
Course1 ヤリイカとルッコラの濃厚スパゲッティ
第四皿 栗須
1. 確定したバカと、スパゲッティの食卓
栗須がヤリイカを手際よくさばいていると、日奈子が声をかけた。
「イカって家でさばくんですね。」
栗須は笑った。
「その前に、一つ話を聞いてくれる?」
「もちろん。」
栗須はイカをさばきながら話し始めた。
子どもの頃、ちょっとした悪戯のつもりで、飲み終わった牛乳パックに水を入れて冷蔵庫に戻したことがある。
当然、母親にはものすごく怒られた。
最初は「あんた、バカじゃないの?」という呆れ混じりの問いかけだった。しかし母は途中で急に我に返り、「いや、自分のお腹を痛めて産んだ子を疑うのは良くないわね」と言い直した。
一瞬、自分の行いを許してくれたのかと思った。けれど、その直後に返ってきたのは容赦のない一言だった。
「あんたはバカだ!」
疑問系(伝聞推定)から、見事なまでに事実として確定した瞬間だ。
罰はそれだけに留まらなかった。その日の晩ごはん、私の前に出されたひっくり返った茶碗を見て絶句した。ご飯が、茶碗の高台(裏側のくぼみ)の内側にちょこんと盛られていたのだ。祖父の家の仏壇にお供えしてある仏さん用のご飯よりも、明らかに少ない。

まさかの食事制限まで入るという厳罰だ。
……まあ、結局そのあと普通に一膳分おかわりしたのだけれど。怒られようが何だろうが、お腹は減るのだから仕方がない。
呆れたように息を吐きながら、由良はクスクスと笑いを漏らす。
「反省してないじゃん」
「腹は減る」
開き直る栗須の態度があまりにもブレなくて、由良はふと未来の光景を思い浮かべた。自分たちの家庭、そしてそこに生まれるかもしれない新しい命のこと。
「あんたの子、大変そう😂」
軽口のつもりで言ったその言葉に、栗須は静かに、けれど当たり前のようなトーンで返した。
「由良の子でもある」
一瞬、室内の音が止まる。
頭の中でカチリと何かが噛み合い、由良はポカンとした顔でフリーズした。
「そうだった……」
由良の反応を、少し離れたところで眺めていた日奈子が、楽しそうに二人を見守っていた。会話の着地点を見失いかけた二人を救うように、彼女は朗らかな声で問いかける。
「では、今日はご飯がすすむレシピですか?」
栗須は迷いのない声で告げた。
「スパゲッティだ。」
2. ヤリイカとルッコラの濃厚スパゲッティ
🍳 材料(2人分)
* ヤリイカ:500g
* にんにく:2片
* 唐辛子:2本
* イカブイヨン:100ml
(水:150ml程度)
[ワタとゲソを煮て漉し、100mlを使用する]
* 白ワイン:50ml
* きゅうり:1本(煮込み時間用)
* オリーブオイル:60ml
* パセリ:1枝
* ルッコラ:1株
* 塩:適量
(ソース用:適量)
[パスタの茹で湯:湯1Lにつき塩10g程度]
* 白胡椒:適量
*スパゲッティ:160〜180g
🍴 作り方
① 下ごしらえ
ヤリイカをさばき、胴は輪切りにする。ワタとゲソを100ccの水で煮込んでイカブイヨンを作る。
② 香りを立てる
にんにく・パセリを刻み、唐辛子は種を取る。オリーブオイルでにんにくと唐辛子を炒める。
③ じっくり煮込む(約40分)
イカ、白ワイン、イカブイヨンを加え、一度沸騰したら弱火で約40分煮込みます。その間にルッコラを洗い、パスタ用のお湯を沸かしておきます。
冷蔵庫からキュウリを取り出し、まな板でカツンと二枚、少し厚めに切ります。ソファでくつろぐ妻の両目に、そっとのせました。
「冷たっ。」
そう言いながらも、そのまま動かない。妻のまぶたの熱がすっと引いていくのが分かります。妻が息を大きく吐くたび、片方のキュウリが頬へ落ちそうになります。
指先で、ちょん、と元の位置へ戻す。
そんな何気ない仕草を眺めているうちに、煮込み時間はあと10分になっていました。パスタを茹で始めてください。
④ 仕上げ
塩・白胡椒で味を整え、ルッコラを合わせる。パスタと和え、最後にルッコラを飾る。
💡 ワンポイント
イカ墨パスタにしたい場合: 墨袋は破かないように取り出して小さな器にキープ。ブイヨンをとった後、具材を炒めてスープと合わせる段階で、キープした墨袋の中身を白ワイン(分量外)などで溶きのばしながら加えます。
イカブイヨンは一度漉すと上品に仕上がりますが、面倒な日はコンソメでも十分おいしくいただけます。
3. 日奈子の食レポ
「イカの香りがすごい……。」
一口食べると、濃厚なイカの旨味が口いっぱいに広がる。
にんにくと白ワインがその旨味を引き立て、ルッコラのほろ苦さが全体を軽やかにまとめていた。
「イカだけなのに、味が何層にも重なっています。」
栗須は静かに頷く。
「ブイヨンを取ると、こうなるんだ。」
「手間をかけた分だけ、ちゃんと返ってくる味ですね。」
4. 日奈子のペアリング
🍺 おすすめの一杯:ベルギーの白ビール
ヒューガルデンやヴェデットのような白ビールは、コリアンダーやオレンジピールの爽やかな香りがイカの甘みとルッコラの苦味を引き立ててくれます。
🍷 ワインなら
* 辛口のソーヴィニヨン・ブラン
* ピノ・グリージョ
白ワインで煮込んだソースとも自然につながりますね。
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