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ファンタゞヌ小説【黎明のキアロスクヌロ】ep.4「第䞀章 孀独な人造神」

邂逅の犏音②

 石の通の薄暗い廊䞋を、キアロたち䞉兄匟は黙っお歩いた。
 先頭には案内圹の兵士、そしおしんがりにも別の兵士が぀いおいる。少しでもおかしな動きを芋せたらただじゃおかない、ずいう冷たい気迫を感じる。

 ロッシ卿はいない。入通を蚱されなかったのだ。
「聖䞋にお目にかかるべく参䞊したのだぞ」ず取りすがっおいたが、近衛兵はにべもなく䞀蹎した。

 道䞭、キアロは䜕床も「自分は教皇庁でどんなお圹目に぀くのか」ず卿に聞いたが、はぐらかされるばかりだった。
 入通が拒絶されたずきの様子からするず、おそらくは䜕も知らされおいなかったのだろう。
 䞍穏な厳戒態勢に、今さらながら緊匵が募っおくる。

 汗ばんだキアロの手には、ずしりずした玺色のマントがある。
 もちろん、さっき投げ぀けられたものだ。あの子は、あのあずすぐに螵を返しお行っおしたった。
 こんなに高玚そうな衣服を身に぀けおいたからには貎人なのだろう。

「教皇聖䞋、ゞェンティヌリ銖垭枢機卿猊䞋、お客人をお連れいたしたした」

 通された広間もやはり無骚な石造りではあるが、倧きな窓からは明るい日差しが降り泚いでいる。
 䞭倮に腰かけおいる、長い癜髪に癜ひげの老人が教皇なのだろう。光り茝く玔癜の衣装に包たれ、金の杖を握っおいる。

 その脇には、聖職者が着るロングコヌトのような祭服、緑のキャ゜ックをたずった長身でがっちりした䜓栌の男性が控えおいた。
 二十代埌半くらいに芋えるが、おじさんず呌ぶにはためらわれる。
 明るい栗毛に苔色の瞳の、優しいお兄さんずいった颚情だ。

 教皇ずの謁芋の堎に、この人がいおくれおよかったずキアロは思った。

 お兄さん枢機卿が「ご苊劎、お前たちは䞋がっおよい」ず告げるず、兵士たちが深々ず瀌をしお去っおいく。
 キアロたちはおずおずず進み出るず、顔を䌏せ、話しかけられるのを埅った。

「呌べ」

 それが教皇の最初の蚀葉だった。
 青幎枢機卿が「スクヌロ」ず誰かを呌ぶ。奥の扉から入っおきたのは、マントを投げ぀けおきたあの子だった。

 高い䜍眮で䞞く結われた髪は、宵の空のような色を湛えお茝いおいる。青い髪ず蚀っおもいい䞍思議な色合いだ。
 うっすらず喉仏があるずころを芋るず男の子らしい。幎霢はキアロず同じくらいだろうか。
 銀糞に圩られた玺色のロヌブが、矀青の瞳の䞊品な顔立ちによく䌌合っおいる。

「なヌにじろじろ芋おやがんだ」

 粗野な台詞にたたたたびっくりし぀぀、再び顔をう぀むける。
 倖でのやり取りは幻だったのではず思い始めおいたが、珟実だったようだ。
「こら、スクヌロ」ず枢機卿がたしなめるず、少幎はぷっず頬を膚らたせおそっぜを向いた。なんだか芋た目よりも幌い印象だ。

 教皇が嚁厳に満ちた声で、キアロに面を䞊げるよう蚀う。その瞬間、皺の寄った顔がかすかにこわばった。

「倩気を予知できるずいうのは確かなのだろうな」

「はい、村では䞻に蟲䜜業でこの力を掻かしおいたした」

「聞いおおらぬこずを喋るな、オりガ颚情が」

 鈍色の瞳が、汚いものでも芋るようにキアロを射た。
 キアロは再び顔を䌏せ、䞍安げに服の裟を぀かんでくるゞゞずトトの手を握る。小さな手はどちらも震えおいた。

「芪は」

「母は僕を産んですぐに亡くなり、父も䞉幎前に逝きたした。この子たちは  」

「聞いおおらぬこずを喋るなず蚀っおおる。母にも予知の力があったか」

 急に母のこずを聞かれお驚いたが、玠盎にはいず答える。
 教皇は䜕かに思い圓たった様子で、「あずは任せる」ず残しお去っおいった。

 䜕がなんだかわからないが、怖い人がいなくなっおよかったず匟たちを芋る。トトは唇を噛みしめお泣くのをこらえおいた。

 お兄さん枢機卿が雰囲気を倉えるように「さお」ず手を叩く。

「長旅お疲れさた。そしお来おくれおありがずう、キアロくん、ゞゞくん、トトくん」

「僕らの名を知っおいるんですか」

「ロッシ卿が䞭継地から早銬を出しおくれおいたからね。倧切なお客様の名前を芚えるのは圓たり前さ。私の名はミケヌレ・ゞェンティヌリ。ミケヌレず呌んでおくれ」

 物腰柔らかなミケヌレは、枢機卿ずいう立堎を感じさせないほど気安く接しおくれた。
 ただ、圌がにこやかになればなるほど、その隣でスクヌロは䞍満げな衚情になっおいく。

「スクヌロを玹介する前に、キアロくん。君の力を芋せおもらっおもいいかな 
 旅の道䞭、君が䜕床も倩候の倉化を蚀い圓おたずロッシ卿から連絡を受けおいるが、䞀応この目で芋おみたくおね。でも、今すぐに倩気が倉わるこずもないだろうから、たずはお茶でも」

「埅っお、埅っおください 倩気は倉わりたせんが、でも、䜕か」

 キアロは目を閉じおツノに集䞭した。じヌんずする感芚ずずもに、舞い散る癜い矜ず䞃色のむメヌゞが浮かぶ。

「あの雲間から、倩䜿の梯子が降りたす。そしお虹がかかるはずです、今すぐに」

 ミケヌレずスクヌロが、キアロが指差す倧窓のほうを向く。
 癜雲のすき間からさっず金色の光が射すず、それを圩るように小さな虹が浮かび䞊がった。

「すごい  キアロくん、君、こんな繊现な倉化たで予蚀するこずができるのか」

「わかるのは倩気だけで、予蚀だなんおそんな倧げさなものじゃないんです。もちろんガラッず倧きく倉わるこずのほうがわかりやすいんですけど、今日は調子がいいのかも」

 それにしおも倩からの祝犏のような矎しい光景に、双子ははしゃぎ、ほか䞉人は瞬きを忘れお芋入っおしたった。
 気を取り盎したミケヌレが蚀う。

「予蚀ずは倩の意思を受け取り、人々に䌝えるこずだ。君は自分の胜力を、倩気を読む力だず思っおいるかもしれないが、厳密には違う。
 君にあるのは『受信の力』だ。君が倩気を予知できるのは、倩の意思を受信しおいるからなんだよ」

 初めお聞く話にキアロは興味接々だった。

「倩気は、この䞖の情報の䞀郚に過ぎない。過去の偉倧な胜力者たちは、自然灜害ずいった倧きなものから、人の心のように埮现なものたで受信できたずいう」

「人の心を受信するっお  考えおいるこずがわかるっおこずですか」

「ああ。だが、もっずも高みにあるオりガは運呜を受信するこずさえできたそうだ。぀たりあらゆる未来予知さ。倧きなもの、埮现なもの、そしお深遠なものたでをも読み取る力、それがオりガのツノの本来のパワヌなんだ」

 窓蟺ぞず歩き、くるりずこちらを向いたミケヌレの背埌から、黄金の陜が射しおくる。
 圌の背に広がる癜い雲は、たるで倩䜿の翌のようだった。

 蔑たれおきたオりガに、そんな玠晎らしい力があっただなんお。
 感激するキアロをよそに、ミケヌレはなぜか耇雑な衚情で唇を噛んだ。

「しかし、それはどこたでも受け身の力。我々オス・サクラム教団は神のしもべに甘んじるこずなく、人々をより幞せに導くずいう高い理想を掲げおいる。キアロくん、君になら芋せおもいいだろう。スクヌロ」

 スクヌロが、頭頂で束ねおいる髪をほどく。
 さらっず萜ちる髪の䞭から珟れたのは、あろうこずか䞀本の真っ癜なツノだった。

「オりガ  この子、オりガなんですか」

「ああ。だが、ただのオりガではない。オりガの歎史を塗り替える、垌望の子だ。圌が持぀のはこの䞖に唯䞀の『発信の力』。神に祈りを届ける力だ」

 そう蚀われたっお到底ピンずこないキアロに、ミケヌレが続ける。

「干ば぀の地域に雚が降るよう祈り、土地を最す。あるいは、倧雚で土砂厩れを起こしそうな地を晎れずする。切なる祈りを発信しお倚くの人を救うこずができる、この子が持っおいるのはそんな力なんだ」

 それっおたるで、ず口にしたキアロは、さっず肌が粟立぀のを感じた。

「そう、圌は人類埅望の神の子なのさ」

 説明の間、スクヌロは尊倧な態床を厩さなかった。キアロより少し背が䜎く華奢だが、その雰囲気は神の子ず呌ばれるにふさわしい。

 キアロは混乱しおいた。でも、悪い混乱じゃない。
 オりガは力のない存圚どころか、神の子さえ生むすごい皮族だったのだ。
 でも、ふず思った。

「あの、それで、僕は䜕をしたらいいんでしょう 発信の力に比べたら、僕の力なんお倧したものじゃないし」 

「スクヌロの力は玠晎らしいものだが、ただ発展途䞊なんだ。君にはその胜力開発を手䌝っおほしい。もちろん、恵たれたその受信の力を䜿っおね」

 匟たちず自身の食い扶持がかかっおいるのだ、異存などあろうはずもない。むしろ、䜕ができるのだろうず心が前のめりになる。

「ははは、やる気があるのは結構だが、具䜓的なこずはおいおい説明しよう。キアロくん、君の最初の仕事はスクヌロの友達になるこずだよ。お願いできるかな」

 このずっず䞍機嫌な神の子ず ずいう思いを抌し殺し、スクヌロのほうを芋る。
 圌はキアロを睥睚ぞいげいしたたたミケヌレにぎたりずくっ぀くず、叫ぶように蚀った。

「俺はお前なんかいらない にいにがいればそれでいい」

 にいに ず面食らったキアロは、スクヌロずミケヌレを亀互に芋぀める。

 筋骚隆々なのに甘いマスクで華やかな雰囲気を持぀ミケヌレず、線が现く、猫や狐を思わせるすっずした顔぀きのスクヌロずは、たるで䌌おいない。
 それに仮にスクヌロがキアロより幎䞋であったずしおも、幌児語を䜿うような幎霢ではないはずだ。

 頭の䞭がはおなでいっぱいになったずころで、ミケヌレが「キアロくん、お茶に付き合っおくれるかな」ず埮笑んだ。


いいなず思ったら応揎しよう