正しさの刃――ラプラスの指環 4Days/Day2
ラプラスの指環 4Days
MC:ミライ
📖『ニーベルングの指環|原典魔改編——金環の黄昏』
▶️悠久の契り/Day1
正しいことを選べば、正しい結果になる。
……だったら、たぶんこんなに難しくない。
二冊の理由
「なんで二冊?」
ユウから渡された本を見て、最初に聞いた。
『金環の黄昏――ニーベルング四夜抄』。
そして、『ラプラスの指環』。
「読めばわかる」
それだけ言って、ユウは帰った。
いや、説明してよ。
そう思いながら読み始めて、Day1を読み終えたところで、なんとなく二冊ある理由は分かった。
同じ物語ではない。
時代も、場所も、出てくるものも違う。
なのに、どこかで同じ形をしている。
それがちょっと面白くなって、そのまま次を開いた。
今度の舞台は1893年。
明治になって二十年以上が過ぎた京都。
新しい国には、もう新しい法律がある。
昔みたいに、家の恨みだけで人を斬っていい時代じゃない。
……はずだった。
ラプラスの指環
著:黒戸聖
第一幕 客人
1893年10月|京都・綾城家
日が落ちる少し前、綾城家の裏門に一人の男が倒れ込んだ。
着物の袖は裂け、脇腹には血が滲んでいる。門番が声をかけてもすぐには返事がなく、騒ぎを聞いて出てきた小夜が、その顔を覗き込む。
「聞こえますか」
男が薄く目を開く。
「……ここは?」
「綾城です」
その名を聞いた瞬間、男の目がわずかに動いた。
「綾城……」
「ご存じなんですか」
返事はない。
小夜は門番へ人を呼ぶよう頼み、男を中へ運ばせた。傷は刃が脇腹を掠めた程度で、出血のわりに深くはない。ただ、ここまで辿り着いた疲労の方が大きいようだった。
手当てを終え、ようやく男が名を名乗る。
「柏木直之」
小夜には聞き覚えのない名だった。
「どうして、こんなところへ?」
「道を間違えた」
「それで綾城家へ?」
直之が少し笑う。
「倒れる場所までは選べないだろ」
小夜もそれ以上は聞かなかった。
ただ、この男と話していると妙な感じがする。初めて会ったはずなのに、言葉を置く間や相手を見る目に、自分とどこか似たものがある。
その理由までは分からない。
夕刻、綾城重蔵が戻った。
家の者から客人の話を聞き、座敷へ入ってきた重蔵は、横になっている直之を見るなり足を止める。
直之もすぐに気づいた。
二人の間に、言葉より先に緊張が走る。
「……お前か」
小夜が重蔵を見る。
「ご存じなんですか?」
重蔵は答えず、直之から目を離さない。
「柏木直之」
「覚えてたか」
「忘れるものか」
小夜には何の話か分からない。
以前、直之は望まぬ縁談から一人の女を逃がしたことがある。その騒ぎの中で綾城家の縁者が一人命を落としていた。直之自身が手にかけたわけではないが、重蔵にとっては、直之さえいなければ起きなかった死だった。
重蔵はしばらく黙った末、家の者へ向く。
「今夜は客として置け」
「重蔵さん」
「この家へ入った以上、今夜は客だ」
そして直之を見る。
「明朝、門を出たあとは知らん」
直之が口元を緩める。
「分かりやすくて助かる」
重蔵の表情は動かなかった。
第二幕 刀
1893年10月|京都・綾城家
夜も更けたころ、直之は眠れずに部屋を出た。
傷はまだ痛むが、横になっている方が落ち着かない。廊下を歩いていると、広間へ続く壁際に一本の刀が掛けられているのが目に入る。
床の間で由緒を誇るでもなく、普段使いの刀と一緒に並べられているでもない。ただそこだけ、長いあいだ誰も触れていない場所のように見えた。
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