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本と向き合う時間の幸せ

    忙しさに飲み込まれていた日々から、ようやく本と向き合えるようになった。その変化は静かで、けれど私の心の奥に深く響いている。 気になる本をそっと手に取り、ページをめくる。紙の感触、インクの匂い、文字が並ぶ静かな世界。そのすべてが、張りつめていた心をゆっくりほどいてくれる。

    けれど、そんな時間は長い間「いつか」のままで、私の手の中にはなかった。子育てをしながら働き、子どもたちが成長してからも仕事に追われる毎日。家に帰れば家事が待っていて、休日は気づけば終わってしまう。本屋で心惹かれる一冊を見つけても、「今は読めない」と、そっと棚に戻す。その瞬間、胸の奥が少しだけきゅっと痛んだ。

    本屋へ行くことは好きだった。でも、あの頃の私が本当に欲しかったのは“本”ではなく、その本と向き合うための“静かな時間”だったのだと思う。ゆっくり店内を歩き、気になる本を手に取り、読み比べる。そんなささやかな行為が、当時の私には夢のような贅沢だった。

    今年、会社を退職した。 退職した瞬間、胸に広がったのは解放感ではなく、不安だった。これからどうなるのだろう。仕事は見つかるだろうか。生活は大丈夫だろうか。年齢のことも、未来のことも、全部が重くのしかかった。それでも、時間は少しずつ私の心に余白をつくってくれた。図書館へ通うようになり、本棚の前で立ち止まるようになった。背表紙を眺めながら「今日はどの本にしよう」と考える。そのわずかな時間が、胸の奥をじんわり温めてくれる。

    本屋にも気軽に立ち寄るようになった。新刊を眺めたり、話題の本を手に取ったり、何も買わずに帰る日があってもいい。“選ぶ自由”があるだけで、こんなにも心は軽くなるのだと知った。 そして、ときどきブックカフェへ行く。コーヒーの香りに包まれながらページをめくると、張りつめていた気持ちがふっとほどけていく。

    本は私の悩みを解決してくれるわけではない。でも、本を読んでいる間だけは、不安から少し距離を置ける。「焦らなくていいよ」と、どこかで誰かがそっと言ってくれているような気がする。 仕事を辞めたことで、私は「時間」という大きな贈り物を受け取った。もちろん、このままずっと働かないわけではない。生活のために新しい仕事も見つけないといけないし、これからも前を向いて歩いていく。ただ、忙しさの中で手放してしまっていた「本と向き合う時間」だけは、これからも大切に守っていきたい。

    人生の折り返し地点を過ぎた今、ようやく気づいた。私を豊かにしてくれるのは、特別な出来事ではなく、一冊の本と静かに向き合う、あの穏やかな時間なのだと。 今日もまた、本屋を歩き、図書館で本を借り、ときにはブックカフェでページをめくる。そんな何気ない時間を「幸せ」と呼べる今の自分が、私は少し好きだ。

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    立ち止まった時間は、無駄じゃなかった。|nao


     
     

    nao

     
     
    本とカフェとコーヒーと旅行が好き ウクレレ弾きながらハワイアン歌えればいつもご機嫌 ピラティスインストラクター資格保有 セルフボディメンテナンスって大事です 4月末から失業中、これからのことを見つめ直しながら記録として綴っていきたいと思います

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