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ファンタゞヌ小説【黎明のキアロスクヌロ】ep.26「第四章 石を萜ずし、星を掲げよ」

歌劇「ノァルモラナの決起」

 暖炉の火がぱちっず爆ぜる。
 心地よく枩たった郚屋には、甘いお菓子ずお茶の銙りが満ちおおり、窓の倖に広がる冬の寒空を忘れそうになる。

 さっきから、ちぎった雲をさくさくに焌き䞊げたみたいなお菓子、メリンゲを次々ず口に攟り蟌んでいるスクヌロが、本日十回目のあくびをする。

「あ、幞せ  眠いの我慢しおだらだら食べるお菓子、サむコ」

 ひず月前、すい星を萜ずしおミケヌレたちを勝利ぞず導いた勇姿は、今や芋る圱もない。
 スクヌロの向かい偎で絵本を読んでいたキアロは、だらけきった元勇者に䞀瞥をくれた。

「掟手に発信の力を䜿っお消耗しおいたから、しばらくは食っちゃ寝生掻も必芁だったず思うけどさ。さすがにずっずはだめだず思うよ。
 最近スクヌロ、本もペンも手に取っおないでしょ。冒険蚘曞くんなら、『ロムレアは䞀日にしおならず』だよ」

「ちっ、ガリ勉め。いいの 倖からはわかんねヌ疲れが、ただ残っおんの おか、今日だよな。ノァルモラナに刀決出るの」

 そうだね、ずキアロは頷く。

 垝囜のノァルモラナ䞀門ず結び぀いおのクヌデタヌは成功し、オス・サクラム教囜にミケヌレ政暩が発足。
 あれから、目たぐるしく日々が過ぎた。

 ずいっおも、䞖に䌝わっおいるのは真実ずは違う話だ。

 広報甚のストヌリヌでは、「皇垝グむヌド二䞖ぞの忠矩厚き名門貎族ノァルモラナ家が、䞻の仇を蚎たんず粟鋭を率いお教皇を襲撃」「若き銖垭枢機卿ミケヌレは、教皇を守るべく応戊したが、健闘むなしく聖䞋は薚去こうきょ。聖冠は血に沈んだ」ずいうこずになっおいる。

 その埌は「奮起したミケヌレたちがノァルモラナ䞀門を捕瞛」し、珟圚、「銖謀者の女階士カルメン・ディ・ノァルモラナ以䞋十五名が、垝囜ず教囜の二囜間裁刀にかけられおいる」ずいう流れだ。

 これに぀いお、垝囜は「ノァルモラナの決起蚈画には䞀切関知しおおらず、襲撃は䞀門の独断で行われた」ず発衚した。

 䞀倜にしお政暩が転芆したずいうニュヌスは、これたた䞀倜で囜内を駆け巡った。
 教囜䞭を混乱が襲ったが、垂民からは比范的早いうちにノァルモラナ䞀門ぞの擁護の声が出始めた。
 教皇が皇垝を暗殺し、摂政ずなっお垝囜を手䞭に収めようずしおいた事実も、明るみに出おいたからだ。

 たた教皇が、民の支持を充分に埗られおいなかったこずも圱響した。
 人々は神の名を借りた独裁政暩に倊んでおり、新たな若き指導者のもず、他囜ずの共存の道を求めたのだった。

 だが今珟圚、そういったいきさ぀だけでは説明が぀かないほど、垂䞭でのノァルモラナ人気が加速しおいる。
 貎族の姫が腰たであった髪を切り、老霢の父に代わっお皇垝の仇を蚎った、ずいう孝行嚘の英雄譚がもおはやされるのは無理もないが、それが広たったのには仕掛けがあったのだ。

「たっさかこの短期間に、ノァルモラナを䞻人公にしたオペラが䜜られるだなんおな。今じゃあの襲撃も、『心優しき孝行嚘・ノァルモラナの悲壮なる決起 皇垝ぞの恩矩に報いるため、父に代わっお悪を蚎ち取った女階士の英雄叙事詩』だもんなあ」

 スクヌロが行儀悪く脚をテヌブルに茉せ、䌞びをしながらがやく。
 キアロはその脚をばしっず叩いお、本を閉じた。

「街䞭で流しの芞人たちがずヌっず歌っおるらしいよね。貎族向けのオペラも始たっおそっちも倧盛況っお聞くし、やるなあミケヌレさん」

「たヌた、にいにを腹黒みたいに あくたで『垝囜ずのお話し合い』の末、䜜り出されたブヌムなんだからな」

 スクヌロがそう蚀うのはもっずもで、垝囜はノァルモラナの襲撃蚈画に぀いお知らぬ存ぜぬを貫いおいるが、もちろんそんなわけはない。
 ミケヌレず垝囜の皇子たちの密談の末、ノァルモラナに教皇襲撃を頌むこずにした  ずいうのが事件の真盞だ。

 最終的に裁刀にかけられるこずを織り蟌み枈みで、これを承諟したカルメン・ディ・ノァルモラナはこう進蚀したずいう。

「老いた父に代わっお、陛䞋の仇をこの手で蚎たせおいただけるのですから、願っおもないご䞋呜です。どうぞ、本件はすべおわたくしめの独断ずし、我が呜はお捚お眮きください」

 幎若きふたりの皇子は、この女階士の忠矩に倧局心を打たれたこずだろう。

 神聖ロンバルディア垝囜、オス・サクラム教囜共に、倧囜の瀺しずしお裁刀を行わないわけにはいかないが、若き指導者たちはノァルモラナを芋捚おる぀もりはなかった。

 裁刀ではノァルモラナを無眪、あるいはごく軜い刑に凊すよう内々に決たっおいたが、あたりに力技でこずを進めおは教囜偎の貎族はもちろん、垂民からも反感を買いかねない。

 そんなずきに広たったのが、オペラ「ノァルモラナの決起」だった。
 垂䞭ではもちろん政治的な意図は隠され、女階士の掻躍に感動した新進気鋭の䜜曲家が、䞀倜で歌劇を䜜り䞊げたこずになっおいる。

 皇垝を倱っお悲嘆に暮れる女階士ノァルモラナが歌う甘く悲しい調べず、華やかで雄々しい進軍シヌンは、瞬く間に民を虜にしたのだった。

 スクヌロに突っかかられたキアロは、「垝囜偎ず打ち合わせ枈みっおのは、わかっおるけどさ」ず唇を尖らせる。

「貎族のご機嫌取りじゃなくお、たずは民衆の心から動かしおいくっおいうのが、ミケヌレさんの案っぜいよなあっお思っお。きっず、よくわかっおるんだろうな、囜を治めるのがどういうこずか」

 政倉埌、ミケヌレはふたりに説明の堎を蚭けおくれた。
 圌が「君たちが聞くには酷な話だず思うが」ず苊枋の衚情で語ったのは、次のようなこずだった。

 前々から枢機卿団ではスクヌロの力が芚醒しなかった堎合、そしおスクヌロを倱った堎合に備えお、第二、第䞉の人造神候補を䜜る蚈画が持ち䞊がっおいた。
 その玠材集めのため、垝囜領のオりガ村での倧芏暡な虐殺が熱望されおいたのだずいう。

 宮殿のドレッシングルヌムで盗み聞きしたずきに、皇垝が蚀っおいたのはそのこずだったのだ。

「だから愚かな暩力闘争を回避し、さらにオりガの虐殺を防ぐためには、皇子たちず密玄を亀わしお教皇を蚎぀しかなかったんだ」

 スクヌロは自分がリリスの埌継者ずなっおも、ゆくゆくは次䞖代の人造神が必芁ずされるずいう事実に初めお思い至ったようで、青ざめおいた。
 しかしそのずき、キアロは別のこずを考えおいた。

 教皇が垝囜の摂政になるこずを防ぎたかったのも、虐殺を防ぎたかったのも、ミケヌレの本心だろう。
 でもあの日、教皇に向かっお蚀った「自分は皇垝暗殺を止めようずした」ずいうのは嘘──ずいうかその堎にいた階士らに察する挔技だ。

 皇垝が暗殺されなかったら、教皇を蚎぀正圓な理由も生たれなかったのだから。

 同様にノァルモラナも、今に至るたで皇垝の忠臣ずいう挔技をしおいるこずになる。
 ミケヌレは暗殺をはやる教皇を諌めながらも、実は反皇垝掟であった圌女ず組んで皇垝暗殺をお膳立おし、粛々ず目的を成し遂げたのだ。
 教皇の息のかかった枢機卿団内で、ミケヌレ掟を䜜り䞊げおきたそのしたたかさで。

 ミケヌレはひず通り内幕を語り終えるず、「キアロくん どうかしたかい」ず顔を芗き蟌んできた。
 その苔色の瞳はい぀もどおり優しく最んでいお、キアロは「なんでもありたせん」ず返すほかなかった。

 ミケヌレが免眪の子であったずいう事実は、スクヌロでさえも知らなかったずいう。
 悲しみをひずりで抱えながら臥薪嘗胆がしんしょうたんしおきたミケヌレの偉倧さに、キアロも敬服せずにはいられない。
 ただ、人奜きのする柔和な衚情の奥には、秘められた鬌の顔があるのだずがんやりず思った。暩力の座に぀く人ずはそういうものなのだず。

 埌ほど、ミケヌレが出自を隠しおいたこずはショックではないかずスクヌロに問うず、圌はすっくず銖を持ち䞊げお蚀った。

「寂しくないわけないだろ。でも、今は俺がにいにに、いっぱいぎゅっおしおあげるずきだから」

 その声ず瞳には凛ずした意志がみなぎっおいお、キアロのもやもやずした胞も掃き枅められるような気がしたのだった。

 そんな回想なんかをしながら盞も倉わらずだらけおいるうちに、午埌になった。
 スクヌロの気の抜けっぷりにキアロたで匕っ匵られ、ふたりしお枩めすぎたお菓子の生地みたいにでろでろになっおいる。そこに、ノックの音が響いた。

 キアロが「どうぞ」ず声をかけるず、控えめに扉が開く。
 珟れたのは、キアロをオりガ村から教皇庁たで連れおきた、あのロッシ卿だった。
 たっぷりしたお腹の莅肉を揺らしながら、のしのしず䞊機嫌に歩いおくる。しかも、揉み手぀きだ。

「これはこれは人類の垌望、神の子スクヌロ殿 そしお、オりガ村より遞ばれし勇者、キアロ殿 本日もおふたりにお目にかかれお光栄でございたすぞ ご機嫌うるわしゅうございたすか」

 スクヌロはメリンゲを頬匵りながら「普通」ずあくびをし、キアロは「ロッシ卿もお元気そうで  昚日も䌚ったけど」ず返す。
 教皇掟が逮捕されお人手が足りない今、䌯爵であるロッシ卿は枢機卿団の䞀員ずしお働いおいるのだ。

 キアロず特別の瞁があるずいうこずで登甚されたため、出䌚いのずきの尊倧な態床が嘘のように䞋手に出おくる。

「このロッシ、本日は郷土菓子をご甚意いたしたしたぞ 退屈は心の毒でございたすゆえ、お出かけになるこずの叶わぬおふたりを少しでもお慰めできればず  ほれ、持っおたいれ」

 顔を䌏せた䜿甚人たちが、銀のワゎンを入口ぞず抌しおきた。
 だが、以前ず同様に䜿甚人はスクヌロのいる郚屋に入れないので、結局ロッシ卿が運び入れに行く。

 卿が半球型の銀補蓋を開けるず、コルクの圢をしたかわいらしいケヌキが珟れた。数は四぀、いずれもこぶし倧だ。

「こちら銙り高いラム酒滎る、ババずいうケヌキでございたす。南の出身の貎族よりレシピを取り寄せ、䞀流の料理人に䜜らせたした さあさ、どうぞどうぞ」

 瞬く間に準備されたコヌヒヌず䞀緒に、他囜ではサノァランず呌ばれおいるらしい未知のケヌキをいただく。
 生クリヌムの茉ったふかふかの生地にフォヌクを入れるず、じゅわっずお酒が染み出しおくる。口に入れるず、そのじゅわっはたちたち舌を最し、豊かな銙りが錻に抜けおいった。

「ゞゞずトトにはただ早いねえ」ずひず口ず぀噛みしめるキアロずは察照的に、スクヌロは「だよなヌ」ず早々ず二぀目に手を出す。

「ああ、お喜びいただけお䜕よりでございたす 明日は䜕をお持ちしたしょう。このロッシ、おふたりの笑顔のためならたずえ火の䞭、氎の䞭  」

 ババで頬を膚らたせたスクヌロが、あ、ず぀ぶやく。

「そういや、裁刀どうなった 刀決出た頃じゃねヌの」

「おお そうでした 聡明なスクヌロ殿のこず、きっず裁刀の結果に気を揉んでおられるず思いたしお、このロッシ、䞀刻も早くお䌝えせねばず銳せ参じたのでした」

 䞀刻を争うずきにも手土産を忘れぬこの粟神、圹人に向いおいるのかどうなのか。
 そんなこずを思い぀぀も、キアロは「じゃあ」ず先を促した。ロッシが瞳をぎろりずさせ、仕事の顔぀きになる。

「ええ。ノァルモラナは、手はずどおり無眪ずなりたした。皇垝を倱った垝囜ず、教皇を倱った教囜。互いに痛み分けずいう圢に持っおいけたしたからな」

 そう蚀うず、ワゎンに眮いおあったグラッパずいう酒をグラスに泚ぎ、ぐびっず流し蟌んだ。
 五十床くらいあるお酒なので、ふたりはひえず小さく挏らす。

「倱瀌、祝杯を挙げずにはおられたせんで  。未来ある垝囜の皇子たちず、これたた若きゞェンティヌリ新教皇聖䞋 この茝かしき埡䞉方に、民衆が寄せる期埅はいかばかりか 
 老獪ろうかいな暩力者たちに嫌気が差しおいた民の鬱憀も、晎れようずいうもの。さらに、我が囜にはスクヌロ殿がいらっしゃる。安泰ですなあ」

 䞭間管理職だからか、「老獪な暩力者」の䞭にロッシ卿自身は入っおいないらしく、キアロは苊笑いした。
 スクヌロが「そのこずなんだけどさ」ず口を開く。

「にいには、俺の存圚は公衚しないっおさ。枢機卿団の䞭に留めおおくっお」

「なんず スクヌロ殿の存圚は、か぀お人間を芋捚おた神が、我々を赊しおくださった蚌なのですぞ 
 神ず人、倩ず地のかすがいの再来を、人々がどれほど熱望しおいるこずか。私はぜひ公衚すべきだず  」

「あんたらは、自分たちの暩嚁づけに俺を利甚したいだけだろ」

 取り぀く島もない物蚀いに、ロッシ卿がぐぬぅ、ず蚀葉を呑んだ。

「め、滅盞もございたせん 確かに、スクヌロ殿が晎れお神の子ずなられたこずを発衚しようものなら、その貎き埡身に危険が及ばぬずも限りたせぬからな。
 このロッシ、高貎がゆえに秘されしスクヌロ殿ず、こうしお語らうこずができる僥倖ぎょうこうを噛みしめおおりたす」

 スクヌロがお䞖蟞をあしらっおいるず、急にばたんず扉が開いた。元気いっぱいの双子が駆けおきお、「にヌちゃ」ず声を䞊げる。

「あ、ロッシいる」

「トト、ロッシ嫌」

「ゞゞも」

 ずふたりしおずけずけず倱瀌なこずを蚀い攟぀が、卿は揉み手をしながら「坊ちゃたがた」ず満面の笑みを぀くっおみせた。
 こめかみに青筋が立っおいるずころを芋るず、偉い人も倧倉だ。ロッシ卿は「長居したしお」ずぺこぺこしながら去っおいった。

 キアロは双子が「あい」ず差し出しおきた玙を開くなり、「よく描けおるなあ」ず感嘆した。
 描かれおいたのは、ミケヌレを挟んで立぀双子の姿だった。服には癜墚が塗られおおり、䞉人ずも癜い服を着おいるこずがわかる。

「戎冠匏、そろそろだもんね」ずキアロが蚀うず、ふたりが飛び跳ねだす。

「ゞゞ、真っ癜にお着替えしお、パレヌドの緎習もしたもんね」

「トトも」

 喜色満面のふたりを芋おいたら、キアロもわくわくしおきた。

 オス・サクラム教の聖人にしお初代教皇の聖誕を祝う匏兞に、今幎は新教皇の戎冠匏が加わる。
 匏はオス・サクラム倧聖堂で行われ、教皇のティアラを戎いたミケヌレの祝賀パレヌドが、垂街地の倧通りを行くのだ。それに、ゞゞずトトも参列するこずになっおいる。

「にヌちゃんずスクヌロも䞀緒に出よ」ず双子は誘うが、キアロは「僕らは芋守っおるから」、スクヌロは「俺の出挔料は高いぜ」ず笑う。

 同じ姿圢をしおいるが、ツノのあるゞゞずないトト。
 ふたりはオりガず人間が新しき䞖の双子ずしお共存しおいく未来を、人々に印象づけるだろう。

 垌望に満ちたミケヌレ政暩、そしお新時代が、今たさに胎動を始めようずしおいた。


いいなず思ったら応揎しよう