
ダークホースが甲子園へ――八王子実践は、いかに西東京大会を勝ち抜き初出場を果たしたか
2026年7月、甲子園出場をかけた西東京大会の決勝戦を、たまたまテレビで見た。
八王子実践高校。
失礼ながら、それまで私はその高校の名前すら知らなかった。
一方、対戦相手の創価高校の名前は聞いたことがあった。
創価高校は準決勝で、あの日大三高を破って決勝へ勝ち上がってきたチームだ。
だから試合前は「創価がかなりの大差で勝利するのでは」と思っていた。
ところが、試合がはじまってみると、その予想はいい意味で裏切られた。
八王子実践の先発は、背番号10の奥山慎太郎投手。
球はかなり荒れつつも、創価打線に点を与えない。
一方の八王子実践もなかなか得点できず、0-0のまま試合は後半へ進む。
7回、八王子実践がようやく1点を奪う。
その後、1点を守るための時間がとてつもなく長かった。
そして1-0。
試合終了。
第108回全国高校野球選手権大会
— バーチャル高校野球 (@asahi_koshien) July 26, 2026
◤西東京大会 決勝◢#創価 × #八王子実践
甲子園進出を決めたのは八王子実践!
🔻試合の詳細は #バーチャル高校野球 で!https://t.co/u9bQEQphRU pic.twitter.com/mAfSLvmwB1
薄氷の上を最後まで渡り切るようにして、八王子実践は学校創立100周年という節目の年に、春夏を通じて初めての甲子園出場を決めた。
そのときの私はまだ知らなかった。
八王子実践のこんな勝ち方は、地方大会の決勝戦だけではなかったことを。
甲子園初戦敗退。それでも、興味の尽きないチーム
がぜん、甲子園出場が楽しみになった。
初戦の相手は徳島県代表の鳴門渦潮高校。
2026年夏で9度目の甲子園出場となる、経験値のあるチームだ。
八王子実践は、その鳴門渦潮とも互角に戦った。
0−1の9回、2死2ストライクから同点に追いつく。
1-1のまま延長タイブレークへ。
しかし10回裏にサヨナラ打を浴び、1-2xに。
初めての甲子園はそうやって終わった。
最後までどちらに転がるかわからない、文字通り手に汗握るいい試合だった。だからこそ非常に残念だった。
そして私には、もう一つ心残りがあった。
西東京大会決勝に先発し、苦しみながらも試合を作った奥山慎太郎投手が、甲子園では一球も投げる機会がなかったことだ。
それなら、西東京大会をさかのぼって見てみよう。
普通の人はあまりそんなことはしないのかもしれない。
だが、いまは配信サービスで過去の試合も見ることができる。
そうして3回戦、4回戦、準々決勝と見ていくうちに、興味の対象は一人の投手からチームそのものへ移っていった。
試合を見れば見るほど、八王子実践は圧倒的に強いチームには見えない。
それなのに、勝ち上がっていった。
このチームは、一体どうやって初の甲子園出場を果たしたのだろうか!?
6失策。それでも終わらなかった4回戦、日大鶴ケ丘戦
2回戦は桐朋に8-1、3回戦は多摩大聖ケ丘に12-0。
ここまでは大差で勝っている。
しかし4回戦の日大鶴ケ丘戦から、様相が一変する。
この試合で八王子実践は、なんと6失策を記録した。
先発のエース塚原翔太投手も打たれた。
そして八王子実践に安打は出るものの、なかなか得点につながらない。
8回を終えて3-7。
4点差。
攻撃はあと9回表のみ。
普通なら「ここまでか」と思うような点差だ。
ところが9回表、八王子実践の打線が突然つながった。
連打、連打、また連打。
次々に走者が還り、4点差を追いつく。
それでも止まらず勝ち越し、一挙6得点。
3-7が、なんと9-7になった。
しかし、試合はこのままでは終わらない。
9回裏には日大鶴ケ丘の反撃にあう。
一死満塁まで攻められ、1点を返されて9-8に。
長打が出れば逆転サヨナラもある。
それでも八王子実践は最後のアウトを取った。
これだけミスをして、これだけ追い込まれても、八王子実践は負けなかった。
この試合を見て、八王子実践の勝ち上がりを考えるうえで、一つの言葉が浮かんだ。
「ここで試合を終わらせない」。
ずっと優位である必要はない。
ミスもする。
崩れそうにもなる。
でも、そこで試合を終わらせない。
このチームのこうした特徴は、このあとの試合でも何度も見えてくる。
背番号10・奥山慎太郎投手が準々決勝で初完投
準々決勝の相手は、優勝候補の一角である佼成学園。
八王子実践の先発は、3回戦で4回無失点に抑えていた背番号10の奥山慎太郎投手だった。
しかしこの日は、初回にいきなり2点を失う。
それでも、そこから追加点を許さなかった。
味方打線が追いつき、逆転すると、奥山君はそのリードを守り、最後までマウンドに立ち続けた。
5-2。
奥山君にとって、この西東京大会で初めての完投だった。
私は先に、決勝戦で投げる彼を見ていたので、「かなり荒削りな投手」という印象を持っていた。
制球力で打者を完璧に支配するタイプではない。
正直、球もかなり荒れる。
でも、走者を背負っても簡単には崩れない。
この試合でも初回に2点を失いながら、そこから自分の投球を取り戻し、最後まで追加点を与えなかった。
背番号10の彼が、なぜその後の決勝戦で先発を任されたのか。
その理由が、少し分かった気がした。
塚原翔太投手の「踏ん張る力」
準決勝の明大八王子戦では、エース塚原翔太投手が先発した。
試合は終盤まで競り合ったが、八王子実践が7回に勝ち越し、4-2。
塚原君は136球を投げ、最後までマウンドを守った。
大会を通して彼を見ていて感じたのは、圧倒的な投球というより、粘り強さだ。
それなりに打たれる。
走者も出す。
それでも、そこで崩れない。
目の前の一球に集中し、踏ん張り、最後のアウトを取り切る。
簡単には、試合を終わらせない。
4回戦で打線に感じたのと同じものを、この試合のエースの力投にも感じた。
最後の一球まで、甲子園出場は決まらなかった
そして、西東京大会決勝。
私が最初に八王子実践を知った、あの試合だ。
ここまで大会をさかのぼって見たあとでは、最初に見たときとは少し違って見えた。
相手の創価高校は、準決勝で日大三高を7-4で破って決勝に駒を進めている。
そんな相手との決勝戦で、河本ロバート監督が先発としてマウンドに送ったのは、エース塚原君ではなく奥山君だった。
奥山君はもともと内野手と投手を兼任していたが、怪我によって打撃ができなくなり、投手専任となってまだ数カ月。
その奥山君に、甲子園出場をかけた決勝戦の先発という大役が任された。
立ち上がりはかなり苦しんだ。
四球と死球を合わせて6つ。
球は荒れ、いつ点を取られてもおかしくないように見えた。
それでも、点を与えない。
ここぞというところで三振を奪う。
そして中盤になると、少しずつ投球が変わっていった。
序盤には決まりきらなかった低めや内角の厳しいところにも、いい球が入りはじめる。
苦しみながら、その試合の中で自分の投球を取り戻していく。
もう一つ、決勝戦で強く印象に残ったことがある。
ピンチを切り抜けると、奥山君はマウンドを降りながら時折吠えた。
ずっと感情をむき出しにしている選手ではない。
むしろ苦しい顔をしながら、投げ続ける。
だからこそ、その一瞬が鮮烈だった。
自分自身を鼓舞しているようにも、チームメイトを奮い立たせているようにも見えた。彼は、ハートの熱い選手なのだろう。
0-0のまま試合は進むが、7回、八王子実践がようやく犠飛で1点を奪う。
あとは守るだけ。
しかし、その「だけ」の時間がとてつもなく長かった。
9回、奥山君は一死一、二塁のピンチを迎え、塚原君にマウンドを託す。
塚原君も踏ん張ったが、二死満塁にさらされる。
長打が出れば逆転サヨナラ。
甲子園まであとアウト一つなのに、その夢は目前でついえるのか――。
その打球は左翼へ飛んだ。
そしてファウルグラウンドで、野手のグラブに収まった。
1-0。試合終了。
選手たちがマウンドに駆け寄る。
塚原投手がめずらしく感情を爆発させる。
全国高校野球選手権の西東京大会は26日、神宮球場で決勝があり、八王子実践が創価に勝利し、春夏合わせて初の甲子園出場を決めました
— 毎日新聞写真部 (@mainichiphoto) July 26, 2026
写真は、喜ぶ選手と、投手としてドジャースとマイナー契約を結んだ経験がある河本ロバート監督が涙ぐむ場面です
写真特集でhttps://t.co/aJG9ZtOlvO pic.twitter.com/7gXQpsGqDZ
八王子実践は、最後の最後まで追い込まれながら、甲子園への切符をつかんだ。
ここまで何度も見てきた
「ここで試合を終わらせない」その姿が、最後の一球まで続いていた。
運はあった。でも、運だけではなかった
西東京大会をさかのぼって見てみたが、私は八王子実践高校が他校を圧倒するような強いチームだったとは思わない。
正直、試合の組み合わせに恵まれた面もあったと思う。
そして、各試合の中での運もあった。
どこか一つ違えば、甲子園はなかったかもしれない。
だから私は、この話を「努力すれば夢は叶う」という美談では語りたくない。
たしかに運はあったのだ。
でも、運が来たときに彼らは必死でそれをつかもうとした。
劣勢でも、ピンチでも、簡単に試合を終わらせない。
誰かが苦しめば、別の誰かが踏ん張る。
その積み重ねが、西東京大会優勝につながったのだと思う。
どう勝ったかは見えた。でも、なぜ勝てたのか?
最近、周囲の人たちに「八王子実践が甲子園に出るまで、どんな戦いをしてきたか知ってる?」と聞いてみた。
しかし、みな驚くほど何も知らなかった。校名すら知らない。
考えてみれば当然だ。
記憶として残るのは、「創立100年での甲子園初出場」「甲子園初戦敗退」という事実のみ。
地方大会の一試合一試合を見ている人は、そう多くない。
でも私は、そこをさかのぼってみたからこそ面白かった。
八王子実践がどう勝ったのかについて、私なりの答えが見えたからだ。
簡単に試合を終わらせない。
苦しいところで踏ん張る。
そして、巡ってきた少ないチャンスを逃さない。
では、なぜ彼らはそんな野球ができたのだろう!?
なぜエースの塚原君は、打たれても踏ん張れる投手になったのか。
奥山君は、怪我をきっかけに投手専任となったことをどう受け止め、なぜ数カ月後には決勝の先発を任されるまでになったのか。
河本ロバート監督は、選手たちに何を伝えてきたのか。
そして彼らは、いつから本当に「自分たちは甲子園に行ける」と思いはじめたのか。
試合を見れば「どう勝ったか」は分かる。
でも、「なぜ彼らがそういうチームになったのか」は分からない。
ダークホースとして始まった夏を、八王子実践は最後まで勝ち残った。
でも、その八王子実践の野球は、どうやってつくられたのか。
7月26日、たまたまテレビをつけていなければ、おそらく私は八王子実践という高校を今も知らなかっただろう。
それが今では、知れば知るほど、もっと知りたいことが増えていく。
なぜ彼らは、「ここで終わらせない」チームになったのか。
私がいちばん知りたいのは、そこなのだ。
この夏から八王子実践高校野球部を応援している私です!
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