348話 稚児ヶ淵のその先に Beyond Chigogafuchi【波打際編】波打際スケッチ Sketches of the Shoreline ~AIと創る青春物語~
稚児ヶ淵の海は、午後の光を受けて輝きながらゆっくりと揺れていた。
波が岩に当たるたび、白い飛沫が細かく散る。
サクヤは、潮風に髪を揺らしながら海を見ている。
その横顔は、どこか懐かしいような、
それでいて境界線の向こう側を見ているような気配があった。

タカオは、その横顔を見て、
胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚を覚えた。
もちろん──
サクヤと二人きりでいることの緊張もある。

だが、それだけではない。
第二岩屋の入口に立ったとき、
タカオはふと、息を飲んだ。
洞窟の奥から、
冷たい風がひと筋、流れてきた。
その風は、潮風ではなかった。
むしろ山の気配がした。
伝説では、この洞窟は富士山までつながっていると言われている。

丹沢の白い霧・・・
丹沢は、富士につらなる龍脈にある・・・
あの日、サクヤが迷った森の静けさ、冷たい空気・・・・
水源の冷たい水の川・・・

ミナセと名乗ったあの少年・・・
タカオは、思わず足を止めた。
・・・やはり、そうだ・・・・
何かを思い出している
サクヤが振り返る。
「先輩?どうしたんですか?」

「あ・・いや・・・なんんでもない」
タカオはそれ以上を答えられなかった。
・・・そうか・・・・やはり・・・・
あの時の・・・・

胸の奥で、何かがゆっくりと目を覚まし始めていた。
江ノ島は、海の龍の島だろう。
けれど、今、洞窟の奥から流れてくる気配は──

山の龍の気配・・・
タカオは、自分の手がわずかに震えていることに気づいた。
サクヤは気づいていない。
ただ、洞窟の奥を見つめている。

その横顔は、あの日、
白い霧の中で泣いていた少女の面影を
確かに宿している。

タカオは、静かに息を吸った。
今日、ここに来た理由。
サクヤを連れてきた理由。
なぜ、江ノ島だったのか・・・・
そして・・・・なぜサクヤじゃなきゃいけなかったのか・・・

そして、自分がずっと胸に抱えていたあること。
それらが、
洞窟の奥の暗がりとともに、
ゆっくりと形を持ち始めていた。
「サクヤ」
タカオは、少しだけ声を低くした。
気が付いていないが、呼び捨てになっている・・・

「この先……少しだけ、気をつけて歩こう」
「え?どうして?」
怪訝な顔をしたサクヤに、タカオは答えなかった。
・・・答えられなかった。

第二岩屋の奥は、
海の龍の領域であるはずの場所。
が、同時に──
山の龍が海へ降りてくる場所でもある・・・。
そしてその境界線を
今、二人は踏み越えようとしていた。
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