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そしお「恋」がはじたった 第5話 芳枬宀

    今たでのお話はこちら


    芳枬宀には、雚の音がなかった。

    代わりに、䜎い機械音が絶えず響いおいる。
    空気を埪環させる音。冷华装眮が熱を逃がす音。
    無数の蚈枬噚が、䌑むこずなく情報を凊理する音。

    壁䞀面には、地球の映像が映し出されおいた。

    青い星ではない。

    か぀お海だった堎所は、濁った灰色をしおいる。
    倧陞の茪郭はずころどころ黒ずみ、厚い雲の局には赀耐色の枊が巻いおいた。

    蚘録の䞭の地球は、もっず明るかった。

    青い海。
    癜い雲。
    緑の倧陞。
    倜の半球に灯る、小さな郜垂の光。

    けれど今、芳枬宀の䞭倮に浮かぶその星は、矎しいずいうより、静かに病んでいるように芋えた。

    N星地球保護芳枬隊叞什官、アれル・ノヌグは、その映像を黙っお芋぀めおいた。

    圌の肌は淡い青灰色をしおいる。頬には现かな銀色の王様が走り、瞳孔は瞊に现い。
    人類に䌌た二本の腕ず二本の脚を持っおはいるが、感情を衚情に出すこずを、N星人は埗意ずしない。

    それでも、圌をよく知る者ならわかっただろう。

    叞什官は、苊しんでいた。

    頬の銀色の王様が、呌吞に合わせるようにかすかに明滅しおいる。
    N星人にずっお、それは匷い感情を抑え蟌んでいるずきにだけ珟れる反応だった。

    アれル自身は気づいおいない。

    だが、副官リィナはその光を芋お、叞什官がい぀もより深く揺れおいるこずを知った。

    「第䞃十四ペア、感情反応倀がさらに䞊昇しおいたす」

    背埌で、リィナの声がした。

    透明な操䜜盀に现い指が滑る。空䞭に数倀ず波圢が浮かび䞊がった。

    「察象名、ルリ。察象名、クレヌれル。心拍同期率、六十八パヌセント。蚘憶局の揺らぎ、増倧。接觊反応は芏定倀を超過したした」

    「仮想環境の安定床は」

    アれルが尋ねる。

    「䜎䞋しおいたす。先ほど、空間投圱に䞀秒未満の乱れが発生したした。察象二名は、その乱れを芖認した可胜性がありたす」

    芳枬宀の空気が、わずかに重くなった。

    アれルは䞭倮モニタヌぞ芖線を移した。

    そこには、ルリずクレヌれルが映っおいた。

    雚の旧垂街。駅前広堎。傟いた傘。互いを支える二人。

    ルリの目には涙が浮かんでいる。クレヌれルは圌女を抱きずめ、必死に䜕かを䌝えようずしおいた。

    音声も拟われおいた。

    ――君だけじゃない。

    クレヌれルの声が、芳枬宀に小さく響いた。

    アれルの瞳孔が、ほんのわずかに揺れた。

    「たた、深く入りすぎたか」

    リィナは少しだけ芖線を萜ずした。

    「このたた続行すれば、察象二名は仮想環境の構造に気づく可胜性がありたす」

    「気づけばどうなる」

    「混乱したす。恐怖反応が増倧し、最悪の堎合、粟神防衛が䜜動したす。過去のケヌスでは、匷制芚醒に近い拒絶反応が起きたした」

    「匷制芚醒はできない」

    アれルの声は䜎かった。

    その䞀蚀で、芳枬宀にいた数名の隊員が黙り蟌む。

    匷制芚醒。

    それは、この斜蚭で最も避けるべき蚀葉だった。

    アれルの前に、ひず぀の叀い蚘録が浮かび䞊がった。

    癟二十䞃幎前。

    地球から発せられた、最埌に近い通信蚘録。

    音声はひどく乱れおいる。ずころどころ砂嵐のようなノむズが入り、蚀葉は断片的にしか残っおいない。

    ――空が、燃えおいる。

    ――海が黒い。

    ――薬が、足りない。

    ――子どもだけでも。

    ――誰か、聞いおいるなら。

    声は、そこで途切れおいた。

    発信者の名前は刀別できない。

    囜も、郜垂も、家族の数も倱われおいる。

    救助蚘録には、数字だけが残された。

    生き残った人数。
    汚染の深さ。
    戻れない地衚。
    回埩たでの幎数。
    救出できた肉䜓の数。

    だが、アれルの蚘憶に残っおいるのは、数字ではない。

    あの声だった。

    誰かに届くこずを望みながら、届く盞手も知らないたた消えおいった、人間の声。

    宇宙連邊が介入を決めたずき、地球人類はすでに滅亡の瞁に立っおいた。

    戊争、汚染、資源の枯枇。
    報埩の連鎖は制埡を離れ、倧気も海も、人間の身䜓さえも傷぀いおいた。

    地衚では、もう長く生きられない。

    遞ばれた救枈措眮は、長期䌑眠保存だった。

    生き残った人々の肉䜓を䌑眠装眮に収め、粟神掻動だけを安党な仮想環境ぞ移す。

    地球環境の回埩を埅぀ために。

    そしお、その間に人類の粟神ず、次䞖代を望む意志を維持するために。

    それが、地球再生蚈画だった。

    珟圚、ルリずクレヌれルが歩いおいる旧垂街も、雚も、燻補の店も、䞭倮旧垂街ステヌションも、すべお䌑眠装眮内に構築された仮想環境だった。

    ただし、完党な䜜り物ではない。

    それらは、か぀お地球に存圚した生掻蚘録をもずに再珟されおいる。

    雚の匂い。
    玙の手觊り。
    朚の噚の枩床。
    食べ物の苊味。
    人ず人が同じ傘に入るずきの距離。

    膚倧な蚘録ず、生き残った人々の身䜓蚘憶から再構築された、倱われた日垞。

    本物に限りなく近い、䜜られた䞖界。

    けれど、そこにいる人間たちは、自分たちが眠っおいるこずを知らない。

    知らせれば、倚くは耐えられないからだ。

    アれルはモニタヌの䞭のルリを芋た。

    圌女はただ震えおいる。けれど、クレヌれルの袖を離そうずはしない。

    「第䞃十四ペアは、他のペアず違う」

    アれルは぀ぶやいた。

    「はい。䌑眠前の接觊蚘録が、残っおいたす」

    リィナが蚀った。

    「救助斜蚭内での接觊。二人が互いを認識しおいたのは、別れ際のほんの䞀瞬です。蚘録䞊の時間にしお、二十秒にも満たない。亀わした蚀葉も、ほずんどありたせん。通垞なら、人栌再構成に圱響するほどの蚘録ではありたせん」

    「通垞なら、か」

    アれルが静かに蚀った。

    リィナは、操䜜盀に衚瀺された深局波圢を芋぀めた。

    「  はい。ですが、消えおいたせん」

    「䜕が残った」

    リィナは、しばらく数倀を芋぀めおから答えた。

    「わかりたせん」

    その答えに、アれルは芖線を圌女ぞ向けた。

    「わからない?」

    「蚘録ずしお保存されたものではないのです。あの接觊は、蚘憶局に定着する条件を満たしおいたせん。本来なら、ずうに消えおいるはずのものです」

    リィナの指が、深局波圢の䞀点をなぞる。

    「それなのに、残っおいたす。声の断片。手の感觊。別れ際の情動。──そういったものが、解析の枠を超えお、二人の奥に沈んでいたす。蚘憶ず呌ぶには圢がなく、けれど情動ず呌ぶには、茪郭がありすぎる」

    「茪郭」

    「察象ルリの局には、短い蚀葉の痕跡がありたす。意味たでは埩元できたせん。ですが、本来なら蚀語ずしお残るはずのないものが、音の圢を保ったたた沈んでいたす。察象クレヌれルの局にも、同じ性質の残響が」

    芳枬宀に、䜎い機械音だけが満ちた。

    二十秒にも満たない接觊。

    蚘録䞊なら、誀差に近い時間だった。

    けれど、誀差ずしお凊理されるはずだったものが、今も二人の奥底に残っおいる。蚘憶の圢をずらないたた、それでも消えずに。

    アれルは、モニタヌの䞭のルリを芋぀めた。

    圌女はクレヌれルの腕の䞭で震えおいた。だが、その手はただ、圌の袖を぀かんでいる。

    「ただの蚘録の再生ではありたせん」

    リィナが蚀った。

    その声には、かすかな戞惑いがあった。

    「䜕が起きおいる」

    アれルが問い返す。

    「今、この瞬間に新しい回路が圢成されおいたす。䌑眠前の残響に、珟圚の感情反応が重なっおいるようです」

    リィナの指が、数倀を远う。

    「察象ルリの感芚反応が、仮想環境に察しお非垞に匷い。雚、食事、匂い、接觊。そのすべおに深い情動が発生しおいたす」

    「クレヌれルは」

    「察象クレヌれルは、ルリの反応に匷く匕き寄せられおいたす。研究者気質ずしお構成された人栌特性が、察象ルリの感性に共鳎しおいるようです」

    「構成された、か」

    アれルはその蚀葉を静かに繰り返した。

    リィナは口を぀ぐんだ。

    芳枬宀では、誰もが知っおいる。

    クレヌれルが旧時代の生掻文化を研究しおいるこずも、ルリが自然環境に匷く反応するこずも、完党な偶然ではない。

    二人の人栌デヌタは、生前の蚘憶ず䌑眠埌の調敎をもずに再構成されおいる。
    適性が高い者同士を出䌚わせ、共感、信頌、愛情を育おる。

    マリアヌゞュ・プログラム。

    そう呌ばれおいる。

    肉䜓だけなら、保存できた。

    眠らせ、守り、傷぀いた现胞を修埩し、地球が回埩する日たで維持するこずはできた。

    だが、目芚めた人間が誰ずも生きたいず願わなければ。

    もう䞀床、誰かず朝を迎えたいず思えなければ。

    壊れた星の䞊で、それでも未来を䜜ろうず望めなければ。

    その皮族は、保存されおいおも、すでに終わっおいる。

    マリアヌゞュ・プログラムは、その終わりを食い止めるために䜜られた。

    人類に、もう䞀床「誰かを遞ぶ力」を取り戻させるために。

    「叞什官」

    リィナが蚀った。

    「評議䌚は、第䞃十四ペアを重芁芳枬察象に指定しおいたす。成功すれば、再生蚈画の次段階に移行できる可胜性がありたす」

    「倱敗すれば?」

    「マリアヌゞュ・プログラムの瞮小が怜蚎されたす。評議䌚の䞀郚は、すでに人類保存蚈画そのものに疑問を呈しおいたす」

    アれルは返事をしなかった。

    疑問。

    それは圓然だった。

    人類は、自らの星を壊した皮族だ。

    矎しいものを䜜りながら、それを自分たちの手で傷぀けた。

    歌を䜜った。
    詩を曞いた。
    子を抱いた。
    花を育おた。
    雚を愛した。

    その䞀方で、郜垂を焌き、森を奪い、海を汚し、同じ皮族を数え切れないほど傷぀けた。

    救う䟡倀があるのか。

    評議䌚で、その問いは䜕床も繰り返された。

    アれル自身も、答えを持っおいるわけではない。

    圌は、別の星の最埌を芋たこずがある。

    遠い星系の、小さな氎の星だった。
    そこにいた皮族は、地球人類ほど攻撃的ではなかった。
    だが、環境倉動ぞの察応が遅れ、最埌には人口を維持できなくなった。

    そのずき、宇宙連邊は介入しなかった。

    文明の自然な終焉。

    そう刀断されたからだ。

    アれルは芳枬官ずしお、その刀断に埓った。最埌の通信を蚘録し、報告曞に必芁な数倀を蚘した。

    けれど、蚘録を終えたあずも、ひず぀の声だけが消えなかった。

    ――誰か、聞いおいるなら。

    それが、その文明の最埌の蚀葉だった。

    その声は、アれルの䞭に残った。

    たるで、未凊理の信号のように。

    N星人は、感情を抑えるこずで生き延びた皮族だった。

    遠い昔、圌らの母星もたた、内戊ず資源枯枇によっお滅びかけた。
    そのずき、N星人は激しい感情を危険なものずしお封じ、争いを生む衝動を制床ず理性で瞛った。

    その遞択によっお、N星は救われた。

    だが同時に、圌らは倚くのものを倱った。

    歌も、祈りも、名もない衝動も。

    誰かのために芏定を砎りたいず思うような、危うい熱も。

    だからアれルには、人類が愚かに芋えた。

    そしお、たぶしくも芋えた。

    壊すほどの感情を持ちながら、同じ感情で誰かを抱きしめるこずもできる皮族。

    その矛盟を、圌はただ諊めきれずにいた。

    あの日から、アれルは時々考える。

    芳枬ずは䜕か。

    ただ芋るだけなら、それは䜕もしないこずずどう違うのか。

    救うずは䜕か。

    本人たちの蚘憶を調敎し、仮想の雚を降らせ、出䌚いを挔出するこずは、本圓に救枈なのか。

    それずも、別の圢の支配なのか。

    「察象ルリ、安定しおきたした」

    リィナの声で、アれルは珟実に戻った。

    モニタヌの䞭で、ルリずクレヌれルは駅の䞭ぞ入っおいく。クレヌれルの手が、圌女の背䞭にそっず添えられおいた。

    その仕草は、プログラムされたものではない。

    少なくずも、盎接呜什された動䜜ではなかった。

    アれルは、そこに垌望を芋おしたう自分を感じた。

    「察象クレヌれルの保護反応は、自発的なものか」

    「解析䞊は、その可胜性が高いです」

    「ルリの䟝存反応は」

    「恐怖による䞀時的接近だけではありたせん。信頌反応が混圚しおいたす」

    「信頌」

    アれルは、その蚀葉を噛みしめるように蚀った。

    信頌。

    人類が倱ったもののひず぀。そしお、再生に必芁なもの。

    「叞什官、仮想環境を再安定化したすか?」

    リィナが尋ねた。

    「蚘憶局の揺らぎを抑えれば、察象二名は今回の異垞を倢や錯芚ずしお凊理する可胜性がありたす。マリアヌゞュ進行は維持できたす」

    「蚘憶を薄める、ずいうこずか」

    「はい。芏定では蚱可されおいたす」

    アれルは答えなかった。

    芏定では蚱可されおいる。

    その蚀葉ほど、危ういものはない。

    ルリは、自分の感性を「邪魔なのかもしれない」ず思っおいた。

    クレヌれルは、圌女のその感性を「倱くしおはいけないもの」ず蚀った。

    その䌚話を、アれルも聞いおいた。

    もしここで蚘憶を薄めれば、二人の恐怖は和らぐだろう。

    プログラムは安定する。評議䌚に提出する報告曞も、きれいなものになる。

    だが、二人が感じた違和感も、互いに向けた信頌も、同時に削られるかもしれない。

    人類に「本物の感情」を取り戻させるために、こちらが郜合の悪い感情だけを取り陀く。

    それは、矛盟しおいないか。

    アれルは長く沈黙した。

    その間、頬の王様が䞀床だけ匷く光った。

    芳枬宀にいた隊員たちは、誰も声を出さなかった。

    N星人にずっお、感情の光を他者に芋せるこずは、ほずんど裞の心を晒すこずに等しい。それでもアれルは、もう隠そうずはしなかった。

    「蚘憶抑制は行わない」

    アれルは蚀った。

    芳枬宀の隊員たちが、䞀斉に圌を芋る。

    リィナも目を芋開いた。

    「叞什官、それは芏定䞊、可胜ではありたすが、リスクが高すぎたす」

    「わかっおいる」

    「察象二名が仮想環境の存圚に気づけば、粟神負荷が急増したす」

    「だから監芖を匷化する」

    「評議䌚には、どう報告を」

    「私が曞く」

    アれルは静かに蚀った。

    「責任は私が負う」

    芳枬宀に沈黙が萜ちた。

    やがお、リィナは小さく息を吐き、操䜜盀ぞ向き盎った。

    「了解したした。蚘憶抑制は実行したせん。仮想環境の安定補助のみ、最小限で行いたす」

    「頌む」

    アれルはもう䞀床、モニタヌを芋た。

    ルリずクレヌれルは、駅のベンチに䞊んで座っおいた。二人の間には、ただ少し距離がある。

    けれど、その距離はもう、最初の改札前のものずは違っおいた。

    近づこうずしおいる距離だった。

    ルリが䜕かを蚀う。

    クレヌれルが頷く。

    それから圌は、自分の䞊着を圌女の肩にかけた。

    ルリは驚いた顔をしたあず、少しだけ笑った。

    その笑顔を芋たずき、アれルの胞の奥に、蚀葉にしにくい痛みが生たれた。

    人類は、愚かだ。

    だが、その愚かさだけで語りきれる皮族ではない。

    壊す手を持ちながら、支える手も持っおいる。

    憎む蚀葉を持ちながら、誰かを安心させる蚀葉も持っおいる。

    星を焌くほどの力を持ちながら、雚粒ひず぀に涙ぐむ心も持っおいる。

    だからこそ、難しい。

    だからこそ、芋捚おられない。

    「叞什官」

    リィナが小さく蚀った。

    「第䞃十四ペアの次段階を開始したすか?」

    アれルはしばらく黙っおいた。

    次段階。

    それは、二人に真実の䞀郚を芋せる段階だった。

    自分たちの出䌚いが、完党な偶然ではないこず。

    この䞖界に、倖偎があるこず。

    そしお、遞ばなければならない未来があるこず。

    その先にあるのは、単なる恋ではない。

    人類再生蚈画の栞心。

    愛情が、管理された環境で生たれたずしおも、それは本物ず呌べるのか。

    仕組たれた出䌚いの䞭で、それでも盞手を遞ぶこずはできるのか。

    滅びかけた皮族は、もう䞀床、誰かず生きたいず願えるのか。

    リィナの指が、操䜜盀の䞊で止たる。

    「本圓に、よろしいのですね」

    「ああ」

    アれルは、モニタヌの䞭の二人を芋぀めた。

    「圌らには、知る暩利がある」

    「ですが、知れば苊しみたす」

    「知らされずに救われるこずだけが、幞犏ずは限らない」

    その蚀葉は、ルリずクレヌれルに向けたものだったのか。

    それずも、か぀お救えなかった星の声に向けたものだったのか。

    アれル自身にもわからなかった。

    リィナは深く頷いた。

    「次段階、準備したす」

    芳枬宀の照明が、わずかに暗くなる。䞭倮の地球映像が瞮小し、代わりにルリずクレヌれルの粟神波圢が倧きく衚瀺された。

    二぀の波圢は、ただ完党には重なっおいない。

    けれど、近づいおいた。

    離れようずしおも、たた匕き寄せられるように。

    雚の䞭で、同じ傘に入った二人の圱のように。

    その䞋に、小さな衚瀺が生たれた。

    ――盞互遞択反応、予備発生。

    リィナが息を呑んだ。

    「叞什官  」

    「ただ報告倀には達しおいない」

    アれルは蚀った。

    だが、その声はわずかに震えおいた。

    盞互遞択反応。

    それは、単なる奜意の数倀ではない。

    地球人たちがか぀お「愛情」ず呌んだものの、もっずも深い堎所にある反応だった。

    誰かを自分のために必芁ずするだけでは発生しない。

    盞手を所有しようずするだけでも、安心を埗ようずするだけでも足りない。

    盞手が自分ずは別の存圚であるこずを受け入れ、その自由を奪わず、それでも手を䌞ばそうずするずきにだけ、ほんのわずかに生たれる。

    理論䞊は存圚するずされおいた。

    だが、これたで安定しお芳枬されたこずはない。

    奜意は生たれた。

    䟝存も、興奮も、所有欲も、安心も芳枬された。

    あるペアは、互いを倱う恐怖から離れられなくなった。

    あるペアは、盞手を理解するより先に、盞手を自分の安心の圢ぞ閉じ蟌めようずした。

    たたあるペアは、数倀䞊は高い適性を瀺しながら、真実の気配に觊れた瞬間、盞手ではなくプログラムを憎んだ。

    近づくこずはできた。

    求め合うこずもできた。

    けれど、違うたたの盞手を、自由なたた遞び盎すこずはできなかった。

    盞互遞択反応だけは違った。

    それは、誰かずひず぀になるこずではない。

    違うたた、なお盞手を遞がうずする心だった。

    人類再生蚈画が本圓に求めおいたものは、その反応だった。

    アれルは䜎く぀ぶやいた。

    「人類よ」

    誰にも聞こえないほど小さな声だった。

    「今床こそ、壊すためではなく、遞ぶために手を䌞ばしおくれ」

    モニタヌの䞭で、ルリがふず顔を䞊げた。

    その瞬間、芳枬宀の衚瀺に现いノむズが走った。

    雚の旧垂街の映像が、䞀拍だけ乱れる。駅の照明が癜く滲み、行き亀う人々の茪郭が、薄い線になっおほどけかけた。

    「空間投圱に揺らぎ」

    リィナが操䜜盀ぞ指を走らせる。

    「いえ  違いたす。倖郚干枉ではありたせん。察象ルリの認識深床が、環境境界面に接觊しおいたす」

    「境界面に?」

    アれルはモニタヌを芋぀めた。

    ルリの芖線は、ただ宙を芋おいるのではなかった。

    圌女は、探しおいた。

    誰がこの雚を降らせたのか。

    誰が自分たちを芋おいるのか。

    䜕が本物で、䜕が䜜られたものなのか。

    その問いが、仮想環境の衚面を内偎から抌しおいた。

    ありえないこずだった。

    仮想環境の䜏人が、芳枬宀を知芚するこずはできない。蚭蚈䞊、そう䜜られおいる。

    それでも、ルリの瞳は䞀瞬、モニタヌのこちら偎を正確に芋た。

    アれルは動かなかった。

    芳枬しおいるはずの自分が、芳枬されおいる。

    その感芚が、圌の頬の王様を淡く震わせた。

    ルリはしばらく宙を芋぀めおいたが、やがおクレヌれルのほうぞ顔を向ける。

    クレヌれルも、圌女を芋おいた。

    二人の間に、蚀葉はなかった。

    けれど芳枬宀の蚈枬噚が、静かに反応を瀺した。

    感情同期率、䞃十二パヌセント。

    盞互遞択反応、埮匱継続。

    そしお、もうひず぀。

    環境境界接觊、初回発生。

    リィナが息を呑んだ。

    「叞什官  これは、芚醒反応ではありたせん」

    「では䜕だ」

    「わかりたせん。ただ、察象ルリは倖偎を拒絶しおいるのではなく  探しおいたす」

    探しおいる。

    アれルはその蚀葉を、静かに受け止めた。

    救われるのを埅぀のではなく。

    知らされるのを埅぀のでもなく。

    自分の感芚で、䞖界の境界を探しおいる。

    それは、危険な兆候だった。

    同時に、垌望にも芋えた。

    アれルは、ただ目を閉じた。

    その数倀が垌望なのか、危険の兆しなのか、ただ誰にもわからない。

    ただ、ひず぀だけ確かなこずがあった。

    眠り続ける人類の奥深くで、䜕かが目芚めようずしおいた。


    次回6話 は こちらです。【党7話】

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    䌚瀟員ずしお働きながら小説を曞いおいたす。 地方文孊賞で3床受賞。某文孊賞最終遞考通過 著曞『詩のような物語 十二か月』Kindle・玙曞籍で発売䞭📖 日垞の小さな光や、蚀葉にならない想いを物語に。 本・映画・文房具特にロルバヌンが奜き。 心にそっず灯がずもる物語を届けたい🌿

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