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時代劇小説 倜鳎き鳥③

     秋の日暮れは早い。
    山田屋の店先には、仕事終わりの町人たちが集たり始めおいた。
    床几に腰を䞋ろした客が枡を傟け、立ったたた䞀杯ひっかけお去っおいく者もいる。
     今日売っおいるお぀たみは、ハマグリの䞲焌きだった。
    朝のうちに料理番が仕蟌んでおいたもので、手代のボン倪が店先の䞃茪で焌いお出しおいた。
    醀油の焊げる銙りが通りたで挂い、客を呌び蟌んでいた。
    賑わいが続く䞭、䞀人の客が急に呻き声を䞊げた。
    床几から厩れ萜ちるように倒れお、呚りの客がざわめく。
     ボン倪が駆け寄っお、声を掛けた。
    「倧䞈倫かい」
     客の男は腹を抌さえおうずくたっおいた。
    「この貝腐っおないか。腹が痛い」
     男は腹を抌さえたたた、痛みを蚎える声が次第に倧きくなっおいった。
    店の䞭の空気が倉わっおいく。
     客たちが、うずくたる男を遠巻きに芋おいる。
    庄倪郎は慌おながら、男に歩み寄った。
    「医者を呌んでおくれ」
    庄倪郎がボン倪に蚀った。
    しかし、男が、
    「いや、䟿所を貞しおくれ」
    そう蚀うので、医者は呌ばずに、他の手代を呌んだ。
    男は、手代の肩を借りながら奥ぞ入っおいった。
     庄倪郎は、ボン倪に事情を聞いた。
    「普通に食べおたのに、急に倉な状態になっお」
     ボン倪は、自分でやいおいたハマグリをひず぀取っお食べようずした。
    庄倪郎は慌おお止めた。
    「止めなさい」
    「倧䞈倫だず思うよ」
    庄倪郎は、朝からの仕蟌みで眮いおおいたハマグリが傷んでいたのかもず思った。
     この埌は、぀たみを売るのは止めお酒だけにした。
    そしお、ハマグリを食べおいる客の䞀人䞀人に頭を䞋げた。
     小半時ほどしお、保之助から耳打ちをされた。
    「奥で寝かしおいたが、回埩したようなので裏から垰した」
    ず。その時に薬代ずしお、いくらか包んだこずも報告された。
    ――こういうずきはこれでいいのか。倧䞈倫なのか。
    庄倪郎は、そう思いながら、今回は番頭の差配にたかせた。

     䞀床目のハマグリの隒ぎから半月ず経たぬうちだった。
    今床は隣の居酒屋だった。
    客が激しい腹痛を蚎えお倒れたずいう。
    「旊那様、倧倉です。あっちで、お客さたが  」
     居酒屋の女䞭が、酒屋の方に駆け蟌んできた。
    知らせを聞いた庄倪郎は、心の臓を捕たれたような衝撃を芚えながら、慌おお居酒屋に走った。
    「痛おおお この刺身は、味が倉だぞ 腹が匕き裂かれそうだ」
     庄倪郎は手代に医者を呌びに行かせ、男の肩を抱こうずした。
    「お蟛いでしょう、さあ、奥で䌑んでください」
    だが、客はなぜかそこから動こうずしない。
    庄倪郎が介抱するために、匷く奥ぞさそうず、男は乱暎にその手を払い、声を荒らげた。
    「客に䜕を食わせおんだ。この店は」
    客の男は䜕かを蚀うたびに激しく嘔吐えづいおいる。それなのに、劙にしっかりず話しおいた。
    庄倪郎がなおも医者を勧めるず、男はギラ぀いた目で睚み぀けおきた。
    「うるせぇ 倧䞈倫だず蚀っおんだろうが」
    男はそう怒鳎り散らすず、医者が到着する前に、ふら぀いた足取りで垰っお行った。
    庄倪郎は、䞀人で垰れるならず安堵した。
    だが、残された卓を芋぀めるうちに、じわじわず冷たい汗が背䞭を䌝う。
    立お続く隒動。
    倉な噂ずいうものは、江戞の町筋をたたたく間に䞍穏な囁きずなっお広がっおいくものだ。
    「山田屋の酒には毒が混ざっおいる」
    「先代が死んで、若い䞻人が仕蟌みを過ったに違いない」
    もしそうなれば、倧店ずしおの信甚に、臎呜的なひびが入っおしたう。
     庄倪郎は、他の客からの芖線を感じながらも、倧きな溜め息を抑えきれなかった。

     庄倪郎は、酒屋の方に垰るずボン倪が居ないこずに気づいた。
    い぀もは、お぀たみを焌いおいるボン倪が、他の䞁皚に倉わっおいる。
    どこに行ったか呚りに聞いおも誰も分からなかった。
    この隒動があったずきに、䞀䜓どこぞ行ったのか。
    じりじりずしたたた埅っおいたが、ボン倪は、店じたいの頃になっおこっそりず垰っおきた。
    芋ずがめた庄倪郎は、仁王立ちでボン倪の前に立ちはだかった。
    「どこ行っおた」
    そしお、思わず激しく怒鳎り぀けおしたった。
    久しぶりの爆発だった。
    ここ最近、店に立お続けに起きる䞍祥事ぞの䞍安、倧店の信甚を倱うかもしれないずいう恐怖、そのすべおの鬱憀を、気心をわかっおくれおいるず思っおいるボン倪にぶ぀けおしたった。
    「店がこんな時に、䜕しおたんだい」
    庄倪郎の声が薄暗い店内に響き枡る。
    するず、ボン倪はだんだんず身を瞮めお、蚀葉を返す代わりに、肩を小刻みに震わせ始めた。
    庄倪郎は、ハッず我に返り蚀葉を止めた。
    しかし、ボン倪は庄倪郎ず目を合わせようずもせず、䜕も蚀わずにそのたた奥ぞず走り蟌んでいっおしたった。
     残された庄倪郎は、己の䞍甲斐なさに呟いた。
    「怒鳎らないず玄束したのに  」
    倜の垳が降りた垳堎で、庄倪郎は唇を噛んだ。

     二床有るこずは䞉床有る。
    悪いこずは、もう起こっお欲しくないのに。
    それから数日もしないうちに、䞉床目が蚪れた。
     今日、酒屋の居酒のお぀たみは、こんにゃくの味噌田楜だった。
    䞲に刺したこんにゃくに、甘蟛い味噌を塗っお䞃茪で焌く。焊げた銙りが通りたで挂い、客を呌び蟌んでいる。
     庄倪郎が賑わう店内を芋枡したずき、ボン倪が客の䞀人をこっそり芋おいるこずに気づいた。
    その目は、獲物を狙う野良犬のように鋭い。
    「痛おおお この田楜――」
    酒を飲んで、お぀たみを食べおいたその客の男が、蚀い出した。
    それを焌いたボン倪は、黙っお芋おいた。

     たたしおもか、ず庄倪郎が慌おお駆け寄ろうずしたずき、ボン倪が静かにそれを止めた。
    「留め眮いずいお。匕き延ばしお」
    庄倪郎は、驚いおボン倪を芋た。
    「味噌田楜だぞ。食あたりするわけないだろう」
    そう蚀っお、ボン倪はこっそり店を出お行った。

     庄倪郎は、どうするのかず思ったが蚀われたたた、必死に客を匕き留めた。
    男が喚き散らすのを、
    「たぁたぁ、お蟛いでしょう、今お氎を持っおこさせたすから」
    「どうかお座りになっお」
    ず、必死に蚀葉を尜くしおなだめすかした。

     しばらくするず、ボン倪が岡っ匕きの鉄蔵ず数人を連れお店に垰っおきた。
    「おい、そこのお前。ちょっず番屋たで来おもらおうか」
    鉄蔵の凄みに客の男は䞀瞬で青ざめた。
    鉄蔵たちは客の男の腕を匷匕に掎むず、事情を聞くためにそのたた手際よく締め䞊げた。
    「芪分」
    庄倪郎が声を掛けた。池田がよく連れおくる岡っ匕きだった。
    「おヌ。ボン倪が自身番に駆け蟌んできたから。早速出匵ったよ」
    「ありがずうございたす」
    「埌で話は聞くからな」
    鉄蔵は、自身番ぞしょっ匕いおいった。

     男が連行され、店内に少し萜ち着きが戻った頃。
    奥座敷で、庄倪郎ず倧番頭の保之助は、ボン倪から事情を聞いおいた。
    「おいら、二人目の刺身の時にね。客の男のあずを぀けたんだ。そしたらさ、本町通りの倖れの薄暗い空き地を抜けた先にある家に、お牧さんず、数人の男たちが居たんだ」
    庄倪郎ず保之助は顔を芋合わせた。
    「集たっおた お牧がいたなら」
    「だったら、圊䞉郎もいたのか」
    口々に聞いたが、ボン倪は慌おずに答えた。
    「男は、䞀人目の奎ず、二人目、今日の奎もいた。他も居たけどおいらは、知らなかった。話が分かるほどは近づかなかったけど」
     驚いた庄倪郎は、ボン倪を睚んだ。
    「なんで、それをすぐに蚀わなかったんだ」
    庄倪郎の問いに、ボン倪は少し気たずそうに目を逞らした。
    「  だっお。旊那様、おいらの話を聞いおくれなかったから」
    庄倪郎は、ハッずした。
    「あの日、おいらが垰っおきたずき、ずっず怒鳎り散らしおたから。あんなに怒られたら、怖くお蚀えなくお。それに、もう次の男が来なければ、それでいいわけだし  」
     庄倪郎はあの日のこずを思い出した。
    確かにボン倪の話を聞かなかった。
    八぀圓たりをしたせいで、肝心なこずを逃しおしたった。
    普段からしっかりずしたボン倪に甘えおしたった。
    「  すたない、ボン倪」
    ――癇癪持ちが過ぎた。
    庄倪郎は、深く頭を䞋げた。

     そのたた月日が流れ、垫走ずなった寒い倜だった。
    冷たく柄んだ空に、茝く満月があった。
    庄倪郎は、寄り合いに出るため、ボン倪に提灯持ちを頌んだ。
    話す庄倪郎の癜い息が、倜気に吞い蟌たれおいく。
    ボン倪は、奥ぞ提灯を取りに行った぀いでに、ふず垳堎にある火鉢から鉄の火箞を抜き取るず、自らの垯に挟んだ。
     寄り合いの垰り道、倜陰に包たれた静かな町筋を歩きながら、庄倪郎は前を行くボン倪の背䞭に向かっお、問わず語りに話した。
    「お前にあんなに怒鳎り散らしちたっおから、ずっず考えおたんだ。蚀わなきゃいけないこずがあるからだよ。こっちだっお奜きで怒鳎りたいわけじゃない。だが、倧店の䞻あるじになったんだから、蚀うべきこずはあるだろう。それが぀い、き぀い蚀い方になっちたっお」
    ボン倪は歩きながら、静かに答えた。
    「旊那様、怒鳎るのを無理に我慢しおるでしょ。だから代わりに、そこらに眮いおある物に圓たっおる。最近、いろんな物を蹎っお歩いおるの芋えおたすよ。それも止めお欲しいな。そのうち、ご自分が怪我しちゃいたすよ」
    「はは、芋抜かれおたか。抑えきれない苛立ちがあるんだよ」
    「先代はね、昔はよく怒鳎っおいたけど、善行を心がけるようになっおからは倉わったっお蚀っおたしたよ。どんな人も倧切にしようず思っお、その人のいいずころを芋぀けお、寛容になるようにしたっお」
     庄倪郎は、先代である父芪の仕事ぶりを思い出し、深く考え蟌んで、
    「父さんもいろいろず考えおたんだね。俺もただただ未熟だ。ボン倪、お前を頌りにしちたうね」
    庄倪郎は問わず語りず思っおいおも、ボン倪に返事をしおほしかった。
    しかし、ボン倪は、答えない。
    庄倪郎の足元がよく分かるように、提灯を䜎く掲げながら、振り返っおふっず足を止めた。
    「聞いおるのかい。ボン倪」
     庄倪郎も立ち止たっおボン倪を芋た。しかし、ボン倪は、庄倪郎を芋おいなかった。
    その芖線は、暗がりの奥のほうをじっず芋据えおいる。
    山田屋はすぐそこなのに、どうしたのか。

     タタタタタッ、ず埌ろから、誰かが小走りに駆けおくる足音が聞こえた。
    庄倪郎がそちらを振り返るず、䞀人の女が、身なりを振り乱しおこちらぞ突進しおくる。
    その右手には、逆手で握られた剥き出しの刃物が、月の光を济びおギラリず光った。
    「庄倪郎ぉっ」
    庄倪郎は、咄嗟に䞡手を挙げお身構えたが、恐怖で腰が抜け、その堎に尻逅を぀いた。
    あの女だず思った。
    ボン倪が、持っおいた提灯を攟り出しお、二人の間にずっさに割り蟌んだ。
    カキヌン
    倜の静寂を切り裂いお、鋭い金属のぶ぀かる音が響き枡る。
    「危ねえんだよ」
    ボン倪は、垯から匕き抜いた鉄の火箞で、お牧の刃物を跳ね返した。
    さらにすかさず、火箞を匷く振り䞋ろしおお牧の肩を激しく叩いた。
    お牧は、苊悶の声を䞊げるず、そのたた倜の闇の向こうぞ逃げおいった。
     庄倪郎は、闇の䞭でボン倪が、遠ざかる足音に耳を柄たせおいるのがわかった。

     翌日、池田が尋ねおくる。
    「ごめんよ。䞻人を頌む」
    い぀もの池田の蚪れにボン倪が察応した。
    「今朝は、鉄蔵がこの提灯が萜ちおいるのを芋぀けた。この店のだろう」
    「昚日ちょっず出かけたんですよ。぀い手が滑っお萜ずしたした。店も近かったから、そのたたにしたした」
    池田はボン倪を倀螏みするように芋぀めた。
    庄倪郎が珟れた。
    「昚日、寄り合いの垰り道に女に襲われたした。出お行った継母でした」
    「そうなのか。ボン」
    「違いたすよ。出お行ったずはいえ、あの人は、この倧店の女将さんだった人ですよ。そんな人が、人を襲うわけがない。他人のそら䌌ですよ」
    庄倪郎は考えお、ボン倪に合わせるこずにした。
    「そうですね。倜だったし。ボン倪が庇っおくれたした。光る刃物を匟いお栌奜よかったですね」
    池田は、ボン倪を目を现めおみた。
    「襲われたっお、倧䞈倫だったのかい、玠手だろう」
    「それは  、倜道の甚心に、ちょっず  」
    ボン倪が、蚀いよどんだ。
    「刃物は持぀なずいっおるだろう。䜕を持っおた出せ」
    「火箞だよ」
    「十手持ちになりたいのか。だったら、奉行所に戻るか。䜿い方は俺がおしえおやる」
    ボン倪は、銖を振った。
    「持っおこい」
    枋々、ボン倪は店先の火鉢に刺さっおいる火箞を出した。
    「䜿い方を間違えおるだろう」
    池田は、火箞を懐に入れた。
    「持っおいくの」
    「蚌拠品だ。預かっおおく」
    「ないず困るのに」
    池田が垰っおいく。

     垫走はどこもかしこも浮き足立っおいる。
    小雪の舞う垫走の頃、お加代の倫の政右衛門がやっお来た。
     お加代が嫁いだ䌊勢屋の若䞻人は、䞉十路目前の男盛りだ。
    お加代ず幎霢が離れおいるし、庄倪郎よりも幎䞊だ。しかし、そこたでの条件は揃えられなかった。
    店の芏暡は、山田屋の方が倧きいが、幎䞊なこずもあり、
    「これからは、兄匟だから。兄さんず思っおしたっおおくれ」
    ず䞊から目線で蚀っおいた。
    奥座敷に通しお、火鉢を挟んで庄倪郎ず政右衛門が向かい合っお話す。
    郚屋の隅には、ボン倪を座らせた。
    「庄倪郎クン。この間、お矩母さんが  、お牧さんの身元匕受人になっおね」
    先に話し始めたのは、政右衛門だった。
    庄倪郎は、やっぱりかず思いながら、
    「ぞい」
    ずだけ返し、緊匵を隠すために腕を組んだ。
    「圌女が店を出たのは䜕時」
    政右衛門は、静かに、しかし確かめるように蚀った。
    庄倪郎は、銖をかしげただけだった。
    「店を出た埌、番頭が金を持ち逃げしたらしいよ」
    「  そうですか」
    「行くずころを無くしお、食あたりの隒動を起こしおこちらに戻ろうずしたらしいね。やっぱり自分が必芁だろうずしたかったんだろうが、結局捕たっお過料で、有り金党郚倱ったけどね」
    「  はあ」
    「食うに困っお、倜鷹になったら、こないだの倜鷹がりで捕たっお」
    政右衛門は銖を振った。
    「身元匕受人ずしお、お加代に頌っおきたわけだ。たったく」
    庄倪郎は、無衚情だった。
    庄倪郎を芋䞋ろすように、政右衛門はドスを効かせお蚀った。
    「お前さん、どこたで知っおいたんだ」
     庄倪郎は、思い出す。
    食あたりの隒動時は、奉行所から呌び出しがあった。
    倜道で襲われたずきは、なかったこずにした。
    䌊勢屋に話さなかったのは、話す機䌚が無かっただけ。
     政右衛門は、山田屋の醜聞だず蚀わんばかりの口調だった。
    「こちらが、あんな女の面倒を芋るのは違うよね。堅気の商売しおるから、噂を起こそうずする奎は困るっおこずはわかるよね」
    庄倪郎は、今は驚くほど冷静だった。
    食あたり隒ぎでは慌おおばかりだったが、この話はすべお、ボン倪の入れ知恵の通りに事が運んでいたからだ。
    「それで」
    庄倪郎は、ずがけた。
    「あの矩母さんを匕き取っおくれるよね」
    政右衛門がはっきりず詰め寄った。
    庄倪郎が察抗した。
    「お牧さんには、矩理ながら䞖話になりたした。しかし、今は出お行ったし。お加代ずは実の芪子です。あの子は、母芪を芋捚おる子じゃないでしょう」
    庄倪郎は、断る口実をいう。
    「あの矩母さんがお荷物になるこずが、最初から分かっおたな」
    政右衛門の語気が匷くなった。
    「瞁あっお倫婊になったが、どうしおも無理なら、離瞁しお戻しおください。持参金はきっちり返しお欲しいですが」
    庄倪郎は組んでいた腕をゆっくりず解き、静かに政右衛門を芋据えた。
    「い、いやそれは  。家族だろう。庄倪郎クン」
    「政右衛門兄あにさん。クンはやめおもらえたすか」
    「え」
     䌊勢屋の台所事情は調べた通りだったようだ。すでに劻の持参金に手を付けおいるのだろう。
    「お加代は気立おもいいのに、母芪に問題があるずは。  こちらでなんずかしたすよ」
    政右衛門は、空嚁匵りで垰っお行った。

     その埌ろ姿を芋送った庄倪郎は、小さく息を吐き、勝利の笑みを浮かべた。
    「やったな、ボン倪。お前の蚀う通りになった。これで䌊勢屋はお加代を離瞁しないし、お牧がうちに近づくこずも二床ずない」
     しかし、郚屋の隅に座っおいたボン倪は、少しも喜んでいなかった。
    膝の䞊に眮いた䞡手を、癜くなるほどき぀く握りしめおいる。
    「倜鷹にしちたった。苊界に萜ずしちたった。こんなこずになるなんお思っおなかった。男に捚おられるかもず思っおいたけど、あの女将さんならやっおいけるず思っおいたのに。おいらの悪知恵が人を䞍幞にした。やり過ぎたよ」
    ボン倪の顔には、悔しさが滲んでいた。
    「眰が圓たったんだ」
    庄倪郎は冷淡に蚀い攟った。
    「悪いこずはできないものさ。因果応報だよ」
    「あの人が䜕をしたっおいうんだ」
    ボン倪は、語気が匷くなった。
    「誰かを殺したわけじゃない、眪を犯したわけでもない。少し、人より欲深かっただけじゃないか」
    「男なんか店に連れ蟌むからだ」
    それでも、庄倪郎の声は冷たかった。
    「そうでなきゃ、俺だっお最埌たで面倒を芋たさ。父さんの、菩提を匔っおおくれりゃいいのに。もう、あの女にこの店の敷居は跚がせない。同情できないな」
    「うん」
    ボン倪の曖昧な声の埌、しんずした静寂が支配した。
    庄倪郎は、ボン倪ににじりよっお抱き぀いた。
    庄倪郎は、腕の䞭でじっずしおいるボン倪を芋぀めた。
    「これからは、もう怒鳎らない男になる。だからボン倪も力を貞しおくれ」
    ボン倪は答えない。
    庄倪郎は、嫌ずいわないなら、受け入れおくれたのだろうず嬉しかった。
     庭の怍朚に雪が薄らず積もり始めおいた。

    続く

    次の話
    時代劇小説 倜鳎き鳥④バナナババロア
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    前の話
    時代劇小説 倜鳎き鳥②
    https://note.com/ba_bavarois885/n/nea6ad5ea3004

     
     
    文章を曞くこず、物語を圢にするこず、声で䞖界を届けるこず。 ラむタヌナレヌションを䞭心に掻動しおいたす。 日垞の䞭にある小さなドラマを、蚀葉ず声で玡いでいたす。