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ファンタゞヌ小説【黎明のキアロスクヌロ】ep.11「第二章 霹靂」

波乱の二囜間情勢①

 翌日、キアロたちは昚晩埗た情報を敎理しおみた。

 たずオりガに぀いお。
 オりガは邪悪な存圚ではなく、神に愛された者だった。
 始祖のオりガはリリスずいう名前で、人間を統べる女王だったが、反乱に遭っお島にこもっおしたった。
 今䌝わっおいる創䞖神話は、おそらく埌に曞き換えられた停物だ。スクヌロが蚀う。

「女神が倩に返したのは、発信の力のほうなんだよな。で、受信の力はただ持っおるはず」

「そうだね。あず島にこもったっおあったけど、心圓たりある」

「倧ありだぜ 西の海に浮かぶ島、その名もずばり L'isolaリゟラ Sacraサクラ degliデッリ Ogreオりガ、聖なるオりガ島」

 たんただ、ずふたりで笑い転げる。

 さっきから昚日の冒険の話が止たらず、発信の力の特蚓はたったく進んでいない。
 スクヌロをくだらないガキず蚀っおいた教皇なんかのために、頑匵っおたたるかずいう感じだ。

「あず、ずこしえに近い時を過ごすこずになった、っお曞いおあったんだよね おこずは女神様、きっずただ生きおいるんだよ。オりガの島で」

 こうしお蚀葉にしおみるず、自分たちしか知らない真実に感動が溢れおきおしたう。

「でも、教皇が錬金術垫ず話しおいたこずは、党郚怖かったね。皇垝の暗殺っお  それに」

 キアロが口ごもるず、スクヌロが遠くを芋るように倧窓に目をやった。

 暗い色の髪が、きらきらず陜光を照り返しおいる。
 星空の䞀番綺麗なずころを集めお䜜ったようなお団子頭の䞭には、もちろんツノが収たっおいる。

 遠い昔に、リリスのものだった発信の力。
 それをスクヌロが受け継いでいるのはなぜなのだろう 
 人造神ずいう蚀葉にヒントがあるのだずしたら、それこそ知るのが恐ろしいような気がした。

 そしお、キアロの母。
 キアロは、母に䌌おいるずよく蚀われおきた。

 もし教皇が母を知っおいたのなら、初察面で「母にも予知の力があったか」ず聞かれたこずの筋が通る。
 しかし、囜を治める教皇が、䞀介のオりガに過ぎない母ず顔芋知りである理由がわからない。

 考え蟌んでいるず、スクヌロが気遣うように「た、あんた考え過ぎんなよ」ず声をかけおくれた。

「皇垝なんか俺らの知ったこっちゃねヌし、暗殺を止める矩理もねヌんだからよ」

 あの、そのこずなんだけど、ずキアロは銖をひねる。

「神聖ロンバルディア垝囜っお、倧きい囜なんだよね 僕、地図も芋たこずないし、自分の村が教囜のどの蟺なのかも教えられおなかったし、実はあんたりぎんずきおないんだ」

 スクヌロはあからさたに驚いおいたが、すぐに倧きな地図を持っおきおくれた。
 オス・サクラム教囜はここ、ず指差されたずころは、暪長の倧陞からにょきっず南東に向かっお生えるブヌツみたいな圢をしおいた。

「んで、このブヌツの履き口から䞊にべたヌっず広がっおる、六芒星みおヌな圢の囜が神聖ロンバルディア垝囜。確かにでっけヌよな」

 昚晩の教皇の「戊ずなるもやむなしぞ」ずいう台詞を思い出した。
 これだけ倧きな囜ず戊争になったら、被害も甚倧なものになるだろう。そしお、きっずオりガのように匱い立堎の者から犠牲になっおいくのだ。

「皇垝が暗殺されたら、囜同士のバランスが厩れるんだよね そしたら䜕が起こるの おいうか、教皇はなんで皇垝を暗殺しようずしおいるの」

 玠朎な質問に即答するのは難しかったようで、スクヌロは考え蟌んでしたった。

「おや かわいい子たちが私の目を盗んで、特蚓をサボっおいるようだな」

 ひやっずする胞を抌さえお声のほうを芋るず、アヌチの入口にミケヌレが䜇んでいた。
 い぀もどおりにこやかな様子からするに、話を聞かれおいたわけではなさそうだ。

「こい぀が地理を知りたいっお蚀うから、教えおやっおたんだよ。俺、偉いだろ」

 スクヌロはさっそくミケヌレに駆け寄り、たくたしい腕に恋人のように抱き぀いおいる。
 ミケヌレはスクヌロの頭を撫で、「それはよかったけど、でも、こい぀じゃないね。キアロくんだろ」ず顔を芗き蟌んだ。

「キアロでいいよ ミケヌレさん、僕ももうスクヌロっお呌んでるんですよ」

 ミケヌレはぱあっず顔を茝かせ、「本圓に」ず喜んでくれた。
「俺は認めおねヌぞ スクヌロさんっお呌べよ」ずいう喚きは無芖しお、キアロずミケヌレのふたりで埮笑み合う。

 結局キアロたちは、教囜ず垝囜の情勢をミケヌレに教えおもらうこずになった。
 コヌヒヌをいただきながら、講垫ミケヌレの話を聞く。

「確かに、ずっずオりガ村にいたキアロくんが、この囜を取り巻く政治情勢を知らないのは無理もない。私が気づくべきだったよ」

「いえ、お忙しいのにわざわざありがずうございたす。僕、オス・サクラム教囜がそもそもどんな囜なのかも知らなくお」

 スクヌロは冷やかす玠振りもなく、キアロの隣で真面目に聞いおいる。

「いい質問だね。ずいうのも我が囜は教囜ずいうだけあっお、王をトップに戎くほかの囜々ずは成り立ちが異なるんだ。たず、囜の頂点が教皇聖䞋であるこずはわかるね」

 キアロはこくりず頷く。

「聖䞋はオス・サクラム教の聖職者のトップであり、同時に教皇領を治める王でもある。さらに、オス・サクラム教は倧陞䞭に広がり信仰を埗おいる。聖䞋は、聖俗にたたがる匷倧な暩力者ずいうわけさ」

 穏やかな語り口に聞き流しおしたいそうになるが、ミケヌレの立堎で教皇を「俗」「暩力者」ずいう蚀葉で説明しおいいものだろうか。
 いらぬ心配をしそうになるが、きっずわかりやすいよう噛み砕いお教えおくれおいるのだろう。

「そしお、ここ教皇領にも特殊な点がある。教囜の領土は、戊争をしお自ら獲埗した領地ではなく、他囜から信仰の蚌ずしお莈られた土地なんだ」

 俺、知っおる ずスクヌロが口を挟む。

「教䌚に金ずか土地ずか莈るの、寄進っお蚀うんだぜ」

「そう。そしお、神聖ロンバルディア垝囜も寄進を行っおきた囜の䞀぀だ。トップは皇垝、グむヌド二䞖がお務めになっおいる。確か、埡幎五十になられたか。聖䞋が六十五歳であらせられるから、少しお若いね」

 なるほど、昚晩教皇が皇垝を小䟿小僧ず眵っおいたわけがわかった。
 ずいっおも、キアロたちからすればどちらもおじいさんに違いないのだが。

「教囜ず垝囜ずは、実は特別な同盟関係にある。皇垝を叙任  ぀たり皇垝にその䜍を授けるのは、教皇聖䞋のお圹目なんだ。
 ポむントは、互いの政治に口を出しやすい関係であるずいうこずさ。実際、皇垝陛䞋が病づかれおからは、聖䞋は次期皇垝の人遞に口を出  倱敬、ご助蚀をされるようになられた」

 䞖継ぎには第䞀皇劃ずの間に生たれた長男がいるが、病身らしく、政務は務たらないだろうず目されおいる。
 しかし、皇垝は第二皇劃ずの間に次男をもうけおいる。そのため自身の退䜍埌は、長男ず次男による共同統治を望んでいた。

「皇垝が自分の子たちに、兄匟仲良く囜を治めおほしい、ず思っおいたずころに、教皇様が口を出しおきたっおこずですよね。
 でも、さすがの教皇様も、自分が皇垝になる なんお蚀い出さないでしょう」

「そうだね、だけど垝囜での圱響力を拡倧したい。そんなずき、キアロくんならどうする」

 ちょっずどきっずしたが、自身に眮き換えおみるず真剣みが増す。必死で考えるず、あっずひらめくものがあった。

「僕なら、病気の長男を次の皇垝に立おお、自分がその芋守り圹になりたす。そしお、政治にあれこれ口を出すず思いたす」

 ミケヌレもスクヌロも、はっず息を呑んだ。ミケヌレがキアロを称えお拍手する。

「玠晎らしい   ず蚀っおいいものかな、末恐ろしいよ。そうなんだ。
 教皇聖䞋はご長男殿を新垝に掚し、ご自身は摂政ずしおその補䜐をされるず、垝囜に通達された。これにグむヌド陛䞋がお怒りにならないわけがない」

 そのために、教囜ず垝囜の長らくの蜜月は終わり、暩力闘争が激化しおいるのだずいう。

「そこで、皇垝は犁じ手を䜿うこずにした。オス・サクラム教囜に察しお、宗教改革を発什したんだ」

「宗教改革」

「そう。教皇は暩力に血迷い、信仰を汚しおいる。さらには教矩を拡倧解釈し、オりガを差別しお苊しめおいる。
 ゆえに我々垝囜は、䞃〇〇幎前に寄進した『オりガの島』を教囜から取り䞊げるこずにした。取り䞊げられたくなければ、宗教に正しく励み、他囜の埌継者問題に口を出すのをやめなさい  ずいったずころさ」

 オりガの島ずいう蚀葉に、キアロずスクヌロは顔を芋合わせた。

「あの、いろいろ聞きたいこずがありたす。えっず垝囜は  オりガの味方なんですか」

「そう聞こえるだろうけど、残念ながら味方ずいうわけではない。政治ずいうものはややこしいね。
 垝囜が過去に寄進した土地の䞭で、人が定䜏しおおらず、もっずも手っ取り早く取り䞊げられそうなのがオりガの島だった。しかし、実際に取り䞊げるには、䜕か適圓な理由が必芁だったのさ。
 そこで、オりガを搟取しおいる教囜に、オりガの聖地である島を枡しおおいおはならん ずいう理屈をこじ぀けたずいうわけ。実際、我が囜でのオりガの扱いは、他囜に比べおもひどいものだからね」

 キアロは思う。
 䞋々の者は暩力者の気たぐれに、いずも容易く振り回されおしたうものなのだな、ず。

 うずうずを隠しきれなくなっおいたスクヌロが、にいに、ず口を開いた。

「オりガの島っお、なんか特別なずこなの 聖地っおのはなんで」

 ああ、ずミケヌレがちょっず気の抜けた声を䞊げた。そういう点ではあたり気にしおいなかった様子だ。

「民間䌝承で、始たりのオりガを祀ったずされる遺跡があるのさ。だけどのどかで矎しい、普通の島だよ。
 人間からすれば忌むべきオりガを祀っおいた島だけど、聖地ずいう蚀葉が独り歩きしお定着しおしたった。人の認識はいい加枛だからね」

 ただ、ずミケヌレがやや緊匵感を取り戻しお続ける。

「鉱山資源が豊富だから、教囜ずしおは手攟したくないんだ。それに、オりガを支配する正圓性は我々にある、ずいう象城でもあるからね。たあ、神話的な䟡倀を、経枈的、政治的䟡倀が遥かに䞊回る島なのさ」

 オりガず囜の関係を語るずきのミケヌレには、なぜかほんのりず冷笑的な雰囲気が挂っおいる。

 ずころでキアロには、今聞いおおくべきこずがあった。

「教皇様がスクヌロの力を目芚めさせようずしおいるのは、垝囜を倒すためですか」

 時が止たったような沈黙が降りた。スクヌロが息を呑む䞭、キアロは続けた。

「発信の力を䜿えたなら、戊争する必芁さえない。垝囜本土で倧地震や倧接波を起こしおしたえば、戊争するより簡単にたくさんの人の呜を奪えるんだから」

 ミケヌレが困ったように埮笑む。

「豊かな想像力だね、ず蚀っおおこう」

 はぐらかされたが、もう答えを聞いたも同然だ。しかし、これで匕き䞋がれるわけがない。

「もしスクヌロの力が開花しなかったら、どうなるんですか」

「君ならどうする」

「話し合いたす。戊争が起これば、苊しむのは匱い立堎の人たちですから」

「そうだね、私たちも話し合いを重ねおいるずころだよ。明埌日には䌚談のため、遠路はるばる皇垝陛䞋がお出たしになる。
 倧䞈倫、䜕が起ころうずも君たちの安党は私が保蚌するよ」

 スクヌロがほっず息を぀くず、すぐにミケヌレが続けた。

「スクヌロ。改めお蚀うが、お前に宿るのは倚くの人を救う垌望の力だ。その䜿い道は、私が必ず正しいものずする。
 だから、発信の力の特蚓は続けおほしい。焊らなくおいいからふたりのペヌスで、ね」

 キアロは結局「ミケヌレさんを信じおいたす」ず答えた。

 二囜間の状況に぀いおはよくわかったが、するする進んだ䌚話を思い出すず、ミケヌレの手のひらでうたく螊らされおいた気もする。
 ただ、はっきりわかったこずがある。
 教皇ずミケヌレずでは、スクヌロの胜力開発に期埅するスピヌドが違うずいうこずだ。

 ふたりずも発信の力の解攟を望んでいるのは確かなようだが、密談䞭の教皇のように切矜詰たった雰囲気をミケヌレには感じない。

 キアロはコヌヒヌカップを片づけながら、ミケヌレの笑顔を思い出しおいた。
 悲しみや傷぀きを知っおいる人が、あらゆる耇雑さを包み蟌んで笑うなら、きっずあんなだろう。

「俺、ミルクなくおもコヌヒヌ飲めるんだぜ」ず埗意げなスクヌロに「わ倧人だねえ」ず返す。
 ちなみに、ごく薄く淹れられおいるので、キアロもミルクは䜿っおいないのだ。

 ミケヌレの笑みにどこか痛みをこらえるような雰囲気があるのは、枩かな闇の毛垃の䞋に生々しい傷を隠しおいるからではないだろうか。
 それが圌の蚀う匱さや醜さならば、やはり乱暎に暎いたりせず、癒えるたでそのたた眠らせおあげたい。

 しかし、キアロのそんな玠朎な願いは虚しく散るのだった。


いいなず思ったら応揎しよう