
時空を超えて‥‥小説(世流寝狐75)
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線香の匂いが充満している中、靴を脱いで板張りの廊下を通る。襖の間から肩を落とした親族と近親者が、順に焼香を行うのが見えた。
三井の遺体は、あの時式場からすぐに病院へ運ばれ検死を行ったが、青酸カリによる中毒死ということで死因の究明は必要ないため、行政解剖には至っていない。
おそらく棺の中の三井は、式場のトイレで抱きかかえた時の、最後の表情で眠っているのだろう。顔の色はかなり変わっているかもしれない、と合志は僧侶の読経に身を堅くしながら思った。
葬儀の間の一つ隣の部屋へ案内され、告別式に参列する会葬者に一礼して、静かに混じった。隣に座った良子の緊張は、こちらへ来てから一段と高まっているようだった。合志は、一言二言小さな声で話しかけてやる。良子が俯いたまま、うんうんと頷いていると、先ほどの案内役が再びやって来た。腰を屈め、二人に火葬場まで付き添って戴きたいと言う。喪主である三井の父からの依頼だという話だった。合志は承知しました、と応えた。
「何かしら」
良子が少し不安気に囁く。
「俺たちに話しがあるのかもしれない」
合志はそう言って、まさか警察への抗議ではないだろう、と思った。
告別式が始まり、学友らしき男女が数名先に入った。合志と良子は、その後祭壇まで進んで、胸元から香典を供えた。
二人の右手に父親がいた。父親からは生気が感じられず、枯れた植物のようだった。既に妻を亡くし、息子を頼りに農業に勤しんできた父にとって、息子の死は自分の死と同じに違いない。精一杯の力で両膝に手を突いている様子が、合志には痛々しかった。
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*週末に少しずつ投稿する予定です。作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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