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本日の現場もよう、坪野木風花がお届けします①

    ●あらすじ●
    夫が転職をし、建設関係の「なんでも屋」をはじめた。
    元OLだった『坪野木風花(つぼのぎ ふうか)』も、縁あって、その手伝いをすべく現場の世界へ足を踏み入れることに…。

    現場で働く人たちの優しさ、夫婦ならではの距離感、小さな発見や笑い。
    そして…日々の暮らし。
    専門家ではない「お手伝い」の立場だからこそ見える景色を、時にユーモラスに、時にあたたかく綴る、短編連作エッセイ風。

    風花は、今日もハイエースに揺られながら、新しい現場へ向かいます。

    工場や土壌調査、測量、交通整理、ホームセンター、高速道路…。
    一見すると無機質な仕事の風景も、風花の目を通すと少し違って見えてくるかもしれません。

            ***

    『社会不適合者』

    ※諸説あります。
    ※個人的な感想です。

    ……そう言ってしまえば、何でも許されてしまう。
    そんな風潮のある、今日この頃ではありますが。

    『個人事業主って、社会不適合者ばかりなんだよ。私もそう』

    個人経営をはじめたお友達のワーママが、自分のことを、皮肉を込めてそう言いました。

    お友達は夢を持っていて。
    それに向けて勉強を怠らない……そんな姿勢は近くでずっと見ていたから。

    だからこそ「そんなことないよ」と言おうとしました。

    ……でも、言えませんでした。

    なぜなら『我が家』も自営業。

    個人事業主の夫を手伝う一介の主婦だって、十分、社会不適合者だなと……妙に納得してしまったのです。

    私は、坪野木 風花。

    我が家の家業は……わかりやすいひと言で言ってしまうと『なんでも屋』さん。

    職種で言うと、建築業?
    よくわからないまま……私は、夫の手伝いをしています。

    夫の社用車ハイエースは、動く倉庫。
    なんでも屋なので、何でも乗ってます。

    例えば……コンクリートとか、水で固まるアスファルト。
    それ用のコテ、突き棒、霧吹き。

    資材を運ぶための台車が数台。
    大量のバケツに大量のウエスに、養生テープなど……。

    その他にも。
    スパナやレンチ。ノコギリとか……名前がわからない工具もぎっしり。

    大きなものだと、発電機とか電動ドリル。

    愚痴になりますが……車検時のたびに、荷物整理が大変です。

    でも。

    私は、夫のそういうところに共感しているのかもしれません。

    初めてその様子を見た時……学生時代の、私の筆箱を思い出してしまったから。

    ホッチキス、パンチ、コンパス、カッター……。
    使用頻度なんて数えるほどしかないのに。

    誰かが困っている時に『私持ってるよ!』そう言って貸してあげられる。

    そういう……最後の砦として、私は在りたかったのです。

    人によっては『いい人』ではなく『都合のいい人』と見る。

    それでも私は、人を支えること。
    人のために何か手伝えることが、ずっと好き。

    児童会の冊子づくりとか。
    文化祭の下準備とか。
    二次会の買い出しとか。
    係や幹事ではなく、その人たちを支えること。

    何の評価もつかなかったけれど……そんなことに専念していた気がします。

    だから……似たような夫にホッとしてしまったし、そんな夫の手伝いをするのは、何と言うか……私には当たり前のような流れでして。

    でも。
    当たり前のようにこき使うなよ、と、たまに思います。

    社会から外れてしまった私は、ある意味『自由』。

    結婚前……『OL』という肩書をもらえていた頃のような、時間の制約はない。
    煩わしい、社員との付き合いもない。
    同僚のやっかみや、先輩の妬み。
    面倒な後輩の後始末。
    そういったものとは、一切縁が切れてしまいました。

    ただ。
    今の私は『現場の女』

    ……明らかに、肩書の華やかさはなくなった気がします。

    ネイルは必要ない。
    お化粧も朝から決めなくて大丈夫。
    ヒールの靴も、ブランドバッグも、買って満足するだけで……使う日はほとんどない。

    私は……今、いろんなものを手放して、夫の手伝いをしています。

    油の染みたつなぎの作業服を着て。
    夏は空調服なんてものを着て。

    バイザーのついたヘルメットをかぶり、鉄板のついた重たい安全靴で、一日一万歩かけて工場を歩き回る。

    かつては女の子だった私を懐かしみながら。
    全く知らない世界を、この年で知る。

    男性の多い世界のため、たまに、憐れむような目で見られます。

    でもね……。

    嫌だったら、やらないのよ?

    私はいつだってやめられる。
    だって、会社員とは違うから!


    こんな仕事だから見れる景色がある。
    出会える人がいる。
    まだまだ知らない学びや気づきがある。

    私は……ただ、自由に生きているのです。
    日々を満喫していたりするのです。

    そんな、私が見た現場の景色。
    これから少しずつ書き留めていきたいなと思いました。

    『今日も現場は生きている』
    『なんでも屋の妻ですが』

    どんな題名にしようかな……?

    ……あ、でももう現場に到着したので、今日はここまで。

    さてさて。
    今日のお仕事は、なんだろう……。

    とりあえず、ちょっと現場に行ってきます!

            ◆◆◆

    『わたしの靴』

    朝の城壁、大扉の前。
    わらわら男たちが集まってくる。

    頭に王冠。ロングドレスの背にローブをまとい……私は、声高らかにこう叫ぶ。

    「下僕並べ!」

    ――いや、それはないな……。

    私の名前は坪野木風花。
    いろいろあって、今は、なんでも屋(主に建設関係)を営む夫の手伝いをしております。

    もちろんここは、現実世界。
    目の前にそびえるのは……お城ではなく工場です。

    建屋と呼ばれる建物の大扉前。
    お手伝いのためにコンクリートの袋を持ち上げようとしたところ……作業員のみなさんが集まってきました。

    頭には、バイザー付きのヘルメット。
    背に空調服と安全チョッキ。それをまとった私は……りっぱな作業服の作業員。

    「持てます、私一人でもこれは大丈夫ですっ!」

    私はフォークリフトに負けじと、声を大にして叫んだのでした。

    現場の皆さんは、たいてい強面でガタイが良い方ばかりです。

    「いやいや、これくらい持ちますよ!」
    私が半分しか持ち上げられなかった袋を軽々持ち上げ、台車に数個も乗せてくれましたた。
    皆さん……とても優しい人ばかり。

    「っていうか。無理して何かあったら、アレなんで……」
    どうやら……向こうでキング(夫)が何やら命じた様子です。

    皆さんの優しさも信じたいところではありますが。

    労働法の縛りのせいで、確か、女性労働者は30kg以上の重量物を一人で取り扱ってはいけないことになっています。

    ――ていうか、持ってきてって私に言ったの、その夫なんですがね……。

    迷惑をかけてもいけないので、お願いすることにいたしました。
    結局積み込みから運搬、荷下ろしまで……。

    かつて、しごでき女と称された私ですが、ここのクイーンにはなれないもよう。

    帰り道で話題にしたら「あれ、ギリ30キロだから、ワンちゃんいけるかなって……」と、そう言われました。

    ――キングよ……あなたにとって、私はなんだい?
    私は……あなたの力になりたくて、仕事をせずに手伝いをしているのですよ。

    こういう時は……何もかも放って、女の子に戻ってみたくなりますね。

    白雪姫に出てくる悪い女王は、真っ赤に熱せられた鉄の靴を履かされたそうです。

    私は……鉄板のついた安全靴を脱ぎ捨て、家路につく。
    足に、EVA製のスリッパをはいて。

    ――この片方をどこかに置いてきたら……この魔法はとけたりしないだろうか。

    たまにそんなことを考えます。

    でも。

    「面倒くさいことになるから、工場内で落とし物と忘れ物はしないでね」
    常々、そう釘を刺されているから……落とす場所だけは検討しなくちゃ。

    とりあえず今日も一日、おつかれさまでした。

            ◆◆◆

    『遅くなりましたが、自己紹介』

    建築現場のなんでも屋。
    そのお手伝いをしております、坪野木風花と申します。

    今日は、私が『ちょっと上品な物言い』を意識している理由をお話します。

    つなぎの厚手の作業服に、ヘルメットなんてものを装着しているとですね……。

    悲しい話になりますが、一見、おじさんだかおばさんだか分かりません。

    もともとそういう顔立ちをしている私がいけないのですが……。
    それなのに、化粧というものをやめておりまして。
    申し訳ないほどに……ただの性別不詳者。

    それを隠すための『話し言葉』になるのです。

    これでも、もとはOLです。
    ネイルもエクステも存じていますし、どちらもバリバリにやっておりました。
    もちろん、毎朝バッチリメイク!

    今も、別にやってはいけないという縛りはございません。

    作業員は、6割以上が男性という世界。
    ただ、少数派の私が何のために化粧をするのか……ちょっと考えてしまいまして。

    メイクをしても、汗や砂埃にまみれると、化粧崩れも最悪なのです。
    直すトイレも、すぐに見つかるとは限りません。

    だから……ほぼノーメイク。
    決して5時半出発に間に合わせるのが面倒というわけではございません。

    でもこれが……結構、楽!

    別に、女を捨てたわけではありません。
    ちょっと、素の自分でいたいというか……私のままでいたいお年頃。

    ということにしてください。

    それでも……ちゃっかり眉毛は眉アート。
    外仕事が多いので、日焼け止めファンデは欠かせません。
    乾燥防止の、色付きリップは必需品です。

    たまの休日は……あの頃の私を演じるように、フルメイクで街に繰り出しています。

    オン・オフが心地良い……ただ、そんな毎日を楽しんでおります。

            ◆◆◆

    『これでも、しごできOLでした(自称)』

    昔……結婚したばかりのお友達が話してくれました。

    『旦那さんがね、社内コンペみたいなやつに応募して、表彰されたの。金一封もらっちゃった』
    お友達の旦那様は、工場勤め。

    悔しく話を聞いたところ『周りを見て、気づいたこと、直した方が良いところを二つ書いて、その対策方法を考える』というコンペだった……気がします。

    埃っぽい工場の床を拭きながら、そんなことを思い出してしまいました。

    私は坪野木風花。
    なんでも屋の夫のお手伝いをしております。

    今日のお仕事はペンキ塗り。
    直径20センチくらいの丸い穴を、先日コンクリートで埋めました。

    そこを、周りと同じ、指定された色番の塗料で塗りつぶすお仕事だそうです。

    マスキングテープでコンクリート周りを囲い、ローラーに染み込ませたシリコンペンキを塗っていきます。

    乾く前にテープを剥がさなくてはいけないのですが……これが意外と手につく。
    袋につく。
    思い出したようにまとわりつく。

    ……気づけば、袖口がスプラトゥーン状態です。

    今日の作業内容について……。
    聞いたところによると、『床の色がそこだけ違うと仕事がしづらいとか、素材が違うと踏み心地が違って転倒の恐れがあるって、作業員が言っていた』とのこと。

    どうりで友達の会話が思い出されるわけです。
    そういう細かな気づきが巡り巡って……我が家のお仕事として舞い込むのかもしれません。

    振り向けば……漫画のように、気づかずにペンキを踏みつけてる人もいる。

    ……そこは、よっぽど踏みたくなる箇所なのでしょう。

    ここは、昔とった杵柄、発動!
    OL時代に幾度も看板を飾った書道8段の腕を持って『ペンキ塗りたて』と書いてあげました。

            ◆◆◆

    『ハイエースの車窓から』

    じわじわと朝日が昇る早朝の高速は、少しだけ特別な朝の予感がします。

    私は坪野木風花。
    なんでも屋のハイエースで、今日は片道2時間の遠征です。

    でも我が家はまだまだ近い方。
    現場の方々の移動距離、実はけっこうエグいものがあります。

    それにしても、高速道路の空は広い!
    つい、ニュアンスの違う雲の写真ばかり撮ってしまいます。

    運転は夫なので……ただ、暇なのです。

    高速道路にも、いろんな思い出が出来ました。
    たまに、煽るような運転や、警察に連絡したくなるようなスピードの車を見かけます。

    その後、現場でバッタリ同じ車と遭遇したりします。

    ……誰がどこで見ているか分かリませんよ。

    人の振り見て我が振りなおせ。

    時間に余裕を持って、安全運転で行きたいものですね。

    ……そんな私。
    高速道路で、パトカーとパトカー、2台に挟まれたことがあります。

    あの色味とパトライト、心臓に悪いですよね。

    速度超過なし。
    シートベルトよし。
    何度確認しても何も落ち度もないのに、本当に偶然……。

    現場に向かっていたはずなのに、まるで連行されているような気分になりました。

    しまいには追い越し車線から来たパトカーが隣に並んで……朝からなんの拷問かと。

    後ろの車、対向車、私をいったいどんな風に見たのかな……。

    どうやらイベントに向かう途中だったようで、3台とも同じインターで降りていきましたが……。
    私、着いて行かなくてよかったよね?

    とにかく、高速道路はいろいろあります。
    今日も安全運転でいきましょう!

    安全といえば……たまに落下物にも遭遇します。

    朝だからこそ、そこまで交通量もありませんが。
    高速道路なだけに、不安になります。

    足場板、折りたたみの脚立。クーラーボックスも見かけたかな。

    荷掛けが不十分でないか、出発前にもう一度確認を行ってくださいね!

    道路緊急ダイヤル#9910

    いつでも電話できるように、アドレスに入れていたりする私です。

            ◆◆◆

    『使いよう』

    私の夫はなんでも屋。
    ハイエースにはいろんな資材が乗っています。

    夫はもともと手先が器用なのか……塩ビや鉄製の配管関係の組み立て、コンクリートならし等……まるで職人さんのような腕前です。

    元は、大手企業の営業マンだったんですけどね。

    とにかく……物の扱い方が上手いというのか。
    『物は使いよう』
    それが夫の座右の銘な気がします。

    ちなみに惚気ではありません。
    ただの愚痴です。

    私は、夫のお手伝い。
    『人手が足りないからペンキを少し塗ってほしい』初めは、そう頼まれたのです。

    頼まれたら嬉しくなってしまう私。
    作業服をスプラトゥーンにしてしまい……『次こそ完璧にやり終えたい』と思ってしまったのがいけなかったのでしょうか。

    2度目のお手伝いは『あの工場で、土を取る作業を手伝ってほしい』でした。

    そして3度目『前と同じ工場で、またペンキの作業があるんだけど……もう1人で行けるよね?』

    じわりじわりと難易度を上げられて。

    「じゃ、現場よろしく」
    本日、私は作業責任者になりました……。

    念のため……と、もろもろの資格の受講をした時から、もしや狙われていたのでは?

    そう思えてしまう、確信犯。

    私はお手伝いをしたいのです。
    仕事や代わりをするつもりはなかったのですが……。

    でも。
    ちょっと高めなハードルに飛びつかずにはいられない……夫は、そんな私をちゃんと知ってるもよう。

    悔しいけれど……見事に使われている気がしてなりません。

            ◆◆◆

    『有意義な時間の使い方』

    我が家はなんでも屋。そのお手伝いをしている坪野木風花です。

    現場の朝は早いです。
    ある日は5時に家を出て。
    現場で6時半のリアルタイムのラジオ体操。
    それから朝礼をしてミーティングをして……。

    作業の始まりは9時。
    ……何かおかしくないですか?

    ただでさえ皆さん、朝が早い。
    待ち合わせの集合時間が6時でも、その30分前には到着しています。
    なので自然と集合時間が5時半に。

    だから5時出発になったのですが……着くともう、全員いらっしゃる。
    早く着いても、朝から遅刻した気分。

    早い人は、前の日のうちに到着しているもようです。
    そのうち……集合時間がもっと早まる気がしてなりません。

    それでも作業の始まりは9時なのです。

    今のご時世、Yu-Tubuに頼ればリアルじゃなくても体操できます。

    9時開始までの待ちって……。
    たまにそんな矛盾が露出します。

    でもそれはあるあるらしく。
    皆さん、意外と寛大な方ばかり。
    待ち時間は自分時間として、しっかり上手に楽しんでいらっしゃいます。

    なので……私も、堂々noteがやれたりするのです。

            ◆◆◆

    『現場の男性は、一家のパパ①』

    「おはようございます、高倉さん。電話でお話した〇〇技研の大迫さんです」

    我が家は通称なんでも屋。
    人手の足りない現場に、夫が助っ人を連れてきました。

    「はじめまして。△△会社の高倉と申します」
    「こちらこそ、今日はよろしくお願いします。〇〇技研の大迫です」

    ……正直に言いましょう。

    女子高、女子短大を出た私……男の人との会話はどうも苦手です。

    前の会社はあいさつ程度で良かったのに、現場は男性率のほうが高い。
    圧倒的に。

    工場も従業員のほとんどが男性だったりするから……時に、女はつらいです。

    男性用トイレは至る所にあるのに……女性用トイレはものすごく少ないのです。
    すごく遠かったり、鍵がかかっていて借りてこないと中にも入れないかったり。

    ……なんてことは、今はどうでもいいです

    ただ、だからその場を離れることができないっていうだけです。
    夫はタバコに行ってしまって……私は、初めましての輪にも入れず待ちぼうけ。

    「え。同い年!?若く見えますね。お子さんはいらっしゃるんですか?」
    「大迫さんの方が若いじゃないですか。うちは2年生の男の子と、年少の女の子です」
    「うっそ、学年も性別も一緒だ」
    だんだんと打ち解けてきたように見えた高倉さんと大迫さん。

    でも、1次請け2次請け関係もあるからか……なかなか完全フレンドリーというわけにはいかないようです。

    「習い事とかされてます?うちは英語を習わせてて……」
    「うちもです!やっぱり英語は必須ですよね」

    何か……マウント取り合いしてる感じ?
    というか……請け負い関係があるから、取り合う前からすでに勝負は見えているのでは……。

    男の人は、よくわかりません。

    とはいえ、現場の男性も、場所が変われば一家のパパ。それはどこも同じようです。

    「あと、スイミングかなぁ」
    「スイミングいいですね。うちはサッカーやってるんですが……」

    そんな『パパしてます』話が繰り広げられる中、ポツリと思ってしまいました。

    ――その習い事、送迎はママがやってるんでしょ?

    お友達から「子どもの習い事は大変」と聞きました。

    晴れの日もあれば、雨の日もある。
    下の子のお昼寝や夕飯の準備。
    その他諸々ある中、子どものモチベーションを上げつつ連れて行って。
    習い事の間は下の子を見ながら見守り、他のママと情報交換。

    そして、帰ったらその洗濯やら、寝かしつけまでの『現実』が待っている……。

    『でもさぁ、パパはノータッチなんだよ?そりゃ仕事でその時間はいないから仕方ないんだけど……』

    ちょうど、そんな愚痴を聞いたところです。

    世の中のママ、本当によくやってると思います。

    でも、とりあえず……そろそろ仕事の時間なんですよね。

    「そろそろ、準備でもしませんか?」
    なぜお手伝いの私が、率先してこんな声かけをしなくてはならないのか……。
    悲しく思いつつ。

    今日は一番にヘルメットを装着しました。

            ◆◆◆

    『現場の男性は、一家のパパ②』

    土日の公園は、最近子連れの父親が増えた気がします。

    だから、工場に入るといつも思うのです。
    ――土日のパパさん、不憫だな。
    もちろん、これは個人的な感想です。

    工場のレーンは、製品や部品を作るための場所。
    それは皆様ご存知でしょう。

    ――でも……目に映るもの、ちょっと公園に似ていなくもない。
    そう思うのは私だけでしょうか。

    ぶら下がるチェーン。
    手すり付きの階段。
    箱を流すためのローラー。

    ……ほら。
    色を塗ったら、ブランコに、ローラー滑り台の出来上がり。

    この国は……何を作っているのでしょう。
    なんか少し切なくなりました。

    フォークリフトや搬送車のパトライト、独特のメロディも……遊園地で聞く曲にどこか似ています。

    遊園地のアトラクションも、結局のところ見慣れた鉄製品で出来ていて……。

    平日は鉄のレーンの中で働いて、休日は鉄の遊具の公園へ向かうパパさんたち。
    ……ちゃんと、休めているのかしら。

    最近、まるで小人の国みたいな、子ども用の小さな滑り台とか。木に似せた階段とか。
    強化プラスチックの色鮮やかな遊具が増えてきて。

    ――公園に、もっとそういうものが溢れたら……幸せや癒しも増えるんじゃないかな。

    現場からの帰り道……ふとそんな風に思ったのでした。
            ◆◆◆

    『安全について』

    朝は、全員で集まって『今日の作業内容について』と、『安全について』のミーティングをします。

    今日の作業は水位測定。

    「どんな危険が考えられるか……」
    そんな問いに『寒くなってきたから、急な動作をせず、慌てずゆっくり立ち上がりましょう』
    と言う人がいました。

    ふざけてはいません。

    笑えるようで笑えない。
    今は、何かあったら労災事故というものが待っています。
    いろいろ考えると……けがは未然に防ぐべし。

    とはいえ……現場もだんだん高齢化。
    ただでさえ一日10000歩も歩く工場の敷地内で、立っては座り、しゃがんで計測する。
    それが100カ所もあれば……普通に大変なのです。

    後半は
    「あーしんどい」
    「腰がやばい」
    「膝がぁ……」

    そんな声がちらほら。

    そんな私も、薄目で何とか計器を読み取り、画板を遠ざけて数値を記録。

    全体で見れば若い方に入るけど、もう十分、片足を突っ込んでいるのかもしれません……。

    それでも。

    昔からある工場で、ずっと同じ作業を続け、『何年前はこんな事があった』『あの頃はこうだったな』などと話し合う……仲の良い作業員さんたちの話を聞いていると。

    男性は苦手でも、『おじさん』って何かいいなぁ……なんて思ってしまうのです。

    ただいま若手を募集中!
    一度ぜひ、現場をのぞいてみてください。

            ◆◆◆

    『帰りは地獄』

    少し前までは『しごでき女』だった気がするのですが。
    劣化の激しさを感じる坪野木風花です。

    自分で考え、その日に合わせた緻密なスケジュールを組み立てる……。
    そんな、完璧にこなしていた日々は、すでに前世のように感じます。

    今の私は、お手伝い。

    人にお願いしている立場上、夫のメンツを潰す恐れがあるので……夫の立てた段取りや作業割り当てには、何も言わずに服従しています。

    その場で文句は言いません。
    おかげで、思考回路が一段簡易なものに切り替わったような気がします。

    現場で求められるのは『しごでき』よりも『体力』と『協調性』のような気がしていて。
    私には、応えられる気がしないのです。

    ずいぶん楽になったと感じますが……やりがいはどうでしょう。

    なので……仕事ではなく現場はお手伝いの領域なのです。

    さて。
    今日は検知管というものを触りました。

    まず、分析したい土の資料を水と撹拌させ、静置します。
    ガス管と呼ばれるガラスの管の上下を折り、検知管にセットして……空気が通るように、レバーを引く。

    地味に二の腕に効くやつです。

    何度目かのトライで、急にガス管の色が変わった(検体が出た)ので、つい『出た!』と、大きな声を出してしまいました。

    お客様すみません。
    良くない結果なので、騒いではいけませんでした……。何が出たかは秘密にします。

    土と水をシャカシャカ振って混ぜるので、今日はもう腕が死にそうです。

    ――疲れたなぁ。
    そう思って、ペットボトルのカフェオレを飲もうとしたら……大迫さんに『うわっ』と叫ばれてしまいました。

    どうやら、私が検体を飲もうとしているように見えたもよう。

    私は天然ではありません。
    そこまで耄碌もしていないはずだと思うけれど……。

    夫に言われるがままの私は、周りにどう見えているのかしら。

    どこかお客様扱いされ……申し訳ないような気もするので、複雑です。

    ちなみに私。その場では、何も言わず飲み込み流しますが……実は、人目を気にする性格なだけです。

    夫には、ムカつくことばかりです。
    そして我慢しているつもりもございません。
    場ではただのお手伝いですが、それが終わればただの夫婦。

    帰りの車内は言いたい放題の喧嘩三昧だと……知っているのは、きっと私たちだけ。

    でも、それでも共に道を行く……。
    これは、自営業あるあるなのでしょうか?

            ◆◆◆

    『気を付けましょう』

    我が家は通称なんでも屋。
    今日は、地点の測量を行うそうです。

    ……といっても、資格を持っているのは夫。
    なので、私はそのお手伝いです。

    まず……ハイエースから測量の機材をおろします。

    使うのは、トータルステーションという、蜘蛛の足先みたいな三脚。
    そこに、オートレベルという機材をセットする。

    今日は……はじめに水平を取りました。
    レバーを回すと……なぜだか理科の実験を思い出します。

    目には見えないミジンコや、細かい網目のような葉脈に心躍った昔が懐かしい……。

    そんなことを考えていたら、ピッタリ!レンズのピントも合っちゃいました!

    すごい!
    でも……瞬間、叫びそうになりました!

    今日の夫は、寝坊のために無精ひげ。
    肉眼で見るよりも間近にひげ面が映ると……さすがにちょっと生々しい。

    ――今日は帰ったらラムダッシュでも買いに走ろう。

    他の方達のためにも……心の底からそう思ったのでした。

            ◆◆◆

    『ミツバチ①』

    ♪黄色と黒は勇気のしるし〜

    今は懐かしい、ジャパニーズビジネスマンの歌。
    いえ、某CMのテーマ曲。

    ある意味ビジネスウーマンをしている私、風香ですが……。
    黄色と黒のツートンカラー、見るとあの歌を思い出して、ちょっと元気になれます。

    というか、現場は……ほぼそれ一色。

    赤い三角コーンにつけるバーもそう。
    トラロープもそう。
    工場用の車両や看板といったら、だいたいそのツートンで。

    そもそも、危険区域や注意喚起を示す『警告色』が黄色だから……そうなのですが。

    それでも黄色って、素敵な色だと思ってしまうのです。

    でもね……。
    夫よ。あなたが好きな、黄色がイメージカラー『Bee-TLE』の、空調服。
    それは、何を思って買ったのかしら?

    黒い安全チョッキを合わせて着ると……まるでゲゲゲの鬼太郎よ。
    そんな風に思ってしまう、夢見る夢子ちゃんでごめんなさい。

    でも電源を入れると、膨らんで、ちゃんとミツバチみたいに見えるから!

    絶対に、口には出さないけどね。
    隣で、こっそり思っていたりします。

            ◆◆◆

    『ミツバチ②』

    暑くなりましたね。
    もう空調服の季節です。

    空調服といっても、いろいろな種類があるのはご存知ですか?

    長袖、半袖、ベストタイプ。
    それもあるけど、小さなファンのつく場所もいろいろ。

    王道なのは腰タイプ。でも運転する時に邪魔。

    両腰タイプは良いらしい。でも人によってはおなかが冷える。

    今一番熱いのは、ハイバックタイプ。脇に風が当たるし、フルハーネスでも使えて一番良い。

    いやそれなら、Bee_TLEの新作空調服!買ってみたけど、ハイバックでもベスポジにあって最高だ。 

    ……でもBee_TLEのあれ、色味がちょっとハチっぽくない?

    え……。


    今日も、朝から作業員さんたちが熱く語っておりました。

    そんなわけで……今、私の目の前にミツバチが。

    しかもなんと今日は二匹!

    私の夫と、別の業者の作業員。なぜ隣同士に座ったのでしょう。
    なんという偶然か……色味が絶妙なペアルックです。

    ブンブン羽音……いえ、ファンの音もさせてるし。
    朝礼の最中ですが、どうしても笑いがこみ上げてきます。
    ……ごめんなさい。
    ちょっとだけ夫が恨めしい。

    ……まぁ、良いものは、良いということよ。
    すごいね、見る目があったんだよ。

    ……そう声をかけてあげたい気はしたのだけれど。
    その人を見て、いろいろ思うことがあったのでしょうか。

    「帰りに、空調服でも探そうかな……」

    夫のそのつぶやきに、私は少しだけ同情と賛同をしてしまったのでした。


      



     
     
    長い間…自分のために書いていた物語たちを、形に残そうと思い立ちnoteをはじめました。 自己紹介をご覧ください。 今は、創作エッセイや企画のお話しに参加させていただき、書くことを楽しんでいます。 不思議な余白が好き。 (長編は、児童文学寄りかも?) よろしくお願いします🌳。

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