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邪道作家第六巻 貧者の牙を食い千切れ 分割版その3

    邪道作家

    新規用一巻横書き記事

    テーマ 非人間讃歌

    ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)

    縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)


       3

     結局のところイタチごっごだ。テクノロジーが幾ら進歩しようが、扱うのが人間である以上、その人間を買収してしまえば意味はない。
     だから護衛は必要なのだ。
     何時の時代でも。
     裏切りの可能性がある限り、だ。
     今回、紛争地帯の聖女様は世の中全体の空気を変える、貧困の声を聞かせるとか、そういう綺麗事を浸透させて金に換えているのだろう事を考えれば、紛争が長期化して欲しい連中からすれば、邪魔な存在でしかない。
     メディアの掲げる「聖女」など信用ならんしな・・・・・・文章で「聖女」と書かれているからと言って、実態がそうである保証など有り得まい。
     だから面倒な依頼だった。
     いっそわざと失敗して帰ろうかなと思わなくも無かったが、あの女に嘘が通じるようにも、あまり思えない。「寿命」の問題もある。ここは適当に護衛してさっさと終わらせるのが吉だろう。
     労働に身を費やしたくはない。
     あくまでも、私は作家だ。
     本で金を稼がなくては、価値は無い。
     人の都合で金を稼ぐなど奴隷ではないか・・・・・・寿命はともかく、金に関しては本で稼ぎたいモノだ。実際、私は金に困窮しているわけではなく、むしろ金持ちだが、だからといって「生き甲斐」を仕事にすることで「幸福」を得るという手段を放棄するわけにも行くまい。
     目的はあくまでもそれだ。
     ならば取材だけは済ませておくとするか、悲劇のヒロインというのも、見るだけなら面白そうではあるしな。
     空気に流されて判断し行動する、という群衆の生態も、正直興味深い・・・・・・行動しようとしても空気に合わせられない私からすれば、物珍しくさえある。だが、「空気に流された決断」に夜結果は、決して「己で望んだ結果」にはなり得まい。 そのくせ「自分の望む結末」と違うと嘆く、馬鹿な原始人の姿を見るのも、面白そうだ。見せ物としては上出来だしな。
     思うのは・・・・・・貧困地域の人間というのは、どう足掻いたところで「未来」に「絶望」しか存在しないと言うのに、へらへらと笑う奴が多い。
     それは決して「富よりも大切なモノがある」などでは無く、ただ単に「未来の絶望が分からないだけ」でしかない。現に、あらゆる紛争地域では内紛が起こり、戦わない人間は死ぬか、亡命を行って、知らない国に一方的に頼るだけ、大して未来も考えずに、へらへら生きてきた人間が、未来に勝利することなど「持つ側」以外では有り得ない噺だ。
     知らない人間の「善意」を「アテ」にする生き方が、もし尊い生き方だと言うならば、なおのこと図々しいだけの飽食の考えなど、価値は有るまい・・・・・・そんな生き方では勝てない。
     だから貧困に喘いでいるのだろうが。
     だが、あらゆる手を尽くしたところで、金を掴めるかと言えば、答えはNOだ。ならばこうしてあれこれ手を尽くしている私も、結局のところ、「持つ側」にいなければ、ああやってへらへら笑って現状を変えようとしないカスと、同じ扱いを受けるのだろうか。不愉快な噺だ。
     「運命」があらかじめ「決定」されているならば、そういう事になるだろう。忌々しいことに、私の作品は金に換わっていない。
     ならば、何もせず、何も成し遂げず、偶々運を授かったカスと、やはり「結果」としては同じなのか・・・・・・だとすれば、報われない噺だ。
     報われたくてやっている。
     金の為に書いている。
     自分の幸福のために語っている。
     読者の幸せの為などでは、断じて無い。
     当たり前ではないか、私にだって生活はあるのだ。読者が何人笑おうが、それは私個人の生活には塵一つ分すら関係があるまい。まぁ、私の持論が正しければ、動機は結果に関与せず、あまり意味のないモノだが。
     だから綺麗事で動こうが政治と利益で動こうが結果的に「人を救え」ばそれは正しいかは知らないが、とりあえず善行ではあるらしい。少なくとも国という存在は、人を殺した分だけ人を救えば「殺人」ではなく「作戦」になるからな。
     私から言わせればそもそも「人殺し」が「絶対的な悪」であると言う考えが、そもそも矛盾しているが・・・・・・散々今までそれを肯定して戦争と侵略と植民地を作り上げてきた癖に、よくまぁコロコロと教科書の内容だけで、自分達の倫理観の正しさを肯定し、「良い人間」でいられるものだ。 自分達を正しいと思い込む。
     それで大抵の罪悪は存在さえしなくなる。
     羨ましい噺だ・・・・・・人生楽そうで。真面目に生きることについて考えたところで別に、そいつらよりも上等な生物でもなく、むしろ「運不運」に左右されるのならば、考えたところで何一つ人間は変えられない。
     偶々「幸運」な「持つ側」だった猿共が羨ましい。ああであれば、私は作家などにならなかっただろうが・・・・・・やはり「幸福」には成れないだろう。空気に合わせて生きる人間など、空気に合わせて仕事を選び、相手を選び、年を取ってから後悔して、やりたいことが何なのか? それすらも分からずに、何一つ考えないまま、死ぬだけだ。 ただのそれだけだ。
     人間とは呼べまい。
     それは猿の人生だ。
     私は人間として、非人間として「仕事」を「生き甲斐」にし「充実」して「平穏」に暮らしたいのだ。今更猿の幸福など必要ない。
     空港を出て待ち合わせ場所に向かいながら考える・・・・・・私は幸福になれるのか? そのヒントくらいはあるだろう。無いかも知れないが、貧困に喘ぐ人間は、幸福への参考程度にはなる。
     歩き続けて(最近では歩く人間も少ない。大抵がハイテクの恩恵を受けて移動している)私は目的の店に着いた。
     ステーキを出すカフェレストランだ。無論、稼いで栽培された真空宇宙産のコーンに、培養されたクローンの細胞から出た肉を焼いている店だ。 正直、食欲が沸かない。
     旨いのか? いや、それ以前に何でも機械に任せ続けて、もしこのステーキの中に毒でも入ったらどうするのだろう? あるいはそれはテロリズムからくる人為的なモノかもしれない。こういうのはもう古い考えだが。
     それこそ「結果」だ。
     結果的に、ステーキが出来れば農家の苦労など必要ない。いや、おかしい。自分で言っていて私は矛盾に気づいた。私は、結果を求める人間だ。しかし農家には過程を求めそうになった。だが、「頑張っている」姿勢など、農家がどれだけそうアピールしようが、味には関係ない。
     結果が全てだというならば、過程などどうでも良いしな。結果が早く出てそれが利益になり、無駄を省ければ人間はとりあえず満たされる。
     満たされることと幸福になることは別の話だが・・・・・・しかしどうでもいい。実際問題私には幸福には成れないのだ。「仕事」を生き甲斐にすることで「充実」は出来るのだろうから、とりあえず妥協案として目指しているだけだ。
     金が有ればそれも満足できるから、どうでもいいのだがな。
     どうでもいい。
     考えたところで、「結果」猿のように生きてきた人間と結末が変わらないならば、考えることも時間の無駄だ。
     精々時間を有意義に使う道具でしかない。
     私には、そうとしか思えない。
     本当に。
     思えなかった。
     それとも、案外人間は無意識で「未来」を感じ取っていたりするのだろうか? だとすれば猿のように生きている人間はともかくとして、自分の信じる「己の定めた正しい道」を歩いている人間は、案外あっさり、当人が不安に思っているだけで、長い目で見れば「幸福」になれるのか?
     分からない。
     私は神ではない、作家だ。
     だが、作家だからこそ分かることもある。未来が見えたりはしない。幸福な道かも分からない、だが・・・・・・結局のところ「自分で信じる」しかないのだ。それはハッキリと分かる。
     誰に言われたわけでもない己で定めた己の道・・・・・・・・・・・・その先にしか、きっと幸福は無い。
     私の歩くこの道の先にあるかは、正直、分からない。分からない故に、不安もある。だが、この道が間違っていると思ったことは一度もない・・・・・・私はそんな殊勝な奴ではない。
     胸を張って言えることは、私の作品、物語は、希代の大傑作だということだ。それが認められないのであれば、時代が悪かったと思うしか無い。 無論、時代が何であれ金は手に入れるがな。
     それが、私だ。
    「失礼」
     言って、目の前に座った女は酷く、堅そうなイメージを保持していた。教頭先生の様な眼鏡に、黒のスーツ。一瞬、私以外のSPの一人かと勘違いするほどに、堅苦しい女だった。
    「貴方が「先生」ですね?」
     呼び方を気にして私が統一したのだ。サムライとしての、そして今回の依頼中で使われる私のコードネームでもある。
    「ああ、そうだ」
     私は言って、相対するように座る女に、コーヒーを代わりに頼んでおいた。飲み物を奢ることが目的ではない。人間は、気分が良くなれば口も軽くなるモノだ。と、打算を込めて頼んだのだが、「私は旧タイプのアンドロイドなので、必要ありません」
     と断られた。
     旧タイプ、と言うと食べれはするが、栄養に変えられないタイプなのだろう。どうも堅苦しいと思ったら、単純にオツムの回転が遅いらしい。
     じろり、と凄い目で睨まれた。どうやらこちらの思考を読んだらしい。勝手に人の思考を読んでおいて八つ当たりとは、面倒な女だ。
     私は注文をキャンセルし「それで、何で旧タイプのアンドロイド様が、ここに?」と噺を促すのだった。なぜここにも何も、呼ばれたのは私なので当たり前の流れではあったが、わざと察しの悪い「フリ」をして、相手に必要以上の情報を吐かせるのも情報戦の内だ。多分な。
     ただ性格が悪いだけかもしれないが。
    「我が主は人間を信じないので」
    「だからアンドロイドか。だが、それなら最新型のアンドロイドを買う金は無かったのか?」
     当然ながらわざと怒らせている。
     女は人間もアンドロイドも、プライドだけは高い奴が多いからな。それが女と言う生物だ。
    「・・・・・・最新型では、何事にも言えますが「利用されやすい」という欠点があるのです。市場に出てある程度立ったものでなくては、ウィルスやそれに準ずるモノに対して対策が取りにくい。対して旧型のアンドロイドならば、仕組みは簡単ですしウィルスにも対応しやすいですから」
    「つまり、脳にウィルスを入れられても、馬鹿なら風邪にかかっても大丈夫、と言うことか」
    「言っておきますが」
     凄み、という空気があるならば、まさにこれだろうという雰囲気を女アンドロイドは纏った。驚きだ。アンドロイドも凄みを放つようになったか・・・・・・それで怯む私でもないが。
    「貴方の代わりは幾らでもいるのですよ」
    「そうだな、だが一時の怒りで主の護衛を外すつもりかな」
    「・・・・・・」
     長い紫の髪をしたアンドロイドは、どうやら典型的な「マニュアル人間」のようだった。アンドロイドなのにマニュアル人間とは、おかしな噺だ・・・・・・主の意向には従順。だがプライドは高く、それでいて事務的な対応だ。作業的に仕事をこなすタイプ。見た目は黒のスーツに紫の髪以外、取り立てて珍しい見た目ではないが、逆に言えば、当人の性格の堅さを、服装で表している。
     服装が堅いのは、単純に中身に触れられたくないからだ。逆に言えば、この女はプライベートではお子さまなのだろう。そう思った。
     思っただけで口には出さないが。
     この手の女は、人前での見栄に拘るのだ。
    「ところで、何と呼べばいいのかな」
    「スリープです、以後、お見知り置きを」
     スリープ・・・・・・だらしなさそうな名前だ。少なくとも、目の前にいる女には相応しくなかった。 変えればいいのに。
    「我が主のつけて下さった名前です」
     別に聞いてはいないが、わざわざ教えてくれるのだった。まぁ、趣味は人それぞれだ。とやかく言うまい。
    「それで。細かい打ち合わせと聞いていたが」
    「ええ、まずはこの惑星の情勢から、話していきたいと思います・・・・・・簡単に言えば軍閥、PMCと政府軍、そして革命主義者の集団が、この惑星を囲っています」
    「どう違うんだ?」
     ある程度知ってはいたが、知らないフリをすることにした。人づてに聞く情報とでは、ニュースの情報サイトは温度差がありすぎる。
    「まず、軍閥というのは文字通り、「軍事力」で政治を握ろうとする軍団です。有り体に言えば、元政府軍ですね」
    「元、か。政府軍の中から離反した、と」
    「ええ。先頭経験が豊富な連中が多く、一言で言えばプロの軍人集団です。最も厄介と言えるでしょう」
    「政府軍とPMCは、何故括ったんだ?」
    「蜜月の中だからですよ。潤沢な資金がある政府軍ですが、自前の装備や疲弊した中での兵力はしれています。外注した方が安くつくんです」
    「どこも同じだな」
     奴隷労働でやらされていることが、戦場でも行われているとは・・・・・・人間の本質は、どこも同じと言うことか。
    「なら、革命軍は大したこと無いのか?」
     そんな訳がないのだが、当人から聞いた方が、「どの程度」かわかりやすいので、聞くことにした。
    「いいえ・・・・・・自爆位なら平気でやってのけますよ。連中には強いリーダーがいますから」
    「やはりか」
     言って、知っている癖に言わせたのかと避難する視線にさらされたが、無視した。
     ある程度組織が円熟すれば、リーダーは自然、出てくるものだ。だが、「死して尚叶えたい理想の世界」を歌えるようになるまでは、相当の時間と復讐心が実らなければ難しい。
     思った以上に自体は長期化しているようだ。
     どうでもいいがな。
     作家の私には関係ない。あったところで、やはり知らん。ジャーナリストなら真実を伝えたがるし、貧困支援団体なら避難するだろう。だが私はただの作家なので、作品のネタになれば、他はどうでも良い余所事だ。
     私の作品の糧に成れ、そうすれば寄付くらいしてやるさ。無論、寄付したところで寄付した食料や水を巡って争うのだろうから、それはそれで面白そうではあるがな。
    「そしてその戦火の渦から「お嬢様」だけを守って欲しいと言うことか。やれやれ、参ったな。そんな厄介な状況の上に、小娘を守らなければならないとは」
     途中で見捨てようかな。
     それも面白いかもしれない。
    「報酬は十分用意していますが」
     勘違いしてはいけないのは、その「報酬」あくまでも「生きていれば」払われるということだ。己の実力と戦力、情報、環境を踏まえて行かなければ、生きていくことは難しい。最も、何も考えないでもそれを成し遂げる猿がいるあたり、こうして策を弄することこそが、無駄なのかもしれなかったが。
    「不服ですか?」
    「不服かどうかよりも、内容をもっと詳しく教えて貰えないか? 私も、出来るのか出来ないのか分からない依頼を、受けるわけには行かないのでな」
     無論、根拠もなく「出来る」と口にすることは出来るが、口にするだけなら猿でも出来る。それなら私に依頼するなという噺だ。
    「お嬢様は」
     と女は続けた。
    「思想犯の疑いを受けて、健在政府軍から逃亡生活を送っています」
    「思想犯?」
     初耳だった。
     まぁ、平和を歌う人間など、現実を知らないし知りもしない犯罪者に見えるのかもしれないが。「ええ。理想主義者、ではありません。確固とした理念、政治的思想をお嬢様は持っています」
    「そうなのか?」
     平和を夢見るお嬢様の裏側が見えてきた。だがそれは想像以上、と言うか案外、私を楽しませることくらいは出来る「作品のネタ」かもしれない・・・・・・面白そうだ。
    「ここに」
     お嬢様はいらっしゃいます、と言って一枚の名詞をスリープは取り出した。そこにはこの付近のホテルの名称が書かれていた。
     この「道」の先には何があるのだろう?
     何もないかも知れないが、少なくとも見たことのない風景くらいは見れそうだ。そう思いながら私は多少、軽い足取りで目的地へと向かうのだった。

       4

     私のような狂人でもなければ、人間は流される生き物だ。そしてそれで問題ない。扱いやすいからな・・・・・・有り得ないくらい確固とした自我、我欲、個性、何でも良いが、「それ」がなければ私のような人間は、他者の精神に介入出来る。
     いとも簡単に。
     少なくとも「心を破壊する」だけならば、手間はかかるだろうが簡単だ。自分をごまかしている人間であれば、その事実を突きつけるだけで良い・・・・・・そうでなくても人は脆いが。
     大切な人間であったり、あるいは復習心であったり、まぁ色々ではあるが、大切な人間は絆を壊すか信じられなくすればいいし、復讐心は矛盾を押し付けてやればいい。いずれにせよ己で道を定めていない人間の心など、発泡スチロールのようなものだ。
     放っておいても瓦解する。
     それを壊すなど、簡単だ。
     それが普通だがな。もし心が壊れない存在がいたとしたら、それは人間ではない。少なくとも私のように、「幸福の概念そのもの」が存在しないような「心無い非人間」が、同じ生物だとは分類しにくいだろう。
     どうでも良くないのは分類が何であろうが、外れていようが狂っていようが構わないが、私はそれに見合ったモノを手にしていない、という事実だ。だから強い個性を持つ人間を観察して、私は私を満たすに足る「何か」を探しているのだ。
     何か。
     私を満たすことの出来る「何か」だ。
     それが何かはわからない。無いかもしれない。だが探すことを止めるわけにも行くまい。
     少なくとも、幸福になりたいならば、だが。
     無駄、かもしれないが・・・・・・そういった試行錯誤の一環でもある。だからこそ私は今回、それなりの期待を込めて「悲劇の少女」の取材に向かうのだった。
    「よぉ」
     そこにいたのは5・6歳にしか見えない少女だった。だがその少女は葉巻(麻薬だろう)を口にくわえて、だらしなく座っていた。
     雑誌に載っているような優雅さは、欠片も見受けられない。まぁ、本当に上品でも困るが。
    「何だよ、イメージ崩しちまったか?」
    「いや、構わない。話を聞こうか」
    「ふん」
     言って、葉巻をガラスの灰皿に押し付け、ぐりぐりと火元を消した。随分柄の悪い少女だ。私のような清廉潔白な人間を見習えばいいのに。
     見習ったらこうなるのかもしれないが。
    「護衛だよご・え・い。見ての通り可憐でいたいけな少女だろ? ロリジジィどもに食われないようお守りを頼みたいのさ」
    「・・・・・・現地では、救いの象徴のように扱われていると聞いたが、実状は違うようだな」
    「おうとも。そもそも俺は元々娼婦だったんだぜ・・・・・・汚ねぇ外交官のケツしゃぶってた女が、今や悲劇のヒロインだ。なぁ、笑えるだろう?」
     実際指を指して笑ったらこいつは怒るだろうかと思ったが、やめた。猫を被るのは疲れるしな。「まぁ見せ物としてはそこそこだが。悲劇としては三流だな、どこにでもある話だ」
    「そうかい、そんなことを言われたのは初めてだぜ・・・・・・同情されるよりはマシだが、正直、ムカつく野郎だ」
    「苛つかせるためにわざと言ったからな」
     ジロリ、と私を睨むが、しかし見た目がお子様な為、いまいち迫力に欠けた。美醜に関しては理解は出来ても共感は出来ない、だから私にはどうでも良い話だった。小娘が凄もうが過去のしょぼいトラウマを抱えていようが、本当にどうでもいい話だ。
     そして、
    「アンタは本当は幸せな人間が憎いんじゃないのか?」
     などと、唐突に取材する側の私に、そんな事を聞くのだった。
    「いいや、私にはそんな感情は無いな」
    「そうかい」
     けどさ、とブランデーをぐぃ、と飲み込んで、それからぷはっと息を吐いて、彼女は続けた。
    「そういえば、名乗っていなかったな。俺の名前はマリア、聖母じゃない方の、マリアだ」
    「そうか」
    「アンタのことはなんて呼べばいいんだ?」
    「先生、とよく呼ばれる。そう呼ぶと良い」
    「いいぜ、「先生」くくく。でもアンタほど、人に何かを教えるのに向いてそうな人間って、実際いなさそうだよな」
    「逆じゃないのか?」
    「いいや、俺だからこそ分かる。勝利し続けている人間、あるいは搾取し続けている豊かな国家から学べる事なんて、ないんだよ。豊かな人間から学べるのは、豊かな人間の余裕ある戯れ言だけだ・・・・・・生きるに即したことを学ぶなら、人よりも失敗の多そうな奴に聞くのが一番さ」
    「・・・・・・私は人に教えるつもりも無いので、成功だけの薄っぺらい人間でもいいから実利が欲しいがね」
    「そうかい? けどさ・・・・・・先生には成れないぜ・・・・・・先生はもう、持たざる人間の道を走ってきている。だからその先に何があるかは知らないけど、先生は「普通」って道を走ることは、もう出来ないのさ」
    「役に立たんアドバイスありがとうよ」
     そんなことは分かっているし、それをどうにかする方法はないものかとここまで来たのだが、とんだ肩すかしだ。言っても仕方ないが。
    「そうしょげたツラすんなよ、一杯やろうぜ」
    「・・・・・・酒は健康に悪いからな」
    「はっ! 健康だって? 生きてりゃその内死ぬだろう。そして持たざる側は何時死んだっておかしくない。大体が長生きなんて贅沢は、金に余裕がなければするもんじゃないのさ。俺みたいに自分を売って長生きしても、いいことなんか一つもありゃしないぜ」
    「確かにな」
     実際、娼婦をやってまで長生きしている貧困層が「幸福」になれる未来など想像もつかない。想像できないように「持つ側」がコントロールしているから、そんな職業が成り立つのだろうが。
    「しかし・・・・・・アンタ、先生と話していると気が楽だぜ。大抵の連中は意味のない同情をするか、偉そうに見下したりするもんだが、先生の場合はあるモノをそのまま見るし、何より上にも下にも立っていない。アンタは鏡だ」
    「嬉しくもない」
     どうせなら上に立って、幸運だけの人間だとしても、実利を貪って楽して生きたいものだ。私は別に、お前達が劣等感を抱かなくても良い相手であるために、この世に存在しているわけでは無いのだが・・・・・・私の都合など、誰も考えはしないだろう。実際、私の都合を考えた奴など、見たこともないし、見ることも無いだろう。
     だから私自身が考えなければ。
     誰かが都合良く助けてくれることは無い。少なくとも、目の前の少女のように、周りが押し上げてくれることは、決してないだろう。
     読者は読むだけで役に立たんしな。
     金を払わずに読むだけだ。
     少なくとも、私の読者は。
     私は私の為に、私の幸福のために手を尽くしている。断じて読者の為だとか、世の為人の為だとか、あるいは誰かに喜ばれたり、この女のように「都合の良い相手」として頑張る為では、無い。 それを理解しようとする奴も、いなかったが。 いなくても構わないが、いないならいないで、私の幸福は私が成し遂げなくてはならない。無論そんな簡単に事が運べば、苦労しないが。
     堂々巡りだ。
     幸福のために手を尽くすが、心無い故に幸福の概念そのものが感じ取れない。だから行動しても無意味である上、行動しても結果は出ない。だが私が幸福になる為に出来ることはそれしか存在しない。私自身が動くしかないのだが、だから結果が手に入らない。
     幸運、だとかそういう根拠のない妄言を信じる訳にも行かないが、そんなものでもなければ勝てない。
     だから実質不可能だ。
     私は幸福に成れない。
     このままでは。
     とはいえ、私自身が幾ら変わろうが、最早そういう段階を過ぎているのかもしれない。普通の人間ならば労力を賭けた結果、機械が巡ってきて、押し上げるように目的を果たすのだろうが・・・・・・・・・・・・私の人生にそんな都合の良い「幸運」があるとは、到底信じられない。
     信じられるか、馬鹿が。
     あったら苦労していない。
     苦労しようがしまいが「結果」の善し悪しで決まるのだがな。そういう意味ではやりがいの無い挑戦だ。もう、何回「幸福への試行錯誤」をしたのか、数えてもいない。
     数えるだけ無駄だろうが。
     多くやれば成功するわけでもあるまい。
     だからと言って上手く行かなくて良い訳では、断じてないのだが・・・・・・それも「運不運」だと言うならば、私があれこれ考えても無駄だろう。
    「悲劇のヒロインって奴はさ」
     言って、葉巻を吸って吐く。
     煙を弄びながら、マリアは続けた。
    「実在しないんだよ。思いこみの激しい馬鹿、自己中心的な被害者妄想野郎の中にだけ、存在するものなのさ」
    「感情で考える馬鹿な人間が、そうやって「おお可哀想に」とか、言ってる姿は確かに見るな」
     可哀想、だから何だというのが私の持論だ。
     可哀想な誰かを慮っている、のではない。単にそうしている自分が「正しくて良い行いをしている」と思いこみたいだけだ。そんな自己満足に巻き込まれる方は、たまったものではないが。
     自己満足の馬鹿ほど、迷惑なモノはない。
     そういう人間こそが、要領とか幸運とかで美味しい思いをするのだから、尚更だ。
     存在自体が忌まわしい。
     気持ち悪い。
     吐き気がする。
     貴様等の気味の悪い自己満足に、私を巻き込むな・・・・・・金も払えない癖に、こちらが払った金も忘れる癖に、気持ち悪いんだよお前等。
     私の人生は私のモノだ。
     自分勝手な「誰か」の為のモノではない。
     そんな当たり前の事すら学ばないまま、子供のまま人生を生きてきた人間の方が、私よりも金を持つのだというのだから、皮肉な話だ。
     実に、生き甲斐の無い世界だ。
     これで誰かを想えなど、押しつけがましい。
     図々しい、倫理観だ。
     実にな。
     この女も価値観を押し付けられてきたのだろう・・・・・・だからって同情するほど私は道徳的な価値観などに関心はないので、哀れんだりはしない。「それで・・・・・・お前は自分が「悲劇のヒロイン」を演じていることに自覚的なようだが、何の為にそんなことをしているんだ?」
    「生きる為さ。決まってんだろ? 道を選べない人間だっているのさ」
    「そうでもない。お前は自分でその道を選んだのだろう? 少なくとも、「悲劇のヒロイン」を演じてでも欲しい何かがあるから、だろうが」
     実際、諦めて娼婦のまま終わるという選択肢もあるのはある。それを選ぶことを許さない誇り、なのだろうか。分からないが、聞いて損はない。「・・・・・・やっぱりただ生きる為、かな。悪いけどさ、俺にはこれしか無かったもんでね」
    「同情を操作して、憐憫を金に換えることがか? 何が悪いのだ。ただの商売ではないか」
     誰でもやっていることだ。
     娼婦とか、貧困とか、それらしい肩書きに隠れているだけで、何と人間らしいことか。
     別段、珍しくもない。
    「へぇー・・・・・・先生は娼婦とか、そういう肩書きに騙されないんだね」
     大抵の奴は騙されてくれるんだけどなぁ、などと小娘、マリアは言った。
    「それで金になるならな。で、貴様に憐憫の情を抱いて、金になるのか?」
     純粋な疑問でもあったが、彼女からしたら珍しい回答らしかった。
     どこでもその他大勢の回答は、似たりよったりということだろう。
    「俺は10歳まで娼婦として「仕事」をしていた・・・・・・笑えるだろ? 金を払う奴がいればここでは「仕事」なのさ。で、しゃぶってた訳だが、そんな状況に飽き飽きしていた、ってのが俺の本音かもしれねぇな」
    「飽きる?」
    「ああ。別に娼婦でもそれを生き甲斐にする奴はいるだろうさ。それを卑下するのはお門違いだ。だがな・・・・・・顔も知らねぇ奴らの為に、産まれたときから奴隷になることが決まっていて、それを覆すことが出来ない、なんて生きていると言えるのか? 言えないね。だから噛み切ってやったのさ」
    「それで、「噛み切った」後はどうした? まさか突然アイデアを閃いた訳でもあるまい」
    「面白い奴だな、先生は」
     普通、もっと感極まって、役に立たない綺麗事を口にするもんだがな、とぶつぶつ彼女は言うのだった。
     知らないが。
     他がどうかなど、私が知るか。
     そうして欲しいなら金を払え。
     金を受け取ってから考えてやる。
    「見ての通りさ。偶さか通りがかっていた国際支援団体に助けを求めて、そこから人脈を増やし、今に至る。簡単だったけどな、実際・・・・・・メディア関係は「悲劇の少女」ってキャッチフレーズに「ぞっこん」だったからな。実際、同情を心からしている奴は、いないんじゃないかな。皆「同情している自分スゲェ」って思うだけさ。んでもってわかりやすい「同情の対象」である俺の姿は、金になった」
     ただの、それだけさ、と事もなしに語った。
     実際ここにくるまでの苦労とか艱難辛苦とかあるのだろうが、そんな事を聞いたところで嫌な思い出でしかないだろうし、「頑張ったアピール」に私は興味がない。「結果」だ。「空気を切れ」という今回の依頼。それを達成するためには、まず「どうしてこの空気が産まれたか」を知るべきだろう。
    「そりゃ簡単だよ。飛びつく餌が欲しいだけさ。実際、俺でなくても似たような立場の人間がいたとすれば、そっちに飛びついたと思うぜ。別にこの惑星ですらなくてもいいんだ。ただ、皆空気に任せて「自分で考えたくない」だけだからな」
     私はそういう人間に嫌悪を感じるが、この女はどうやら「諦め」が入っているようだ。そういう人間どもに、期待すらしていない目だ。私もよくするので、よくわかった。
     興味のない人間を見る目。
     その目で、虚ろに世界を見上げていた。
     面白い女だ。
    「成る程な、大体理解した。お前は面白い女だし死なすのは惜しい。金さえ払うなら依頼は受けてやるとしよう」
    「そりゃあ有り難いね」
     対して有り難くもなさそうにマリアは言った。まぁ当然か。彼女からすれば私は信用できる相手でもないし、する必要もない。
     信頼など必要あるまい。
     互いに求めるのは「結果」だけだ。
     それが「仕事」というものだ。最も、貧富が進むにつれ「仕事」はどんどん減ったがな・・・・・・何も考えないで奴隷になり、その苦労を我慢することが「美徳」となった。まぁ、現実から目を逸らしているだけなので、そういう生き方をする人間はすべからく後悔するものだが。
     奴隷であることを許容する人間は増えた。
     それが正しいと信じる人間も。
     「結果」よりも「過程」を重んじた結果がこれだというのだから、皮肉も良いところだ。過程を重んじている割には、何よりも中身が無くなって薄っぺらい世界が出来上がった。
     実際、彼らは信じることに根拠を必要としない・・・・・・「皆が」やっていればいいのだ、そしてその「皆」とは、デジタルコンテンツで見た「皆」であり、自分の目で確認することすら、しない。 そんな人間が成長するわけもない。
     子供のまま大人になる奴も、随分増えた。
     人間は小さくなった。
     だからこそ、こういう女は希少だった。少なくとも作品のネタになる程度には「面白い」。
     面白くなければ人間ではない。
     面白ければそれでいい。
     私は、常にそう判断する。
     国境も思想も宗教も貧富も全て、些細なことだ・・・・・・「面白い」かどうかに比べれば。
     こういう自分の判断が出来る人間も、今となってはいなくなったが、私はそうなるつもりもないからな。これからもそう在るだけだ。
     譲る気はない。
     生き方だけは。
     それでこそ「私」なのだから。
    「じゃあそんな先生に大口の依頼だ」
     言って、ス、と名詞を差し出した。人を紹介されることの多い日だ。
    「これからここで人を殺してくれ」

       5
     
     
     
     失敗をしなかった人間。
     そういう人間は、驚くほど「脆い」。困難な壁を越える経験もなく、その必要もなかったからだ・・・・・・私からすれば「持つ側」にいる人間が、そんな浅はかな傲慢さで失敗する様は理解できないが、考えてみれば確かに「持つ側」にいてそつなくこなしてきた人間が、「己の能力で不可能な事柄を可能にする方法」を考えるとは思えない。  私からすれば意味不明も良いところだ。不可能な壁を押し付けられ続け、困難な道を歩き続け、失敗し続け試行錯誤し続け、それでも尚良い思いのできていない、私からすれば、だが。
     まぁ、だからといって「今までの苦悩は君を成長させるためだったのだから喜べ」と言われたところで、納得できるはずも無いがな・・・・・・それもまた、今更言っても仕方がないが。
     高いところに届く分、倒れると起きあがれないと言うことなのだろうか。だとしたら私は球体って感じだが。
     嬉しくもない。
     だが、事実だろう。
     事実は事実。
     それを受け止めた上で、前へ進まねば。
     私が言いたいのは彼ら貧困層、へたを押し付けられてきた人間達は、私と同じく決して納得しないであろう事だ。寄付とか補填とか、そんなモノで人間の不満が満足するわけもない。
     馬鹿か貴様等は。
     結局のところ、当人達の魂が納得するしかないのだ、そしていままで散々自分達を痛めつけて、美味しい思いをしてきた「豊かな人間達」が何を口にしようが、聞く耳持たぬ。
     当たり前のことだ。
     「持つ側」には、その当たり前が感じ取れないらしいがな・・・・・・豊かすぎるのも問題か? 私からすれば意味不明だが、どうも猿のように何も考えず自分達の幸福、豊かさを「当然」と思い込んでしまうらしい。
     私はそれほど人徳者ではないが、誰かの幸福が誰かの不幸であること位は理解できる。私の代わりに誰かが不幸になろうが知ったことではないがしかし、彼らのように見ぬフリはしない。
     見た上で踏み台にする。
     それが「私」だ。
     それもまた「生きる」ということだしな。だから奪うこと踏み台にすること自体は問題では無いのだ。問題はそれを「当たり前」だと言い、散々踏み台にしておいて「善意みたいなもの」を差し出して自己満足し、それによって不満が金や権力で押さえつけられている現状だ。
     押さえつけながら「君たちを救いに来た」と、支援する国、政府、軍隊。民間の支援者達。
     ふざけるな。
     それが彼らの本音だろう。押さえつけられてきた人間達の、本音。
     お前達の綺麗事に付き合わせるな、お前達が関わらなければ私たちはこうなっていない、と。
     私にはどうでも良いがな・・・・・・誰かを食い物にすることで豊かさが守られるならば、国家間でどこかの国を食い物にすることなど、当たり前だ。 植民地惑星だったか。以前それを見たことがあるが、奴隷を使って自分達の反映があることなど調べれば分かりそうなものだが、自分達は直接やっていないから問題ない、と思っている。
     殺人者となんら変わりないが。
     そんな言い訳をして自分を騙せるのか? 
     少なくとも貧困を押し付けられる側、弱い人間の見る世界と、「持つ側」強い人間の見る世界というのは随分土と差が出る。無論、現実の認識を「押し付ける」のは「持つ側」だが。
     だから、現実には「結果」として、彼らの方が「正しく」なり「強く」あれる。そういう現実を知る人間は「尊さ」とかそういう「綺麗事」が、醜く見えて仕方がない。マリアと私だ
     だが「弱い人間」に権利はない。何かを押し通すことは出来ない。しかし今回は「例外」かどうかは分からないが、外部の人間である「私」が雇われてしまった。
     「空気」を「斬る」
     どうすればいいのか、とりあえずはとっかかりと言ったところか。首を突っ込むのは正直かなり面倒だが、やるしかあるまい。
     精々乗せられてやるとしよう。
     その「空気」とやらを感じ取る限り、どうも思うのは「不満のない人間」つまり持つ側、豊かな側の人間というのは、不満が無さ過ぎて、私のように「生きる」ということをあまり考えない。
     そればかり考えていれば私のように「作家」などという腐れ職業をすることになるのだから、それが良いか悪いかは知らない。自分達で勝手に調べて自己満足しろ。
     考えないでいると、「自分の基準」が無いのだろう。だからどうでもいい、この惑星なら奴隷の女を買ったりだとか、あるいは下僕を殺し合わせて賭をしたりだとか、弱い者を虐げることで快楽を得ようとする。
     実際、意味不明だ。
     そんなことをして、何が楽しいのだ?
     本でも読みながらコーヒーを啜り、チョコレートをかじっていた方が有意義に思えるが・・・・・・・・・・・・「自分が何を成し遂げたいのか」それを考えないでいるとどうも、「欲望の向ける先」がわからないまま「皆の空気に合わせて」わかりやすい欲望の先に力を向ける。
     そういうことらしい。
     私は殆ど自我が目覚めた時点で「目的意識」が在ったように思えるから、正直あまり分からないが・・・・・・「向かう先」の無い「パワー」など、無意味そのものだ。ただの力の無駄遣いだ。
     「向かう先」を「固定」して、「たった一つの目的の為に全てを捧げる」人間を「天才」と人々は呼びたがるが、そうではない。たかがその程度で「成功」出来る人間が、執念を語るな。
     それは「狂気」と呼ぶのだ・・・・・・実際、私がそうだからと言うわけではないが、歴史上で「圧倒的な何か」を残した人間には、才能があるようには思えない。ただ「狂気」だけは皆あった。
     自身に取り付く「悪霊」のような「業と言う名前の執念」こそが、無茶な結果を叩き出したと言えるのだろう。
     ともすると私には「狂気」が少し足りないのかもしれない。常日頃から物語について考え行動するくらいでは生ぬるい。何を犠牲にしても後悔しない「程度」では、足りないのだろうか?
     そうかもしれない・・・・・・無論、私は私個人の幸福を阻害するつもりは無いが、意識だけはしておくとしよう。読者が吐き気を催し読んだことを後悔し、人を信じられなくなる程度では生ぬるい。 私の作品を読んだ全ての人間が破綻者になれるように、精々精進するとしよう。
     その方が面白いからな。
     物語は、面白い。
     だから辞められないのだ。
     嘘八百で読者の心を汚すことは、面白すぎて辞められそうにない。
     まったくな。
     私は「持つ側」と違って「結果」だけを求めるので、向けるパワーは一つでいいしな。努力している自分自身に「立派さ」を感じるようになれば成長はない。努力したから何だというのか・・・・・・頑張っているアピールと結果は関係がない。
     だから尊さなどいらない。
     「結果」が欲しい。
     綺麗事はいらない、結果だ。
     本の売り上げだ。
     まぁ、こんなところで始末の依頼を更に受けている時点で、まだまだ「足りない」のだろう。それが「何か」は分からない。だが私は成長したいわけでもガンバつている姿が凄いと言われたい訳でもない。金が欲しいだけだ。
     まっとうに、生きたいだけだ。
     だからその結果、一つの尊い命が「始末」されようが知ったことではないし、罪悪感も無い。
     殺人は悪いことです、そんなことをする人間は幸福になれませんよと問われるならば、人間は、誰一人幸福にはなれないことになる。だったら別に構うまい。
     そうでなくても構わないがな。
     それもまた、「私の基準」だ。
     こんな風にあれこれ手を尽くすのは「悪い運命を克服したい」という目的があるためだが、っそれは即ち「未来を変える」ことに他ならない。
     だが、未来を変えることは大勢の人間の手で行われるからこそ成功するのであり、何より私は、未来を変えられる人間の輪の中に、いない。
     未来を変えられるのは、未来に生きる人間だけだ。そして問題なのが私は因果の輪から外れているのではないかということだ。
     少なくとも通常の人間と同じ運命の螺旋の上にいるならば、もう少し私自身の手で変えられるはずだ。しかし、私は私個人でどれだけ手を尽くそうが、「絶対に」変えられなかった。
     これは事実だ。
     だから何かしら「協力者」を媒介にすることで上手く行くのではと考えていたが、今回の件を鑑みるに、やはり誰でも良いわけではないらしい。 少なくともあの貧者ではダメだろう。どうやら彼女は「振動核弾頭」所謂「最終兵器」の根絶を望んでいるらしい。
     つまり理想主義者だ。
     実現可能性と言うよりも、聞こえの良い台詞で革命を促し「空気」を変えることが目的だろう。だが、そんな現実に不可能な「夢物語」を頭の中で描いている人間が、などと「物語」を描く私が言うのは何だが、しかし、役には立つまい。
     物語と同じくらいには。
     役に立たない。
     外交官を殺せ、という話を受けたのだが、しかしタカ派の外交官を一人始末したくらいで何だというのか・・・・・・書面を集めて国際連合に問いかけ「民衆の意志」で根絶を目指そうという、つまり何の根拠も具体性もない話だった。
     馬鹿な奴らだ。
     空気に流されている。
     空気を変えようという、空気に。
     昔からこういう連中はいるが、こういう奴らが何かを変えたことなど一度もない。変えることが出来たのはいつだって、手段を選ばず未来を見据え、何より私とは違って「持っている」人間達だけだ。
     持っているだけでは駄目だ。
     口に出すだけでも。
     「意志」と「力」が両立して初めて何かを変えられる。そしてそれが出来るのは「選ばれた」人間だけだ。集団で吠えている人間ではない。
     変えられないから不満をぶつけるだけだ。
     そして満足してそれで終わり。
     それが凡俗というものだ。
     いずれにせよ「神様」などというアホみたいな存在があるのならば、あるいはそれに類する存在があるのならば、あるいは単純にこの世が運不運ならば、我々個人の行動などで世界は変わらん。 馬鹿馬鹿しい話だが、こうも上手く事が運ばないと疑心暗鬼になってくる。もしかすると物語を書くという行為は「悪行」に神様とかいう権力者の基準ではなっているに違いない、とかな。
     意志も力も培うものではない。培ったところで人間に出来るのはどちらか一つが限界だ。意志を磨けば力が育たず力を育てれば意志が伴わない。 だから運だ。
     運不運だ。
     それを神と呼ぶのかはわからないしどうでもいいことだ。「見えない何か」が勝敗に関与するならば、それを味方に付けない限り勝利への道筋は立たない、という教訓だ。
     ただのそれだけ。
     だが、幸運に恵まれた人間はそれを己の力と勘違いして「皆の意志で世界は変わる」などと思い上がったあげく、こんな下らない依頼を私にするというのだから、何事も行き過ぎは考え物だな。 バランス良く生きたいものだ。
     まったくな。
     しかしどうだろう。かりにそんな埒外の存在がいたとして、「物語を書く行為は悪だ」と断定しそれが原因で成功しなかったり勝利できるか決まるのだとすれば、個人の意志に意味はない。
     まったくの、無力だ。
     まぁ神だろうが何であろうが、どれだけ偉い奴が相手でも、書くことを辞められないのだろうが・・・・・・そこまでして結果が伴わないとするならば・・・・・・それは、むなしい。
     やらない方がマシだ。
     今更引き返すことも出来ないので意味のない仮定ではあるが、しかし考えてしまう。
     作家としての道の先に「報い」はあるのか。
     この長い長い回り道に、それに相応しい実利が欲しいだけだ。人間性が手に入らず、幸福は感じ入ることは永遠にない以上、私にはそれを求めることこそが、案外唯一の「目的」なのだろうか・・・・・・わからない。
     「結果」だけが「真実」だ。
     それが全てだ。
     結果を見なければ、納得できまい。
     誰だってそうだ。私もそうだ。
     元より私は「良い結果」など一度も信じたことがないし、「最悪の結末」を先に疑っておいて、「薄っぺらい希望」を信じた、という事にしておく人間だ。要は「確定した結末」以外、私が心の底から信じる事柄など、無い。
     精々私の物語の傑作具合位だろう。
     疑う余地も無いがな。
     見る目のある読者に恵まれないものだ。
     そういうことに、しておこう。
     だが、例え未来が不確かでも、「作家」で在ろうとする以上、私は考えることを辞めるわけにも行かない。
     思うに、根拠のない自信で自分の作り上げたモノを信じられれば「半人前」。更にその根拠と加えて「売り上げ」があがれば「一人前」。そして「自分のやり方を通す」事が出来れば「一流」になり、「世界に影響を与える」を与えることが出来れば「本物」となる。
     まだまだ私は半人前と言うことだが、しかし、いや、それは素直に認めよう。私の作品の良さに読者共がついてこれていないだけの噺だ。
     今回の革命騒動で「影響を与える」ことができれば、私も成長したと言えるのだろうか・・・・・・いずれにしても私は「作家」であって「始末屋」だとか「勇者」ではない。人を救うことよりも、作品を売ることの方が重要だ。
     だから作品の販売の手配を済ませ、とりあえずこの惑星でも買えるようにしておいた。こんな荒んだ世界で私の本を読む物好きがいるのかは知らないが、作家が本を売るのは当然だ。
     例えそこが戦場でも。
     私に出来るのはそれくらいだ。
     私は作家だからな。
     今回の件にしたって、誰かを救いたいわけでもない。あくまで作品のためだ。「空気を斬る」という行為は「物語をもって世界に影響を与える」その手がかりになるかもしれないしな。
     だからそれだけだ。
     決して、何かを救ったりは、しない。 
     知りもしない人間を、大した裏付けもない薄っぺらい善意で救い、飽きたら捨てるほど外道では無いだけだ。
     そういえば、だが・・・・・・マリアと言う今回の依頼主の意向だが、何でも「試練」を与え、それを克服することで、民衆は幸せになれる、という考えらしい。
     その為に外交官を始末しろ、と。
     そう言う訳だ。
     外交官の不幸は波紋を呼び、この惑星が自立する良いキッカケになるだろうとの話だったが、しかしそもそも、誰もあの女に「試練を与えて」などと頼んでいない。
     試練を克服することが「幸福」。
     何とも聖女らしい答えだ。
     実態はただの押しつけがましい善意、つまりただの迷惑行為だがな。何が言いたいかと言うと、つまり周りが持ち上げればそんな下らない行為ですらも「尊い行い」になるということだ。
     それが「空気に流される」という行動の結果でもある。空気に流された結果、この惑星は自ら、「革命」だとか「国家独立」だとかそういう聞こえのいい文句をあの女から聞かされて、それに乗っかって破滅していくのだろうと思うと、何とも哀れに思った。
     思うだけで助けはしないが。
     私は優しくはないので、間違っている奴に正面から注意を促したりはしない。いや、この場合、間違えているかどうかは当人の基準なのだから、「愚かしい行動を流されるままする猿」に、考えて行動しないと痛い目を見ると、注意をしたりはしない。
     だから私には関係のない噺だ。「作家」である私にとって、前述したとおり作品のネタと私個人の利益以外は、どうでも良いことでしかない。
     そういう人間を「作家」と呼ぶのだ。
     他のことを、人助けとか誰かを救うとか、そんなことを私に求めるのは筋違いだ。
     金がなきゃ生きては行けない。
     面白くなきゃ、生きてるとは言わない。
     両立させるのが難しいのさ。
     そして、それこそが・・・・・・面白い。
     ・・・・・・・・・・・・本当のところを言えば、例えどれだけ作品が売れようが、「生き甲斐」を主軸に置こうが、私は決して、「幸せ」には成れない。
     だが、ただ「最初から心が抜けていた」などという理由で「幸福になれない」など、それを諦めるなど、私は御免だ。
     何をどう足掻いても「幸福」にたどり着けることは無いかもしれない・・・・・・だが「幸福を追い求める」試みが無駄だからと言って、どう足掻いても幸せになれないからと言って、素直に引き下がれなかっただけだ。
     ただの意地だ。
     気に食わなかっただけか。あらかじめ私の幸せが絶対に勘定されない世界に、身の程知らずにも挑み続けただけだ。
     結果、私は負け続けた。
     失敗し続けた。
     何度も何度も懲りずに追い求め、失敗しては方策を改め、また繰り返し、ついには傑作を書き上げ、ここまで来た。
     それでも、「結果」が出なければ「失敗」なのか・・・・・・事実、意志だけ伴っても仕方在るまい。 重要なのは結果なのだから。
     だからこそ私は「金が欲しい」そうでなくてはつまらない。そうでなくては嘘だ。最初から幸福になれない人間もどきが、ざまあみろと札束を抱えて痛快に笑う。 
     そのくらいでなければ、面白くない。
     面白い方が、やはりいい。
    「何だね、君は」
     私が向かう先にいたのは、当然ながら殺害指令がでている外交官の姿だった。随分と羽振りの良い服を着ている。儲かることだけは確かそうだ。 結論からいって「空気を斬る」という目的がある以上、私は外交官を殺さないのだった。




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