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第二部  雨上がりの天(そら)                 第十二話 思い出す人

    あの約束から、二十年が過ぎていた。

    雨上がりの午後。

    窓の外には、天使の梯子が降りていた。

    山並みに、スポットライトのような光の帯が差している。

    その光を見た瞬間、ガラス越しに視線を交わした、あの日の光景がよみがえった

    何年経っても思い出す人。

    思い出の中でだけ、静かに歳を重ねていく人。
    もう逢うことはないだろう。

    私は子供達の幸せを静かに願いながら、
    これから先の人生に必要なものだけを残して、身軽になりたかった。

    思い出の品を、一つずつ整理していた。
    ふと、普段は開けない引き出しに手を伸ばす。

    宝石箱の下から、一冊のパンフレットが滑り出た。

    『ロンドンデリーの歌』

    彼が一人で聴きに行ったコンサートのパンフレットだった。

    ある日――
    ポストの中には、そのパンフレットと、使われることのなかった一枚のチケットが入っていた。

    私は階段を駆け上がり、窓から公園を見た。
    けれど彼の姿はどこにもなかった。

    買い物から戻り、ポストを確認してから、ほんの一時間ほどの出来事だった。

    ブレスレットも、連絡先も、夫の目につかない場所にしまっていた。

    今は、もう隠す必要はない。

    随分と私は安らぎと自由を取り戻していた。


    信太郎は元気だろうか。

    ふと思うのは、それだけだった。

    私は、思い切ってパソコンのメールアドレスへ送ってみた。

    携帯にも送ってみた。

    どちらも送信エラーだった。

    一か月待っても、返事がくるはずはなかった。

    お守り代わりにしまっていた彼の連絡先へ、私は初めて電話をかけた。

    電話番号は、二十年経った今も覚えていた。

    携帯に電話をしてみた。

    若い女性が出た。

    新しい番号の持ち主だった。

    自宅の電話にも初めてしてみた。

    「現在使われておりません」

    ただ、それだけが繰り返された。



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    はじめまして ゆるりたまゆらまりあ改め美凪です。 経験を経た人生の節目の今なら書けること、書きたいことを大切にしたいです。 誰かの何気ない一言や行いが、その後の人生を支えになることがある。 静かに誰かの心に残る言葉を綴れたらと思います。 どうぞよろしくお願いいたします。

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