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ファンタゞヌ小説【黎明のキアロスクヌロ】ep.27「第四章 石を萜ずし、星を掲げよ」

Un nuovo tempo! 新時代を

 圢ばかりの教皇遞挙を経お、぀いに聖誕祭の日がやっおきた。
 初代教皇の聖誕祭ず新教皇の戎冠匏が重なるのは、教囜の長い歎史においお初めおのこずだ。

 神に仕える者にふさわしく真銀な衣装をたずったミケヌレは、スクヌロずキアロをき぀く抱きしめるず、「行っおくるよ」ず埮笑んで倧聖堂ぞ向かった。
 癜亜の倧聖堂、その長い身廊の先にある半円の埌陣アプスは、目が芚めるような青ず金に圩られおいる。
 倩井たで䌞びる壁画には、倩䜿に芋守られながら倩ず地、そしお朝ず倜を統べる初代教皇の姿があった。

 アプスの高窓からは、霞のように淡く癜い光が泚いでいる。
 倧勢の聖職者、そしお各囜の王やその名代が芋守る䞭、祭壇に向かっおミケヌレが跪いた。

 その矎しい暪顔に、神の祝犏のごずき䞀条の光が射すず、列垭者たちがどよめいた。
 人前で感情のほころびを芋せおはならぬず教育されおきた王族たちでさえ、ミケヌレずいう若き教皇が醞す神聖さに、驚きを隠せなかったのだ。

 奜々爺こうこうや然ずした新・銖垭枢機卿が長い祝祷を捧げ、新教皇に黄金の聖冠を莈る。
 跪いたたた長い間瞳を閉じおいたミケヌレは、頭䞊の重みを恭しく噛みしめおいるようだった。

 キアロずスクヌロはこの聖なる儀匏を、誰にも知られるこずなく、特等垭で芋守っおいた。
 実は、ひず際豪華に食られた䞻祭壇には、人がふたりほど隠れられる空間があり、そこに忍び蟌むこずをミケヌレが提案したのだった。

 ミケヌレからすれば、安党面からスクヌロを各囜芁人の目に晒すわけにはいかない䞭で、「にいにの晎れ舞台をどうしおも芋たい」ずせがたれおの苊肉の策ではあった。
 が、ふたりず共に深倜の倧聖堂に忍び蟌み、祭壇の䞭に入っおいる聖遺物を取り出す圌の瞳は、いたずらに倢䞭になる少幎のようにきらきらしおいた。

 ミケヌレが老枢機卿の目を盗んで䞻祭壇にりむンクするず、キアロたちは音を出さずに喝采した。
 が、ミケヌレが立ち䞊がり、列垭者たちが䞇雷の拍手を送ったので、ふたりも思う存分手を叩く。
 おじいちゃん枢機卿が、ん ずいう顔で祭壇を振り返ったけれど、なんずか笑いを噛み殺しお耐えた。

 䞀行が祝賀パレヌドに向かうために退出し始めるず、キアロたちは急いで䞻祭壇の床から地䞋ぞず朜った。
 そしお、突き圓りに芋えおくる、長いはしごを䞊っおいく。
 途䞭からは狭い階段を䜿っお、「抌すなよ、危ねヌな」「抌しおないっおば」ず小競り合いをしながら䞊を目指す。

 最埌に倩井に蚭眮された扉を持ち䞊げるず、光に目がくらんで蟺りが癜くなった。
 ゆっくりず目を開けるず、青空ず青銅の鐘が芖界に飛び蟌んでくる。ここは倧聖堂の鐘楌、しかも倧鐘の真䞋だった。

「はヌっ、空気うめヌ」

「ちょっず、早く出およ。僕も青空吞い蟌みたい」

 理由もなしに、䞻祭壇に秘密の空間や床ハッチが蚭けられるこずはない。䞭は緊急甚の脱出路に぀ながっおおり、そのうちの䞀぀がこの鐘楌ぞのルヌトなのだ。

 ふたりは、埃を払いながら倧鐘の䞋に出た。
 芋晎らしは抜矀で、倧通りを挟んで人、人、人の矀れが遥か遠くたで続いおいる。
 城壁の倖、優矎な石の建造物が続く街䞊みの果おには、碧くけぶる森が広がっおいた。

「ここでごはん食べたらおいしいだろうなあ」

 ずキアロが぀ぶやくず、スクヌロが「お前、いいこず蚀うじゃん」ず目を茝かせる。
 サラミや燻補チヌズの前菜はもちろん、䞻菜は絶察に肉ず魚の二皮欲しい、ず莅沢を蚀い出すので、「誰がここたで運ぶのさ。お手䌝いさんたちをこき䜿っちゃだめだよ」ず戒めおおいた。

 たわいない話に花が咲くが、鐘楌守がすでに䞋の螊り堎で、倧鐘のロヌプを手に埅機しおいる頃だ。
 ふたりずも䞞めた綿を耳に詰め、その時を埅った。

 鐘が打たれるず、倧聖堂に留たっおいた鳩が䞀斉に飛び立っおいった。
 地䞊では、玔癜の頭巟を被ったゞゞずトトが、ミケヌレを挟んで金色の銬車に乗り蟌んでいる。
 キアロは匟たちの晎れ姿に、堂々ずしおいお偉いぞ、ず゚ヌルを送らずにいられない。

 軍楜隊がラッパを吹き鳎らし、盛装の枢機卿団、近衛兵二千名からなるパレヌドが始たった。
 銬車から、慈愛に満ちた笑顔のミケヌレが人々に手を振っおいる。圌を迎える歓声は、鐘の音を打ち消すほどに盛倧なものだった。

 䞖間でのミケヌレ人気は盞圓なものだが、それは圌が矎貌の若者だから、ずいうだけではない。
 実はオペラ「ノァルモラナの決起」には、ミケヌレらしき人物も出おくるのだ。

 劇䞭の教皇は、若き枢機卿のあたりに枅廉な人柄に恐れをなしお、皇垝暗殺蚈画を持ちかけるこずができなかった。
 そのため、圌は凶行に぀いお䜕も知らず、ノァルモラナが攻め入っおきたずきには、圌女の誀解であるずしお教皇を庇う。

 しかし、ノァルモラナから暗殺の蚌拠が突き぀けられるや、自分の呜で莖うから教皇を赊しおやっおほしい、ず涙ながらに乞い願うのだ。
 結局、その願いは聞き入れられずに教皇は蚎たれ、枢機卿は「それでも私は、神ず、人を信じるこずをやめない」ず悲痛の胞の内を歌う。

 聡明な䞻に恵たれたノァルモラナず、愚かな䞊圹に仕えねばならなかった若き枢機卿、その鮮やかな察比が浮かび䞊がるクラむマックスだ。
 オペラの裏䞻人公ずも蚀うべき青幎枢機卿はもちろん人気を博し、それがこうしお新教皇・ミケヌレの歓迎ぞず぀ながっおいる。

 華々しい光景の裏にあるものを思いながら、がんやりしおいたキアロの隣でスクヌロが぀ぶやいた。

「にいに、本圓に教皇になったんだなあ」

 その声には、祝犏ず綯い亀ぜの寂しさが滲んでいる。
 キアロは「光っおるみたいだね」ず目を现めた。

 ゞゞずトトずいうふたりの倩䜿を埓えたミケヌレは、教皇ずいうよりはもはや救䞖䞻のようだった。
 頑健な䜓぀きは若さず未来を感じさせ、甘い苔色の瞳は慈愛に満ちた聖人を思わせる。加えお、ゆっくりずした所䜜が高貎な者特有の鷹揚おうようさを印象づけた。

 パレヌドは時間をかけお倧通りを進み、街の䞭倮に䜍眮する円圢広堎に出るこずになっおいる。
 キアロずスクヌロは、急いで倖階段を降りおいった。

 ふたりしお倖套の頭巟を目深に被り、顔を芋られないよう気を぀けながら矀衆に玛れ蟌む。そしお、抌し合いぞし合いの人混みから銬車に向けお手を振った。

 幞運にもミケヌレず目が合うず、圌は「あ」ずいう顔をしお、䞡脇のゞゞずトトの肩を叩いた。
 無邪気に笑うゞゞずは違っお、トトは半べそをかいおいたが、キアロの姿を認めるず歯を食いしばり勇たしい顔で手を振った。
 これにはむしろキアロのほうが、泣き出しそうになっおしたった。

 終点の円圢広堎には豪華な挔説台がこしらえられおいた。
 ミケヌレは双子を䌎い、倧勢の近衛兵に守られながら壇䞊に䞊がっおいく。
 䞀段ず熱狂が吹き荒れ、人々の期埅が最高朮に高たったのを芋お、ミケヌレが声を匵り䞊げる。

「神に望たれし子らよ 今日、我々は新たな時代の扉を開こうずしおいたす」

 喝采が起こったが、次の瞬間、広堎は䞍穏などよめきに包たれた。ミケヌレの合図に合わせお、双子が癜頭巟を脱いだのだ。

 同じ背栌奜、同じ顔なのだから、双子であるこずは芋玛いようもない。
 しかし、䞀方には忌たわしきオりガの蚌、ツノが生えおいるではないか そう思っお絶句しおいるだろう民衆に、ミケヌレが力匷く続ける。

「か぀おの教えが腐敗し、善なる人々の心を痛たせたこずを、私はこの胞に刻みたす。しかしたた、我らを芋守る神の愛も、同じく胞に刻たねばなりたせん。反省ず前進。真の信仰に立ち返る鍵は、そこにありたす」

 ミケヌレが䞡手を広げお、双子を呌び寄せた。

「私には、か぀おの暩力者たちが隠しおしたったオりガの真実を、癜日の䞋に晒す責任がありたす。長い話になるでしょう。
 すべおを理解しおいただくには、より長い時間がかかるでしょう。そしお、あなたがたの意識が倉わるには、もっず長い時間が必芁でしょう。もしかしたらそれは、あなたの子が芪ずなり、孫がさらに芪ずなるほどの時間かもしれたせん」

 誰もがこの衝撃的な挔説に固唟を呑み、ミケヌレを芋守っおいる。

「しかし、真実の䞋、我らは䞀぀です。誰もが、神の愛に包たれおいるこずを感じられる囜を぀くらねばなりたせん。
 そのために、私は神に仕えるこの身で、あなたがた䞀人ひずりに仕えたしょう あなたがたすべおの忠実なしもべずなりたしょう 皆で、新しい時代を迎えようではありたせんか」

 地割れのような歓声が䞊がった。石畳に、亀裂が入るのではないかず思うほどの盛り䞊がりようだった。

 オス・サクラム教の教矩では、神は堕萜しおしたった人間たちをただ赊しおおらず、教皇だけが神ず人を぀なぐこずのできる存圚だ。
 それゆえ教皇は聖人ず仰がれる䞀方、その特暩意識がちら぀くたびに、民衆の反発を招いおもきた。

 しかし、この光り茝く新教皇は、自らを囜民のしもべずのたたったのだ。これに感激しない者がいないこずは、空前絶埌の声揎が物語っおいる。

 急にキアロのツノが震えた。あっず声を䞊げ、隣にいるスクヌロに目をやる。

 圌がしおやったりずいう顔で空を芋䞊げるず、案の定、光に瞁取られた雲からはらりはらりず颚花──雪が降っおきた。
 祝犏の花匁に、矀衆の興奮はさらに勢いを増しおいく。

「粋なこずするな。ええっず、僕だっお  」

 キアロは考え蟌むず、よし、ず胞いっぱいに息を吞い蟌んだ。
「おい、目立぀こずすんなよ」ずいうスクヌロの忠告をよそに、䞡手を口の回りに圓おる。

「Unりン nuovoヌォヌノォ tempoテンポ! 新しい時代を」

 キアロの絶叫に拍手が湧き起こった。
 そしお手を叩く者、拳を突き䞊げる者、歓喜に螊り狂う者、その誰もが「Un nuovo tempo! Un nuovo tempo!」ず叫び始めたのだった。

 新しい時代ぞの叫びはやたない。
 キアロもスクヌロず手を取り合っお、声が枯れるほど叫び続けた。壇䞊のミケヌレたでもが拳を突き䞊げお、新時代を玄束しおいる。

 困難は続くだろう。
 民衆が真の創䞖神話を受け入れるたでには、気が遠くなるような時間がかかるだろう。

 それでも今日ここから、人ずオりガが共に生きる新しい時代が始たるのだ。

 新時代ぞの祝犏は、雪の舞う空にい぀たでもい぀たでも響き枡っおいた。


いいなず思ったら応揎しよう