見出し画像

小さな「きらり」(8~10)

TALESで書いているお話から、今回は8~10の3話をnoteにも連れてきました。
※1話完結なのでどこから読んでもOKです

前回の1~7はこちらからどうぞ。




8 その女


「あ、今日もいた」

パートから自宅へ帰る道、その女はいつも同じ場所に立っていた。

歩道でぼぅっと車道を眺めたり、歩いてくる人を見たりしている。

首をゆっくり左右に動かし、あたりを見回す。

「ホントによく会うよねぇ、あの人に」

2、3回なら偶然だと思う。

でも、その女と出くわす回数は、もう両手の指、いや足の指を足したとしても数えきれないほどになっていた。

作業着のような灰色の上下に、同系色のキャップ。
黒いリュックを背負った40代くらいの女だ。

奈々子がパートから帰るのは、いつも14時半頃。
大通りから自宅へ曲がる角付近で、その女を見かけるのだ。

「私のパートと同じ時間に終わるのね」

仕事か何かを終えて、この場所を通っているのだろうと思っていた。

ところがある日、奈々子は残業をして、いつもより2時間遅い16時半頃に帰ることになった。

すると――

「あれ? なんで?」

いつもの場所に、あの女がいた。

「偶然にしても、程がある……」

奈々子は女と目を合わせないように、その横を通り過ぎた。

数歩歩いてから振り返る。

もう、女の姿はなかった。

「なんか、ちょっと怖かったの」

帰宅して夫に話すと、

「近くの施設に通っている人だよ」

そう教えてくれた。

なんだ、そうか。

それなら、同じ時間にいてもいなくてもおかしくない。

奈々子は安心して眠りについた。

翌日は土曜日。

夫とスーパーへ買い出しに出かけるため、車を走らせていると――

「あ、おるね」

いつもの曲がり角に、またあの女が立っていた。

「え? 今日って施設も休みじゃないの?」

夫も女を確認した。

「ねぇ、本当に施設に通ってるの?」

「いやぁ、入るところを見たわけじゃないからな。たぶん、そうだろうと思ってるだけ」

夫の返事は、実に曖昧だった。

奈々子は後ろを振り返った。


「ギャーーーァァァァァッッッ!」


なんと、あの女が後部座席に座っていた。

「いつからいるのよ!」

奈々子が叫ぶと、女は申し訳なさそうに俯いた。

「……ごめんなさい」

「え?」

「ずっと、奈々子さんと友達になりたかったんです」

「私と?」

女は、こくんとうなずいた。

「でも、オバケだから……怖がられると思って」

「いやいや、そりゃ怖いでしょう!」

奈々子が突っ込むと、女はしゅんとした。

「……ですよね」

その顔が、なんだか妙に可愛らしかった。


それ以来、奈々子があの角を通ると、女は小さく手を振るようになった。

奈々子も手を振り返す。


どうやら私は、オバケの友達になったらしい。



9 それも勉強。


―昭和50年代。

小学4年生で一人っ子のタツヤは、今日も帰宅するなり、リビングの床にランドセルを放り投げた。

「テレビテレビ!」

好きなテレビ番組を見ようと、テレビのスイッチを入れた。

うんともすんともいわない。

「あっれぇ? 壊れてるのかぁ?」

タツヤは、プラグがコンセントに差し込まれているかをチェックした。

「げーっ!」

なんと、コンセントからプラグが抜かれていた。

「早く見たいのに、なんで抜かれてるんだよ」

そう言いながらプラグをコンセントに差し込み、無事、見たかったアニメを見ることができた。

―そして、またある日。

学校から帰宅したタツヤは、勢いよくリビングの床にランドセルを投げ捨てた。

「テレビテレビ♪」

そう言いながら、テレビのスイッチをつけた。

またもや、何も反応がない……。

「ハハーン、またプラグが外されているんだな」

そう思い、プラグを見ると、やはり外されていたので、コンセントに差し込む。

しかし、テレビは全く何も映らない……。

「げーっ! なんでだよう……」

そこでタツヤは、父親がたまにプラグの中の配線を外していたことを思い出した。

これはやるしかないぞ……。

タツヤはドライバーを持ってきて、プラグのカバーを外した。

すると、二つの配線が外されていて、つながっていなかった。通電できていなかったのだ!

汗を流しながら、プラグと格闘すること少し。

タツヤは、配線を元通りにした。

「よしっ! これでアニメが見れるぞっ」

コンセントにプラグを差し込み、テレビのスイッチを入れると、チカッと画面が光って点いた。

「やったぜ」

タツヤはニヤニヤしながら、テレビを見始めた。


自宅事務所で、ちょうど仕事を終えた父親は、その一連の様子をすべて見ていた。

そして、

「次はどのように、テレビを見せないで勉強に向かわせるようにするかな」

と、苦笑しながら考えていた。



10 地球最後の任務


ワレは地球に活動しに来ている宇宙人だが……。

人間の体も80年を超え、そろそろ使えなくなってきたようだ。

ここでの救済活動も、そろそろ終わりじゃ。

やがて円盤で、この年老いた肉体のワレを回収に来るだろう。

しかし、人間界には、あちらこちらにワレの同類たちがいた。

目と目ならぬ、脳内ビームでズキュンとした妻も宇宙人であったから、ワレワレは救済活動がしやすかった方だ。

人間界に降りて来ているのは、宇宙人の他に魔人もいる。

こやつらも人間の外見をしているが、ワレワレから見ればすぐに分かる。

心のあたりに、どす黒い渦を巻いているからじゃ。

オッホン!……グズグズ……。

どうやら声帯も枯れてきたのう。

魔人と出逢った時は、やつらより先に光のエネルギーを放出する。

その時には、第五チャクラである喉、つまり声帯の力をかなり使うのじゃ。

コミュニケーションをとるつもりで放出しないといけないからのう。

ゴホゴホ……ッ。んん……。

おっと失礼した。

魔人のどす黒い渦巻きは、光のエネルギーで消し去ることができるのだ。

これを忘れないでいておくれよう……。

「ヒヤッ、あそこに魔人がおる。それい!」

声帯から、魔人にエネルギーを放出する。


『あーいーしーてーるーよー』


老人宇宙人は、ありったけの声量で魔人の心に訴えかけた。

ゴボゴホゴホゴホッッッ……。

枯れた声の老人宇宙人は、

「……あ、そろそろ円盤が迎えに来たようだ。ワレの最後の任務も今、完了した……。あの魔人を見てみぃ。優しいピンクのハートになったぜよ……。んん、ゴホゴホゴホ…………」

そうして老人宇宙人は、静かに円盤に回収された。

老人宇宙人の顔は、幸せに満ちていた。

旅立ったその顔は、人間と寸分の違いもなかった……。





いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集