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茶室の早耳侍 #3 激戦の巻

    <前回までのあらすじ>
    「兄は勇敢だが、弟は遊び人」
    遊び人と揶揄される弟・千葉宗房は世間の悪評をものともせず、今日も今日とて茶会を開いた。常世をはじめとした与力を登用し、着々と人脈を広げる宗房ではあったが、足りないものが一つあった。宗房の名を轟かせる「名器」である。
    主君であり、父の仇でもある司馬宗房は管領の職務を戴く事実上の天下人だ。小じんまりした茶会ではいくら回を重ねてもきりがない。そこへ天下の名器・『陽光』の噂を聞きつけた宗房は商都・神島に飛び、『陽光』の所有者であるお静なる遊女から名器を勝ち取るのである。

    ————―――――


    『挙兵』
    「御館様、宗房様、申し上げます」
    宗房と晴房は声の方に目をやった。今は二人しかいない。小太郎の声だ。
    「兄上。わが手の者にございます」
    「うむ。入れ」
    襖が開くと片膝と右の拳をついて小太郎が控えている。
    「御館様、宗房様。佐々木宗明殿、身罷りました」
    小太郎が声を落として報告した。
    「相判った。行け」
    晴房の下知に小太郎は無言で頭を下げ、襖を閉める。
    「いよいよだな、宗房」
    「はい。これで将軍様と徳房様の間を取り持つ者がいなくなり申した。御自ら政を司りたい上様と、実際に政を牛耳っている徳房。年長たる宗明が間を取り持ってございました」
    この時を待っていた。城を築き、町を開き、外交でも将軍と管領、朝廷の間を取り持っていた宗明の器量は尋常ならざるものだった。しかしこれらの関係を支えてきた宗明がいなくなったのだ。
    「将軍様はご気性の激しい方、徳房は尊大。こちらに風が吹いてきたぞ」
    「仰せの通りにございます。兄上、いまこそ父上の無念を晴らしましょう」
    兄は幾度も大きく頷き、その目は光り輝いている。きっと宗房も同じ気持ちだ。
    「よし。早速将軍様に密書を認めよう。そしてもう一つ策がある」
    「それは?」
    「我が名は晴房、そなたは宗房。この名は徳房への恭順の証であった。だがもう必要ない。今こそ兄弟揃って「房」の名を捨て、反旗を翻すのだ」
    「なるほど。上様はやりたがりな御方故、御自らの手で名を与えたとなれば必ずや気を良くされましょう。良きお考えにございまする」
    半月後、三村義央なる将軍の使者が現れ、晴房には正五位下右兵衛佐晴信、宗房には従五位上甲斐守晴明という官職及び新しい名を取得した。父の死より十五年、ようやく仇討ちの一歩目を飾ることができた。逆に徳房は将軍との主導権争いを内に、元部下であった千葉晴信が父の仇討ちを期して外に控え、内憂外患の憂慮を叩きつけられる格好となった。
    それでも徳房は東の佐々木、西の一条、念仏宗徒と司馬家と親しい盟約領主を動員し、千葉家への包囲網を形成してみせる。
    「まあ、この辺はさすが管領様ってとこだな」
    晴信が腕を組んでそうつぶやけば、
    「予想はしていたのですが、敵ながら見事な多方面作戦でございます」
    晴明もまた相槌を打った。しかしやはり戦力差からか、心細さを禁じ得ない。
    「こう来るだろうと思っていたさ。やはり格式ある相手よ。狡賢い奴だというのはよく知っているが、極力己の手を汚さないで敵を消す。……実に奴らしいやり方だ」
    「で、兄上。どう対処なさいます?」
    「もともと儂は元部下だ。自分を大きく見せて降参することを期待してるのさ。下策は和議を申し出ることだ。戦わずしてすべてを毟(むし)り取られかねない。逆に抵抗すれば半分奴の目論見が外れることになる。……武人の血が騒ぐわ。今こそ父上の仇討ちがはじまったな」
    強気な兄に晴明は目を丸くするのと舌を巻くのが同時だった。血を分けた兄弟だけに、武に任せた戦を好む御性分だというのはよくわかっている。圧倒的戦力を前に心細い晴明には、弱気が一寸も伝わってこない兄が頼もしく見える。
    「どうした?晴明。怖いか」
    「いいえ。幼き日に兄上と誓いを立てた日を思い出しておりました。あれから二十年、あの血の味を未だ忘れてはおりませぬ。『必ず父上の無念を晴らそう』と。兄上の仰せの通りにございます」
    晴信の表情が一気に綻んだ。
    「敵は強いぞ。それでも兄弟の力で、父上の無念を晴らそうぞ。晴明!」
    「ははっ」
    晴信と晴明は手を取り合った。最後に頼れるのは今目の前にいる血を分けた兄弟だ。晴明の心が滾る。わたしには兄がいると。兄上もきっと同じ心境なのだろう。まず初戦に勝利して西の雄である一条家と和睦をした。
    そしてこれは苦難の日々の始まりだった。兵を率いて東へ西へ。金子や兵糧を湯水の如く費やし、収支報告に度々晴信も晴明も頭を抱え、味方の将兵が傷つき、千葉の領民は困窮した。それでも徳房が晴信と晴明を圧倒できなかったのは、徳房と将軍の確執はさることながら、茶の席で友誼を結んだ三太夫や木村備後など数多の友人たちが各地で暗躍してくれていたからに他ならない。


    「ぬうう! おのれ晴信! わしが手塩にかけて育ててやった恩を忘れ折ってええええええ!」
    都の自邸で徳房が荒れていた。傍らにいる黒い衣をまとうのは徳房の懐刀である小島頼綱だ。
    「某の手のものによりますれば、晴信という名は将軍が名付けたと聞き及びまする。となりますれば……」
    「将軍と通じておるのか、おのれえっ!」
    徳房の頭の血が収まらない。脇息を蹴飛ばし、扇子を圧し折って投げ捨てる。
    「殿。そのように晴信めが目障りであれば、暗殺してしまうに限りますぞ」
    「なに?」
    徳房は目を丸くする。
    「聞くところによれば晴信めは正室の福原御前と離縁をしたそうにござる。となれば女子には困っておるはず、となれば伽の相手を送り込むのが上策かと。どうかお任せを」
    頼綱は自邸に戻ると細作を呼び寄せた。男の細作は乱獲、女の細作は蘭巣といい乱獲の娘だ。
     
     
    『辛き撤退』
    「し、しまった!本隊が薄すぎる!」
    徳房と事を構えて三年目、兵を東に進めた晴明は阪本の南東にある俵山で目を見開く。緒戦に勝利したが追撃にかまけて、常世も秀勝も宗勝も今は晴明の傍にいない。晴明の本陣にいるのはわずかな近習だけだった。
    「伝令! すぐ先発隊を呼び戻せ! 急げ!」
    伝令が離れるとともに鉄砲の音が鳴る。晴明は周りを見渡した。将帥に値する具足を身につけているのは自分だけだ。佐々木軍には鉄砲の傭兵がいる。敵将である宗久は弓の名手だ。山に陣取る千葉軍は格好の餌食でしかない。急いで木陰に隠れる。
    「皆の者、早く隠れろ!」
    「うわあ!」
    晴明の下知より早く鳴り響いた鉄砲の音で、叫び声とともに近習たちが朱に染まって倒れる。辛くも木陰に逃げ込んだ晴明だが、次々倒れる側近をみて唇を噛んだ。
    (くうう! なんてことだ!)
    仲間たちが次々と凶弾に倒れる。悔いが晴明を襲った。
    「殿! お逃げくだされ」
    一緒に隠れていた兵が晴明を促す。だが晴明が動き出すより早く、白い幟を差した佐々木の兵が次々現れた。
    「狙うは千葉晴明の首! 急いで探し出せ!」
    将と思しき黒い甲冑(かっちゅう)の武者が家来たちに檄を飛ばす。おそらくだが佐々木の重鎮・前田久兼だろう。白い幟を差す鉢巻をした兵が刀を片手に当たりを見渡した。晴明は身体を敵に向けたままゆっくり後ずさりをした。
    「ゆっくり下がれ。敵に後ろを見せるなよ」
    小声で晴明が下知をすると、千葉の兵たちは命じられた通りに動きを取り始めた。晴明にいる兵は近習から雑兵まで百から二百程度しかいない。つくづく迂闊(うかつ)な真似をしたものだ。囮に釣られて本陣をがら空きにしてしまい、別動隊の餌食になってしまっている。だが悔やんでもはじまらない。なんとしても生き残らなくてはと心を持ち直す。晴明の身にもしものことがあったら兄上にも、亡き父上にも申し開きができない。この俵山を墓場にはしたくなかった。生き延びなくてはいけない。飛び道具を凌げる茂みで息を潜める。
    「晴明様」
    振り返ると小次郎がいた。地獄に仏だ。
    「小次郎か、助かった。見ての通りよ。本陣を急襲され、儂の首級(くび)が涼しい」
    「兜が目立ちすぎます。私のものと」
    眉一つ動かさないで話を聞き、居合わせただけで状況を把握できるだけあって、小次郎はやはり熟練の細作(さいさく)であった。勧められるまま晴明は兜を脱いで鉢巻をし、小次郎は受け取った兜を被って将の格好になる。
    「ここは小次郎めが引き受け、佐々木勢の足止めを務めまする。晴明様は落ち延び下さい」
    「いや。常世や秀勝を呼び戻しておる。合流してそなたらを救い出す。出来得る限り少ない犠牲で生き延びてくれ」
    小次郎は苦笑いだ。本心ではさぞ優し過ぎる御方じゃと呆れていることだろう。供を二人に絞ってその場を離れた。兵たちが頭を下げる。何人と再会できるだろう? そう考えながら晴明は近習二人と助け合いながら南に向けて山を下った。曇りだが雨はなく何度も足元の影を確認して方角を確かめる。これで捕捉されたら一環の終わりだが、幸いにも敵兵は潜んでいない。
    「殿! 御味方が!」
    もうすぐ下山というところで左を向くと緑の幟をした軍勢が見えた。千葉の兵である。
    (良かった……)
    胸の中のジリジリしたものが消えていく。より近付くと黒駒に跨る黒い甲冑の将は常世であった。常世は晴明の姿に下馬して膝をつく。
    「晴明様! ご無事でしたか!」
    「小次郎が私になり替わり奮戦してくれている。助けに参ろうぞ」
    「承知!」
    常世が立ち上がると宗勝も駆け寄り、宗勝の馬に乗った。先発隊を率いて西へ向かう。傷ついて敗走する味方は秀勝に任せ、常世と宗勝を左右に従えて先を急ぐ。
    「千葉晴明、討ち取ったり!」
    前から大声が響いた。小次郎やられたかと歯噛みしたが、
    「案ずるな、影武者だ。このまま進んで生き残った仲間を救い出せ!」
    晴明は動揺を悟られぬ様取り繕いながら味方に下知する。足を進めるに従って倒れた兵が増える。それでも緑の幟または見覚えある具足を纏う兵が刀や槍を振るって戦っていた。
    「かかれええ!」
    晴明の下知に緑の幟の兵が駆けた。常世も宗勝も晴明も千葉兵も槍や刀を振るって敵を次々討ち取っていく。
    (ボオオオオオオオ)
    法螺貝(ほらがい)の音とともに敵が退いていく。晴明も法螺貝を吹かせた。追撃停止である。俵山は樹木が多く、相手は飛び道具を持っていたためだ。晴明があたりを見渡す。かなりの兵が倒れていた。明らかに味方が多い。転がっている無数の遺体から、胴と首が離ればなれになった小次郎が見つかる。
     
    「御館様。申し訳ございませぬ」
    数日後、晴明は晴信に報告に上がっていた。両列には昭房を筆頭に重臣たちが厳しい目で見守っている。
    「晴明殿、若さが出ましたな」
    昭房の指摘は厳しい。傷口に塩を擦り込まれる気分だ。
    「旗色の良さを恃みに敵を深追いし、手薄になった本陣を別動隊にやられ多くのお味方を失った。舎弟と言えどお粗末な負け戦、その責は決して軽くはありませぬぞ」
    普段の毒舌が今日は一段と重たい。加えて話の長い人間なだけに気が遠くなりそうだ。昭房にくどくど文句を言われている間、晴明は返す言葉が無い。刃で心臓を穿(ほじく)り返されている心地だ。穴を掘って隠れたい。場の雰囲気が晴明の胸を締め付ける。
    「晴明」
    そういったのは晴信だ。
    「はっ」
    「これまでの功に免じて許してやる。必ず恥を雪ぐのだぞ」
    どうやらこの首は無事らしい。ようやく一息つけた。
    「はっ……」
    「問題は次だ。どうすれば勝てる?」
    「まずは要所の守りを固めるが肝要かと」
    晴明は専守防衛を主張した。晴信は黙ってうなずく。
    「晴明殿」
    「はっ」
    「内応には気を付けられや。今は乱世、血がつながっていても敵と通じる者がいるともかぎりませぬぞ」
    昭房はチラリと呟いた。
     
    「小太郎よ。相すまぬ」
    「いいえ。今は乱世。我ら兄弟は晴明様の御命を狙っていた名もなき刺客であり、名を残さず消えて無くなるが常。にもかかわらず殿は我ら兄弟を厚く遇してくだされました。命をお助け頂いた慈悲深い御方だからこそ、命を賭けてお仕えしようと小次郎は思ったのでしょう。後悔はしておらぬはずです」
    晴明は父も眠る妙蓮寺に来ていた。小次郎の墓を建てて二人で参っている。小次郎の墓の前で膝をつき手を合わせた。
    「小太郎。われら兄弟、徳房に勝てると思うか?」
    「司馬公は帝と将軍を頂く権威の重い方にございます。巨大な相手に立ち向かう晴明様や晴信様の心細さは某にもわかります。しかし司馬公は傲慢で冷たい御方です。権威に媚び、権勢をひけらかすだけの方に太平の世を呼び込めるとは思いません。それに引き換え、晴明様と晴信様は小太郎のような下々の者を大切になさいます。民心を掴むのであれば御父上の仇討ちは必ずは実るでしょう」
    晴明は黙って頷いた。そこに一人の女子が晴明に駆け寄ってくる。見覚えのある顔だ。
    「お富と申します。かつてお静様のもとで小間使いをしておりました」
    お富の表情が暗い。晴明は嫌な予感がする。
    「お静様が、遭えない御最期を……」
    晴明の予想通りだ。『陽光』を譲った後も晴明のために諜報に動いてくれていたお静であったがまた一人晴明の頼もしい味方が減ってしまった。『泣きっ面に蜂』とはよく言ったものだ。
    (そなたらの無念必ず雪ごうぞ。小次郎が命を賭すに値する大将にならねばならぬ)
    司馬との戦いはまだまだ続く。小次郎とお静を失ったが、晴明に落ち込んでいる暇はない。晴明は気丈に夕焼けの空を見上げた。
     
     
    『修羅の道』
    「よいか!君たちは千葉家の精鋭軍だ。まずは我こそが第一という心を強く持たねばならん。拙者も諸君一人一人を『家中随一の強者』として扱う。だが随一を名乗るにはそれ相応の武が無くてはならん。故に…この鍛錬は過酷を極めようぞ」
    千葉家の本拠である森山の練兵場で、兵も将校たちも息を呑んで常世の演説を聞く。将校たる伊勢隆信と蝦名昌信はその最前列で常世の訓示を聞いていた。いずれも代々千葉家に奉公する武門出身だが、常世の武名を慕う若者二人の視線は鋭い。
    「田原様」
    「うむ。伊勢殿。如何なされた?」
    「田原様とお手合わせ願いまする」
    隆信は身体は小さいが敏捷で眉が太く、吊り上がった眉に闘志が分かりやすく伝わる。常世は微笑んだ。
    「待て。儂も同じことを考えていたというに」
    目と身体の大きな昌信も頬を膨らませて手合わせを申し込んできた。隆信と昌信は日ごろから張り合う仲だということは常世も知っている。
    「はっはっは。千葉の侍はこうでなくてはならんな。よろしい。今日は二人がかりでかかってこい」
    「えっ?」
    隆信と昌信は顔を見合わせた。
    「拙者にも参加させてもらおう。拙者もまた一介の武辺者。戦場こそが生きる場所よ」
    常世は二人の肩をたたいた。常世の出馬は予想していなかったのか、どちらも狐に抓まれたような顔をしている。一方で常世は笑みが抑えられない。武人にとって第一である勇気が有り余っていた。
    駒を駆り刃を合わせる様を兵たちが見守り、歓声を上げる。
    (この者たちなら大丈夫だ、今はまだ粗削りだが二人ともいい眼をしている。)
    常世の心が弾む。お家を隆盛に導き、長き安泰を齎せると目を細めずにはいられない。

    (内応には気を付けられや。今は乱世、血がつながっていても敵と通じる者がいるとも限りませぬぞ)
    千葉家の長老・岡部昭房の助言は結果的に現実のものとなった。秀勝の子・政勝の内通が小太郎より報告された。身内から内応者が出たことに晴明の落胆は深い。
    「晴明様。某の手で……」
    小太郎が言いかけたところで、晴明が口を開いた。
    「私が参る……」
    やがて政勝が頼綱によこした書状が小太郎の手に落ち、いよいよ政勝を呼びつけた。晴明は藤色の平服の下に甲冑を着込み、千鳥の茶室で赤い平服の政勝と向き合う。
    「政勝」
    「はっ、叔父上」
    秀勝と顔立ちは遠いが、それでも厳つい顔立ちは水軍の血を感じさせる。
    「われら兄弟、徳房に勝てると思うか?」
    「難しいと思います。叔父上や晴信様が父君の仇討ちを胸に戦ってございますが、相手は帝や将軍を奉じる大敵にございますれば長期戦は基盤に乏しい千葉には不利にございまする」
    大局的には妥当な指摘ではある。
    「人の上に立つならば、流れる血を少なくするのも大将の務めにございます」
    そう言葉を続けたところで、晴明は懐から書状を出して広げた。政勝は目を見開く。政勝が頼綱に出した書状なのは言うまでもない。
    「血を流したくない気持ちは理解する。だからとて、内通が正しいことにはならぬ」
    政勝は目を見開いて刀を抜き、晴明も短刀を抜いて政勝とすれ違う。互いの動きが止まることしばし、倒れたのは政勝だけであった。
    苦しい課題はさらに続き、お竹と秀勝と宗勝に政勝の成敗を報告した時には政勝の父である秀勝は顔面蒼白になり、宗勝も甥の裏切りに肩を落とす。それでも結果的に秀勝らは処分を受け入れ、晴明も弟たちを処罰しなかった。むしろ内応を逆手にとって頼綱暗殺を成功させた。
    お静、小次郎、政勝を失ったが、頼綱の落命を機に日ノ本の勢力図を千葉の青苧色が増していった。晴明が不惑を迎えた年の春、徳房の盟友・佐々木家での変の知らせに機は熟したと断じた晴信は兵を動員して都に攻め寄せる。
    都の西の湿地で千葉軍は司馬軍と激突した。軽く戦って千葉軍が退くと雪崩を打って司馬軍が追撃を開始する。しかし湿地である。動きが取れなくなったところを千葉軍の鉄砲隊の蜂の巣となるのであった。
    「皆のものかかれ!」
    晴信の下知に司馬軍は押しつぶされた。
    「近藤隆直、討ち取ったり!」
    「大森頼重。討ち取ったり!」
    「平野愛季。討ち取ったり!」
    三つ目の報に晴明は晴信と顔を見合わせた。愛季は忘れもしない父の葬儀の席で偉そうに振舞っていたあの武骨な侍だ。愛季ほどの格を有する者を手にかけられるほど、徳房は弱っていると晴明は噛みしめる。

    つづく


    <主な登場人物>
    ・千葉宗房→晴明:主人公。晴房/晴信の弟。長年の雌伏を経て、兄に従って主君で父の仇でもある管領・司馬徳房に反旗を翻す。俵山で手痛い敗北を喫したが、司馬軍の重鎮・小島頼綱を討ち取ったことで戦局を好転させる
    ・千葉晴房→晴信:宗房/晴明の兄。主君で父の仇でもある管領・司馬徳房に反旗を翻す。将軍からの密かな支援もあり、徳房が千葉軍に包囲網を敷くと晴明に西、自分は東を引き受けて転戦を重ねた
    ・司馬徳房:晴明晴信の主君。盟友である佐々木宗明の死によって、将軍と不和になり、その間隙を縫う格好で晴房に背かれる。徳房の得意である外交戦略を活かして包囲網を形成するが……
    ・越水政勝:晴明の妻の弟・越水秀勝の子。司馬家との内通していたが敢え無く露見する
    ・小島頼綱:徳房の重臣。謀略を能くし千葉家を苦しめるが、政勝の調略を逆手に取られ落命する
    ・平野愛季:徳房の重臣。晴宗の葬儀で尊大に振舞い、晴明晴信の反感を買っていた

     
    #創作大賞2026
    #ファンタジー小説部門

     
     
    ゆくゆくは物書きを志している者です。サッカー⚽のマリノス、野球⚾のベイスターズ、歴史、占いにも些か造詣があります。

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