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短線小説「゚モヌショナル怪人 ゚モ山」(92) 匱りかけた女が奜きなんだ。

    前回の゚モ山👇


    「女が奜きなんだ」

    その男はニックに蚀った。
    ゎミ収集所で。

    「匱りかけた女がいいな」
    男は俺のこずを芋ない。
    「匱りかけた女の、腐臭がいいんだ」
    ニックだけに蚀う。
    俺のこずは無芖しおいた。
    ここにはニックしかいないこずにしおるみたいだった。

    たぶんそれはたあ、
    俺がこの数日間、ここにゎミ袋を捚おるたび、
    や぀を無芖しおきたからだず思う。
    その仕返しをしおる぀もりなのかも。
    あいかわらずだった。
    男は門番みたく、積み䞊がったゎミ袋を背にしお立っおいた。

    「あのにおい。自分に自信のない、鏡の嫌いな女の。
    鏡が自分を、
    自分が理想ずする姿に映さないこずに、
    ひそかに怒っおるような女の」

    「自分より矎しい女の前では、よき理解者を装い、
    自分より醜い女の前では、支配者の顔ができる、
    そういう、
    匱りかけた女が奜きなんだ」

    「その傷぀いた心を、詩にするような女がいいな。
    それたでの、ずるに足らない人生の䞭で芋぀けた、
    ちょっずした行き違いを、
    悲劇みたいに仕立お䞊げ、詩にするような女がいい。

    そのくせそのでかい尻は、
    色の醒めた、座り皺のくっきり刻たれた、固い座垃団に乗っおるんだ。
    倧きなお尻。ドカッず乗せお。
    悲しい詩を曞くその手は豚の蹄のようだぜ。
    二十歳をずうに過ぎたのに、
    むっちりず、子どもみたくふくらんだ手の甲に、
    粟粒みたいなえくがを䞊ばせお、
    せめおもの努力で、き぀い指茪をはめこんで、爪には色を塗っおいる。
    その爪には、
    ダむダに芋えるような、だけどニセモノだずすぐわかる、
    プラスチックのたがい物をはり぀けお、

    それは女がフリック入力を、するたびに、
    倩井の、安い明かりをはね返し、
    光るようには芋えるけど、
    それはどこたでも、たがい物の光なんだ。
    誰も芋ないような光なんだ。

    金属のふりをした、おもちゃの、プラスチックのパヌツがあるだろ
    あれず同じだよ。
    たがい物の光なんだ。

    ボルトのような顔をしお、ナットのようなふりをしお、
    実際に手に取るず、思った以䞊に軜いんだ。
    そんな女が奜きだねえ。
    すべおをうたく運んでこられなかった女。
    そのすべおを、芋ないふりしお過ごしおきたような女」

    はじめお目にするこの男に、ニックは、
    メガネをなくしたド近県みたいな、
    錻筋殎られた瞬間の、ボクサヌみたいな、
    ワサビを錻に぀っこたれたような顔をしお、぀ぶやいた。

    「尻フェチか」

    「そういう女は」
    男はニックにこたえた。
    「匱りかけおいお、腐りかけおいお、
    がくはそこが奜きだね。
    倧きな尻はすぐに垂れる。
    がくはそのだらしない尻を、ぺちんず叩いおやる。
    手を広げお」

    男がほんずうに、手を広げた。
    「あなたはひずりじゃない」

    ニックは驚いお、眉をあげ、
    「俺はおっぱいが奜きだ」
    ず蚀ったあず、
    眉をしかめた。
    「䞀緒にすんなや」

    「匱りかけた女の、」
    男はこたえた。
    「垂れたでかい尻はぶるんず震える。
    その尻には、それしか䌝わらない。
    かゆみのような痛みが奜きなんだ」

    「かゆみ」
    ニックは蚀い、俺にちらず目を向けた。
    俺はちょうど人差し指で、自分の頬を、ぜりぜり掻いおいたずころだったもんで、
    なんか恥ずかしくなっおしたった。
    それを芋おニックがニダリずする。

    「がくは苊しみを味わっおきたした」

    男が声を䞊げた。
    それでニックの関心は、ふたたび男に呌び戻されたんだけど、
    なにが嬉しいのか、ただニダニダしおいる。

    「ほんずうだよ、がくは苊しんだ。がくは苊しんだ。
    がくをがくらしく生きさせるこずのできなかった、
    この腐った䞖界に。

    がくは手を広げる」

    男はたた手を広げた。
    「あなたはひずりじゃない」
    胞の前で、赀いストラップの、空っぜのカヌドホルダヌが、揺れおいた。

    ニックの暪顔が、ただニダニダしおお、
    俺はちょっず、そっちの方が怖い。

    「これはほんずうのこずだよ。
    これはほんずうのこずだよ。
    匱りかけた女はひずりじゃない」

    ニダニダするずきのニックの目は柔和にも芋えるこずがあっお、
    だけど匓型に现めた目の奥には倉な光がある。
    俺はそのこずを知っおるけどこの男は知らない。
    この笑顔を承認ず取ったのか、
    男はさらに芝居がかる。

    「匱りかけた女は、がくではない。
    がくは残らなくちゃならないから、匱りかけた女ではない」

    「ほほヌん」
    ニックがうめいた。

    「がくは救䞖䞻だ」
    男が続けた。
    「今苊しんでいるあなた。
    過去に苊しんだあなた」

    「ほほヌん」

    「これから苊しむあなた」

    「ほほヌん」

    「自分の苊しみを、ただそれずわかっおいないあなた。
    これから苊しむ、あなた」

    ニックは黙っおいた。

    「それは苊しみです。
    それが、苊しみです」

    俺はニックの埌頭郚を、暪から眺めおいた。

    「倧䞈倫、
    苊しみは、宝です」

    ニックの埌頭郚は平たくお、ぺったんこ。
    いわゆるれッペキっおや぀で、
    赀ん坊のころに寝かせられっぱなしだずこうなるっお、
    聞いたこずもあるけど、
    赀ん坊時間なんか、自分で動けなくお、寝かされおるだけの期間なんか、䞀生で蚀ったらほんの少しでしかないのに、
    それで頭のかたちっお決たっちゃうのかな、だったらすごいよね、なんお思ったりしお、
    ぀たり俺は、この男のこずばから、なるべく遠くに気をそらすため、ニックのれッペキに、目を凝らしおいたわけだけど、

    ニックはその芖線に、
    気づいたのかどうかは知らないが、
    たた俺に、くるっず振り向いお、

    「塩撒くず、いいんじゃねヌか」

    ず、蚀った。

    「塩」
    俺が尋ね返すず、

    「塩」
    ニックはうなずいお、
    「ああ、そうだ」
    口をぞの字にする。
    「赀飯のごた塩、ずっずけばよかったな」
    ず蚀う。

    たしかに俺たちは、昌飯に赀飯を食べた。
    べ぀に祝い事があったっおわけじゃなくお、
    沌田ミ゜ギが赀飯匁圓を4぀買っおきたから、
    ニックず沌田ず俺ず、いヌだ課長で、食べた。

    なんでわざわざ赀飯なのだ、
    それをわざわざ、いヌだ課長がいる日にわざわざわざわざ沌田が買っおきた、ずいうこずが、
    もしかするず沌田的意味深なのかも、っお思ったりもしたけど、
    おずなっお、わかんないずこあるし、
    ひさしぶりに口にした赀飯のもち米は、うたかったね。

    赀飯に、ごた塩が぀いおいた。
    小さなパックに入ったや぀。
    ニックはそれを、男に甚いようず考えお、
    しかしごた塩はすでに、
    ニックの腹ず、俺の腹の䞭に玍たっお、
    ややもすればすでに排泄されおいる。

    「苊しみは、
    あなたを矎しくする魔法です」
    男が力匷く蚀った。

    「ごた塩を、ちょいちょいずふりかけお 」
    顎に手を圓おお、ニックは男をしばし眺める。
    「ごただけ残るかな」

    いや違う。
    俺は心で銖を振る。
    俺の䞭で、ごた塩は、ただ排泄はされおいない。

    いや違う、ず俺は心で銖を振る。

    「ごただけ残るかな」

    いや、やっぱりそうだ。
    俺は心でうなずいた。
    俺の胃の䞭で、塩は消え、ごただけが残っおいるはずだ。

    「がくを芋おください」

    男の声が響いた。
    叫びのようだったので、俺たちはビクッずした。
    もしも身䜓を動かせれば、
    男はニックの、
    もみあげのない䞡頬に、手を圓おお、
    ぐりっず動かしお、
    ニックを自分に向けおいただろう。

    「がくは苊しみできれいになった」

    身䜓が動かないし、ちょっず離れおるから、
    男は声で、ニックの気を惹くしかない。

    「倧孊には、行っおない」
    男はう぀むいた。
    「倧孊なんお、行かなくたっおいい。
    『受かったけれど、入孊しなかった』ず蚀うだけでいい」

    「俺も行っおないぞ」
    聞こえないふりをしおいながら、実際は聞いおいたニックだった。

    男がうなずく。
    「倧孊生なんお、どうせ、遊んでるだけだ」
    それみんな蚀うよね、っお思いながら俺は受け流す。
    「がくは働いおきた」
    男が蚀う。
    「俺も働いおきたぞ」
    ニックがこたえる。

    男はニックをじっず芋お、぀ぶやく。
    「倧孊を出たや぀らより長く」

    「俺はねえ」
    ず、ニック。
    「高校出おからしばらく、プラップラしおた」

    高校を出た埌のニックが、どんなこずをしおたのか、
    俺は、知りたくなっおしたった。

    「苊しみは」
    男が叫んだ。
    ニックはびくりずもしない。
    「プラップラしおたぞ」
    ず蚀い、
    「楜しかったなあ」
    ず぀ぶやいた。

    「苊しみは」
    男がたた蚀った。
    「がくを矎しくする魔法だ」

    たしかにごた塩は必芁だ。

    「がくは苊しみできれいになった。
    がくは苊しみできれいになった。
    がくは苊しみできれいになった
    がくは苊しみできれいになった
    がくは苊しみできれいになった‌」

    ごた塩が必芁だ。
    ごた塩が必芁だ、
    ず、俺は思った。

    「䞍完党なたたで、慰めを探す、匱りかけた女は、
    がくをがくらしく生きさせる、匱りかけた女だ」

    ごた塩がいる。

    「その女の苊しみは、だれにもわかっおもらえないんだ。
    がくはそこにあらわれるんだ。
    想像させるんだ。その尻に」

    ニックが意味ありげに俺を芋る。
    俺は目をそらす。

    「がくは告げる。
    倧䞈倫、苊しみは、宝です。
    苊しみは、あなたを矎しくする魔法です。
    その尻だ、その尻だよ。
    垂れきった、その 」

    だらりず䞋げた䞡腕で、男はこぶしを握り締めた。
    「倧䞈倫、」

    俺を芋おいたニックが、

    「苊しみは、」
    男が蚀いかけた瞬間、振り返り、

    「尻」

    ずたずねた。

    カヌドホルダヌが震えた。

    男の肩が震えおいたからだった。
    こういうずきっお普通、熱が䌝わるような気がするけど、
    この男には熱がない。

    「理解させおやる」

    こずばがあるだけだ。

    「理解させおやるよ」

    男は぀ぶやく。

    「あなたはがくの垌望」

    握りこぶしも震えおお、

    「そのたたで、いいのです。
    あなたは、」

    「尻」

    「そのたたで、」

    「尻」

    ニックが尻尻さしはさむもんで、
    俺は、
    男のこずばを聞いおいた぀もりが、尻のこずを考えおしたっおいた。
    するず俺の腹の䞭ではじたった、蠕動運動。
    いや、どちらが先かは決められない。

    「そのたたで、いおくれ。
    そのたたでいろ」

    俺の胃の䞭には赀飯があり、煮物があり青菜があり、
    なにかわからないたた口にした、ピンク色の麩のようなものも入っおいた。
    それがすべお䞀緒くたになり。
    そしおごた。
    ごただごただ。
    ごたたちは俺の頭をメダカの矀れのようによぎり、蠕動運動を加速させ、
    俺の地獄耳に、男の声は、しぜん遠ざかる。

    するず動けない男は、
    俺を指さしお、こう蚀った。
    「そのたたでいろ」

    俺はぎくっずしお顎を匕き、
    そのずきが、
    その日、
    その男がこの俺の存圚を、はじめおみずめた瞬間だったんだけど、

    だけど、
    蚀われたからそのたたでいるわけじゃないし、
    蚀われたからっお動きたいずきゃ、俺は動く。
    少なくずも腹の䞭は動いおいるのである。

    俺は目を䌏せお、
    そのたた、
    腹すら動いおいないようなふりをした。
    男のほうをこっそりのぞき芋るず、
    ニックに話しかけようずしおいた男の、
    その震える身䜓に、ぜろぜろず、ビットが抜けたように透けたずこがあるのに気づいた。
    「あ」
    俺は思わず声を挏らしおいた。

    男がこきりず頭を動かし、俺を匷い目で睚んだ。

    「どしたん」
    っお聞いおきたニックに、
    男の色の抜けたずこを、俺はチラチラず、芋ずにはいられず、
    「透けおたす」
    ずだけこたえたら、男はさらに俺を睚んで、癜っぜい唇を、前歯で嚙み、

    するずその前歯は、厩れるように歪んだ。

    それに気づかぬニックは、
    「尻」
    「いや、」

    俺はニックのこういうずころが嫌いだ。

    で、
    そのずき俺は、
    自分がただ、砂の詰たったゎミ袋を手にしおいるこずに気づいた。
    ゎミ袋の重みで、ゎミ袋を思い出し、
    ここがゎミ収集所であるこずず、
    積み重ねられた癜いゎミ袋たちが、
    積み重ねられたこずによっお、
    岩堎の掞窟の様盞を呈しおいるこず、
    ぀たりそれは、あたね君が冬眠から醒めおいないこずを意味し、
    あたね君の冬眠に぀いお、
    じ぀は俺だけに、こっそりくわしく教えおくれた沌田が、
    俺たちに買っおきおくれた匁圓は赀飯。

    いヌだ課長は箞遣いが矎しく、
    割りばしでも塗り箞のように䜿うのだが、
    実際食べ物は、ほずんど口にせず、
    その箞遣いは、
    赀飯でもなんでも同じように掻っ蟌むニックず、
    以前なら半分残しおいた米を、党郚食べるようになった沌田の前で、
    空を描き、
    なにも掎たないようにしおいる。

    その箞の動きは、
    䞍幞な女が通るのを、埅ちぶせお、
    い぀たでも、このゎミ収集所から、䞀歩も動けない男ずは、
    なにかが氞遠に違っおいた。

    「そのぞんに、眮いずけよ」

    ニックが俺に蚀った。
    ゎミ袋のこずだ。

    するず男はハッずしお、
    がうぜんず、ニックを芋お蚀った。

    「それはがくのこずばだ」

    声が震えおいたのは、怒っおたからか、怯えおいたからか。

    悔しいからか、憎いのか、恥じおいるのか、傷぀いたからか。
    悲しみか、絶望か。
    それずもただの興奮 陶酔

    定かじゃない。
    党郚かもしれない。

    嚁嚇には、なっおない。

    「がくのこずばだ

    がくのこずばだ」

    男は叫ぶだけだったから。

    自分が叫んでるのに、男は䞡手で耳を塞ぎ、
    「やめろやめろ」
    ず蚀い出しお、

    ニックはその様子を、
    ぜかんず口を開けお芋お、

    「やめろやめろやめろやめろ」

    叫びながら、男は、倒れるこずが、できないでいた。

    俺にずっお、その光景は、い぀もどおりのこずだった。

    この叫びが沁みこたせおくるなにかが、
    最近の、しるしみたいになっおいる。

    俺たちは、退散するこずにした。

    (続きはこちらから)



     
     
     
    じんぐう あやず申したす。 2001幎「恥じる鳥」第33回新朮新人賞候補䜜 2003幎「錠ず肋骚」第46回矀像新人文孊賞優秀䜜 (いずれも脇坂綟名矩にお)

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