
BYDが欧州4工場構想、ハンガリー工場は序曲にすぎず 世界自動車朝刊2026年9月17日
今日の結論
アメリカとヨーロッパで、自動車メーカーがここ数年描いてきた産業移行の「一直線のシナリオ」が崩れている。
アメリカでは8月、新車小売販売に占めるHEVの比率が19%まで上昇した。原油・燃料価格の高騰を受けてHEV需要が強まる一方、EVへ早くから集中したGMはこの市場をほぼ持っていない。ToyotaやHondaがHEVを大量に揃えるなか、GMの米市場シェアは16.8%へ低下した。
ヨーロッパでは逆方向の構造変化が進む。BYDの欧州特別顧問Alfredo Altavilla氏は、欧州事業を本格展開するためには長期的に完成車組立工場3カ所と電池工場1カ所が必要になるとの見方を示した。ハンガリーの第1工場に続き、第2工場候補を年内に選定する計画で、スペインやフランスも候補になっている。
その一方、Boschでは自動車部門で2030年までに最大1万3000人を削減する計画を背景に、労働側がEUへ「Made in EU」ルールを要求した。単に中国車へ関税をかけるのではなく、欧州域内でどれだけ付加価値と雇用を生み出しているかを政策支援の条件にすべきだという主張である。
ここで三つのニュースがつながる。
技術ロードマップより市場が速く変わる。関税より企業の生産拠点が速く動く。そして「中国企業」「欧州企業」という国籍だけでは産業政策を設計できなくなる。
2026年後半の自動車産業では、EVへの移行そのものよりも、移行途中に生じる需要・雇用・生産能力のずれを誰が吸収するかが大きな争点になっている。
1. アメリカでHEV比率19%――GMの「EVへ直行」が裏目に
アメリカでHEVの存在感が急速に高まっている。
Reutersによると、2026年8月の米新車小売販売に占めるHEVの比率は19%に達した。
背景には燃料価格の上昇がある。
中東情勢を受けてガソリン価格が上昇するなか、消費者は大型ICE車から燃費の良い車へ移り始めている。しかし、その受け皿になっているのは必ずしもBEVではない。
HEVである。
GMには売るHEVがほとんどない
この変化で商品構成上の弱点が表面化したのがGMである。
GMは長年、ICEからHEVを経由するより、BEVへ直接移行する戦略を強く打ち出してきた。
Mary Barra CEOも過去にはHEVを「中間的な解決策」と位置付け、EVへの集中を進めた。
その結果、現在のGMにはCorvetteを除けば、米国で販売する通常型HEVがほとんどない。
一方でToyotaやHondaはHEVを主力車種へ広く展開している。
燃料価格が上昇し、「燃費は改善したい。しかし充電はしたくない」という消費者が増えると、その需要をそのまま取り込める。
GMの市場シェアは16.8%へ
Reutersによれば、GMの米市場シェアは16.8%へ低下した。
もちろん、すべてがHEV不足によるものではない。
しかしディーラーからは、HEVを求めて来店する顧客に売る商品がないとの声が出ている。
これは現在のパワートレイン競争を見るうえで重要である。
EVかICEか、ではない。BEV、PHEV、HEV、ICEのどこに需要が動いても対応できる商品ポートフォリオが必要になっている。
GMも2027年にPHEVへ戻る
GMもすでに軌道修正を始めている。同社は2027年からPHEVを投入する計画である。
つまり、かつて「中間技術」と見なした領域へ戻る。
ここにはFord、Hyundai、Toyotaなどが進めている最近の戦略と共通点がある。
数年前までは、「EVへ最も速く移行したメーカーが勝つ」という見方が強かった。
現在は、「需要がどのパワートレインへ動いても商品を出せるメーカーが強い」へ変わっている。
GMの問題はEV技術が弱いことではない。むしろ巨額投資によってEV商品を揃えた。
問題は、その途中に巨大なHEV市場が生まれることを商品計画が十分想定していなかったことである。
自動車の開発期間は数年単位である。
しかし消費者需要は燃料価格、補助金、金利、規制によって数カ月で変わる。
パワートレイン戦略そのものが、技術選択ではなく需要変動へのリスクヘッジになってきた。
2. BYD、欧州には「完成車3工場+電池1工場」が必要
BYDの欧州現地化が、さらに具体的な産業計画として見え始めた。
同社の欧州特別顧問Alfredo Altavilla氏は9月16日、欧州市場で事業を拡大するには長期的に、完成車組立工場3カ所、電池工場1カ所が必要になるとの見方を示した。
数日前にBYDは、大型トラックについても将来的に欧州生産へ移し、「欧州で販売するものは欧州で生産する」との方向性を示した。
今回は、その言葉に必要な工場数が付いた。
ハンガリーは第1工場にすぎない
BYDは現在、ハンガリーで欧州初の乗用車工場を立ち上げている。
しかしそれだけでは欧州市場全体をカバーできないとの判断である。
第2工場については年内の立地選定を目指し、既存工場の取得・改修も選択肢として検討している。
候補としてスペイン、フランスなどが挙がっている。
さらに長期的には第3の完成車工場。そして電池工場。
ここまで進めば、BYDの欧州事業を単なる「中国車輸入」と呼ぶことは難しくなる。
関税を避けるだけでは説明できない
EUによる中国製BEVへの追加関税は、当然現地生産を促す要因である。
しかし完成車工場を3カ所持ち、さらに電池まで現地生産するなら、意味はもっと大きい。
工場を建てる。欧州人を雇う。欧州の部品を調達する。欧州で電池を作る。研究開発・販売・金融・整備も現地化する。
そうなれば企業の本社と資本は中国でも、製品が生み出す付加価値のかなりの部分は欧州に残る。
昨日の朝刊で取り上げた「BYDはEuropean companyになる」という発言が、具体的な設備投資の形を取り始めている。
欧州産業政策には難しい問題になる
ここでEU側に矛盾が生じる。
中国から輸入されるEVを抑制するため関税をかける。
すると中国メーカーが欧州へ工場を移す。
その工場が欧州人を雇用し、欧州部品を使い、欧州で税金を払うようになる。
その企業を、「中国企業だから競争相手」と見るのか、「欧州で生産するメーカーだから域内産業」と見るのか。
この問題が、次のBoschのニュースにつながる。
3. Bosch労組「Made in EU」を要求――争点は関税から域内付加価値へ
ドイツ最大級の自動車部品メーカーBoschで、労働側がEUへ新しい産業政策を求め始めた。
Bosch Mobilityの労使協議会トップFrank Sell氏は9月16日、欧州での付加価値と雇用を維持するため、「Made in the EU」の明確なルールが必要と訴えた。
背景は深刻である。
Boschは自動車事業で、2030年までに最大1万3000人を削減する計画である。
Volkswagen、BMW、Mercedes-Benzなどでも人員削減・コスト削減が進んでおり、ドイツ自動車産業全体で雇用調整が広がっている。
「中国車へ関税」だけでは雇用を守れない
これまで欧州の中国車政策は主に、中国政府の補助金、中国製BEVへの追加関税、価格競争を中心に議論されてきた。
しかしBYDなどが欧州へ工場を移せば、この構図は変わる。
中国から輸入される車なら関税で区別できる。欧州で作られたBYD車はどうするのか。
そこで労働側が持ち出したのが「Made in EU」である。
重要なのは企業の国籍ではなく、どこで付加価値を生み、どこで人を雇っているかという考え方である。
BYDの欧州工場計画と表裏一体
同じ9月16日に、BYDは欧州で完成車3工場と電池工場が必要だと言う。
Bosch労働側はMade in EUルールを求める。
一見すると対立するニュースである。しかし実際には同じ方向を向いている。
欧州が域内生産比率を重視すればするほど、BYDにはさらに深い現地化が必要になる。
完成車を組み立てるだけでは不十分。電池。モーター。インバーター。半導体。ソフトウェア。どこまで欧州で作るかが問われる。
これは、いわゆる「ドライバーで組み立てるだけの工場」を欧州産業とは認めない、という議論にもつながる。
次の競争は「欧州車」の定義
欧州自動車政策は今後、中国車を入れるか、入れないかという二択だけでは設計できなくなる。
中国資本の会社が欧州で車を作る。欧州企業が中国製電池を使う。欧州ブランドが中国で開発したソフトウェアを搭載する。中国企業が欧州サプライヤーから部品を買う。
サプライチェーンはすでに国籍だけでは分類できない。
そこで政策の単位が、企業の本籍地から、域内で生み出す付加価値へ変わる可能性がある。
Bosch労働側の要求はまだ政策決定ではない。
しかし欧州自動車産業が直面している問題をかなり正確に映している。
今日の小さな変化
アメリカの自動運転業界では、May MobilityがSPACを通じてNasdaqへ上場する計画を発表した。企業価値は約14億ドル。
最大3億3700万ドルの資金調達を見込み、このうち1億2000万ドルはPIPEとして確約されている。
May Mobilityが興味深いのは、Waymo型とは異なるアセットライト型を明確に打ち出していることである。
自社で巨大なロボタクシー車両群を所有・運営するのではなく、パートナー側が車両保有や運行を担い、May Mobilityは自動運転技術をサービスとして提供する。
同社によれば、これまでの商用自動運転乗車は55万回超、走行距離は110万マイルに達している。
昨日はWaymoやTeslaを通じて、自動運転を既存制度へどう入れるかを見た。
May Mobilityではさらに、自動運転を誰が所有し、誰が設備投資するのかという事業モデルの分化が始まっている。
上場が実現すれば、公開市場が「アセットライト型ロボタクシー」というモデルをどう評価するかを見る材料にもなる。
今日の読み筋
9月17日版のキーワードは、「一本道ではなくなった」である。
GMはEVへ一直線に進もうとした。しかし市場の途中にHEV需要が急拡大した。
BYDは中国から欧州へ車を輸出して成長した。しかし次は欧州そのものに完成車工場と電池工場を作ろうとしている。
Boschはドイツ企業である。しかしドイツ企業であるだけでは雇用を守れず、労働側はEU域内で実際にどれだけ付加価値を生み出しているかを政策基準にするよう求め始めた。
三つに共通するのは、従来の分類が役に立たなくなっていることである。
EVメーカーか、ICEメーカーか。
中国メーカーか、欧州メーカーか。
輸入車か、国産車か。
こうした二分法では2026年の自動車産業を説明しにくい。
パワートレインではBEV、PHEV、HEVが並存する。企業は市場ごとに生産拠点を持つ。電池やソフトウェアは国境を越える。そして政策も、完成車の原産国だけでは産業を守れなくなる。
昨日は、技術の変化に合わせて安全制度やJV制度を作り直す動きを見た。
今日はその一段上で、商品戦略と産業政策そのものが「単一の正解」を失っている。
2026年9月16日は、GMのHEV空白、BYDの欧州4工場構想、BoschのMade in EU要求から、自動車産業が「EV化」「保護主義」「現地化」という単純なスローガンの先へ進み始めたことが見えた一日である。
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