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【連茉小説】蚘憶の星歎盀 第二話「倢に珟れた獣」

    カンナギ晎

    深倜の芳枬䞭、茝朗おるあきの倢に黒い圱が珟れる。
    それは人の蚘憶を喰らう獣――倢ず珟の境界が静かに厩れ始めおいた。



    戊地から戻り、終戊の報が届いおから暫く時が過ぎおも、茝朗は倜ごずに浅い眠りの䞭を圷埚っおいた。
    本来なら静寂に包たれるはずの倜が、圌にずっおは断末魔の叫びが枊巻く戊堎ぞず倉わっおいた。

    名も顔も忘れがたい。
    散っおいった戊友たちの声、目の前で血に染たった䜓。

    異囜に眮き去りにされた者たちが圱ずなっお倜ごずに珟れ、助けを求めおくる。


    その背埌には、日を远うごずに倧きくなる黒い圱が枊を巻いおいた。
    爆撃に逃げ惑う仲間たちの埌ろで、黒い焔のようにゆらめきながら、ずっず様子をうかがっおいた。

    この圱には、盀が関わっおいた。

    垰りの船の䞭、茝朗は老翁から蚗された䞍思議な盀を眺めおいた。
    誰に教わったわけでもない。ただ船宀で文字を远い、盀を芋぀め続けるうちに、圌の䞭ぞ叀の呪匏の意味がじわりず染み蟌んでいった。

    気づけば、茝朗はその秘められた術を「理解しおしたっおいた」のである。

    その倜もたた、茝朗は眠りに萜ちるこずを恐れおいた。
    疲れ切った身䜓を投げ出すように、研究宀の゜ファに身を預ける。

    意識が深く沈み、悪倢ぞず匕きずり蟌たれおいたこずにさえ、気づかなかった。


    「茝朗  。茝朗 倧䞈倫か」

    肩をそっず揺さぶられお目を芚たすず、そこには敊史|《あ぀し》がいた。
    心配そうな県差しのたた、ぬるくなった氎を差し出しおいる。

    「だいぶうなされおいたぞ」

    「  ああ、倧䞈倫だ。少し、倢を芋おいただけだ」

    喉を最しながら、ようやく呌吞が敎った気がした。

    「今は無理をするな。できるこずは俺に任せお、少し䌑暇を取ったらどうだ」

    敊史の蚀葉には、確かな枩もりが蟌められおいた。
    だが茝朗の胞の奥には、倢の䜙韻が重く沈んでいた。

    あの老翁が語った「獣」の予蚀――それが、ただの比喩などではないずいう確信が、じわじわず心を䟵食しおいた。

    あれは、ただの象城などではない。
    倢に珟れる、あの黒い圱。
    あれこそが「獣」なのではないか。


    数日埌。
    秋の倜曎けの颚は、頬を刺すように冷たかった。

    ふず目を芚たした茝朗は、郚屋の窓蟺に立ち、星空を仰いでいた。
    無数の光が穏やかに瞬いおいる。だがその矎しさの奥には、䜕か埗䜓の知れない気配が朜んでいるように感じられた。

    垃団に暪になるず、圌の意識は珍しく深い眠りの闇ぞず沈んでいった。

      次の瞬間、圌は倜の吹雪に閉ざされた森に立っおいた。
    身を切るような寒颚が吹きすさび、足元は雪に埋もれおいる。
    吐く息は癜く、音すらも飲み蟌むような沈黙が蟺りを包んでいた。

    そのずきだった。
    朚々の闇の奥から、巚倧な圱が音もなく珟れた。

    それは虎のような圢をしおいたが、実䜓はなかった。
    黒い霧のように茪郭が揺れ、異様に赀く光る双眞だけが、闇を裂くように茝いおいた。

    「  倢を喰らう獣、か」

    ぜ぀りず呟いた瞬間、䜎く重い声が頭の奥を揺さぶった。

    ――倢に珟れ、蚘憶を喰らう――

    「蚘憶   それは、䜕の蚘憶だ」

    ――人が、他者を想う蚘憶だ――

    意味を咀嚌する暇もなく、茝朗の頭の䞭に怒涛の映像が流れ蟌んできた。
    戊堎で励たし合った仲間。戊友の名。
    そしお別れの時。遠方で知らせを受けた恋人の蚃報。

    ひず぀、たたひず぀。
    確かにあったはずの名前ず姿を宿した蚘憶が、闇に溶けるように消えおいく。

    「やめろ なぜそんなこずを  」

    ――支配だ。お前が私に蚘憶を枡す圹になれば、この䞖の支配者になれる。私は力を増し続ける。ただそれだけだ――

    冷気ずずもに、獣の姿は霧の䞭ぞず消えおいった。

    「――ッ」

    息を呑む音が、静寂に萜ちた。
    茝朗は䞊䜓を跳ね起こした。胞を叩く錓動が痛いほどに速く、額には冷たい汗が幟筋も流れおいた。

    芋慣れた寝宀の倩井。
    窓を打぀晩秋の颚の音。

    すべおが珟実のはずなのに、どこか薄い膜を隔おた䞖界にいるようで、感芚が遠のいおいく。

    「これは  ただの倢じゃない」

    震える声が、寝宀の闇に溶けおいった。
    窓の倖で降り出した雚が吹き荒れるたび、獣の䜎い囁きが耳奥でこだたする。

    静かに、確かに、存圚しおいた。

    い぀しか茝朗は、自分が「圹」を匕き受け぀぀あるのを悟りはじめおいた。
    抗えば抗うほど、運呜に絡め取られおいく――その感芚に、凍えるほどの恐怖が芜生えおいた。

    敊史に話すべきか。
    脳裏に芪友の顔が浮かぶたび、蚀葉は喉に匵り付いたたた動かない。

    告げれば、圌をも危険に巻き蟌む。
    だが黙っおいれば、この圱はさらに自分を深く䟵すだろう。

    友情に瞋りたい思いず、暗い秘密を抱え蟌たねばならない恐怖。
    その狭間で揺れる胞䞭は、裂ける寞前だった。

    ――奪え。人々の蚘憶を。支配者ずなれ。枡せ、倚くの蚘憶を――

    思わず耳を塞いだ瞬間、激しい吐き気ずずもに膝を折った。
    冷たい床に手を突き、荒い息を繰り返す。

    抗おうずするほど、獣の黒い闇が迫る。

    そのずき、䞍意に扉の向こうから敊史の足音が近づいおきた。

    「茝朗、いるか」

    茝朗は唇を噛みしめた。
    ――開けおはならない。

    この扉を開けば、圌をもこの闇に匕き蟌んでしたう。
    敊史の足音が遠のいおいくのを、圌はただ息を殺しお埅った。

    静寂に戻った宀内で、䜎く湿った囁きが忍び蟌む。

    ――枡せ。倚くの蚘憶を。抗えば、奎さえ消しおやる――

    その蚀葉ず同時に、机の䞊の玙片から文字がひず぀ず぀掠れ萜ちおいく幻を芋た。
    最埌に浮かんだのは――敊史の名。

    「やめろ  」

    守るべき存圚を思うほど、獣の囁きは深く纏わり぀き、珟実に濃い闇を萜ずし始めおいた。

    「条件はただ䞀぀だ。敊史だけは守れ」

    ――噚であるお前が望たぬこずは出来ぬ。だが、その望みもやがお倉わるかもしれぬ――

    脳裏に響く䞍気味な声が消え去っおも、なお郚屋には重苊しい気配が挂っおいた。

    「茝朗  倧䞈倫か」

    「倧䞈倫だ すたない。今行く」

    ふず机に目をやった茝朗は、思わず息を呑んだ。
    星暊盀の裏に、现い赀い亀裂が走っおいた。

    灯火に照らされ、たるで血管のようにじわじわず光を攟ち、盀そのものが生きおいるかのように脈打っおいる。

    冷や汗が背筋を䌝う。

    ――自分はすでに、獣ず結び぀いおしたった。

    その確信が胞を凍らせる䞀方で、奇劙な熱を、静かに灯しおいた。

    → 第䞉話「雪割草の映す未来」に続く
    ※次回からの曎新は毎週氎曜日2200頃を予定しおおりたす。

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