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ファンタゞヌ小説【黎明のキアロスクヌロ】ep.23「第䞉章 All'isola Sacra degli Ogre! 聖なるオりガ島ぞ」

女神リリス

 うヌん、ずキアロが䌞びをするず、隣でスクヌロがふわあ、ずあくびをした。
 青ず緑が溶け合う晎れの海を芋ながら、ふたりで砂浜に座っおいる。

 ねえねえ、ずスクヌロの腕を぀぀いお蚀う。

「僕、お腹空いちゃった」

 スクヌロは、はあ ず぀っけんどんな声を䞊げたが、たんざらでもなさそうだ。

「しゃヌねヌな、おや぀にすっか スクヌロ様特補、ナッツ党郚盛りスペシャルクロスタヌタだ」

 油玙から出おきた豪華なお菓子に声を䞊げるず、スクヌロが埗意げに胞を匵る。

 キアロが喜んで受け取っお、ありのたたの感謝を䌝えるだけで、圌はこんなにうれしそうにしおくれるのだ。
 存圚をたるごず蚱されたような感芚が蟌み䞊げお、瞳からこがれ萜ちそうだった。

「风がけのナッツがお日様に぀や぀やしお、宝石みたい。スクヌロが䞀生懞呜䜜っおくれたクロスタヌタを食べるずき、お腹の底から幞せになれるんだ。
 そんなのっお、神様よりすごいんじゃないかなっお思うんだよ。だっお、きっず神様はクロスタヌタ䜜れないもん」

 顔を赀らめながら聞いおいたスクヌロが、はっず笑い飛ばす。

「んなこず、泣きながら蚀うや぀があるかよ。でも  お前だっおあれだぜ。ちゃんず自分で考えお物ごず決めお、字だっお緎習しお、お兄ちゃんずしお頑匵っおお、すごいよ。
 俺だったらあのちっこい怪獣みたいなや぀らを、あんなにいい子に育おられおないず思うな。でも、でもさ」

 スクヌロはぜりぜりず頭を掻き、絵に描いたような照れ方をしおいる。

「そんな頑匵んなくおも、俺もいるぜっお、思う。俺もなんかしおやりたいなっお。だから、そう思わせるお前っおすげヌよな」

「え、䜕がすごいのそれ」

「すげヌじゃん お前らしくいるだけでいいんだぜ そんなの最匷だろ」

 そっか、本圓にもうひずりで頑匵らなくおもいいんだ、ず思うずたた泣き出しそうになっおしたうから、慌おお冗談めかす。

「あははっ、䜕、僕奜かれおるっおこず」

「うっせヌな 調子乗っおるずクロスタヌタやんないからな」

 なんのかんのずやり合ううちに、笑い声が波打ち際に溶けおいく。

 矎しい海を芋ながら頬匵るナッツのクロスタヌタは、䜕皮類もの小気味よい歯ざわりず銙ばしい銙り、そしおキャラメル゜ヌスの豊かな甘みずほろ苊さが絶劙で、間違いなく最高傑䜜だった。

 たっぷりしたお腹を撫でながら、キアロが口を開く。

「僕ら、ここに䜕しに来たんだっけ。なんのために、生たれおきたんだっけ」

「忘れちたったな。でも、改めお芋぀けた気もする」

「うん」

 神々しく燃える倪陜が近づいおきお、空ず海を飲み蟌んでいく。癜くなる景色に包たれながら、キアロは蚀った。

「今みたいな時のために生たれおきたんだよね」


 䞍思議に満ち足りた䜙韻を感じながら、キアロはゆっくりず目を開けた。
 すべすべした石床が頬に冷たい。
 そしお、眠っおいるスクヌロず手を぀ないでいる。

 ひくひくしおいたたぶたが開き、矀青の瞳が芗いたので、圌の手を握りながら「おはよ」ず声をかける。
 スクヌロは぀ないだ手をがんやりず芋぀めおいたが、やがおぜいっず振り払っお「ここどこだよ」ず蚀った。

 キアロは寝転んだたた、スクヌロの背埌に顎をしゃくる。
 スクヌロは䞊䜓を起こし、倩から半球を描くように芖線を移動させるず、はず感嘆の声を䞊げた。

「神殿の至聖所、っおや぀」

 スクヌロがそう蚀うのも頷ける、神秘的で矎しい景色が広がっおいる。

 磚き抜かれた癜い石床は遥か圌方たで続き、その果おを淡く茝く岩がぐるりず取り囲んでいる。
 祭壇ず思しきずころは䞀段高くなっおおり、金で瞁取られた巚石がオブゞェのようにそびえおいた。
 地䞊から芋た神殿は小さかったから、ここは地䞋なのだろうか。

 どこかに明かり取りがあるのか、䞀垯はやんわりず明るい。
 すみれず桃の色をした宵のような、あるいは癜み始める暁のような、優しい光に満ちおいる。

 ふたりずも立ち䞊がり、深呌吞をした。
 䞍思議だ。
 䜓を぀くる小さな粒の䞀぀䞀぀に、呜の力がみなぎっおいる感じがする。ひず晩の飛行の疲れが埮塵も残っおいない。

「なんかすっきりしおるよね、䞀回死んだみたい」

「やめろよ、瞁起でもねヌな 生たれ倉わったみたい、だろ」

 やがおキアロは祭壇を芋぀め、毅然ず蚀った。

「オりガの女神、リリス様ですか」

 巚石の前に、氷の圫像のような女性が珟れた。
 スクヌロはひっず息を呑んだが、キアロはしばらく前から気づいおいた。目が芚めおからツノが震えっぱなしだったのだ。

 女がくすっず笑うず、なんず空間が瞮んだかのように祭壇ずの距離がぐんず近くなった。
 䜕が起こったのか理解できず、スクヌロず「え」ず顔を芋合わせる。

 圌女は背䞈ほどのたっすぐな髪をなびかせ、ムフリオヌネのものず䌌た癜くたっぷりした垃地のドレスに身を包んでいた。
 巚石を瞁取る金ず同じ色の瞳を陀いおは、雪ず氷でできおいるかのように、髪を含めお党身真っ癜に茝いおいる。

 銀梅花ぎんばいかの冠を戎いた頭䞊、その右偎には長いツノがそびえおいるが、巊には根本から折られた跡が癜く残るのみだ。
 きっず、神に返䞊した発信の力のツノが生えおいたのだろう。

「いかにもリリスだが、女神ず、今では呌ばれおおるのか」

 ぀らら同士が觊れ合ったならばこんな音を立おるだろうか。そう思わせる、凛ず涌しい声だった。

「私は神の恵みを受け、オりガずなった女のひずりに過ぎぬ。だが、はるばる身の䞊話を聞きに来たずいうわけではあるたい。䜕が望みだ」

 キアロははっず我に返り、あの、ず切り出す。

「ここにいる僕の友達、スクヌロの発信の力を解攟しおほしいんです。今はカバヌがかけられおいるみたいで、うたく力を䜿えなくお」

 スクヌロが「そんな芁望だけ蚀うや぀があるかよ」ず慌おた。

「えっず、オりガの女神リリス様。お目どおりを蚱されたしたこず、心より感謝申し䞊げたす。私どもはオス・サクラム教囜より参りたした。
 俺  じゃない、品行方正なわたくしがスクヌロ・ゞェンティヌリで、こっちの無瀌なのがキアロ・ディアマンティです」

 そんなひどい挚拶のほうがないだろ ずいうキアロの抗議を黙殺し、スクヌロが淡々ずこれたでのあらたしを語っおいく。

 教囜は神聖ロンバルディア垝囜ず䞀觊即発の状態であるこず、教皇が新皇垝の摂政になっおも、戊争になっおも、もっずも苊しむのはオりガたちであるこず。
 よくたずたった説明で、こんなにも理路敎然ず語れるスクヌロにキアロは改めお感心しおいた。

「キアロずは違い、わたくしのこのツノは生たれ぀いおのものではありたせん。たくさんのオりガたち、そしおキアロの母の犠牲によっお、リリス様の埌継ずなるべく人工的に授かったものです。
 わたくしずいう存圚が、人間がオりガに行った非道の産物であるこず、そしおそれがリリス様を深く傷぀けるものであるこずは重々承知しおおりたす」

 たさかそんなこずたで、ずキアロは仰倩したが、同時にスクヌロぞの尊敬の念を犁じ埗なかった。
 だが、リリスはどう答えるだろう。

「宵の子よ、近う寄れ」

 スクヌロが女神の前ぞず歩み出る。圌女はスクヌロのツノを芗き蟌むず、金の瞳に耇雑な笑みを浮かべた。

「なるほど、たさに呪いの結実だな。お前は人の業を背負ったのだね」

 皮肉に特有の湿っぜさがない、ひどく也いた蚀い方にキアロは胞を痛めた。
 この女神がどれほどの時を生きおいるのかわからないが、もうずいぶん、さらさらずした諊めの䞭にいるこずが䌝わっおくる気がしたのだ。
 煮蟌みすぎたシチュヌのようだった怒りや憎しみは、気が遠くなるほどの時を経お、この島の浜の癜砂のように倉わっおいったのだろう。

「よい」

 ふたりずも、え ず圌女を仰ぎ芋た。

「力を解攟しおやっおもよい。ムフリオヌネの詊しに合栌したお前たちにはその資栌がある。たず、宵の子よ」

「はい」

「持おる者は、力に手綱を぀け、決しおその䞻埓をたがえおはならない。でなければ、お前が力に䜿われるこずずなる」

 厳しい物蚀いにふたりずも怯んだが、スクヌロはキアロよりずっず青ざめおいた。䜕か思い圓たるこずがあるのだろう。

「それから、殺す力ず腹を満たしお生かす力、どちらがお前にふさわしいか考えるがいい」

「どちらがふさわしいか  」ず぀ぶやいたスクヌロに、女神は埮笑んだ。

「どちらが奜きか、ずいうこずだ」

 スクヌロはみるみる衚情を明るくするず、「クロスタヌタを䜜るほうが奜きです」ず元気よく答えた。リリスはそれでよい、ずいうふうに頷き、今床はキアロを向く。

「暁の子よ。持おる者には、救いを求める者が矀がる。だが、身を削っおの献身は長くは続かぬ。この私にも無理だった、行かないでくれずすがる者もあったのにな」

 そう語る声は優しく、浮かべた笑みは寂しそうだった。

「そんなあなたを責める者はいたせん 僕が知っおいるオりガ村の皆、あなたのこずをよく知らなくおも、それでもあなたを奜きだった」

 驚いたように瞳を芋開いた女神は、はっはっは、ず高らかに笑った。

「ならばお前ずお同じこずだ。飢える者に自身の肉を削いで䞎えおはならない。むしろお前が受け取るこずで䞎えるものもあるずいうこず、理解できたか」

 さっき倢に芋た、クロスタヌタを手にしたスクヌロの笑顔がぱっず浮かんだ。
「おいしいっお喜んでくれお、ありがずうな」ずいう匟んだ声たで甊っおきお、胞がぜかぜかする。

「はい」

 女神は砎顔しお続ける。

「では、宵の子のツノを芆い、力を封じおいるものを教えよう。暁の子、お前の母である」

 キアロは思わず「はい」ず聞き返した。スクヌロも目をしばたたかせおいる。

「宵の子のツノに宿っおいるお前の母の霊が、発信の力を抑え蟌んでおる。力がくぐもっお倩に届きにくいのはそのためだ」

「母さんがそこに  スクヌロのツノにいるっおこずですか そんな、僕の受信の力では、たったく気配なんお」

「お前の母は自らの魂を、宵の子の力を封じるためだけに䜿っおいる。これも䞀぀の神秘ではあるが、人間ずの混血が進んだ珟代のオりガが、内向きに働く力を受信するのは至難の業だ。疑うならば本人ず話しおみればよい」

 母の霊がいる しかも、本人ず話す 
 ずんでもない発蚀をしながら顔色䞀぀倉えない様子に、オりガの女神が人からかけ離れた存圚であるこずを実感する。

「宵の子よ、お前に今このずきだけ、始祖のオりガたる私の受信の力を貞そう。お前の力を封じおおる術者  暁の子の母ず亀信し、その䜓を貞しおやれ」

 えっ、え ず戞惑うスクヌロのツノに、リリスが人差し指でちょんず觊れた。
 その瞬間、スクヌロは瞳を芋開き、がくっず膝を折った。そしお、その唇を開く。

「キアロ」

 なんの倉哲もないその呌びかけに、キアロは思わず萜涙した。
 びん、ず震えおいるのは心かツノか、もはやわからない。

 でも、今自分を呌んだのがスクヌロではなく、母であるこずだけはわかるのだ。

「母さん」

 スクヌロがこくりず頷いた。その衚情はい぀にもたしお穏やかだ。
 青い瞳を芋぀めおいるず、穏やかな海にたゆたうような心地がする。恐る恐る圌の背に䞡手を回すず、悲しみがわっず爆ぜた。

「母さん、䌚いたかった、ずっず䌚いたかったよ」

 あずは泣き声で蚀葉にならないが、それはスクヌロ、もずいキアロの母も同じらしかった。
 抱きしめ合っおいるうちに、「顔をよく芋せお」ず頬を包たれる。

「ああ、この瞳 私ず同じ、お日様の光を蜂蜜で固めた金色。母さんの自慢だったわ。本圓に倧きくなっお。あんなに小さく生たれたっおのに、すっかりたくたしいお兄ちゃんね」

 キアロはしゃくり䞊げながら、自分を芋぀めお现くなる瞳に蚀う。

「もしかしお、叀代神殿の地䞋曞庫に珟れた癜い靄の女の人っお、母さん」

「わかっおくれたのね、正解よ スクヌロくんず『女神様かな』なんお蚀っおるもんだから、『おいおい私だよ、母さんだよ。かなり゚ネルギヌ䜿っお出お行ったっおのに、お手柄を女神様に枡しおたたるかよ』っお念を送ったんだけど届かなかったんだよね」

 感動の芪子の察面だずいうのに、劙に飄々ずした母の颚情に、キアロは吹き出しおしたった。
 ひょうきんな人だったんだなず思うずずもに、それでこそ僕の母さんだずいう、誇らしいようなほっずするような気分になる。

 母はキアロの金の髪をすきながら、優しく聞いた。

「母さんが、どうしおスクヌロくんの力を封じおきたかわかる」

「発信の力が、悪いや぀らに利甚されないようにするため」

「そう キアロは父さんに䌌お賢いのよね。スクヌロくんに出䌚っお以降のあれこれを芋おきたからわかるよ。
『教皇様がスクヌロの力を目芚めさせようずしおいるのは、垝囜を倒すためですか』だっけ、あそこ痺れたわ 母さんはねえ、どちらかずいえばたず身䜓が動くほうだったから」

「真䌌しないでよ、恥ずかしい」ずキアロが叫ぶず、母は「た、思春期ねえ」ずうっずりする。
 それから、ふっず寂しそうに笑った。

「もっず、こういう話をしたかった。時には母芪らしく叱ったり、さっきみたいに逆に怒られちゃったりね」

 キアロが「僕が母さんを叱っおるこずのほうが倚いかもしれないよ」ず蚀うず、母も「私もそんな気がする」ず笑う。
 あっおほしかったけれど手に入らなかった過去、この先もない未来を思いながら、たた涙しおしたう。

「あなたを残しお逝ったこず、どうか赊しおね。生たれたばかりのキアロを守るには、私が名乗り出るしかなかった。自分がどうなるかは芚悟の䞊だったの。
 でも、人造神を぀くるずいう恐ろしい蚈画に、どうにかしお抗いたかった。それで、スクヌロくんのツノの䞭で自我を保ち続けお、粟䞀杯力を封じおきたんだ。圌、頑匵り屋のいい子だね」

 ず、蚀っおいるのはもちろんスクヌロの顔なので、キアロは吹き出しおしたった。

「村の皆は、母さんひずりを行かせたのが埌ろめたいみたいで、僕には䜕も教えおくれなかったけど。でも、感謝しおるず思う。
 テオさんなんかずきどき僕の顔芋お、ブルヌナそっくりだ、なんおため息぀くんだ。きっず母さんのこず奜きだったんだね」

 母はあはは、ず笑っただけで肯定も吊定もしなかった。

「母さん、僕を守っおくれおありがずう。おかげで僕、ちゃんず幞せだよ」

「幞せか  そうか、幞せかあ た、あんなにかわいい匟たちもいるしね。最初に双子ちゃんを芋たずきには、たさかロメオのや぀再婚した っお傷心したけど」

 ロメオは父の名だ。盞倉わらずのノリに、キアロはたたたた笑っおしたう。
 母はいたずらっぜくにかっず笑うず、再びキアロの瞳を芗き蟌んだ。

「キアロ、あなたはしっかりしおるけど、自分もただただ子どもだっおこず忘れないでね。子ども時代を存分にやった子ほど、心眮きなく倧人になれるものよ」

「嫌だよ、せっかく䌚えたのにもうお別れの話 倧人になんかならないよ、母さんのそばでずっず子どもでいる。
 お願い、これからもスクヌロのツノの䞭にいおよ。女神様の力を借りれば、こうしおお話しできるんでしょ」

 これたで気䞈だった母が、声を詰たらせた。
 リリスが「暁の子よ」ず呌びかけおくる。

「お前の母には優れた巫女の玠質があるようだが、術を長らえさせるにも限界はある。このたた䞖の理に逆らい倩に昇らぬならば、その魂はやがお宿䞻に害をなそう」

 害 ずキアロは眉根を寄せた。

「お前の母の魂に根が生え、宵の子の魂が乗っ取られる。どうする 今なら遞べるぞ。
 くだらぬ人間の政治のために犁断の力を手に入れるか、姿は違えども愛する母ず共に暮らすか。ちなみに、お前の母が䜿った高床な術を解けるのは私だけだ」

 混乱しながら母ぞず芖線を戻す。
 碧玉の瞳に揺れる星、それは母のものであり、たたスクヌロのものだった。

「暁の子よ。始祖なるオりガ、リリスが問う。母ず宵の子、どちらを生かす」


いいなず思ったら応揎しよう