
6月26日は【露天風呂の日】殺菌・血管・疼痛緩和など、泉質で変わる温泉の作用
温泉の効果は科学的エビデンスがある。
前に『温泉の腸活効果』を書いたが、
今回は湯治でよく言われる効果を日本人データをもとに解説し、最後に泉質の選び方を紹介しよう。
さて、6月26日は「露天風呂の日」だ。
岡山県真庭市の湯原温泉旅館組合と観光協会が、
「ろ(6)てん(・)ぶ(2)ろ(6)」の語呂合わせで始めた。
「湯原温泉」は1981年の全国露天風呂番付で西の横綱に格付けされた実績を持ち、温泉への感謝を込めた神事と内湯無料開放イベントが毎年6月に開催されている[5]。

今回のキーワード
温泉と湯治
温泉は「温水+化学物質+環境要因」の複合体だ。
湧き出る温度、含まれる成分、pH(酸性・アルカリ性の度合い)、浮力、水圧、開放感が同時に働くため、水道水を沸かした風呂とは性質が異なる。
日本では古くから、病気や怪我の治療と心身の休養を兼ねる「湯治(とうじ)」の文化が農村や漁村を中心に広まり、心と体を休めて癒やす場として親しまれてきた。
温泉療養は、日本では公的医療保険の対象外だが、ドイツやフランスでは保険が使え、科学的な効果の確認も進んでいる[3]。
泉質ごとの特徴と働き
塩化物泉(食塩泉) 静岡県の熱海温泉など
皮膚表面に塩の薄い被膜が残り、体温を逃げにくくする「保温」の湯。湯冷めしにくい。炭酸水素塩泉・アルカリ性泉 岐阜県の下呂温泉など
石鹸に近いクレンジング作用を持つ。
角質をやわらかくし、皮膚表面の古い角質や皮脂汚れを落とすことで、肌をつるつる・なめらかにする。炭酸泉(二酸化炭素泉) 大分県の長湯温泉など
二酸化炭素が皮膚から吸収され、毛細血管を広げる。
血行を促進し、体を温めやすくする。硫黄泉 神奈川県の箱根温泉など
「腐った卵の臭い」と言われるアレ。
血管を広げる作用があるほか、皮膚を清潔に保つ作用があり、慢性皮膚病にも良いとされる。酸性泉 秋田県の玉川温泉や群馬県の草津温泉など
強い酸の働きで細菌の増殖を抑える、ヒーリング・殺菌の湯。
研究結果
研究①:泉質によって異なる温泉の効果
前田眞治らは、温泉が持つ医学的な効果を温熱・物理・化学の3つの作用に分類し、それぞれの仕組みを実験で調べた[1]。
温熱作用(41℃15分の全身浴)
水道水
体の中心の温度が約1.0℃上がる食塩泉や炭酸水素泉
素早く約1.5℃上がり、湯上がり後も高い体温が続いた。
塩分が濃い温泉ほど、体温の上昇と保温の効果が大きい。
免疫と修復
温泉の熱刺激により、免疫細胞(NK細胞)の働きが1〜2日間高まった。
傷ついたタンパク質を直す熱ストレスタンパク(HSP70)の産生量も、温泉に入ったときの方が水道水の風呂よりも多かった。リラックス
精神的な緊張に伴って増えるストレス物質(唾液腺クロモグラニン)が、1回の温泉入浴で減少した。酸性泉の殺菌作用
細菌の増殖を強力に抑制した。
(秋田県玉川温泉で白色ブドウ球菌が5分以内に死滅)
この殺菌力は、単純な酸性度(pH)だけでなく、温泉に含まれるマンガンやヨウ素などとの複合効果も考えられる。
論文では「温泉の効果は泉質ごとに異なる仕組みで現れるため、目的に応じた泉質の選択が効果を左右する」と考察している。
研究②:別府の1万人調査と3つの臨床試験
前田豊樹(九州大学病院別府病院)らは、別府市民を対象に温泉効果のアンケートと臨床試験を行った[2]。
実験方法
アンケート
別府市民11,058名(65歳以上)に温泉の利用状況と14の疾患との関連を調査臨床試験
線維筋痛症・糖尿病・心不全の患者に対して、温泉入浴の効果を測定
疫学アンケート(11,058名)
高血圧・高脂血症・うつ病・慢性肝炎・気管支喘息で、温泉利用との関連が見られた。
炭酸水素塩泉と塩化物泉で有用性が認められた。全身の慢性疼痛(線維筋痛症)患者16名(40℃10分・鉱泥浴・4週間)
疼痛スコアが約半分に低下し、炎症マーカー(CRP)も低下した。糖尿病患者24名(炭酸入浴・4週間)
血管の硬さを示す指標(脈波伝導速度)が低下し、血管拡張が観察された。慢性心不全患者(入院温浴)
心臓への負担を示す指標(BNP)と炎症マーカー(CRP)がいずれも低下した。
論文では「アンケートは、自己申告のため温泉が病気を予防したとまで断定できない。しかし、痛みや血管、心臓機能への効果は実際の試験で確認された」と考察している。
まとめ
「湯治」は泉質を選ぶべし
温泉は泉質ごとに保温、殺菌、血管拡張といった得意分野が分かれており、目的に合わせて選ぶことで体への効果を引き出せる。
ただし、発汗で血液がドロドロになりやすいため、入浴前後に水分補給しよう。
また、温泉成分を肌に定着させるため、体を拭くときはタオルで強くこすらず、押さえるように水分を吸い取る方が良いだろう。
また、近年はVR(仮想現実)映像で露天風呂の開放感を再現し、高齢者の孤独感や脳への影響を調べる研究も進んでいる。
まだ実験計画が公表された段階だが、結果が期待される[4]。
Q&A
Q1. 温泉の具体的な選び方は?
疲労回復・体の冷え ➡︎ 「塩化物泉(食塩泉)」
皮膚に塩の膜ができて熱を逃がさない。血行促進 ➡︎ 「炭酸泉」
二酸化炭素が血管を広げる。肌をなめらかに ➡︎ 「炭酸水素塩泉」「アルカリ性泉」
角質を柔らかくする。皮膚の細菌トラブル ➡︎ 「酸性泉」
刺激が強いため、肌の弱い人は注意が必要。
Q2. 入浴の温度と時間の目安は?
温泉の効果は温度や時間で変化するが、
「41℃で15分前後」が実験でよく使われている。
温度が低いと温熱効果が弱くなり、
熱すぎると血圧を急激に変動させる恐れがある。
高血圧や心臓に持病がある場合は事前に主治医へ確認が必要だ。
Q3. 湯上がりは上がり湯で洗い流さない方がいい?
成分が皮膚に残ることで保温効果が長続きするため、基本的には洗い流さない方が良い。
ただし、成分の濃い塩化物泉などは刺激が残ることがある。
肌が弱い場合は、成分の薄い温泉や、お湯で薄めた浴槽から試すと安心だ。
「関連資料」
「このマガジンの他の記事」
参考資料
[1] 前田眞治. 温泉の医学的効果とその科学的根拠. 温泉科学. 2021;70(4):197-207.
http://www.j-hss.org/journal/back_number/vol70_pdf/vol70no4_197_207.pdf
論文データ: 温熱・物理・化学の3作用機序。泉質別体温上昇・NK細胞活性・HSP70・クロモグラニン・殺菌効果の実測データを収録した総説。
[2] 前田豊樹. 温泉利用が健康づくりにもたらす総合的効果についてのエビデンスに関する研究. 厚生労働科学研究費補助金 研究成果報告書. 2014.
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/download_pdf/2014/201412013B.pdf
論文データ: 別府市65歳以上11,058名の疫学調査。線維筋痛症・糖尿病・心不全患者への臨床研究を含む政府補助研究報告書。
[3] 関口陽一. 温泉を療養に有効利用したヘルスツーリズム推進とエビデンスの蓄積・共有. RIETI Policy Discussion Paper Series 20-P-021. 2020.
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/pdp/20p021.pdf
引用内容: 日本・ドイツ・フランスの温泉療養制度比較。エビデンス蓄積と地域経済活性化の政策提言。
[4] Imai A, Narumoto J. Effectiveness of a Virtual Reality Open-Air Bath Program in Reducing Loneliness and Improving Brain Function for Dementia Prevention in Older Adults: Protocol for a Prospective Randomized Crossover Study. JMIR Research Protocols. 2024;13:e57101.
https://www.researchprotocols.org/2024/1/e57101
引用内容: VR露天風呂体験プログラムによる高齢者の孤独感・脳機能改善効果を検証するプロトコル研究。2023年9月開始・結果は未公表。
[5] 真庭観光局. 6・26露天風呂の日(イベント情報). 2026.
https://www.maniwa.or.jp/web/index.cgi?c=event-2&pk=9
引用内容: 露天風呂の日(1987年開始)の由来と湯原温泉の年次イベント情報。
【End】