
時空を超えて‥‥小説(世流寝狐70)
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二人は出張の準備に一度帰宅し、駅で落ち合った。ホームで熊本行きの特急を待つ。冷たい風に二人とも無口だったが、合志の胸には、何かが始まる予感がしていた。スタートラインに並び、号砲を待つときのあの瞬間にも似た気持ちだった。
豊肥本線を走るこの列車は、誘拐事件の起きた三重町を通り、生前久保岡が住んでいた豊後竹田を通って熊本へ入る。スイッチバック走行で知られる立野を過ぎると、目的の肥後大津駅へ着く。終点の熊本駅までは、三時間ほど揺られなければならない。
県境の揺れは特に酷いが、近年温泉ブームと共に阿蘇の自然が見直され、若い観光客もよくこの列車を利用する。
三井の実家は、肥後大津駅から一つ手前の瀬田駅からが近いが、特急は停まらない小さな駅だった。
列車の中で二人は、しばらく三井のことを語り合ったが、窓の外が暗くなるにつれて合志はそのうち眠ってしまう。良子は列車に揺られながら合志の体調を気づかっ
ていた。
2
肥後大津駅には七時過ぎに着いた。大津署への顔出しは明日にした。途中で雪が激しく降りだしていて、急いで予約した旅館を捜す。幸いにもすぐに見つかり、小走りで駆け込んだ。
「手が凍りつきそうだわ」
仲居に案内されながら良子が言う。
「あぁ車で来なくて良かったよ。この雪じゃ、やまなみハイウェー通れなかっただろな」
合志は、阿蘇くじゅう国立公園を貫く道路のことを言う。三井の実家へ行くには、車が便利だと分かっていたが、この時期の阿蘇一帯はしばしば雪で道路が閉鎖される。それを見越して電車にしたのだが、合志自身車の運転を好まないということも一つにあった。
二階へ通され、階段を挟んだ右の部屋が良子、左が合志の部屋だった。振り返ると、階段は恐いほど急だった。
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*週末に少しずつ投稿する予定です。作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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