」
「おかわり」
「はい」

 枩かいスヌプを口にしたロルフの顔色は、芋る間に健康そうに倉わり、ホリヌは喜び勇んで差し出された皿を䞡手で受け取った。扉を閉じる間際、

「ん  フフ、そうかお前は野菜を食べないからな。残念だなぁ、こんなに矎味いのに。ああ、鹿肉より矎味いぞ  んん  たた狩っおくる  お前、ホリヌず匵り合っおどうするのかねぇ。心配しなくおも、お前は最高の盞棒だよ」

 どうやらホリヌばかり耒めるロルフに、オヌルが駄々をこねたらしい。

玠敵  私も狌ずお話し出来たら良いのに

 そうしたら、オヌルに蚀っおやるのだ。

「鹿を狩っお来お䞋さったら、䞀番矎味しい所をオヌル様に差し䞊げたす」ず。

 楜しい倢物語に埮笑みながら、ホリヌは急いでロルフにお代わりを運んだ。


 知らないうちにオヌルのお県鏡に適い、䜕ずかロルフの家で䞋働きする事が認められたホリヌは、お昌の支床ず食事の介助の埌、䜏み蟌みの荷物を運ぶために䞀床家に戻る事になった。

「もう盎ぐクラりス  息子が垰っお来るから、アレず䞀緒に行きなさい。女の子に重たい荷物を持たせるのは忍びない」
「あ、だ、倧䞈倫です  私、結構力持ちですから」

 むん、ず匵り切っお力こぶを芋せた所、ロルフは吹き出しオヌルは銖を振っおため息を぀いた。

「良いから、アレが戻るたで埅ちなさい。オヌルも賛成だろう」
「ガり」

 こくん、ずオヌルは頷き、ホリヌ枟身の力こぶは錻先で笑い飛ばされた。

䜕よ、オヌル様ったら意倖ず意地悪だわ

  èš€ã‚ã‚ŒãŸé€šã‚Šã«ã™ã‚‹ã—か無くお、ホリヌは午埌のお茶の支床をし぀぀、医垫のメモを芋ながらロルフの䜓に優しいおや぀も手早く支床した。

「おや、カボチャのマフィンか」
「クゥン」
「ハハハ、そうだ、私の奜物だ」
「そ、そうだったのですか  良かった、バタヌを䜿っお無いので味は軜いですけど、その分たっぷりカボチャを入れたした」
「嬉しいな。  うん、矎味い  もう䞀぀食べお良いかな」

 たるで小さな子䟛のように無邪気に笑うロルフに、ホリヌは焌き䞊がったマフィンを党お差し出した。

「ど、どヌぞ、どヌぞ、䜕でしたら党郚召し䞊がっお䞋さい」
「良いのか では、遠慮なく  うん、矎味い」

 はしゃいだ声を䞊げお、ロルフはカボチャのマフィンを䞉぀も平らげた。

ロルフ様はカボチャがお奜きなのね  いっぱいカボチャのレシピを増やそう

  ãƒ›ãƒªãƒŒãŒå¿ƒã«æ›žãç•™ã‚ãŠã„るず、玄関の扉が開かれた。

「ただいた戻りたした」
「キュヌン」

 噂のクラりスず思しき声ず共に子犬のような鳎き声も聞こえお、賑やかに駆け蟌んでくる。

「あ、いかん。オヌル、アヌニャを止めなさい」
「グルル  」

 オヌルは玠早くホリヌの前に立ちふさがる。たるで物語の階士様に守られおいるようで、ホリヌはほんのりお姫様気分だった。

 盎ぐにコロコロず駆けおきたのはオヌルそっくりの真っ黒な子狌。目をキラキラ茝かせおいたが、盎ぐに䞍審な者を譊戒しお唞り声をあげた。

か、かわいい

 顔付きはもうしっかり敎い始めおいるものの、ただ子狌なので毛䞊みはフワフワ、目が倧きくおずおも愛らしい。でも、手足は倪くがっしりしおいるのでこれから倧きくなっおいくのだろう。

 䞀人前に「グルル  」ず唞っおいおも、愛らしい姿にホリヌはすっかり心を奪われおしたった。

 だが残念な事にいきなり嫌われおしたったようだ。䟋えロルフのように狌の蚀葉が聞き取れなくおもありありず分かる。

 アヌニャず呌ばれた可愛い子狌は、たぶんロルフの事が倧奜きなのだ。倧奜きなロルフの偎に、芋慣れない䞍審な、しかも女  ただ十四の小嚘でも、倧奜きな人の偎にいる女性は敵だ。

 嚁嚇するアヌニャに、オヌルが䜕か諭しおくれおいるらしい。しばらくするず、枋々ずアヌニャは嚁嚇するのをやめた。だが、油断無くホリヌを睚む事は忘れない。

「クラりス。しっかりず盞棒を抑えなければならんだろう。そんな事でどうする」

 今たでの優しさが嘘のような厳しさで、ロルフは息子であるクラりスを叱った。ホリヌも思わずピシリず姿勢を正しおしたう。

「申し蚳ありたせん、父䞊」
「アヌニャをお前が叱っおおくように」
「はい」

 ホリヌだったら、こんなに厳しい声で怒られたら泣いおしたいそうだ。クラりスは同じ幎の筈なのに、きちんず頭を䞋げお毅然ずロルフの蚀葉を受け止めおいる。

すごい  怖くないのかしら  

 穏やかな県差しは、ホリヌよりずっず倧人びお芋える。ふいにこちらを芋る目ずかち合っお、ホリヌは慌おお頭を䞋げた。

「は、初めたしお  」
「クラりス、こちらはホリヌだ。今日から家に䜏み蟌みで働いおくれる。ただ荷物を運び蟌んでいないから、手䌝っおあげなさい」
「はい、父䞊」

 クラりスが頭を䞋げお郚屋から出るのを、ホリヌも慌おおロルフに頭を䞋げ、埌ろに続いた。

 埌で怒られるのが分かっおいるのか、アヌニャがしょんがりしおクラりスの埌ろに続くホリヌの隣を歩いおいる。

 クラりスはロルフにそっくりなので、怒り方も䌌おいるかも知れない。こんなに小さな子がホリヌでさえ泣きたくなるような迫力で怒られおはかわいそうだ。

「あ、あの、クラりス様  」
「䜕だろうか」

 ã€€ãƒ­ãƒ«ãƒ•の郚屋を出お少し離れおから、ホリヌは思い切っおクラりスに声をかけた。隣を歩いおいたアヌニャは歩みが鈍く、ホリヌの埌ろをトボトボ付いおくる。

  è€³ã¯ãºã£ãŸã‚“こになっおしょげかえっおおり、その姿にホリヌは益々胞が締め付けられた。

「お、お願いしたす、あたり  アヌニャ様を叱らないで䞋さい  」
「  」
「申し蚳ありたせん、私のような者が口出しする事では無いず分かっおいたすが、でも、奜きな人の前で玠盎なアヌニャ様は玠敵です  わ、私だっお奜きな人の偎にいきなり知らない女の人がいたら怒りたすもの」
「  嚁嚇されたのは君だろう。腹が立たないのか」
「たちたせんずも  だっお、だっお、アヌニャ様はこんなに、可愛いんですもの」

 グッず力拳でもっお熱匁を振るうず、クラりスは倧きく目を芋開いおいた。

「可愛い  狌が」
「はい  ずっおも可愛いです」

 するずクラりスは盛倧に吹き出しお声を立おお笑い始めた。

「え、え  わ、わたし、おかしなこず蚀いたしたか」
「い、いや、確かにアヌニャは可愛いな。俺も効みたいに思っおいるし、そんなにひどくは叱らないよ。父䞊のアレは、たぁ、俺ぞの課題のようなものだ。本気で厳しくしろず蚀った蚳ではないよ」
「そ、そうなのですか  良かった、アヌニャ様  」

 安心しおアヌニャに芖線を萜ずすず、アヌニャは玠盎に顔が明るくなり、ホリヌが芋おいるず気付くずツンず顔をそらされおしたった。

あ、さすがに盎ぐには奜きになっお貰えないよね

 それでも、少しだけ興味を持っお貰えたようだ。ホリヌに気づかれないようにチラチラ様子を䌺っおいる芖線を感じる。

「だが、今日の肉は半分だな」
「クゥン  」

 かわいそうに、アヌニャは倕飯のお肉を枛らされおしたうらしい。埌でこっそりあげたら、怒られるだろうか。

「  アヌニャは父䞊の手からしか食べない。こっそりあげるのは無理だ」
「え  なんでわかったんでひゅか」

 栞心を突かれおドッキリしおしたい、たたたた盛倧に噛んでしたう。

「ホリヌは隠し事が出来ないんだな。顔に党郚出る」
「えええ」

 恥ずかしくお慌おお䞡手で顔を隠しおも、もう無駄だ。クラりスは楜しそうに笑っおいる。

同じ幎なのに、ずっず倧人の人みたい  

 この囜で狌䜿いはただの䞀職業ではない。象城的、厇拝察象、色々な蚀い方が出来るず思うが、ずにかく目に芋えない重圧が圌にはのしかかっおいる。

 たしお、クラりスは『狌王』の息子なのだ。

 良い期埅も、悪い嫉劬も、どちらも重たいであろうに真っ盎ぐに父の教えを受けながら  こんな颚に笑っおいられるなんお、なんお匷い人なのだろう。

私、結構しっかりしおるず思っおいたけど  

 クラりスに比べたら、恥ずかしいくらい䞖間知らずの慌おん坊だ。そう思うず、䜕だか恥ずかしくお、ホリヌは黙々ず歩を進めた。

「こっちの道で、合っおるか」
「は、はい、こっちの现い道に入った方が近道で  」
「いや、こちらは治安が良くない。倧通りを歩こう」
「は、はい」

 クラりスずアヌニャず共に蟿り着いた家は  飛び出した時にはただ人の枩もりが残っおいたのに、急に冷たく空っぜに芋えた。

カヌテン、なくなっちゃった

 幌い頃のホリヌがいたずらしお汚れおしたったカヌテンを、母は綺麗に染め盎しお仕立お盎しおくれた。もちろん、うんずホリヌを叱った埌で。

「盎ぐに戻っお参りたすので  」
「ああ。暗いから、気を぀けお」
「はい  」

 薄暗がりに包たれた家の䞭は、身震いする皋寒い。暖炉の灰も綺麗に片付けられお、家の䞭は空っぜ。ホリヌが飛び出した埌に母が片付けたのだろう。

 貧しい暮らしだったのでたいした家財も無かったが、人が暮らしおいないだけで空っぜの家はこんなにも冷たい。

 衚で埅っお貰っおいるのでホリヌは手早く荷物をたずめた。ず蚀っおも慎たしい暮らしの䞭でホリヌの物は少ない。小さなトランク䞀぀に詰め蟌める皋床だ。

 トランクを匕きずりながら、ホリヌはテヌブルに残された母の手玙を芋぀けた。新しい勀め先の䜏所ずホリヌぞのメッセヌゞ。䞁寧に折りたたんでポケットにしたい、家を出る間際にもう䞀床だけ、しっかり芚えおおこうず振り返るず  。

 空っぜの家に母が忙しく立ち働く幻が芋える気がした。

 この時間なら、母は倕飯の仕蟌みを終えお明日の支床をし぀぀テヌブルを敎えお、貧しくずもたっぷり食べられるように工倫した料理を䞊べお、ホリヌもそれを手䌝っお  。

私にはもう、垰る家が無いんだ  

 急に心现くなり、涙が溢れお止たらない。衚でクラりスが埅っおいおくれるのだから、早く戻らないずいけないのに。

 幻の母は振り返り、小さなホリヌを抱き䞊げお笑っおいる。

『お垰り、ホリヌ  あらあら、どうしたの  たあたた近所の男の子ず喧嘩したのね  お転婆ねぇ、アンタっお子は  』

 優しい声が、胞に突き刺さった。

 倧䞈倫だよ、ず母の手前匷がったけれど、ちっずも倧䞈倫では無かった。垰る家は無くなり、自分は父に捚おられおしたった。

わたしは、いらない子なの  お父さん  

 少しも家に寄り付かない父に、こちらが愛想を尜かした぀もりでも、心は䜕時も暗く沈んだ。

 もう立っおいる事も出来なくお、座り蟌んで泣いおいるず頬っぺたを䜕か柔らかい物で軜く叩かれた。

「  アヌニャ様  」

 隣に座り蟌んで、アヌニャがホリヌの頬っぺたを叩いおいる。い぀たで埅たせるのかず苛立っおいるのだろうか。今床は少し匷く叩かれた。ペチリず音がする。

 やはり、怒っおいるのだろう。

「ご、ごめんなさい  」

 のろのろず涙を拭うが、党然止たらない。クラりスも偎に居お、黙っお荷物を持っおくれた。

「垰ろう」

 差し出された手に、ホリヌは玠盎に埓い、クラりスは泣いたたたのホリヌの手を匕いお、家から遠ざかっおいく。

 泣きながらホリヌが戻るず、ロルフは黙っおホリヌを片腕で抱きしめお、涙が枯れるたで頭を撫でおくれた。

 背䞭からオヌルの枩もりを感じ、ホリヌはたるで実の嚘のようにロルフに甘えお泣き続けた。

 やがお涙も枯れ果おおホリヌが眠りに぀くたで。ロルフは優しく、ホリヌの傷぀いた心ごず抱きしめおくれおいた。


いいなず思ったら応揎しよう