
時空を超えて‥‥小説(世流寝狐14)
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「そんなぁ、合志さんなんか素敵だと思うけど」
冴子の言葉に合志は福神漬をくわえたまま顔を上げた。しめた、と思った。
「あら独身だったんですね?」
良子はわざとらしく驚いて合志を見た。それはまるで氷水を浴びせるに等しい仕草だった。
「ね、冴子。貴方三井さんのことどう思う」
「え、別に、行動力があって素敵な人だなぁって」
「それ以上は?」
さらに疑い深そうに良子は聞く。
「それ以上って、私は結婚するなら竹山さんみたいに、いろんな人から慕われる方とと、決めてるんです。大学病院で若い女性看護師さんにも人気があるみたいだけど、それでいて浮気なんかしない人。そして老後は畑山さんみたいな方と…」
「畑山さんてもう七十近いんでしょ。この仕事そろそろしんどいんじゃない」
と良子が言う。
「そうねぇ、それでいつも早く帰られるのかしら」
「あ、それは違うでしょ、あの方家庭を大事にされてるのよ、だから」
「素敵! それが私の理想なの」
冴子が神に祈るように両手を組み宙を見つめる横で、良子は、しめたと笑みを見せた。
7
一係に戻った合志は、やれやれとんだ昼食だったなと思いながら、一息ついていた。遅れて良子も戻ってきた。係長は、捜査一課の課長と共に『三重町智之ちゃん誘拐事件』と『元町毒猫殺人事件』の現状報告と今後の捜査について上層部の連絡会議に出席していた。もちろん言わずと議題の中心は前者の方である。
良子と二人きりだ。何も心が動かない。これが冴子であったなら少しは力が湧くのかな、と背もたれに体を預けながら考えていた。自分にポリシーや行動力が無いのはこのせいかも知れない。そういえば今まで異性だけでなく、与えられた事件にしても自分を奮い立たせることは一度も無かった。目の前を横切る女性は、いつも冴子ではなく良子で、仕事は机上捜査だった。合志は自分が不甲斐ないのも無理はないな、と思う。
その後幾度か電話が鳴った。しかし元町の毒猫事件について、寄せられる情報は一つも無く、電話のベルはすべて幼児誘拐のものだった。捜査に結びつく情報ではなかったが、世間の関心は完全にそちらに向いているようだ。合志は捜査に行き詰まりを感じていた。
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